廃棄物処理法上、産業廃棄物の収集・運搬・処分業の開始、産業廃棄物処理施設を設置にあたって、同法に定める許可基準一つとして「経理的基礎」要件を満たす必要があります。要件充足性を考えるにあたって、この要件が設けられた趣旨を紐解くことが肝要です。

産業廃棄物処理業許可・産業廃棄物処理施設設置許可

廃棄物処理法上、廃棄物の処理(収集・運搬・処分)を業として行うにあたっては、また、産業廃棄物処理施設を設置するにあたっては、管轄する都道府県知事の許可を得なければなりません。

手続きの流れを説明するだけでは根拠が分からず説得力に乏しいかと思われます。そこで、許可を得るために必要な要件としての「経理的基礎」がなぜ必要なのか、複雑な条文を順番に紐解いて考えていきます。非常に重要なことですので、あえて条文を引いていきますことご了承ください。

許可に関する根拠条文

廃棄物処理法14条1項本文

産業廃棄物(・・・)の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

廃棄物処理法14条6項本文

産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

廃棄物処理法15条5項本文

産業廃棄物処理施設(・・・)を設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

許可の基準に関する根拠条文

非常にややこしく規定されています。

廃棄物の処理(収集・運搬・処分)を業として行うにあたっての許可基準については、①一定の条件に適合していること、②許可の申請者が一定の条件に該当しないこと、という形で定められています。

他方、産業廃棄物処理施設を設置については、許可の基準に関する条文が設けられています。

廃棄物処理法14条5項(廃棄物の処理(収集・運搬)を業として行う場合)

都道府県知事は、第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

① その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること

② 申請者が次のいずれにも該当しないこと

イ 第7条第5項第4号イからチまでのいずれかに該当する者

ロ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者(以下この号において「暴力団員等」という。)

ハ 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人がイ又はロのいずれかに該当するもの

ニ 法人でその役員又は政令で定める使用人のうちにイ又はロのいずれかに該当する者のあるもの

ホ 個人で政令で定める使用人のうちにイ又はロのいずれかに該当する者のあるもの

ヘ 暴力団員等がその事業活動を支配する者

廃棄物処理法14条10項(廃棄物の処理(処分)を業として行う場合)

都道府県知事は、第6項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

① その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。

② 申請者が第5項第2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと。

廃棄物処理法15条の2第1項(産業廃棄物処理施設を設置する場合)

都道府県知事は、前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

① その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること

② その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮がなされたものであること

③ 申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること

④ 申請者が第14条第5項第2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと

許可基準としての「経理的基礎」

廃棄物処理法上の上記許可に関する基準は、非常に多岐にわたります。そこで、本稿では、「経理的基礎」に絞って紹介します。

上記で紹介した条文中「環境省令で定める基準」との表現が用いられています。具体的には、廃棄物処理法施行規則のことを指しています。

環境省令で定める基準

廃棄物処理法施行規則10条(廃棄物の処理(収集・運搬)を業として行う場合)

法第14条第5項第1号(・・・)の規定による環境省令で定める基準は、次のとおりとする。

① 施設に係る基準

イ 産業廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車、運搬船、運搬容器その他の運搬施設を有すること。

ロ 積替施設を有する場合には、産業廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講じた施設であること。

② 申請者の能力に係る基準

イ 産業廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。

ロ 産業廃棄物の収集又は運搬を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること。

廃棄物処理法施行規則10条の5(廃棄物の処理(処分)を業として行う場合

法第14条第10項第1号(・・・)の規定による環境省令で定める基準は、次のとおりとする。

① 処分(埋立処分及び海洋投入処分を除く。以下この号において同じ。)を業として行う場合

イ 施設に係る基準

(省略)

ロ 申請者の能力に係る基準

(1)産業廃棄物の処分を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。

(2)産業廃棄物の処分を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること。

② 埋立処分又は海洋投入処分を業として行う場合

イ 施設に係る基準

(省略)

ロ 申請者の能力に係る基準

(1)産業廃棄物の埋立処分又は海洋投入処分を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。

(2)産業廃棄物の埋立処分又は海洋投入処分を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること。

経理的基礎を裏付ける書面の提出

廃棄物処理法施行規則9条の2(廃棄物の処理(収集・運搬)を業として行う場合)

1 法第14条第1項の規定により産業廃棄物収集運搬業の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した様式第6号による申請書を都道府県知事に提出しなければならない。

2 前項の申請書には、次に掲げる書類及び図面を添付しなければならない。

・・・

④ 当該事業を行うに足りる技術的能力を説明する書類

⑤ 当該事業の開始に要する資金の総額及びその資金の調達方法を記載した書類

⑥ 申請者が法人である場合には、直前3年の各事業年度における貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表並びに法人税の納付すべき額及び納付済額を証する書類

⑦ 申請者が個人である場合には、資産に関する調書並びに直前3年の所得税の納付すべき額及び納付済額を証する書類

⑧ 申請者が法人である場合には、定款又は寄附行為及び登記事項証明書

⑨以降(省略)

