【労働】 退職後の競業避止義務は守らなければならないのでしょうか、弁護士が詳しく解説します

退職後、一定期間、競合他社に就職してはならないというような「競業避止義務」が就業規則の中で記載がされていたり、退職する際にその旨の誓約書の作成を求められることがあります。このような競業避止義務を課すことは許されるのでしょうか。

退職後の競業避止義務は、原則として当然に守らなければならないわけではありません。会社から誓約書にサインしたのだから絶対にダメだと言われて悩む方が非常に多いですが、日本の法律や過去の判例において、退職後にどのような会社に就職するのかということは職業選択の自由として強く守られています。そのため、会社が用意したルールが不当に厳しい場合、その義務は法律上無効になるケースが多々あります。

では、競業避止義務はどのような場合に有効となり、どのような場合に無効となるのでしょうか。本コラムでは、退職後の競業避止義務について弁護士が分かりやすく解説します。

競業避止義務とは

競業避止義務とは

競業避止義務とは、雇用関係の存続中または終了後、労働者が使用者の事業と競合する事業を自ら始めたり、そのような事業を行う別の会社に就職することを制限することをいいます。

労働者は、使用者の有する情報やノウハウを持った状態ですので、そのような状態で退職をし、自ら同業の事業を始めたり、同業他社に就職したりすることで、結果として会社の利益を害することが考えられるため、会社としては、そのような被害を被ることを防ぐために、従業員に対し競業避止義務を課すことが考えられます。

競業避止義務は法律上当然に発生するものではない

競業避止義務は法律上当然に発生するものではない

会社としては、会社の利益を守るために競業避止義務を課すことは重要です。しかし、退職後の従業員に競業避止義務は当然には発生しません。

従業員に競業避止義務を課すためには、競業避止義務について従業員との間で合意する必要があります。

その合意の方法としては、就業規則に退職後の競業避止義務について定めておくといった方法や、退職する際に競業避止義務を負う旨の誓約書又は合意書を作成するといった方法が考えられます。

合意をした場合、競業避止義務を必ず負うのか

合意をした場合、競業避止義務を必ず負うのか

競業避止義務について合意をしたとしても必ずしも競業避止義務を負うことになるわけではありません。

競業避止義務は、労働者に対して憲法上保障されている職業選択の自由に制約を加えるものですので、過度な競業避止義務は公序良俗に反して無効(民法90条)と判断される可能性があります。

以下では、退職後の競業避止義務の有効性の判断基準について判示した裁判例を紹介します。

奈良地判昭和45年10月23日(フォセコ・ジャパン・リミテッド事件)

事案の概要

冶金用副資材の製造・販売を行うX社は、従業員Yらとの間でX社の技術的秘密を保持するために、雇用契約満了後2年間、X社と競業関係にある一切の企業に直接にも間接にも関係しない旨の競業避止義務を課す特約を締結しており、当該特約の有効性が争われた事案です。

判決

「競業の制限が合理的範囲を超え、Yらの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は、公序良俗に反し無効となる」「この合理的範囲を確定するにあたっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、X会社の利益(企業秘密の保護)、Yの不利益(転職、再就職の不自由)、社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立って慎重に検討していくことを要する」と判示されました。

そして本件では、2年間という短期間であること、制限の対象は比較的狭いこと、場所は無制限であるもののX社の営業の秘密が技術的秘密である以上やむを得ないと考えられること、退職後の制限に対する代償は支給されていないものの、在職中に機密保持手当がYらに支給されていたことといった事情を総合的に考慮すると、本件競業避止義務に関する特約は合理的な範囲を超えているとはいえず有効であると判断されました。

ポイント

  • 競業避止義務が合理的範囲を超えるとして、公序良俗に反し無効と言えるか否かは、制限の期間場所的範囲制限の対象となる職種の範囲代償の有無等について、X会社の利益(企業秘密の保護)、Yの不利益(転職、再就職の不自由)、社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立って判断されるものである。

競業避止義務についてお悩みの場合、弁護士に相談を

競業避止義務についてお悩みの場合、弁護士に相談を

競業避止義務の有効性については、個別具体的な事情から判断されるためご自身で判断することは難しいです。競業避止義務の有効性にお悩みの場合は専門家である弁護士に相談することを強くお勧めします。

まとめ

まとめ
  • 競業避止義務とは、雇用関係の存続中または終了後、労働者が使用者の事業と競合する事業を自ら始めたり、そのような事業を行う別の会社に就職することを制限することである。
  • 退職後の従業員に競業避止義務は当然には発生せず、従業員に競業避止義務を課すためには、競業避止義務について誓約書又は合意書を作成するか就業規則で定めておく必要がある。
  • 競業避止義務の有効性は、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等を総合的に考慮して判断される。
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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 椎名 慧
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