【弁護士が解説】アスベストの労災が「不支給」に…審査請求で決定を覆す方法と期限

長い時間をかけて資料を揃え、ようやく労働基準監督署にアスベスト(石綿)の労災申請をした。それなのに、届いたのは「不支給決定通知書」という一枚の書面だった——。

アスベストの労災請求では、こうしたケースが決して珍しくありません。ばく露から発症までに何十年もの歳月が流れているため、当時の作業歴を裏づける資料が残っておらず、認定に必要な事実を証明しきれないことが多いからです。

しかし、ここで諦めてしまうのは早すぎます。不支給決定は、行政が下した一つの判断にすぎず、確定した結論ではありません。日本の行政手続には、不当な処分を正すための不服申し立て(審査請求)という救済制度が用意されており、決定が覆って支給に転じる可能性は残されています。

本記事では、アスベストの労災が不支給とされる理由、決定を覆すための手続と厳格な期限、そして逆転支給を勝ち取るために何をすべきかを、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

アスベストの労災申請が「不支給決定」になっても諦めないで!

アスベストの労災申請が「不支給決定」になっても諦めないで!

まずお伝えしたいのは、「不支給決定通知書」が届いたことは、手続の終わりを意味しないということです。

「不支給決定通知書」は最終決定ではありません

労働基準監督署長が行う支給・不支給の決定は、行政庁が行う「行政処分」の一つです。行政処分である以上、それが誤っていた場合に是正するための仕組みが法律上必ず用意されています。

実務でも、監督署の段階では認められなかった事案が、審査請求の段階で新たな証拠を提出したことにより支給決定へと覆るケースは確実に存在します。

重要なのは、「不支給と言われたから対象外なのだ」と受け止めてしまわないことです。多くの場合、対象外なのではなく、対象であることを証明する資料が足りていなかっただけなのです。

行政の判断を正すための「不服申し立て(審査請求)」という制度

労災保険の給付に関する決定に不服がある場合には、労働者災害補償保険法にもとづき、審査請求という手続をとることができます。

これは訴訟とは異なり、費用も原則としてかからず、書面を提出することで始められる手続です。ご本人やご遺族が単独で行うことも制度上は可能です。

ただし、後で述べるとおり、単に「納得できません」と主張するだけでは決定はまず覆りません。不支給決定が覆る割合は決して高くなく、逆転を勝ち取るためには、監督署が判断の材料にできなかった新しい事実と証拠を提出することが不可欠です。

なお、労災の不支給決定や障害等級の認定に対する審査請求の一般的な流れについては、労災の不支給決定・等級認定に納得できないとき|審査請求と再審査請求の進め方を弁護士が解説でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

なぜ不支給になった?労基署に却下される「3つの主な理由」

なぜ不支給になった?労基署に却下される「3つの主な理由」

アスベストの労災請求が不支給とされる理由は、大きく三つに整理できます。ご自身のケースがどれに当たるのかを見極めることが、反論の出発点になります。

①粉じん作業への「従事歴・ばく露期間」を証明する客観的証拠が足りない

最も多いのがこの類型です。アスベスト関連疾患の認定では、石綿ばく露作業に一定期間従事していたことが要件とされます。

ところが、ばく露から発症までの潜伏期間は、中皮腫で30年から40年、肺がんでも20年から40年に及びます。当時の勤務先はすでに廃業し、雇用契約書も給与明細も残っていない。そもそも日雇いや一人親方で、雇用の記録自体が存在しない——こうした状況が普通に起こります。

その結果、「石綿ばく露作業への従事が確認できない」という理由で不支給とされてしまうのです。

②発症するのに十分な「ばく露量」があったと認められない

従事していた事実は認められたものの、その程度が発症を説明できるだけの量に達していないと判断される類型です。

たとえば石綿肺がんでは、石綿ばく露作業への従事期間がおおむね10年以上であることや、胸膜プラーク、石綿小体・石綿繊維の所見といった医学的所見が求められます。従事期間が短い、あるいは断続的であったと評価されると、この要件を満たさないとされてしまいます。