・・・

7 申請者は、直前の事業年度(・・・)に係る有価証券報告書を作成しているときは、第2項第6号及び第8号に掲げる書類に代えて、当該有価証券報告書を申請書に添付することができる。

廃棄物処理法施行規則10条の4(廃棄物の処理(処分)を業として行う場合)

1 法第14条第6項の規定により産業廃棄物処分業の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した様式第8号による申請書を都道府県知事に提出しなければならない。

2 前項の申請書には、次に掲げる書類及び図面を添付するものとする。

・・・

⑦ 当該事業の開始に要する資金の総額及びその資金の調達方法を記載した書類

⑧ 第9条の2第2項第6号から第14号までに掲げる書類

・・・

6 申請者は、直前の事業年度(・・・)に係る有価証券報告書を作成しているときは、第2項第8号に掲げる書類のうち第9条の2第2項第6号及び第8号に掲げるものに代えて、当該有価証券報告書を申請書に添付することができる。

廃棄物処理法施行規則11条

1 法第15条第2項の申請書は、様式第18号によるものとする。

・・・

6 第1項の申請書には、次に掲げる書類及び図面を添付するものとする。

⑥ 当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に要する資金の総額及びその資金の調達方法を記載した書類

⑦ 申請者が法人である場合には、直前3年の各事業年度における貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表並びに法人税の納付すべき額及び納付済額を証する書類

⑧ 申請者が個人である場合には、資産に関する調書並びに直前3年の所得税の納付すべき額及び納付済額を証する書類

⑨以降(省略)

7 申請者は、直前の事業年度に係る有価証券報告書を作成しているときは、前項第7号及び第9号に掲げる書類に代えて、当該有価証券報告書を申請書に添付することができる。

「経理的基礎」要件の根拠

平成12年、廃棄物処理法の改正により、経理的基礎があることが最終処分場の設置許可要件として追加されました。

管理型最終処分場の設置許可取消が認められた事件(千葉地判平成19年8月21日)

この根拠・趣旨は、明確に定義づけられてはいませんが、少なくとも、施設の適正な設置・維持管理を的確かつ継続的に行うための財源的裏付けを確保することにあると裁判例上は考えられているようです。

本判例は、千葉県知事が株式会社エコテックに対して、産業廃棄物処理施設の設置許可処分をしたところ、施設の建設予定地の周辺に居住する住民が、千葉県知事の本件許可処分は、廃棄物処理法15条1項等に規定された設置許可に係る要件を欠き違法であると主張して,本件許可処分の取消しを求めた事案です。

行政訴訟における考え方

本件は、廃棄物処理法に基づく許可を得られた/得られなかった事業者が当事者となっているのではなく、あくまで直接的には許可に関係しない住民が、行政(県知事)を相手取って、産業廃棄物処理施設の設置許可処分の取消を求めるものです。

法律上の利益を有しない第三者が行政の行う許可等に好きなように訴訟で口を出すことができてしまうと、円滑な行政が滞ってしまいます。そのため、行政が行う第三者に対する許可等についてそれを不服として裁判所に許可処分の取消を求めることができるものは限定されます。さらに、当該許可がなされたのでは自分自身の権利を直接侵害される、という内容に限定した主張のみを許すことになります。

行政事件訴訟法第10条1項

取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。

本件の原告住民は、本件訴訟提起をすることができるか~原告適格~

管理型最終処分場の周辺に居住等する住民のうち,当該施設から有害な物質が排出されることにより生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある者は,当該施設設置許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。」

「そして,原告らの居住等する地域が前記被害が想定される範囲か否かは,本件処分場の種類,規模,本件予定地周辺の地形,予想される災害の規模,範囲,原告らの居住等する地域の状況,原告らの生活状況,本件処分場との位置関係等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で,社会通念に照らして合理的に判断すべきである。もっとも原告適格の有無は訴訟要件であり,訴訟の入り口の段階で行われるべきものであることからすれば,その判断は社会通念による概括的な程度で足りるものと解するべきである。」

このように、原告となることができるかどうかの判断にあたっての基準を示しています。そして、本件処分場の種類、規模、本件予定地周辺の地形、予想される災害の規模、範囲、原告らの居住等する地域の状況、原告らの生活状況、本件処分場との位置関係等から、「当該施設から有害な物質が排出されることにより生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある者」に該当するかどうかの検討をしています。

