外国人を雇用する企業では、在留資格の確認だけでなく、日本語教育や日本で生活するためのルールをどこまで説明すべきか悩むことがあります。

この点について、政府は現在、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」という新しい仕組みの創設を検討しています。

2026年1月に決定された「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」では、日本に在留する外国人やその帯同家族が、日本語、日本の制度、生活上のルール等を学ぶプログラムを検討する方針が示されました。これを受けて、法務省は2026年7月に検討結果をまとめた報告書を公表し、さらに8月18日には内閣官房のワーキンググループが第1回会合を開催しました。

2026年8月25日現在、具体的な対象者、受講方法、開始時期、企業の負担などが最終決定したわけではありません。

もっとも、外国人雇用を行う企業にとっては、今後の外国人受入れ政策が「在留資格を取れば終わり」ではなく、日本語や社会のルールを理解しながら定着してもらう方向へ進んでいることを示す重要な動きです。

今回は、新制度の検討状況と、外国人を雇用する企業が今から意識しておきたいポイントを簡単に解説します。

1 「日本語・生活学習プログラム」とは

政府が検討しているのは、日本で中長期的に生活する外国人が、日本語だけでなく、日本の制度や生活上のルールを体系的に学ぶための仕組みです。

出入国在留管理庁が2026年7月に公表した法務大臣政務官プロジェクトチームの報告書では、プログラムの在り方について一定の方向性が示されました。

さらに8月18日には、内閣官房で「日本語・生活学習プログラム(仮称)の検討のためのワーキンググループ」の第1回会合が開催され、制度設計について政府横断での検討が始まっています。

対象には、働く外国人だけでなく、帯同する家族も含める方向で検討されています。外国人本人の就労だけではなく、その家族を含めて日本社会で安定して生活できる環境を作ることが目的の一つと考えられます。

2 学ぶのは「日本語」だけではない

名称からすると日本語教室のように見えますが、検討されている内容は日本語学習だけではありません。

日本で生活するために必要な制度やルールについても学ぶ仕組みが想定されています。

外国人社員を雇用する会社で実際に問題になりやすいものとしては、税金、社会保険、健康保険、交通ルール、ごみ出しなどの生活ルール、災害時の対応などがあります。

また、職場では、労働時間、残業、休暇、安全衛生、ハラスメント相談など、日本の職場ルールを外国人社員が正確に理解できていないこともあります。

政府のプログラムと企業内の教育は同じものではありませんが、外国人が日本で働き、生活する上で必要な情報を早い段階で伝えるという方向性は共通しています。

3 外国人を雇う会社に新たな義務ができたわけではない

ここは誤解しないよう注意が必要です。

2026年8月25日現在、「日本語・生活学習プログラム」が正式に施行されたわけではなく、一般の企業に対して新たに受講を義務付ける法律が施行されたわけでもありません。

対象となる在留資格、受講時期、受講方法、費用負担、企業や受入機関がどこまで関与するのかについては、今後さらに検討されます。

したがって、現時点で「外国人社員に政府の新しい研修を必ず受けさせなければ違法になる」と説明するのは正確ではありません。

一方で、政府が制度化に向けたワーキンググループを開始した以上、外国人を多数雇用する企業は今後の制度設計を確認しておく必要があります。

4 特定技能など既存の支援制度との関係

特定技能1号では、既に受入企業に対して、事前ガイダンス、生活オリエンテーション、日本語学習機会の提供、相談対応などを内容とする支援が求められています。

育成就労制度でも、日本語能力の向上や生活支援が重要になります。

そのため、新しい日本語・生活学習プログラムが作られる場合、特定技能や育成就労ですでに実施されている支援とどのように整理するのかが問題になります。

同じ内容の研修を何度も受けさせることになれば、外国人本人にも企業にも負担となります。

今後は、既存の研修・支援をどの程度新しい制度の学習として扱うのかという実務上の整理にも注目する必要があります。

5 企業は今から何をすればよいか

現段階で新制度のためだけに大きな社内制度を作る必要はありません。

しかし、外国人社員への入社時教育を一度確認しておくことは有用です。

例えば、在留資格で認められる仕事内容、就業規則、勤務時間、残業・休日、社会保険、給与明細の見方、安全衛生、相談窓口などについて、外国人社員が実際に理解できる方法で説明できているかを確認します。

日本語の資料を渡して署名をもらうだけでは、内容を理解したとは限りません。やさしい日本語、多言語資料、通訳、動画などを組み合わせる方法も考えられます。

また、説明した内容や実施日を記録しておけば、後に「説明を受けていない」というトラブルが生じた場合にも確認しやすくなります。

6 外国人雇用は「採用後の定着」まで考える

外国人雇用では、採用時には在留資格や試験の要件に注意が向きがちです。

しかし、外国人社員が日本の職場や生活ルールを理解できなければ、本人に悪意がなくても、遅刻、欠勤、社会保険、交通事故、近隣トラブル、安全衛生などの問題につながることがあります。

反対に、会社が十分に説明し、相談できる環境を整えていれば、外国人社員の不安を減らし、職場への定着にもつながります。

今後の外国人政策では、単に外国人材を受け入れるだけでなく、日本語学習、生活支援、ルールの理解を通じて安定した共生を図る方向性が一層強くなると考えられます。

企業としても、「ビザを取るところまで」ではなく、「採用した外国人が長く安心して働けるところまで」を外国人雇用管理として考えることが重要です。

7 まとめ

外国人を雇用する企業としては、今後の制度変更を確認するとともに、現時点でも、外国人社員への入社時説明、日本語支援、労働条件、安全衛生、社会保険、生活ルールなどの教育が十分かを確認することをお勧めします。

外国人雇用では、在留資格の適法性と、実際の職場で安心して働ける受入体制の双方を整えることが重要です。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
  ※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。

この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀

入管法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所(埼玉弁護士会)所属。
平成24年の登録以来、入管法をはじめとする、外国人関連法務に注力。外国人に関連する周辺法令まで幅広く対応しています。韓国語での対応が可能であり、言語の壁を超えた法的アドバイスを提供。委員会活動や専門家とのネットワークを活かし、個々の事案に即した最適な解決を追求します。