しかし実際には、期間そのものは短くても、換気の乏しい屋内で高濃度の粉じんを浴びていたというケースがあります。「期間の長さ」ではなく「ばく露の濃さ」を主張することで評価が変わる余地は十分にあります。

③石綿による疾患であるという「医学的な因果関係」に疑義がある

提出した診断書や画像データだけでは、その病気が石綿に起因すると断定できないと判断される類型です。

肺がんは喫煙などアスベスト以外の原因でも発症しますし、びまん性胸膜肥厚や良性石綿胸水も、他の疾患との鑑別が必要になります。主治医が呼吸器やアスベストの専門医でない場合、診断書に石綿ばく露との関連を裏づける所見が十分に記載されていないことも少なくありません。

この場合に必要なのは、病名を争うことではなく、石綿との関連を医学的に説明できる専門医の所見を新たに得ることです。

まずは「不支給の理由」を正確に把握することが出発点です

不支給決定通知書に書かれている理由は、ごく簡潔なものであることがほとんどです。そこで実務では、監督署に対して調査復命書などの関係書類の開示を求め、行政がどの事実をどう評価して不支給としたのかを具体的に特定します。

相手がどこを問題視したのかが分からないまま反論しても、的を外した主張になってしまいます。理由の特定は、審査請求の準備における最初の、そして最も重要な作業です。

不支給を覆す不服申し立てのステップと「厳格な期限」

不支給を覆す不服申し立てのステップと「厳格な期限」

不服申し立ての手続は、次の三段階で構成されています。それぞれに厳格な期限が定められている点に、くれぐれもご注意ください。

【第1段階:審査請求】労働局の「労働者災害補償保険審査官」へ

監督署長の決定に不服がある場合、まず都道府県労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行います。

期限は、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内です。この段階が、新しい証拠を提出して実質的な再審理を求める最大の機会となります。

【第2段階:再審査請求】厚生労働省の「労働保険審査会」へ

審査官の決定にも不服がある場合は、厚生労働省に置かれている労働保険審査会に対して再審査請求を行います。

期限は、審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内です。第一段階の3か月と異なり2か月ですので、間違えないようご注意ください。

なお、この再審査請求は必ず経なければならないものではなく、審査官の決定を受けた後、これを飛ばして直接訴訟を提起することもできます。

【第3段階:取消訴訟(行政訴訟)】裁判所へ国を訴える

最終手段が、地方裁判所に対して不支給決定の取消しを求める訴訟を提起することです。相手方は国となります。

期限は、裁決があったことを知った日から6か月以内です。労災の場合、いきなり訴訟を起こすことはできず、原則として審査請求を経ている必要があります(審査請求前置)。

ただし、審査請求をしてから3か月を経過しても審査官の決定が出ないときは、決定を待たずに訴訟を提起することが認められています。

期限を1日でも過ぎると「門前払い」になります

これら三つの期限は、いずれも法律で定められた不変の期限です。1日でも過ぎてしまえば、どれほど内容が正当であっても、中身を審理してもらえないまま却下されます。

「決定通知書が届いてから、家族と相談しているうちに数か月が経ってしまった」というご相談は、実際に少なくありません。労災の請求そのものにも時効という期限がありますが(詳しくは労災の請求には期限があります|労災保険の時効と会社への損害賠償請求権の消滅時効を弁護士が解説をご覧ください)、不服申し立ての期限はそれよりもはるかに短いのです。

不支給決定通知書が届いたら、まず封筒の消印と通知書の日付を確認し、そのうえで速やかにご相談ください。

審査請求で「逆転勝利(支給決定)」を勝ち取るための3つのポイント

審査請求で「逆転勝利(支給決定)」を勝ち取るための3つのポイント

審査請求で決定を覆すために必要なのは、監督署が見ていなかった材料を新たに示すことです。具体的には、次の三点が鍵になります。

①就労実態を補強する「新たな証拠」を徹底的に収集する

雇用契約書がなくても、就労の事実を積み上げることはできます。雇用保険の被保険者記録、厚生年金の加入記録、健康保険や建設国保の記録、預金通帳の入金履歴、資格取得の履歴、当時の現場写真、作業日報、健康診断の記録などが、いずれも有力な資料となります。

