自社敷地内への廃棄物の埋め立ても、法的には「不法投棄」になり得ます。本コラムでは、企業に最大3億円の罰金が科される両罰規定や、陥りやすい落とし穴について、実際の最高裁判例を交えて分かりやすく解説します。

はじめに

はじめに

「不法投棄」という言葉を聞いて、どのような情景を思い浮かべるでしょうか。人里離れた山奥や、ひと気の無い海岸に、トラックでこっそりと産業廃棄物を捨てて逃げる……。おそらく、多くの方がそのような、いかにも「悪質な犯罪行為」をイメージされるのではないでしょうか。

しかし、廃棄物処理法(正式名称:廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の規定を紐解き、実際の過去の裁判例を見ていくと、法律上「不法投棄」とみなされる行為の範囲は、私たちが一般的に想像しているよりもはるかに広いことがわかります。つまり、「まさかこの行為が不法投棄に当たるとは思わなかった」「知らず知らずのうちに法律違反を犯し、犯罪者になっていた」という事態が、企業活動の日常の延長線上で十分に起こり得るのです。

本コラムでは、企業が絶対に陥ってはいけない不法投棄の落とし穴について、実際の最高裁判例の生々しい詳細を交えながら、危機感を持って分かりやすく解説していきます。

不法投棄を厳しく禁じる法律の基本と、企業を待ち受ける「3億円」の罰金

不法投棄を厳しく禁じる法律の基本と、企業を待ち受ける「3億円」の罰金

まず大前提として、廃棄物処理法第16条は「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と明確に宣言しています。このたった一文が、企業活動における廃棄物管理の絶対的なルールとなります。

もし、この規定に違反して不法投棄を行ってしまった場合、一体どのようなペナルティが待ち受けているのでしょうか。廃棄物処理法では、違反した個人に対して「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」、あるいはその「両方を科す(併科)」という非常に重い刑罰が定められています(廃棄物処理法第25条14号)。

しかし、企業にとって真に恐ろしいのはここからです。法人の代表者や、法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人の業務に関して不法投棄を行った場合、行為者本人だけでなく、その法人自体にも罰金刑が科される「両罰規定」が存在します(廃棄物処理法第32条)。しかも、法人の場合に科される罰金額の上限はなんと「3億円以下の罰金」と規定されており、非常に厳しいものとなっています(同法第32条1項1号)。3億円という金額は、企業の規模によっては一瞬にして経営を傾かせ、最悪の場合は倒産に追い込むほどの致命的なダメージとなります。

「自らのゴミは自らの責任で」排出事業者責任の絶対原則

「自らのゴミは自らの責任で」排出事業者責任の絶対原則

企業が事業活動を行う上で避けて通れないのが、産業廃棄物の処理です。法律は、事業活動によって生じた廃棄物について、「排出事業者の自己処理」を大原則として定めています。

具体的には、廃棄物処理法第11条1項で「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない」と規定され、さらに第3条1項でも「事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」と念押しされています。

もちろん、適正な許可を持った専門の処理業者に委託することは認められています。しかし、処理費用を浮かせたい、あるいは面倒だという理由で、この廃棄物の自己処理の原則に違反する行為や、法の網の目を潜脱しようとする行為は、すべて廃棄物処理法上の「不法投棄」として刑罰をもって厳しく禁止されているのです。

「自社の敷地内だから問題ないだろう」という大きな勘違い

「自社の敷地内だから問題ないだろう」という大きな勘違い

実際の事案をもとに検討

ここで、不法投棄の概念の広さを示す、ある重要な最高裁判例(最判平成18年2月20日)をご紹介しましょう。この事件は、「自社の敷地内であれば、少しぐらい廃棄物を埋めても誰にも迷惑はかからないだろう」という、企業側が陥りがちな甘い認識を根底から覆した事例です。

問題となったのは、埼玉県に本社を置き、非鉄金属の再生精錬や非鉄金属地金の販売等を業務目的とする企業の刑事事件でした。この会社は、福島県喜多方市に「喜多方工場」を置いて業務を行っていました。工場の主な業務であるアルミニウムの再生精錬の過程などにおいては、汚泥、残灰、金属屑、鉱さい、煉瓦屑といった様々な産業廃棄物が排出されていました。

この工場では、処分を引き受ける廃棄物処理業者等を手配できる分の廃棄物については、きちんと外部に処分を委託していました。しかし問題は、そうした引取先の当てがない廃棄物の処理でした。驚くべきことに、同工場ではなんと昭和51年ころから長きにわたり、工場の敷地内に掘られた大きな穴に廃棄物を入れ、穴が一杯になると土をかぶせ、また別の穴に廃棄物を入れるという行為を延々と繰り返してきたのです。

山林などの外部の土地に捨てたわけではなく、「自社工場の敷地内」に穴を掘って廃棄物を入れる行為でした。しかし裁判所は、この自社敷地内の行為自体を明確に「不法投棄」と判断しました。

「捨てているのではない。いつか処理するために『保管』しているのだ」という言い訳

裁判において、会社側は必死に反論しました。「穴の中の廃棄物は、いつかは全部掘り出して処理をするつもりであって、その時までためて保管していただけだ」と主張したのです。

しかし、裁判所は同社のそれまでの具体的な行為態様を詳細に検討し、この「保管である」という主張を真っ向から退けました。判決文によると、平成9年ころには、工場敷地内の材料処理工場のすぐ北西脇に、北西から南東方向が約12メートル、北東から南西方向が約16メートル、深さが南東側の地表面から約2.7メートル、北西側の地表面から約4.8メートルにも及ぶ巨大な穴(本件穴)が掘られ、そこに廃棄物が入れられるようになりました。

