
勤めていた会社から懲戒解雇を含む懲戒処分がなされたものの、その処分が不当なものであれば会社に対する交渉、労働審判及び裁判で争うことができます。その最中に会社から「実は他にも重大な経歴詐称を行っていた」等の懲戒処分事由を追加で主張されるケースは実務上少なくありません。
後から会社より新たな懲戒処分事由を次々出されたら争ってもキリがないと途方に暮れてしまうかもしれません。しかし、どうか諦めないでください。
しかし、一度行った懲戒処分に対して、処分当時に会社が認識していなかった事由を後から追加することは原則として認められないと判断した最高裁判例が存在します。
本コラムでは、懲戒処分の概要について説明した後、懲戒処分事由の事後的追加を認められないと判断した山口観光事件(最判平成8年9月26日)について、弁護士の視点から分かりやすく解説いたします。
懲戒処分とは

懲戒処分とは、会社が従業員の社内秩序違反行為に対して科す制裁罰のことを言います。
懲戒処分は当該従業員に大きな不利益を及ぼす可能性があるため、懲戒処分を行うためには、どのような言動が懲戒の対象となるのか(懲戒事由)、懲戒処分としていかなる種類の手段が取られ得るのか就業規則上明らかにしなければならないとされています。
また、一般的に、懲戒処分には以下のような処分があります。
譴責
譴責処分とは、企業秩序違反をした労働者に始末書を提出させて将来を戒める処分です。
譴責処分は、懲戒処分の中で、戒告と並んで最も軽い処分といえます。
戒告
戒告とは、労働者に始末書の提出を求めることなく将来を戒める懲戒処分です。
戒告は、譴責処分と並んで最も軽い懲戒処分です。
減給
減給とは、労働者による労務の提供に対して、労働者が受け取るべき賃金のうち一定額を差し引く懲戒処分です。
減給は、1回の減ずる金額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また総額が一賃金支払い期の賃金の総額の10分の1を超えてはならないと労働基準法91条によって制限されています。
譴責処分の次に軽い懲戒処分です。
出勤停止

出勤停止とは、労働者との労働契約を継続させながら、労働者の就労を一定期間禁止するといった懲戒処分です。「自宅待機」と呼ばれることもあります。
一般的に、出勤停止期間中は賃金が支給されず、その期間を勤続年数に含めないとされることが多いです。
減給の次に軽い処分です。
降格
降格とは、職位や役職を引き下げる懲戒処分です。
諭旨解雇、懲戒解雇に次いで重い処分となります。
諭旨解雇
諭旨解雇とは、会社が、労働者に対し、退職届を提出させた後に解雇する懲戒処分です。
労働者が会社の退職の勧告に従わず退職届を提出しない場合に、懲戒解雇とすることが予定されています。
諭旨解雇は、懲戒解雇と異なり労働者も解雇されることに合意したうえでなされる処分です。
したがって、諭旨解雇は、懲戒解雇に次いで重い処分であるといえます。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、会社が一方的に労働者を解雇する懲戒処分です。
懲戒解雇がなされた場合、就業規則において退職金を全額または一部不支給とする旨定めている企業が少なくありません。
さらに懲戒解雇された労働者は、再就職先を探すことが困難となるおそれがあります。
懲戒解雇は、労働者にとって重大な不利益を及ぼす最も重い懲戒処分であるといえます。
懲戒処分事由の事後的追加は認められるか

会社が従業員に対し一度行った懲戒処分について、事後的に別の事実を懲戒処分の理由に加えることはできるのでしょうか。
この点について、特段の事情がない限り懲戒処分後に判明した事実を懲戒事由に追加することはできないと判例上判断されています。
その旨判断された山口観光事件(最判平成8年9月26日)について解説します。
事案の概要
Y社においてマッサージ業務に従事していたXが疲労のため休暇を請求したところ懲戒解雇をされてしまいました。そこでXは懲戒解雇の有効性を争って地位保全の仮処分を申し立てました。Y社は答弁書において、仮に懲戒解雇が無効だとしても、Xが採用される際に年齢の虚偽記載をしていたことを理由に予備的な懲戒解雇の意思表示もした事案です。
判旨

「懲戒は、企業秩序違反行為を理由として、」当該従業員に対し「秩序罰を科するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである」。「したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情の無い限り、当該懲戒の理由されたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできない」と判断されました。
ポイント
裁判所は、特段の事情がない限り懲戒処分後に判明した非違行為を懲戒事由に追加することはできないと判断しています。
まとめ

・懲戒処分とは、会社が従業員の社内秩序違反行為に対して科す制裁罰のことをいう。
・懲戒処分は当該従業員に大きな不利益を及ぼす可能性があるため、懲戒処分を行うためには、どのような言動が懲戒の対象となるのか(懲戒事由)、懲戒処分としていかなる種類の手段が取られ得るのか就業規則上明らかにしなければならない。
・具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであるから、特段の事情がない限り懲戒処分後に判明した非違行為を懲戒事由に追加することはできない。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧
労働問題
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、不当解雇、残業代請求、ハラスメント問題など、労働事件全般において数多くの案件を担当。最新の労働判例に精通し、労働者・使用者双方の視点を踏まえた戦略的な紛争解決を得意とする。現場の実態に即した迅速な初動対応と、緻密な証拠分析を通じて、適正な労働環境の実現と依頼者の利益保護に尽力している。




