無人フォークリフト・建設機械で事故が起きたら?―厚生労働省「無人運転機械の安全確保」中間とりまとめから見る企業の労災防止

工場、倉庫、建設現場などで、無人フォークリフト、自律走行搬送ロボット、遠隔操作の建設機械などの導入が進んでいます。人手不足への対応や生産性向上のため、今後さらに普及することが予想されます。

一方、機械が自動で動くようになれば、従来とは異なる労働災害のリスクが生じます。センサーが人を検知できなかった、通信が途絶した、作業員が無人運転エリアに立ち入った、非常停止が作動しなかった、といった場合です。

厚生労働省は2026年6月29日、「機械の無人運転における安全確保等に関する専門家検討会」の中間とりまとめを公表しました。そして2026年8月24日、この中間とりまとめが労働政策審議会安全衛生分科会に正式に報告されました。

今回は、最新の行政動向を踏まえ、無人運転機械を導入する企業が労災事故を防ぐために何を準備すべきか、事故が起きた場合にどのような責任が問題となり得るのかを解説します。

1 2026年8月24日、無人運転機械の安全ルールが労働政策審議会に報告

厚生労働省では、2025年11月から「機械の無人運転における安全確保等に関する専門家検討会」を開催し、遠隔運転や自律運転を行う産業機械について、労働災害防止のために必要な措置を検討してきました。

背景にあるのは、建設機械、荷役機械、ロボットなどについて、デジタル・AI技術を利用した無人運転の社会実装が進んでいることです。

2026年6月29日に中間とりまとめが公表され、8月24日の第188回労働政策審議会安全衛生分科会で正式に報告されました。

今後は、この基本的な整理を踏まえ、建設機械、クレーン、フィジカルAIを含むロボット等について個別に検討が進められます。必要に応じて、労働安全衛生法関係法令の改正、指針の策定その他の制度的措置が講じられることも予定されています。

したがって、現時点では中間とりまとめ自体が新たな罰則付き義務を直ちに課すものではありませんが、無人運転機械を利用する企業にとって、今後の安全管理の方向性を示す重要な資料です。

2 「自律運転」と「遠隔運転」は分けて考える

中間とりまとめでは、無人運転を大きく「自律運転」と「遠隔運転」に分けています。

自律運転では、運転制御の主体は機械側にあります。人は基本的に機械を監視し、非常時に緊急停止する役割を担います。機械が周囲を検知し、自ら判断して減速・停止することが想定されています。

これに対し遠隔運転では、運転制御の主体は人です。運転者が離れた場所から映像やセンサー情報などを確認して機械を操作します。

一部の動作が自動化されていても、異常時に運転の主導権が直ちに人へ移る場合には、遠隔運転の運転支援機能として整理されます。

企業が安全対策を考える際には、「無人だから同じ」とまとめるのではなく、最終的に誰が運転判断を行う仕組みなのかを確認する必要があります。

3 さらに重要なのが「人と機械が混在するか」

無人運転機械の安全性を左右する大きな要素が、周辺に人がいるかどうかです。

中間とりまとめでは、「人と機械の混在」と「立入等管理区画」を区別しています。

人と機械の混在とは、無人運転機械が動く場所に作業員などの人が存在することを前提とする環境です。この場合、当然ながら厳しい衝突・接触防止措置が必要になります。

一方、立入等管理区画は、トラブル時などを除き、基本的に機械だけが作業することを前提として、人の立入りを管理する環境です。

ただし、柵を置いて「立入禁止」と表示すれば、それだけで十分というわけではありません。人が実際に立ち入る可能性や、立入制限手段の信頼性などを評価する必要があります。

