
| 【この記事のポイント】 「私立なら安心」とは限りません。ある調査報道は、私立中学では認知されるいじめが公立より少ない一方、生徒の『いじめ容認率』はむしろ高く、ブランドイメージを気にする私立でいじめが隠されている可能性を指摘しています。本記事では、いじめ防止対策推進法が国立・公立・私立を問わずすべての学校に適用されること、私立学校設置者(学校法人)も同じ責務と安全配慮義務を負うこと、そして私立校でいじめ被害に遭ったときに被害児童生徒・保護者がとり得る対応を、被害者の立場から解説します。 |
1. 「私立だから安心」という思い込み

「荒れた公立校に入れたくない」「私立なら面倒見がよく、いじめも少ないはず」――そうした思いから、わが子を私立学校に通わせる保護者は少なくありません。実際、統計上は私立中学の方が、暴力行為の発生件数も、認知されたいじめの件数も少ない傾向があります。しかし、この「少なさ」をそのまま「いじめが起きにくい」と読み替えてよいのかは、慎重に考える必要があります。
2026年6月に公表されたある教育社会学の分析(ニューズウィーク日本版)は、興味深い、そして見過ごせないデータを示しています。私立中学では認知されるいじめが公立より少ない一方で、「いじめはどんな理由があってもいけないことだと思うか」という問いに否定的に答える生徒の割合――いわば『いじめ容認率』――は、私立の方がむしろ高いというのです。記事は、ブランドイメージを気にする私立学校で、いじめが隠蔽されている可能性もあると指摘しています。
| 数字が示唆すること ・「認知件数が少ない」ことは、「いじめが少ない」ことと同じではない。 ・容認的な空気がありながら認知が少ないなら、見えていない(=拾われていない)被害がある可能性がある。 ・学校の評判・ブランドへの配慮が、被害の把握や公表を鈍らせるおそれがある。 |
2. なぜ私立で「隠蔽」が起きやすいと言われるのか

私立学校には、公立にはない事情があります。受験で選ばれる立場であり、入学者の確保や評判の維持が経営に直結します。そのため、いじめの存在が外部に知られることが、学校の不利益につながると受け止められやすい構造があります。この構造は、被害を受けた子どもにとって深刻な壁になり得ます。被害を訴えても「うちの学校に限ってそんなことは」「大ごとにしないでほしい」といった空気にさらされ、声を上げにくくなってしまうのです。
しかし、強調しなければならないのは、学校の評判やブランドは、一人の子どもの心身の安全に優先することはない、ということです。そして、それは単なる理念ではなく、法律上の明確な要請です。
3. いじめ防止法は、私立にも等しく適用される

いじめ防止対策推進法は、国立・公立・私立を区別していません。同法にいう「学校」とは、学校教育法第1条に規定する小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校等を指し、その設置者が国であれ自治体であれ学校法人であれ、すべての学校に等しく適用されます。
したがって、私立学校の設置者である学校法人も、いじめの防止・早期発見・適切な対処に取り組む責務を負います。いじめの定義(法第2条=被害者が心身の苦痛を感じているもの)も、重大事態の調査義務(法第28条)も、被害者側への情報提供義務(法第28条第2項)も、私立だからといって免除されることは一切ありません。私立で重大事態が起きれば、学校法人は調査を行い、被害児童生徒・保護者に事実関係を適切に提供しなければならないのです。
| 【重要】私立でも、重大事態の調査義務は同じ 私立学校でいじめにより重大な被害が生じた疑いがあるとき、学校法人は速やかに調査組織を設け、事実関係を明確にしなければなりません。児童生徒・保護者から申立てがあれば、学校が『重大事態ではない』と独断で切り捨てることはできません。これは公立とまったく同じ枠組みです。 |
4. 私立校特有の「在学契約」と安全配慮義務

私立学校の場合、子どもと保護者は学校法人との間で「在学契約」を結んでいます。学校法人は、この契約に基づき、生徒が安全な環境で教育を受けられるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。いじめを認識し、または認識し得たにもかかわらず、適切な対応を怠って被害を生じさせた場合には、この安全配慮義務に違反したものとして、債務不履行(民法第415条)の責任を問われ得ます。
また、教員の過失によって被害が生じた場合には、学校法人が使用者責任(民法第715条)を負うこともあります。つまり、私立学校でいじめ被害に遭った場合、被害者側は、加害生徒本人やその保護者への請求に加えて、学校法人に対しても損害賠償を求める法的な道筋があるということです。
| 請求の相手方 | 適用される主な法律 | ポイント |
| 加害生徒本人 | 民法第709条(不法行為) | 中学生以上は責任能力があるとして本人への直接請求が可能 |
| 加害生徒の保護者 | 民法第714条/第709条 | 監督義務違反などが認められる場合に責任を負う |
| 私立学校・学校法人 | 民法第415条(債務不履行) 民法第715条(使用者責任) | 在学契約上の安全配慮義務違反、教員の過失についての使用者責任 |
5. 私立校でいじめ被害に遭ったときの対応

