【交通事故】胸腹部臓器の障害|内臓損傷・人工肛門・呼吸機能の後遺障害を弁護士が解説

高速で衝突した、トラックに巻き込まれた、オートバイで転倒して胸腹部を強打した。救急搬送され、開腹手術や開胸手術を受け、脾臓や腎臓を切除した。腸を大量に切除して人工肛門を造設した。肺を損傷して息切れが続いている——。

骨折や麻痺と違い、内臓の障害は外から見えません。そして、入院が長期化し手術を繰り返す重傷事案であるほど、整形外科的な障害にばかり目が向き、内臓の障害が後遺障害診断書に書かれないまま終わってしまうことがあります。

胸腹部臓器の障害は、重いものでは常時介護を要する第一級、軽いものでも第一三級まで等級が定められており、適正に主張すれば賠償額が大きく変わります。

本記事では、胸腹部臓器の後遺障害について、等級の仕組みと見落とされやすい点を、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

胸腹部臓器の障害の等級

胸腹部臓器の障害の等級

介護を要する場合は別表第一

介護を要する後遺障害を定めた別表第一では、「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」が第一級二号、「随時介護を要するもの」が第二級二号とされています。自賠責保険金額は第一級が四〇〇〇万円、第二級が三〇〇〇万円です。

別表第二の等級

介護を要しない場合は、別表第二によって次のように評価されます。

第三級四号は「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」。第五級三号は「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」。第七級五号は「胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」。第九級一一号は「胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」。第一一級一〇号は「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」。第一三級一一号は「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」です。

このほか、臓器そのものを失った場合として、第八級一一号「ひ臓又は一側の腎臓を失ったもの」が定められています。

労働能力喪失率は、第三級が一〇〇パーセント、第五級が七九パーセント、第七級が五六パーセント、第八級が四五パーセント、第九級が三五パーセント、第一一級が二〇パーセント、第一三級が九パーセントです。

慰謝料の目安

赤い本の基準では、後遺障害慰謝料の目安は第一級二八〇〇万円、第三級一九九〇万円、第五級一四〇〇万円、第七級一〇〇〇万円、第八級八三〇万円、第九級六九〇万円、第一一級四二〇万円、第一三級一八〇万円です。

第一級・第二級といった重度後遺障害の場合には、これに加えてご家族固有の慰謝料が認められるのが実務です。

また、胸腹部臓器の重傷事案では、急性期に生死が危ぶまれる状態が継続することが多くあります。赤い本は、生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰り返したときなどは、入通院期間の長短にかかわらず入通院慰謝料を別途増額すると明記しています。

裁判例には、両側多発肋骨骨折、両側気胸、肺挫傷、肝損傷、骨盤骨折の傷害を負い、一時心肺停止の状態に陥り、肝損傷に関して仮性動脈瘤が生じ出血多量になるおそれがあったなど、急性期には死亡の危険があったことを考慮して、治療期間四三七日(うち入院八六日)に対し傷害慰謝料三三三万円を認めたものがあります。

臓器ごとの認定のポイント

臓器ごとの認定のポイント

呼吸器の障害

肺挫傷、血気胸、多発肋骨骨折、横隔膜損傷などにより呼吸機能が低下することがあります。

認定は、動脈血ガス分析による動脈血酸素分圧・動脈血炭酸ガス分圧、スパイロメトリーによるパーセント一秒量・パーセント肺活量、そして呼吸困難の程度に基づいて行われます。

重要なのは、これらの検査が整形外科では行われないという点です。呼吸器内科を受診し、症状固定時点での検査結果を残しておく必要があります。「息切れがする」という自覚症状だけでは等級になりません。

消化器の障害

胃の切除では、噴門部や幽門部を含む切除によって、消化吸収障害、ダンピング症候群、胃切除術後逆流性食道炎が生じることがあります。

BMIが二〇以下であり、かつ受傷前より体重が一〇パーセント以上減少したこと、食後三〇分以内のめまい・起立不能などの早期ダンピング症候群、食後二時間から三時間後の全身脱力感などの晩期ダンピング症候群といった事実が、認定の判断材料になります。

小腸を大量に切除した場合は、残存する空腸・回腸の長さが基準になります。残存長が一〇〇センチメートル以下となったものは第九級、一〇〇センチメートルを超え三〇〇センチメートル未満で消化吸収障害が認められるものは第一一級という枠組みです。

大腸についても、切除の範囲と機能障害の程度に応じた基準が定められています。

人工肛門(ストマ)を造設した場合

人工肛門を造設した場合、その管理の難易によって等級が分かれます。

内容が漏出してストマ周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着が困難であるものは第五級三号。それに該当しないものは第七級五号という枠組みです。

人工肛門は、見た目には分からない一方で、日常生活と就労に重大な影響を与えます。装具の交換頻度、漏れの有無、入浴や外出の制約、職場で使えるトイレの問題などを、具体的に記録しておいてください。

ストマ装具の費用は将来にわたって発生しますので、将来の装具費用として請求できます。身体障害者手帳の交付対象でもあり、日常生活用具の給付を受けられる場合があります。

泌尿器の障害

骨盤骨折に伴う尿道損傷・膀胱損傷、腎臓の損傷や摘出が問題になります。

尿路変向術を行った場合には、漏出によりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じパッド等の装着が困難であるものは第五級三号、それに該当しないものは第七級五号とされます。禁制型尿リザボアの術式を行ったものは第七級五号、外尿道口形成術を行ったものは第一一級一〇号といった基準が定められています。

排尿障害については、残尿量が基準になります。残尿が一〇〇ミリリットル以上であるものは第九級、五〇ミリリットル以上一〇〇ミリリットル未満であるものは第一一級という枠組みです。

