交通事故で舟状骨を骨折したら?見逃しリスク・偽関節・後遺障害と慰謝料を弁護士が解説

本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。

交通事故で転倒した際、手をついて手首を痛めたにもかかわらず、病院でレントゲンを撮っても「骨に異常なし」と言われ、捻挫や打撲として処置された――そのような経験をされた方はいませんか。しかしその後も痛みが引かない場合、舟状骨(しゅうじょうこつ)骨折を見逃されている可能性があります。

舟状骨は、手首の中にある8つの小さな骨(手根骨)の一つで、通常のレントゲン検査では骨折線が見えにくいことで知られています。見逃されたまま放置すると、骨がうまくつながらない「偽関節(ぎかんせつ)」となり、手首に慢性的な痛みや機能障害が残るリスクがあります。

本記事では、舟状骨骨折の特徴・見逃されやすい理由・偽関節のリスク、そして後遺障害と賠償についてご説明します。

舟状骨骨折とは―見逃されやすい骨折の特徴

舟状骨骨折とは―見逃されやすい骨折の特徴

舟状骨はどんな骨か

手首の関節(手関節)は、前腕の橈骨・尺骨と、8つの小骨からなる手根骨(しゅこんこつ)が組み合わさって構成されています。舟状骨はその手根骨の一つで、手首の親指側(橈側)に位置し、「外くるぶし」の少し下の位置に対応します。舟状骨という名前は、その形が舟(ふね)に似ていることに由来します。

舟状骨は手根骨の中で最も骨折しやすい骨です。また、橈骨と手根骨との間の動きを媒介する重要な位置にあるため、ここが正常に機能しないと手首全体の動きが大きく制限されます。

なぜ見逃されやすいのか

舟状骨骨折が「見逃されやすい骨折」と言われる最大の理由は、通常の2方向レントゲン撮影だけでは骨折線が確認できないケースが多いことです。これは、舟状骨の形状が複雑で、周囲の骨と重なって写るためです。

また、受傷直後の症状が「手首のだるい痛み」「手をつくと痛い」程度のことも多く、「ただの捻挫では?」という判断に至りやすい骨折でもあります。事故直後に「異常なし」と診断されていても、数週間後・数か月後にMRIやCT検査で初めて骨折が判明するケースも報告されています。

  • 受傷直後はレントゲンで見えにくい(初回で確認できないことがある)
  • 痛みが比較的軽度で「捻挫」「打撲」と誤診されやすい
  • 解剖学的嗅ぎタバコ入れ(anatomical snuffbox)の圧痛が重要なサインだが、見落とされることがある

もし手首の親指側(外くるぶしの下あたり)に圧痛があり、痛みが続く場合は、MRIまたはCT検査を積極的に求めることが重要です。

血流の乏しさと偽関節リスク

舟状骨骨折がもつ最大のリスクが「偽関節化」です。舟状骨は血液供給の大部分を遠位(親指側の端)から受けており、骨折が近位部(手首の深い側)で起きると、骨折部より手首側(近位側)への血流が遮断されてしまいます。血流が失われた骨は壊死(えし)や吸収が進み、骨がうまくくっつかない偽関節状態になります。

見逃された骨折がそのまま放置されると、数か月〜数年で偽関節化が進み、手術が必要になるケースや、術後も機能障害が残るケースがあります。

治療の流れ

骨折が確認された場合、転位(ずれ)のない安定した骨折では6〜12週間の固定(ギプス・親指まで含む固定)が行われます。転位がある場合や近位骨折など、偽関節リスクが高い場合には早期に手術(スクリュー固定)が推奨されます。偽関節が成立してしまった場合は、骨移植を伴う複雑な手術が必要になることがあります。

舟状骨骨折で認定されうる後遺障害等級

舟状骨骨折で認定されうる後遺障害等級

機能障害(手関節の可動域制限)

舟状骨骨折後の後遺障害として最も多く問題になるのは、手首(手関節)の可動域制限です。健側と比較した制限程度で等級が決まります。

等級認定基準(手関節の可動域)後遺障害慰謝料(弁護士基準)
8級6号手関節の用を廃したもの(強直等)830万円
10級10号手関節の機能に著しい障害(健側の1/2以下)550万円
12級6号手関節の機能に障害を残すもの(健側の3/4以下)290万円

変形障害・偽関節

等級認定基準後遺障害慰謝料(弁護士基準)
7級9号1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの1,000万円
8級8号1上肢に偽関節を残すもの(補装具なしで生活可能な程度)830万円

神経症状(痛み・しびれ)

等級認定基準後遺障害慰謝料(弁護士基準)
12級13号局部に頑固な神経症状(CT・MRI等で原因が証明できる)290万円
14級9号局部に神経症状(医学的に説明できる)110万円

舟状骨骨折の場合、MRIで骨折部の信号変化・骨壊死・偽関節の状態を客観的に確認できれば、12級13号以上の認定が期待できます。骨折を見逃されていた場合は、初診時からの経緯・症状の一貫性・CT/MRI画像を揃えて申請することが重要です。

慰謝料の3つの算定基準

慰謝料の3つの算定基準

後遺障害等級は、症状の重さに応じて最も重い1級から最も軽い14級まで区分されています。そして、等級が認定されるかどうか、また何級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金の額が、数百万円から、重い場合には数千万円以上も変わってくるのです。