とりわけ効果が大きいのが、同じ現場で働いていた同僚や当時の職長による陳述書です。どの現場で、どの建材を、どのような方法で加工していたのか。防じんマスクが支給されていたのか。室内の粉じんはどの程度だったのか。こうした具体的な証言は、書面の記録では表せないばく露の実態を伝えます。

また、当時使用されていた建材の商品名が判明すれば、古い建材カタログや石綿含有建材データベースと照合して、その製品にアスベストが含有されていたことを立証できます。内装や建築の現場で製品を直接扱っていた方は、この立証が有効に働く場面が多くあります(内装工・クロス職人のアスベスト給付金|石膏ボードの被害と損害賠償もご参照ください)。

②アスベスト被害に精通した専門医から「医学的意見書」を取り付ける

医学的因果関係が争点となっている場合、通常の診断書だけでは足りません。アスベスト関連疾患を数多く診てきた専門医に画像や検査結果を検討してもらい、意見書を作成していただく必要があります。

胸膜プラークの有無や広がり、肺内の石綿小体・石綿繊維の計測結果、画像所見の詳細な読影など、専門医でなければ評価できない事項は数多くあります。

監督署の判断を覆すのは、感情ではなく医学的な根拠です。ここに手間と費用をかけられるかどうかが、結論を大きく左右します。

③法律と裁決例にもとづいた論理的な「審査請求理由書」を作成する

審査請求では、審査請求理由書という書面で主張を展開します。ここで「長年まじめに働いてきたのに納得できない」といった感情的な訴えを並べても、判断は動きません。

認定基準のどの要件について、どの証拠から、どのような事実が認められ、その結果として要件を満たすといえるのか。過去の裁決例や裁判例では同様の事案がどう判断されてきたのか。こうした論理を法的な言葉で組み立てる必要があります。

弁護士がお手伝いする最大の意義は、ここにあります。集めた証拠を、認定基準という枠組みに沿って意味づけし直す作業です。

(補足)石綿救済法による給付が「不認定」になった場合

(補足)石綿救済法による給付が「不認定」になった場合

労災保険ではなく、石綿健康被害救済法(石綿による健康被害の救済に関する法律)にもとづく救済給付を申請し、不認定とされた場合にも、不服申し立ての道が用意されています。

この場合の申立先は労働局ではなく、環境省に置かれている公害健康被害補償不服審査会です。期限は、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内とされています。

そして、この救済給付についても審査請求前置がとられており、審査会の裁決を経なければ、処分の取消しを求める訴訟を提起することはできません(同法77条)。

なお、労災保険の対象となる方が救済法で申請してしまっていたり、その逆であったりするケースも見受けられます。不認定となった原因が、そもそも申請すべき制度の選択にあることもありますので、まずはどの制度に乗せるべき事案なのかを確認することをおすすめします。

期限は3か月!アスベストの不服申し立ては弁護士に無料相談を

期限は3か月!アスベストの不服申し立ては弁護士に無料相談を

アスベストの労災が不支給となった事案では、限られた期間のうちに、数十年前の作業実態を裏づける証拠を集め、専門医の意見を得て、法的な主張を組み立てなければなりません。ご本人やご遺族だけで進めるには、あまりに負担の大きい作業です。

当事務所では、弁護士会照会などの手続を用いた資料の収集、廃業した会社に関する調査、専門医との連携、審査請求理由書の作成まで、一貫してお手伝いしています。

また、審査請求と並行して、建設アスベスト給付金の請求や、建材メーカー・当時の勤務先に対する損害賠償請求といった別の道が使えないかについても、あわせて検討します。労災が不支給であっても、他の制度で救済を受けられる可能性は十分にあるからです。

ご相談は無料です。不支給決定通知書をお手元にご用意のうえ、まずは一度ご連絡ください。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働災害(労災)

弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。