
骨折は治った。画像を見ても骨はきれいにくっついている。それにもかかわらず、手や足に焼けるような痛みが続き、少し触れただけで飛び上がるほど痛む。皮膚の色が変わり、冷たくなり、関節が固まってきた——。
こうした症状は、CRPS(複合性局所疼痛症候群)、あるいは反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)、カウザルギーと呼ばれる状態です。原因となった外傷の程度とは釣り合わないほど強い痛みが続き、仕事も家事もできなくなります。
ところが、賠償の場面では「画像に異常がない」「心因性ではないか」「仮病ではないか」といった扱いを受けやすく、適正な等級が認定されないまま終わってしまう事案が少なくありません。
本記事では、難治性疼痛の後遺障害等級について、認定基準と立証の方法を、埼玉県大宮の弁護士が解説します。
どのような等級が認定されるのか

神経系統の機能障害として評価される
CRPSやカウザルギーによる疼痛は、「神経系統の機能又は精神の障害」として評価されます。自賠責保険の後遺障害別等級表(別表第二)では、次の三つの等級が問題になります。
第七級四号は「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」。第九級一〇号は「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」。第一二級一三号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」です。
労働能力喪失率は、第七級が五六パーセント、第九級が三五パーセント、第一二級が一四パーセントです。赤い本の基準による後遺障害慰謝料の目安は、第七級一〇〇〇万円、第九級六九〇万円、第一二級二九〇万円です。
等級の振り分け方
カウザルギーについては、疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間、日内変動、疼痛の原因となる他覚的所見などから、疼痛が労働能力に及ぼす影響を判断します。
常に労務に差し支える程度の疼痛があるものは第七級、通常の労務には服することができるが就労可能な職種が相当な程度に制限されるものは第九級、通常の労務には服することができるが時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるものは第一二級という振り分けになります。
第一二級一三号と第一四級九号の分かれ目
難治性疼痛に至らない神経症状についても、第一二級一三号「局部に頑固な神経症状を残すもの」と第一四級九号「局部に神経症状を残すもの」のどちらになるかで、賠償額が大きく変わります。
両者を分けるのは他覚的所見の有無です。画像上の器質的変化、腱反射の異常、筋萎縮、デルマトームに沿った明確な知覚障害といった客観的所見によって症状が医学的に「証明」できる場合には第一二級、症状の存在が医学的に「説明」できるにとどまる場合には第一四級とされます。
労働能力喪失率は一四パーセントと五パーセント、慰謝料の目安は二九〇万円と一一〇万円。さらに保険会社は第一四級について喪失期間を五年に制限するよう主張してきますので、総額では数百万円の差が生じます。
疼痛以外の異常感覚
疼痛ではなく、しびれなどの異常感覚(感覚脱失等)が発現した場合については、その範囲が広いものに限り第一四級九号に認定されることとなっています。
「しびれだけだから軽い」ということではなく、範囲と程度を具体的に記録しておくことが必要です。知覚検査の結果を人体図に書き込んだ資料を、後遺障害診断書に添えてもらうとよいでしょう。
CRPS・RSDの認定基準は厳しい

三つの慢性期症状がすべて必要
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)については、認定基準が明確に定められています。
すなわち、①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な三つの症状の「いずれも」が、健側と比較して明らかに認められる場合に限り、カウザルギーと同様の基準によって第七級、第九級、第一二級に認定されることとなっています。
ここが最大の関門です。痛みがどれほど強くても、三つの症状のうち一つでも客観的に確認できなければ、第一二級すら認定されず、第一四級九号あるいは非該当とされてしまいます。
三症状をどう証明するか
関節拘縮については、関節可動域の測定値を健側と比較して記録します。角度計を用いた他動値・自動値の双方が必要です。
骨の萎縮については、単純レントゲンで健側と患側を同一条件で撮影し、骨萎縮(いわゆるズデック骨萎縮)の有無を比較します。より精密には骨密度検査(DXA法)が有用です。
皮膚の変化については、サーモグラフィーによる皮膚温の左右差の測定、皮膚の萎縮や発汗異常についての医師の視診所見、患部の写真が資料になります。
これらはいずれも、医師に依頼しなければ実施されない検査です。整形外科で痛み止めの処方を受けるだけの通院を続けていると、症状固定の時点で証拠が何も残っていないという事態になります。
専門科を受診する
CRPSの診断と治療は、ペインクリニック、麻酔科、あるいはCRPSの診療に実績のある整形外科が中心になります。神経ブロックや脊髄刺激療法(SCS)の実施歴は、症状の重さを示す資料にもなります。
また、厚生労働省の研究班が公表したCRPS判定指標(臨床用・研究用)があり、医学的な診断の場面ではこれが用いられます。賠償の場面の認定基準とは別のものですが、診断名を確定させるうえでは重要です。
心因性・素因減額の主張への備え
保険会社は、「痛みは心理的な要因によるもので事故とは無関係だ」「本人の性格傾向が症状を長引かせている」として、因果関係の否認や素因減額を主張してきます。
これに対しては、受傷直後からの症状の連続性、他覚的所見の裏づけ、事故前はまったく症状がなく通常に就労していたことを、診療記録と就労実績によって立証します。
最高裁は、疾患にあたらない身体的特徴は原則として減額の理由にならないとしており、性格傾向を理由とした大幅な減額は認められにくいところです。もっとも、一定の減額が認められる事案もありますので、事故前の健康診断の結果や就労状況の資料を揃えておくことが有効です。
裁判例にみる認定水準