◆ 「学校の体面」に萎縮しない
「学校に迷惑をかけたくない」「子どもが居づらくなるのでは」という思いから、被害を訴えることをためらう必要はありません。被害を申告し、調査と適切な対応を求めることは、子どもの正当な権利です。
◆ 証拠を早期に保全する
暴言や仲間はずれはLINE・SNSの記録や日記、暴力による怪我は写真と診断書、欠席状況は出欠記録など、できるだけ早く保全してください。私立校では、退学・転校をめぐって学校との関係が緊張することもあるため、客観的な記録の重要性は一層高まります。
◆ 学校法人・所轄庁への申入れ
学校法人に対して重大事態としての調査・情報提供を求めるとともに、対応が不十分な場合には、私立学校を所管する都道府県の私学担当部局(所轄庁)への相談・申入れも選択肢になります。弁護士名義での申入れにより、学校側の対応が記録に残る形で進みやすくなります。
| 相談・通報窓口 ・学校法人(理事会・校長):重大事態としての調査 ・情報提供を正式に求める ・都道府県の私学担当部局(所轄庁):私立学校の指導監督を担う窓口 ・24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):子ども本人・保護者が利用できる無料相談窓口 ・弁護士:学校法人との交渉、調査の申立て、損害賠償請求まで一貫して対応 |
6. 「認知されない」ことの怖さと、保護者にできること

認知件数の少なさが安心材料にならないのは、いじめが「認知されて初めて対応が始まる」からです。容認的な空気がありながら認知件数が少ないとすれば、拾われずに沈んでいる被害がある可能性を否定できません。被害を受けた子どもが声を上げにくい環境では、いじめは水面下で進行し、子どもが限界に達するまで誰にも気づかれない――という最悪の経過をたどることもあります。だからこそ、家庭でのきめ細かな見守りと、早めの相談が重要になります。
お子さんの表情・睡眠・食欲・持ち物の様子、登校をしぶる素振りなど、わずかな変化も見逃さないでください。本人が「大丈夫」と言っても、それは心配をかけまいとする気遣いかもしれません。国の基本方針も、本人がいじめを否定する場合があることを踏まえ、表情や様子をきめ細かく観察して確認する必要があると示しています。気になることがあれば、学校に対して、私立であっても重大事態としての対応・調査を求めることができます。私立だからと遠慮する必要はありません。
| 家庭で気づきたい子どものサイン(例) ・登校をしぶる、体調不良を頻繁に訴える ・持ち物が壊れている・なくなる、衣服の汚れや傷が増える ・元気がない、口数が減る、夜眠れていない様子がある |
私立学校の中には、いじめの防止と適切な対応に真摯に取り組み、手厚い支援体制を整えているところも数多くあります。問題なのは「私立であること」そのものではなく、評判やブランドを優先して被害が覆い隠される構造です。保護者としては、入学前から、その学校がいじめ防止基本方針を公表しているか、相談体制や第三者性のある調査の枠組みを備えているかを確認しておくことも、子どもを守る備えになります。万一の際に学校がどう動くかを知っておくことは、安心して通わせるための大切な視点です。
7. まとめ――どの学校でも、守られるべきは子どもです

私立か公立かにかかわらず、いじめに苦しむ子どもを守ることは、すべての学校に課せられた責務です。学校のブランドや評判のために子どもの被害が覆い隠されることは、あってはなりません。私立だからと泣き寝入りする必要はなく、いじめ防止法も民法も、被害を受けた子どもと家族の側にしっかりと味方しています。私立校でのいじめにお悩みなら、「私立だから難しいのでは」と諦める前に、一度専門家にご相談ください。子どもが安心して学べる環境を取り戻すために、私たちが力を尽くします。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、いじめ問題にお悩みの方に一貫して寄り添って参りました。お子さんやご家族が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 |
【出典】
・ニューズウィーク日本版「私立中学では生徒の『いじめ容認率』が公立よりも高い」舞田敏彦(教育社会学者)、2026年6月10日(https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/325074)
・いじめ防止対策推進法(第2条・第7条・第28条ほか)/文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)/民法第415条・第709条・第714条・第715条
掲載サイト:https://www.g-ijime.com/
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
学校・いじめ
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
埼玉弁護士会子どもの権利委員会委員長(令和7年〜)、北本市いじめ問題調査委員会委員長、埼玉県教育委員会学校いじめ問題外部専門員、以前はさいたま市、現在は新座市や蕨市のスクールロイヤーを務め、学校や教育委員会の事情にも精通する。自死・不登校のいじめ重大事態調査委員会の委員長経験も豊富で、共著「学校のいじめ対策と弁護士の実務」(青林書院)の執筆者でもあり、いじめ予防授業・学校向け講演の実績多数。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、広くいじめ・学校問題の対応に精通する。