無人運転機械の導入時には、機械の性能だけでなく、「どの場所で、誰が、どのように働くのか」という作業環境の設計が重要になります。

4 最も基本となるのは衝突・接触防止

無人フォークリフトや自律走行ロボットで最も分かりやすい危険は、人との衝突・接触です。

中間とりまとめでは、自律運転機械について、機械全周囲の周辺環境を検知し、人の姿勢や動き、周囲の機械などを識別することが考慮事項として示されています。

その上で、機械が検知した情報に基づき、回避が必要かを自律的に判断し、減速・停止などによって衝突を回避して安全な状態へ移行する仕組みが想定されています。

さらに、機械が自律運転中であることを周辺作業者へ知らせる表示なども挙げられています。

企業側としては、カタログに「人検知機能あり」と書かれていることだけで安心するのではなく、どの範囲を検知できるのか、死角はないか、しゃがんだ人や物陰から出てきた人を検知できるか、停止距離はどの程度かを実際の作業環境に合わせて確認する必要があります。

5 センサーだけではなく「システム全体」で安全を考える

無人運転機械の安全は、機械単体の性能だけでは確保できません。

中間とりまとめでは、機械単体、システム全体、作業環境・作業管理という三つのレベルで安全措置を整理しています。

例えば、作業環境内に別のセンサーを設置し、他の機械や作業者の位置・動きを検知して無人運転機械を減速・停止させる仕組みが考えられます。

また、監視者や周辺作業者が危険を発見した場合に、外部から非常停止できる仕組みも重要です。

つまり、「高性能な無人フォークリフトを買ったから安全管理はメーカー任せ」という考え方では不十分です。

使用企業自身が、工場・倉庫のレイアウト、歩行者通路、センサー、非常停止装置、監視体制などを組み合わせて安全システムを構築する必要があります。

6 通信が切れたときにどうなるか

遠隔運転では、通信の信頼性が特に重要です。

遠隔地のオペレーターが建設機械を操作している最中に通信が途絶したり、映像が大幅に遅延したりすれば、重大事故につながる可能性があります。

中間とりまとめでは、通信の異常、すなわち途絶や著しい遅延などが発生した場合に、機械が自動停止することなどが安全措置として示されています。

また、遠隔運転は、運転に必要な品質の通信状態が維持されている場合のみ行えるようにする考え方も示されています。

企業が遠隔運転を導入する場合には、通常時の通信速度だけでなく、通信障害時に機械がどのような挙動をするかを確認しなければなりません。

「通信が切れたら止まるのか」「再接続したら勝手に再起動しないか」「非常停止は別系統で確保されているか」といった点は、導入前にメーカーと確認すべき事項です。

7 監視者を置けばよい、という問題でもない

自律運転機械では、人が運転操作をしない代わりに、監視者が重要な役割を担う場合があります。

中間とりまとめでも、適切な監視者等の配置が作業管理上の措置として挙げられています。

しかし、監視者を形式的に配置するだけでは十分ではありません。

監視者が複数台を同時に監視する場合、何台までなら異常を適切に認識できるのか、非常停止装置へすぐアクセスできるのか、監視中に別業務をさせてよいのかなどを検討する必要があります。

また、監視者自身が無人運転機械の機能や限界を理解していなければ、異常を正しく判断できません。

「機械が自動で動くから人手をゼロにできる」という発想ではなく、人の役割が運転から監視・管理へ変わるという視点が必要です。

8 周辺作業者への教育も必要になる

無人運転機械の安全教育は、機械を操作する担当者だけを対象にすればよいわけではありません。

中間とりまとめでは、監視者、周辺作業者、システム管理者等に対して、無人運転機械の機能、異常時の対応などを教育することが示されています。

例えば、倉庫内を無人フォークリフトが走行している場合、そこで荷物を扱う作業員も、機械が人をどのように検知するのか、どの場所が死角になり得るのか、警告灯や警報音が何を意味するのか、緊急時にどこへ退避するのかを理解しておく必要があります。

遠隔運転の場合には、現場作業者と遠隔運転者との合図や連絡方法も重要です。

教育を実施した場合には、内容、対象者、実施日などを記録しておくことも、事故防止と事故後の検証の双方の観点から重要です。

9 無人運転機械で労災事故が起きた場合

無人運転機械との接触などによって労働者が負傷した場合、業務上の災害であれば、通常の労災事故と同様に労災保険給付の対象となり得ます。

それとは別に、会社側の安全配慮義務違反や不法行為責任が問題となることがあります。

例えば、メーカーが想定した安全条件を守らず、人が頻繁に立ち入る場所で機械を使用していた、必要な監視者を配置していなかった、センサーの故障を把握しながら運転を継続していた、従業員に必要な教育をしていなかった、といった事情があれば、会社側の責任が問題となる可能性があります。

