会社から「辞めてほしい」と言われたら〜退職勧奨の正しい対処法と理由別の防衛策〜

「最近、会社の業績が悪いのは知っていたけれど、まさか自分が呼ばれるなんて……」
「『君の能力ではこの仕事は無理だ』と言われ、頭が真っ白になった」

ある日突然、上司や人事から個室に呼び出され、「今後の身の振り方を考えてほしい」「会社を辞めてくれないか」と切り出される――。これが「退職勧奨(たいしょくかんしょう)」、いわゆる肩たたきです。

真面目に働いてきた労働者にとって、退職勧奨は精神的に大きなダメージを受ける出来事です。しかし、パニックになってその場で会社が用意した書類にサインをしてはいけません。会社の言い分がすべて正しいとは限らないからです。

本コラムでは、労働者側の視点に立つ弁護士として、退職勧奨を受けたときの基本的な心構えと、よくある「3つの理由別」の具体的な対処法を詳しく解説します。

1. そもそも「退職勧奨」とは何か?(クビとの違い)

1. そもそも「退職勧奨」とは何か?(クビとの違い)

具体的な理由別の対策に入る前に、もっとも重要な「退職勧奨の法的性質」について知っておきましょう。ここを勘違いしていると、会社のペースに巻き込まれてしまいます。

退職勧奨は「お願い」に過ぎない

退職勧奨とは、会社が労働者に対して「自主的に会社を辞めてくれませんか?」と提案・勧誘する行為です。

一方、「解雇(クビ)」は、会社が労働者の同意なく、一方的に雇用契約を解約する行為です。

【最重要ポイント】

退職勧奨には強制力がありません。労働者には「拒否する権利」があります。あなたが「嫌です。辞めません」と言えば、その時点で退職勧奨による退職は成立しません。

会社が解雇ではなく、わざわざ退職勧奨をしてくるのはなぜでしょうか。それは、日本の法律において「解雇」のハードルが極めて高いからです。労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない解雇は「無効」になります。そのため会社は、裁判リスクを避けるために「できれば本人の同意を得て穏便に辞めてもらいたい」と考え、退職勧奨という手段をとるのです。

2. 退職勧奨されたときに取るべき3つの基本行動

2. 退職勧奨されたときに取るべき3つの基本行動

もし退職勧奨を受けたら、どのような理由であれ、まずは次の3つの行動を徹底してください。

① その場で承諾(サイン)しない、意思表示を保留する

「突然のことで判断できませんので、一度持ち帰って家族や専門家に相談します」と伝え、回答を保留してください。「退職届」や「合意退職合意書」などの書類を渡されても、絶対にその場でサインしてはいけません。一度サインしてしまうと、「自分の意思で辞めた」とみなされ、後から覆すことが非常に難しくなります。

② やり取りを録音(記録)する

面談が始まったら、スマートフォンやICレコーダーで会話を録音してください。仮に無断で録音しても、裁判などで証拠として認められるケースは多くあります。もし録音が難しければ、面談の日時、出席者、言われた発言の詳細をできるだけ細かくメモに残しましょう。「言った・言わない」のトラブルを防ぐ最強の武器になります。

③ 「退職の理由」を明確に書面で求める

なぜ自分が対象になったのか、具体的な理由を会社に問い質し、可能であれば書面で出してもらいましょう。「全体のバランスを見て」といった曖昧な理由ではなく、「どの業務の、どの事実に問題があるのか」を明確にさせることが重要です。

3. 【理由別】会社が退職勧奨を行う理由と具体的な防衛策

3. 【理由別】会社が退職勧奨を行う理由と具体的な防衛策

会社が退職勧奨を行う際、必ず何らかの「理由」をつけてきます。しかし、その理由の裏には会社の都合や法的な弱みが隠されていることが多いものです。代表的な3つの理由について、それぞれの対処法を見ていきましょう。

理由①:「業績悪化・事業縮小による人員削減」の場合

会社から「コロナ禍以降、売上が戻らない」「特定の事業部を閉鎖することになったため、残ってもらうポジションがない」などと言われるケースです。

【弁護士の視点】

会社がこれを理由に「解雇(整理解雇)」を行うためには、以下の4つの厳しい条件(整理解雇の4要件)をすべて満たす必要があります。

人員削減の必要性: 本当に人員を減らさないと会社が維持できないほどの危機か?
解雇回避努力の義務: 役員報酬のカット、新規採用の停止、配置転換など、クビにする前にできる限りの手を尽くしたか?
人選の合理性: 「気に入らないから」ではなく、客観的で公平な基準で対象者を選んだか?
手続の妥当性: 労働者や労働組合に対して、誠実に説明し協議したか?

会社が退職勧奨をしてきているということは、「この4要件をクリアして解雇する自信がない(=裁判になったら負ける)」状態である可能性が極めて高いです。

【具体的な対処法】

会社に残りたい場合:
「他の部署への異動や、職種の変更であれば受け入れる用意があります。会社に残って貢献したいです」と伝えましょう。会社が他の部署で労働者を活用する努力(解雇回避努力)を怠ったまま退職を強要することは法的に許されません。

退職に応じてもいいと思える場合(条件交渉):
会社の都合で辞めるわけですから、相応の「見返り」を要求すべきです。具体的には、「割増退職金(給与の数ヶ月〜1年分など)の上乗せ」や「有給休暇の完全消化」、そして離職票の離職理由を必ず「会社都合(特定受給資格者)」にすることを条件として交渉しましょう。会社都合退職であれば、失業保険をすぐ(給付制限期間なしで)受給でき、受給期間も長くなります。