自賠責より高い等級が認められた例
赤い本には、RSD(CRPS)等の疼痛障害について、自賠責保険より高い等級や労働能力喪失率が認定された裁判例が集積されています。裁判所は自賠責の認定に拘束されませんので、非該当や第一四級とされた事案でも、訴訟で覆る可能性があります。
疼痛の強さを慰謝料で評価した例
裁判例には、左鎖骨骨折後の難治性疼痛(第一二級一三号)の解体業者(男・症状固定時五五歳)について、痛みをはじめとした症状自体は相当に強いと考えられ、就労への現実的な影響も無視できず、少なくとも精神的苦痛に関しては労働能力喪失率一四パーセントとして考えられる平均的な事案を大きく上回るなどとして、傷害分三四一万円のほか後遺障害分四〇〇万円を認めたものがあります。
また、左大腿骨仮関節等により四〇パーセントの労働能力を喪失した被害者について、創外固定具を装着して手を動かすことができず着替えさえできない状態であった期間について、日額五〇〇〇円で合計三三三日分、一六六万円余の付添費を認めた例もあります。
疼痛の事案では、「痛みがどれほど日常生活を奪っているか」を具体的に描くことが、金額に直結します。
感染症を契機とした例
裁判例には、左腓骨骨折後変形治癒(第一二級八号)のほか左膝関節の疼痛および不安定が残存する被害者(男・症状固定時四三歳)について、骨折の手術中にMRSAに感染し、左化膿性慢性骨髄炎といういつ再発するか分からない疾患を抱える状態となったことを考慮して、傷害分四五〇万円のほか後遺障害分三九〇万円を認めたものがあります。
治療の過程で生じた合併症も、損害として主張できます。
症状固定と立証の設計

症状固定を急がない
CRPSは、発症から半年、一年をかけて症状が変化します。急性期の熱感・発赤のある状態から、慢性期の皮膚萎縮・関節拘縮へと移行していきます。
認定基準が求める三症状は慢性期のものですので、急性期の段階で症状固定とすると、基準を満たさないという判断になりかねません。保険会社から六か月で打切りを打診されても、医学的な見通しを確認してから判断すべきです。
打ち切られた場合には、健康保険(業務中・通勤中の事故であれば労災保険)に切り替えて治療を継続します。健康保険を使う場合は、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出します。
日常生活の記録を残す
痛みは数値化できません。だからこそ、生活上の支障を記録することが重要です。
服を着るのに何分かかるか、靴を履けるか、箸を使えるか、家事のどの部分ができなくなったか、夜中に何回痛みで目が覚めるか。日付とともに書き残し、できれば動画で残してください。自賠責の審査でも、訴訟の場でも、最も説得力のある資料になります。
休業損害と家事従事者の立証
疼痛の事案では、「働けないほどの痛み」であることを示さなければ休業損害も認められません。主治医に休業の必要性を診断書に記載してもらい、勤務先からは休業損害証明書を取得します。
家事従事者(主婦・主夫)の場合は、賃金センサスの女性全年齢平均賃金を基礎として休業損害を請求できます。保険会社は「家族が代わりに家事をしていたのだから損害はない」と主張することがありますが、これは誤りです。できなくなった家事の内容を具体的に記録しておいてください。
装具・補助具の記録
杖、装具、車椅子を使っている場合は、医師の処方があることを確認し、処方箋と購入時の領収書を保管してください。装具の必要性は、症状の重さを示す客観的な事実です。
また、症状固定後も神経ブロックや投薬を継続する必要がある場合には、将来の治療費を請求できます。裁判例には、症状固定後も疼痛緩和のため通院・内服加療が医学的に有効とされているとして、平均余命までの年四回の頻度での治療費四一万円余を認めたものがあります。
労災保険を使える場合のアフターケア
業務中または通勤途上の事故であれば労災保険を使えます。労災の障害補償給付は逸失利益と同性質の損害を填補するものとして損益相殺の対象になりますが、障害特別支給金などの特別支給金は対象になりませんので、実質的な上乗せとして受け取ることができます。
さらに、労災には「アフターケア」の制度があります。外傷による末梢神経損傷に起因するカウザルギーまたはRSDによる激しい疼痛が残存する方で、障害等級第一二級以上の障害補償給付等を受けている方については、症状固定後も疼痛緩和のための処置を受けられる仕組みが設けられています。
交通事故でも、業務中・通勤中であればこの制度を利用できますので、会社と労働基準監督署に早い段階で相談しておくことをお勧めします。
当事務所のサポート内容

①必要な検査の洗い出しと依頼
関節可動域の測定、健側対比のレントゲン、骨密度検査、サーモグラフィーなど、認定基準が求める三症状を裏づける検査を整理し、主治医あての依頼書を作成します。
②専門科への受診のご案内
ペインクリニックなど、CRPSの診療に実績のある医療機関の受診をご案内し、診断名の確定と治療歴の記録を確保します。
③被害者請求と異議申立て
弁護士名義の意見書を添えて被害者請求を行い、認定結果に不服があるときは、追加の検査結果や医師の意見書を添えて異議申立てを行います。
④因果関係・素因減額への反論
事故前の就労実績や健康状態を示す資料を揃え、心因性との主張や素因減額に反論します。折り合えない場合には訴訟を提起します。
おわりに

痛みは、他人には見えません。そして見えないものは、賠償の場で軽く扱われがちです。
しかし、認定基準は明確に定められています。関節拘縮、骨の萎縮、皮膚の変化。この三つを客観的な検査で押さえられるかどうかが、第七級と非該当を分けます。そして、その検査は、誰かが医師に依頼しなければ行われません。
「画像に異常がないと言われた」「気のせいだと言われた」という段階でも、まだできることがあります。症状固定を迎える前に、一度ご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
交通事故
弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。