無人運転であることは、会社の安全管理責任をなくすものではありません。

むしろ、従来の機械とは異なる危険がある以上、導入時のリスクアセスメントや運用ルールの整備が重要になります。

10 メーカーの責任と使用企業の責任は別に検討される

事故原因が機械そのものの欠陥にある場合には、メーカー側の責任が問題になることもあります。

例えば、人を検知すべきセンサーに設計上の問題があった、制御システムに欠陥があり停止命令が実行されなかった、といった場合です。

一方、機械自体には問題がなくても、使用企業がメーカーの指定した運転条件を守らなかったため事故が発生することもあります。

実際の事故では、「機械の問題か」「システム設計の問題か」「作業環境・作業管理の問題か」が複合している可能性があります。

今回の中間とりまとめが、機械単体、システム全体、作業環境等という実施主体ごとに安全措置を整理していることは、事故原因や責任を考える上でも参考になります。

導入時には、メーカーと使用企業のどちらが、どの安全機能の設定・点検・維持を担当するのかを契約書や運用資料で明確にしておくことが重要です。

11 今後、法令改正や指針策定の可能性がある

今回の中間とりまとめは、無人運転機械について安全確保の基本的な考え方を整理した段階です。

厚生労働省は、今後、建設機械、クレーン、フィジカルAIを含むロボットなど対象機械ごとに作業チームで検討を進めるとしています。

また、必要に応じて法令改正、指針策定その他の制度的措置を講じるとされています。

特に、立入等管理区画の信頼性をどのように評価するか、第三者による安全機能の評価・認証をどうするかといった点も今後の検討事項です。

無人運転機械を既に導入している企業や、今後大規模導入を予定している企業は、現在の運用が将来の安全基準に対応できるかという観点から、厚生労働省の検討状況を継続して確認する必要があります。

12 企業が今から準備しておきたいこと

現時点で企業が行うべきなのは、新しい法令ができるまで何もしないことではありません。

まず、自社で使用している機械について、自律運転なのか遠隔運転なのか、人と機械が混在する環境なのか、立入等管理区画なのかを整理します。

次に、衝突・接触防止、異常時停止、再起動、非常停止、通信障害、監視者、教育訓練などについて、現在どのような措置を取っているかを確認します。

さらに、メーカーの取扱説明書や安全条件と実際の運用が一致しているか、点検記録や教育記録が残っているかを確認します。

新しい機械を購入する場合には、安全機能の仕様、第三者認証の有無、ログ保存、アップデート、保守、事故時のメーカー対応なども契約前に確認しておくとよいでしょう。

無人化は人を現場から減らす技術ですが、安全管理まで無人化できるわけではありません。

まとめ

安全対策は機械メーカーだけの問題ではありません。使用企業にも、作業環境の設定・維持、監視者の配置、周辺作業者への教育、通信環境の確保、異常時の対応などが求められる方向です。

無人運転機械による労災事故が起きた場合、労災保険だけでなく、使用企業の安全配慮義務違反、メーカー側の製品上の問題、システム全体の設計など、複数の責任関係が問題となる可能性があります。

今後は建設機械、クレーン、ロボット等について個別の検討が進められ、法令改正や指針策定などにつながる可能性があります。

無人フォークリフトや自律走行ロボットなどを導入している企業は、事故が起きてから安全対策を見直すのではなく、現在の段階からリスクアセスメント、運用ルール、教育、ログ保存、メーカーとの責任分担を確認しておくことが重要です。

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工場・倉庫・建設現場で自動化設備を導入している、安全管理体制を見直したい、機械事故が発生して労基署への対応が必要になった、被災者から損害賠償請求を受けているといった企業の方は、お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
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