経理的基礎要件の趣旨は何か

人体に有害な物質を含む産業廃棄物の処理施設である管理型最終処分場については,設置者の経理的な基礎が不十分であることにより不適正な産業廃棄物の処分や同処分場の設置及び維持管理が行われた場合には,有害な物質が許容限度を超えて排出され,その周辺に居住等する者の生命,身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引き起こすことがあり得る。そうすると,経理的基礎は,単に健全な経営の維持にとどまらず,施設の安全面をも資金的観点から担保する機能を果たすものということができる。このような前記法及び規則の規定の趣旨・目的及び前記災害による被害の内容・性質等を考慮すると,設置段階の設置者の資金計画等からして,およそ同処分場の適正な設置及び維持管理が困難であるとか,不適正な産業廃棄物の処分が行われるおそれが著しく高いなど,管理型最終処分場の周辺住民が生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある災害等が想定される程度に経理的基礎を欠くような場合において,平成12年法15条の2第1項3号,平成12年規則12条の2の3第2号の規定が,前記被害が想定される住民の生命又は身体等の安全を保護する趣旨を含まないものとまでいうことはできないというべきである。」「したがって,これらの規定は,前記周辺住民が重大な被害を被るおそれのある災害等が想定される程度に至る経理的基礎を欠くような場合には,もはや公益を図る趣旨にとどまらず,前記周辺住民の安全を図る趣旨から,前記周辺住民個人の法律上の利益に関係のある事由について定めているというべきである。そうすると,この事由により違法となる場合は,設置段階の設置者の資金計画等からして,およそ管理型最終処分場の適正な設置及び維持管理が困難であるとか,不適正な産業廃棄物の処分が行われるおそれが著しく高いなど,管理型最終処分場の周辺住民が生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある災害等が想定される程度に経理的基礎を欠くような場合に限られるというべきである。

このように、裁判所は、経理的基礎の要件の趣旨を、施設の適正な設置・維持管理を的確かつ継続的に行うための財源的裏付けを担保する、施設の健全な経営の確保という表向きの理由にとどまらないことを明らかにしました。

つまり、廃棄物処理業を行う企業が、

①経理的基礎を欠くことで不適正な産業廃棄物の処分や同処分場の設置及び維持管理が行われる

②有害な物質が許容限度を超えて排出され、その周辺に居住等する者の生命、身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引き起こす

という流れのもと、経理的基礎要件が置かれたと考えました。

具体的検討

エコテックは,その資産のほとんどが借入金で構成されており,自己資本が著しく少ない状態であったから,銀行等の金融機関から本件処分場の事業開始資金の融資を受けるに当たっては,本件予定地のすべてに融資元の金融機関の第1順位の抵当権等を設定する必要があったというべきである。そうすると,エコテックは,本件許可処分当時,エコテックが本件予定地を所有していたか否か又は所有する予定であったか否か,エコテックは本件各被担保債務の債務者又は保証人であるか否かなど,法的に本件各被担保債務を弁済すべき義務を負う可能性があるか否かに関わらず,銀行等の金融機関から,本件処分場の事業開始資金70億2750万円を借り入れるためには,本件各担保権を抹消する必要があり,そのための費用を支出する必要があったと認められる。」

「・・・エコテックのように自己資本が著しく少額であって,その事業開始資金のすべてを借入金のみに依存して最終処分場を設置し,営業利益によって借入金を返済する計画である場合には,設置及び維持管理を的確かつ継続して行うに足りる程度に経理的基礎を有するか否か判断するためには,本件許可処分時において,借入先,借入残高,年間返済額,返済期限,利率などの融資内容及びその条件が明確にされ,融資の実行を受けられることが相当程度確実であるといえる必要があるというべきである。しかし,・・・融資元金融機関,融資内容及びその条件は明確ではなく,本件許可処分時において,最終的な資金調達方法及びその条件はおよそ不明確であるといわざるを得ない。そうすると,そもそもエコテックが,事業開始資金106億9950万円の融資が受けられるか,仮に融資が受けられる場合においても,本件収支計画で設定した借入れ条件(期間10年,年利2.3%)で融資を受けられるかについて重大な疑問が生じるというべきである。」

「・・・そうすると,本件収支計画の収入額及び支出額のうち借入金の元利金の返済額を除く部分を前提とする限り,借入金の返済を優先した場合には,環境保険等の各種保険料の支払,維持管理積立金の積立て,遮水シート破損等の事故に対する場内施設補修費等の本件処分場から有害物質が排出されるのを防止又はこれに対応するための維持管理に必要な資金が不足することが明らかである(これら費用の支出を優先した場合には,借入金の返済ができず,本件処分場での産業廃棄物処分業が破綻することになる。)。また,前記のとおりの多額の赤字を生ずることからすれば,その発生を防止し,又は解消するために当初の計画以上の産業廃棄物の受け入れを行ったり,計画外の産業廃棄物を受け入れるなどの不適正な処分を行わざるを得なくなる事態も想定される。

「したがって,エコテックの経理的基礎は,本件許可処分時において,本件処分場の周辺住民である原告らが,生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある災害等が想定される程度に経理的基礎を欠く状態であるというべきである。」

結論

このように、裁判所は、エコテックの経理的基礎を否定し、産業廃棄物処理施設の設置許可処分許可を取り消すに至りました。

本事件は、行政法上の裁判例として取り上げられるものです。しかし、廃棄物処理法上の許可基準である「経理的基礎」とは何かを紐解くための詳細な事実認定を行っていることから、実は非常に有益かつ重要な裁判例です。具体的に、財政状況・経営成績という会計的考え方からのアプローチをきちんと行い、財務的な考え方を詳細に検討していることが分かります。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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