また、尿道狭窄により糸状ブジーを必要とするものは第一一級一〇号とされます。自己導尿が必要な場合は、カテーテルの費用や感染症の反復が将来の損害になります。

生殖器の障害

生殖器に著しい障害を残すものは第九級一七号、両側の睾丸を失ったものは第七級一三号です。

骨盤骨折や脊髄損傷に伴って生殖機能が失われることがありますが、ご本人から申告しにくい事柄であり、診断書に書かれないまま終わることが非常に多い項目です。将来の家族計画に関わる重大な問題ですので、泌尿器科・婦人科を受診して所見を残しておくことをお勧めします。

脾臓・腎臓を失った場合

脾臓または一側の腎臓を失ったものは第八級一一号です。労働能力喪失率は四五パーセント、赤い本による後遺障害慰謝料の目安は八三〇万円です。

腹部打撲による脾損傷で緊急手術により脾臓を摘出した、腎損傷で一側の腎臓を摘出した、という事案は決して珍しくありません。手術記録を確認し、摘出の事実を後遺障害診断書に明記してもらってください。

見落とされやすいポイント

見落とされやすいポイント

整形外科の診断書だけでは足りない

重傷事案では、整形外科が主たる診療科になります。そのため、後遺障害診断書も整形外科医が作成し、骨折後の可動域制限や神経症状は丁寧に記載されるものの、内臓の障害についてはまったく触れられないことがあります。

消化器内科、呼吸器内科、泌尿器科、外科など、実際に治療を担当した科から別途診断書を取得し、併せて提出する必要があります。

併合で等級が繰り上がる

胸腹部臓器の障害と、骨折後の機能障害、神経症状などが併存すれば、併合によって等級が繰り上がります。第一三級以上が二つ以上あれば一級繰上げ、第八級以上が二つ以上あれば二級繰上げ、第五級以上が二つ以上あれば三級繰上げです。

裁判例には、心房破裂による心房縫合、腹壁瘢痕ヘルニア、腸閉塞等(第五級三号)と胸椎圧迫骨折(第一一級七号)で併合第四級とされた主婦(女・症状固定時四五歳)について、胸部から下腹部にかけて走る傷痕がV字形状にくぼんでえぐれていることなどを考慮して高額の慰謝料を認めたものがあります。

手術痕も損害である

開腹手術・開胸手術の痕は、腹部や胸部に残ります。これらは日常露出する部分ではないため外貌醜状の等級には当たりませんが、等級表に規定がない醜状については準用等級として判断される余地があります。

また、瘢痕ヘルニアや癒着性腸閉塞の反復といった二次的な問題が生じることもあり、将来の治療費や再手術費用の根拠になります。

利用できる公的制度

人工肛門・人工膀胱を造設した場合、腎機能障害が残った場合、呼吸機能障害が残った場合には、身体障害者手帳の交付対象になります。手帳を取得すれば、日常生活用具の給付、医療費の助成、各種の割引制度を利用できます。

また、障害の程度によっては障害基礎年金・障害厚生年金の対象になります。業務中・通勤中の事故であれば労災保険の障害補償給付も受けられ、障害特別支給金などの特別支給金は損益相殺の対象になりませんので、実質的な上乗せとして受け取ることができます。

公的制度の中には賠償金から控除されるものもありますので、何が損益相殺の対象になり何がならないのかを整理したうえで、請求を組み立てる必要があります。

将来の医療費と生活上の負担

人工肛門や尿路変向術の装具、自己導尿のカテーテル、消化吸収障害に対する栄養剤、定期的な画像検査。これらは生涯にわたって必要になります。

耐用年数と平均余命を踏まえた計算書を作成し、将来分をまとめて請求します。領収書は必ず保管しておいてください。

症状固定を急がない

内臓の障害は、手術の回数を重ねながら状態が変わっていきます。人工肛門を一時的に造設して後に閉鎖する予定がある場合、閉鎖の見通しが立つまでは症状固定とすべきではありません。

腸閉塞を繰り返している、感染症を反復している、追加手術が予定されているといった段階で症状固定とすれば、最終的な障害の程度が評価されません。

保険会社から治療費の打切りを打診されても、健康保険(業務中・通勤中の事故であれば労災保険)に切り替えて治療を継続することができます。健康保険を使う場合は、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出します。打ち切り後に自己負担した治療費も、必要性・相当性が認められれば後から請求できます。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①診療科ごとの診断書の手配

整形外科以外に、消化器内科・呼吸器内科・泌尿器科など、治療を担当した科から後遺障害に関する所見を取得する手配をします。

②必要な検査の洗い出し

呼吸機能検査、残尿測定、体重の推移、残存腸管長の確認など、認定基準が求める検査項目を整理して主治医に依頼します。

③被害者請求と併合等級の主張

弁護士名義の意見書を添えて被害者請求を行い、整形外科的な障害と内臓の障害を併せた併合等級を主張します。

④将来損害の積算と交渉

装具費・カテーテル費・将来治療費について、耐用年数と平均余命を踏まえた計算書を作成して請求し、折り合えない場合には訴訟を提起します。

おわりに

おわりに

内臓の障害は、ご本人にとっても語りにくく、医師も賠償を意識して記録するわけではありません。その結果、重傷事案であるのに、骨折の後遺障害だけで等級が決まってしまうことがあります。

しかし、脾臓を失えば第八級、人工肛門を造設すれば第七級または第五級です。整形外科的な障害と併せれば、等級はさらに繰り上がります。その差は、数千万円に及ぶこともあります。

入院中に受けた手術の内容を思い出して、ひとつでも気になることがあれば、症状固定を迎える前にご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。