理由②:「能力不足・著しい成績不良」の場合

「営業成績が最下位だ」「君のスキルでは、現在の役職の業務をこなせない」など、労働者個人のパフォーマンスを理由にするケースです。

【弁護士の視点】

労働者の能力不足を理由に解雇することは、世間一般のイメージよりも遥かに困難です。裁判所は、単に「成績が悪い」「仕事が遅い」というだけでは解雇を認めません。

解雇が認められるには、「会社が十分な教育・指導(リカバリーの機会)を行ったにもかかわらず、本人の改善意欲が全く見られず、今後も改善の見込みが立たないこと」や、「その能力不足によって会社に重大な損害が発生していること」などが必要です。

会社が十分な研修もせず、いきなり「能力不足だから辞めてくれ」と言うのは、単なる教育放棄であり、法的には通用しません。

【具体的な対処法】

安易に自分の非を認めない:
面談で「確かに私のミスです」「ご迷惑をおかけしました」と言い過ぎると、会社側から「本人が能力不足を認めた」と悪用される恐れがあります。反省の意を示すのは大切ですが、「客観的なデータ(他の社員との比較など)を見せてください」と冷静に返答しましょう。

指導や研修を要求する:
「ご指摘の点については真摯に受け止めます。ついては、業務を改善するための具体的な指導や、必要な研修を受けさせてください」と主張しましょう。会社側がこれらを拒否して退職を迫り続けると、それは退職勧奨の域を超えた「退職強要(違法行為)」となる可能性が高まります。

証拠の収集:
これまで会社から受けた業務指示書や、自分の成果物、上司からのメールなどを保存しておき、「全く仕事をしていないわけではない」という証拠を固めておきます。

理由③:「協調性の欠如・職場規律の乱れ」の場合

「職場の輪を乱している」「上司の指示に従わない(業務命令違反)」「同僚からの評判が悪い」など、勤務態度や人間関係のトラブルを理由にするケースです。

【弁護士の視点】

会社組織である以上、協調性は重視されますが、これも抽象的な理由だけで解雇や不利益処分を行うことはできません。

ポイントは、「具体的にいつ、誰に対して、どのような問題行動があり、それによって業務にどれだけの支障が出たか」という客観的事実です。単に「上司と性格が合わない」「職場の雰囲気が悪くなる」といった主観的な評価だけでは、会社側の言い分は認められません。また、会社側が事前に注意・指導をし、改善のチャンスを与えていたかも厳しく問われます。

【具体的な対処法】

客観的な事実の確認:
「私のどのような言動が、具体的にいつ、どこの業務に支障をきたしたのか、明確な事実を教えてください」と求めましょう。同僚の「噂話」や上司の「好き嫌い」レベルであれば、「それは誤解です」「事実無根です」と毅然と否定して構いません。

改善の意思を示す:
もし自分にも至らない点(言葉遣いが荒かった、連絡が遅れたなど)があったと自覚できる場合は、「その点については今後注意し、改善します」と明確に伝えてください。改善の意思を示している労働者を無理やり辞めさせることはできない可能性があります。

ハラスメントの可能性を疑う:
「協調性がない」と言ってくる上司自身が、実はあなたに対してパワハラを行っており、あなたを職場から排除するために退職勧奨を利用しているケースが多々あります。上司からの執拗な叱責や、無視、不当な業務指示などがある場合は、その証拠(LINE、メール、日記など)をすべて残しておきましょう。形勢を逆転させる重要な証拠になります。

4. 退職勧奨がエスカレートして「退職強要」になったら

4. 退職勧奨がエスカレートして「退職強要」になったら

あなたが「辞めません」と拒絶しているにもかかわらず、会社がしつこく面談を繰り返したり、嫌がらせをしてきたりすることがあります。

毎日、何時間も個室に監禁されて退職を迫られる

「辞めないなら懲戒解雇にするぞ」と脅される

仕事を取り上げられ、草むしりや追い出し部屋のような場所に隔離される

これらはもはや退職勧奨ではなく、違法な「退職強要(たいしょくきょうよう)」であり、不法行為(民法第709条)に該当する可能性があります。精神的苦痛に対する慰謝料の請求対象になりますし、後に会社が行ってきた解雇を無効にするための強力なカードになり得ます。

こうした状況に陥ったら、迷わず弁護士などの専門家に相談してください。録音データを持参すれば、専門家はすぐに会社に対して抗議の書面を送るなどの対策を取ることができる場合があります。

5. まとめ:一人で悩まず、弁護士にご相談ください

5. まとめ:一人で悩まず、弁護士にご相談ください

会社から退職勧奨を受けると、「自分はもうこの会社に必要とされていないのではないか」と孤独感や絶望感を抱いてしまいがちです。しかし、会社側の言い分をそのまま鵜呑みにする必要はまったくありません。

退職勧奨は、見方を変えれば「労働者の側が主導権を握って交渉できるチャンス」でもあります。

会社に残るために、会社の違法性を追及する

有利な条件(相当額の解決金や会社都合退職)を引き出して、次のステップへ進む

どちらの道を選ぶにしても、法的な知識と正しい対処法を知っているかどうかが、あなたの今後の人生を大きく左右します。

会社から不穏な動きを感じたり、実際に面談を申し入れられたりしたら、まずは心を落ち着かせ、一歩を踏み出す前に労働問題に強い弁護士へご相談ください。あなたの権利と未来を守るために、全力でサポートいたします。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 村本 拓哉

労働問題(労働者側)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成26年登録後、労働案件を中心に多数の案件に対応。不当解雇を理由とする地位確認・未払賃金請求、残業代請求等、労働問題の解決に精通する。交渉、労働審判、訴訟等、紛争解決のための手続に対応。自ら経験した事件や裁判例に基づき事件の進行方法を検討しつつ、依頼者の話す内容に耳を傾け、より良い解決策がないかを検討することを心がける。