適切な後遺障害等級が認定されたら、次はいよいよ保険会社との具体的な賠償金の交渉です。ここで知っておかなければならないのが、慰謝料などの計算に用いられる「3つの基準」の存在です。

自賠責基準:自賠責保険が定める法定の最低限補償です。日額4,300円を基本に計算しますが、実損に比べて低額になりがちです。

任意保険基準:加害者側の任意保険会社が社内規定に基づき提示する基準です。自賠責基準より高い場合が多いものの、法的に認められる水準よりかなり低いのが実態です。

弁護士基準(裁判基準):過去の判決例をもとに整理された、法的に最も適正な算定基準です。弁護士が介入した交渉・訴訟において適用されます。

保険会社が被害者本人に提示してくる金額は、通常「任意保険基準」か、それに近い低い金額です。被害者が「弁護士基準」で賠償金を受け取るためには、弁護士を立てて交渉することが事実上、不可欠となります。

入通院慰謝料の計算例―基準による差額を確認する

入通院慰謝料の計算例―基準による差額を確認する

舟状骨骨折は骨折を伴う重傷に分類されますので、弁護士基準では骨折等重傷用の別表Ⅰ(下表参照)が適用されます。

計算例:通院6か月(骨折の場合)

【自賠責基準】実治療日数90日 → 90×2=180日 = 総治療期間180日のため 180日を採用
 4,300円 × 180日 = 774,000円(約77万円)

【弁護士基準・別表Ⅰ】通院6か月:約116万円
(差額:116万円 − 77万円 ≒ 約39万円の差)

請求できる損害賠償の項目と逸失利益

請求できる損害賠償の項目と逸失利益
  • 治療関係費:治療費・通院交通費・装具代・手術費用・リハビリ費用。
  • 休業損害:骨折・術後・リハビリ期間中の就労不能に対する収入補償。
  • 入通院慰謝料:入院・通院期間の精神的苦痛への補償。
  • 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことへの補償。
  • 逸失利益:後遺障害による将来の収入減への補償。

後遺障害によって労働能力が低下し、将来の収入が減少することに対する補償です。 足の甲の骨折により、歩行時痛やバランス能力の低下が生じ、後遺障害として認められれば、労働能力の喪失が認められます。

逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。

ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。

中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。

まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。

逸失利益の計算式

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
  • 基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
  • 労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。上記に掲載した表に載っています。
  • 労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
  • ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。

計算例:等級12級6号・年収400万円・40歳の場合

基礎収入:400万円
労働能力喪失率:14%(12級)
労働能力喪失期間:67歳-40歳=27年 → ライプニッツ係数 17.985
逸失利益 = 400万円 × 0.14 × 17.985 ≒ 約1,007万円

弁護士に相談すべき理由

弁護士に相談すべき理由

理由① 見逃し・遅延診断のケースへの対応

事故後に「骨に異常なし」と診断されてから数週間〜数か月後にCT・MRIで骨折が判明した場合、保険会社から「事故との因果関係が不明」と言われるリスクがあります。受傷から診断までの経緯を丁寧に整理し、医学的な因果関係を主張することが重要で、弁護士がその対応を支援します。

理由② 偽関節化した場合の複雑な後遺障害評価

舟状骨が偽関節化すると、CT・MRI・骨シンチグラフィーなどの複数の画像所見をもとに後遺障害を主張する必要があります。また偽関節の程度・症状への影響・日常生活への支障を具体的に立証することが補償額に大きく影響します。

理由③ 治療期間が長期化するケースの対応

舟状骨骨折は骨癒合に時間がかかり、手術後のリハビリも含めると治療期間が1年以上になることがあります。その間に保険会社から治療費打ち切りの打診がきた場合、弁護士を通じて対応することで継続的な補償を求める主張が行いやすくなります。

弁護士費用特約の活用

弁護士費用特約の活用

【弁護士費用特約】 ご自身の保険(自動車保険・火災保険など)に付いていることが多い特約です。交通事故を原因とした弁護士費用を保険会社が肩代わりしてくれるため、費用の心配なく弁護士に依頼できます。

費用の上限は通常300万円で、多くの事案では自己負担ゼロで弁護士に依頼することが可能です。

  • 弁護士費用特約を使っても保険等級(保険料)は上がりません。
  • ご自身に過失がある場合でも利用できます。
  • 依頼する弁護士は被害者ご自身が自由に選べます。
  • ご家族の保険に付帯している場合も利用できることがあります。

まずはご自身・ご家族の保険証券をご確認ください。火災保険に付帯しているケースもあります。

まとめ:舟状骨骨折は早期の精密検査と弁護士相談が重要

まとめ:舟状骨骨折は早期の精密検査と弁護士相談が重要

舟状骨骨折は「見逃されやすい」「偽関節化しやすい」という二つのリスクを持つ骨折です。転倒して手首を痛め、痛みが続いているにもかかわらず「異常なし」と言われた方は、MRIやCTによる精密検査を受けることを強くお勧めします。

また、後遺障害申請や保険会社との交渉においては専門的な対応が求められます。治療中の段階から弁護士に相談することで、適切な補償を得るための準備を早期に進めることができます。

ご相談・ご質問

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また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀

交通事故

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、現在は交通事故案件を中心に多数の損害賠償請求に対応している。後遺障害等級認定や保険会社との示談交渉を含む実務に精通し、緻密な法的思考に基づいた立証に注力。被害者の適正な賠償実現のため、専門知識を活かした迅速な解決を追求している。