作業の手順もずさんでした。運んできた廃棄物を直接穴に入れず、一旦穴のすぐ脇に積み上げ、ある程度の量がたまってからローダー等の重機により穴の中に押し込むという手順がとられていました。さらに、平成13年8月から11月にかけての期間には、工場長の直接の指示ないし承諾などの下で、従業員4名が汚泥などの産業廃棄物「合計9724キログラム」もの量を、この穴の脇に積み置きました。これらは種類ごとの仕分けも全くされておらず、現場での作業中、工場長と従業員らの間では、はっきりと「穴に捨てる」「穴に埋める」という表現でやり取りがなされていたことも発覚しました。

最高裁判所が下した厳しい鉄槌:「それは保管ではなく放棄である」

さらに決定的な事実として、その後事件が外部に発覚する平成13年12月までの間、この喜多方工場においては、穴の中や脇に置かれた廃棄物、あるいはそれ以前に掘られた別の穴に捨てられた廃棄物を撤去、処理したことは「一度もなかった」のです。のみならず、処理の委託先の選定等、撤去や処理に向けた具体的な行動が起こされたこともなく、そのための具体的な予定すら一切立てられていませんでした。

このような実態を踏まえ、最高裁は次のように判断しました。「みだりに」とは、「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし、社会的に許容されないこと」であり、「捨てる」とは、「不要物としてその管理を放棄すること」であると定義しました。

そして本件については、工場敷地内に設けられた穴に埋め立てることを前提に野積みしたものであり、その態様や期間等に照らしても「仮置き」などとは認められず、「不要物としてその管理を放棄したものというほかはない」と断じました。たとえ最終的には覆土するなどして埋め立てることを予定していたとしても、法律のいう「廃棄物を捨てる行為」に該当すると判断されたのです。

さらに最高裁は、産業廃棄物を野積みする行為は、「それが被告会社の保有する工場敷地内で行われていたとしても、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし、社会的に許容されるものと見る余地はない」と厳しく糾弾しました。自社の土地だからといって何をしてもいいわけではなく、同条が禁止する「みだりに」廃棄物を捨てる行為として有罪とされたのです。

実際に下された刑罰と、裁判所が「悪質」と判断したポイント

この事件の結末として、会社には「罰金150万円」、そして現場の責任者である喜多方工場の工場長には「懲役1年2月、罰金30万円、懲役刑につき3年の執行猶予」という厳しい処罰が下されました。

裁判所がこれほど厳しい判断を下した背景には、行為の極めて高い悪質性がありました。会社については、昭和51年ころから長期間にわたり、工場から排出される産業廃棄物を敷地内に穴を掘って埋めるということを継続していた点が重く見られました。さらに、平成12年ころには新たに会社に迎えた技術顧問の指導により「そのような行為がまずいこと」を認識するようになったにもかかわらず、従前のとおり不法投棄を漫然と続けていたのです。このことから、「長期間にわたり常習的に行われた産業廃棄物の不法投棄の一部であると認められ、悪質である」と断罪されました。

また、不法に投棄された産業廃棄物は10トン近くの多量に上り、その中には汚染物質も含まれていたことから、「飲料水を始めとする周囲の環境への影響も完全に払拭できるものではない」として、環境法規に対する遵法精神の希薄さが強く問題視されました。

工場長個人についても、「工場長として工場の業務を統括管理する立場にあり、従業員に本件不法投棄をさせていた者であるから、その責任は重い」と判断されました。そして、工場長の本件不法投棄を承認ないし黙認し、それにより得た利益を享受していた会社側の責任も軽視することはできないとされたのです。

不法投棄の「みだり性」はどのように総合判断されるのか?

不法投棄の「みだり性」はどのように総合判断されるのか?

このように、不法投棄とされる要件は非常に幅広く解釈されます。別の裁判例(福島地判会津若松支部平成16年2月2日)では、不法投棄の「みだり性」の判断基準について、明確な要素が示されています。

それによると、「行為の態様、当該物の性質、量、管理の状況、周囲の環境、行為者の内心の意図等の行為の客観、主観面を総合し、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という廃掃法の趣旨と社会通念に照らして、個別具体的に決せられる」とされています。つまり、「一時的な保管のつもりだった」という内心の意図があっても、客観的な管理状況や周囲の環境への影響などを総合的に見て、社会通念上許されないとされれば、「不法投棄」とみなされる危険性が十分にあるということです。

終わりに

終わりに

廃棄物処理法は非常に複雑で厳格であり、一度でも違反してしまえば、企業は信用の失墜だけでなく、3億円という巨額の罰金など、取り返しのつかない事態を招きかねません。日常の業務の中で「自社敷地内での処理だから大丈夫だろうか?」「この一時保管は法律的に問題ないのだろうか?」と少しでも不安を感じた場合は、決して自己判断せず、法律の専門家に相談することが企業防衛の最大の要となります。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 平栗丈嗣

廃棄物処理法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録。化学品メーカーでの勤務経験を有し、環境法関連業務や廃棄物対応の実務に直接携わってきた実績を持つ。甲種危険物取扱者の資格も保持し、化学物質や産業廃棄物に関する専門的知見に明るい。現場の運用フローや企業の内部事情を熟知している強みを最大限に活かし、法令遵守と現場実務のバランスを取った実践的な解決策の提案に注力している。