通勤中の交通事故、相手の保険があっても「通勤災害」を申請すべき理由 労災保険を使うと受け取れる総額が変わる――弁護士が解説
【この記事のポイント】
通勤中に車やバイクで事故に遭い、相手方の保険会社が治療費を払ってくれている。だから労災(通勤災害)の申請はしなくてよい――そう考えている方は少なくありません。しかし、通勤災害の申請をしないと、本来受け取れるはずの補償を取りこぼすことがあります。労災の休業特別支給金(給料の2割)は相手方の保険と調整されずに上乗せになり、労災には過失による減額がなく、治療費に上限もありません。相手が無保険だったり、保険会社から治療の打ち切りを求められたりしたときの支えにもなります。本記事では、通勤災害と認められる条件、相手の保険があっても通勤災害を申請すべき5つの理由、手続きの流れ、示談の前に確認したいことを解説します。

1. 「相手の保険があるから労災は関係ない」と思っていませんか

1. 「相手の保険があるから労災は関係ない」と思っていませんか

通勤中の交通事故では、相手方の自賠責保険や任意保険から治療費や休業損害が支払われるため、「労災は使わなくていい」と考えてしまいがちです。会社から「通勤中の事故は会社と関係ないから、相手の保険で済ませて」と言われることもあります。

しかし、通勤中の事故は「通勤災害」として労災保険の対象であり、労災保険と相手方の保険は、両方を使うことができます。両方を使うことで、受け取れる補償の総額が変わる場合があるのです。まずは、通勤災害の条件を確認したうえで、労災を使うメリットを見ていきましょう。

2. 通勤災害と認められる条件

2. 通勤災害と認められる条件

労災保険でいう「通勤」とは、就業に関して、次の移動を合理的な経路および方法で行うことをいいます。

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動(複数の会社で働いている場合)
  • 単身赴任先の住居と帰省先の住居との間の移動

会社に届け出ている経路でなくても、通常使われる経路であれば「合理的な経路」と認められます。マイカーやバイクでの通勤も、届出の有無にかかわらず対象です。

一方、通勤の途中で経路を外れたり(逸脱)、通勤と関係のない行為をしたり(中断)した場合は、その後は原則として通勤とは認められません。ただし、日用品の購入、通院、選挙の投票など、日常生活上必要な行為を最小限の範囲で行う場合は、経路に戻った後は再び通勤と認められます。たとえば、帰宅途中にスーパーで夕食の買い物をして経路に戻った後の事故は、通勤災害の対象になります。詳しくは、当サイトの「通勤災害と認定されるのはどのような場合ですか」をご覧ください。

3. 相手の保険があっても、通勤災害を申請すべき5つの理由

3. 相手の保険があっても、通勤災害を申請すべき5つの理由

理由① 休業特別支給金(給料の2割)が「上乗せ」になる

労災の休業給付は、休業4日目から給付基礎日額の60%(休業給付)と20%(休業特別支給金)の2本立てです。このうち休業特別支給金は、相手方の保険との調整の対象になりません。相手方の保険から休業損害を100%受け取っていても、労災に請求すれば、特別支給金の20%は別に受け取れます。結果として、休業中の補償が給料の約120%になることがあります。この20%は、労災に請求しなければ受け取れません。

理由② 自分に過失があっても、労災は減額されない

相手方の保険からの賠償は、ご自身の過失の割合に応じて減額されます。たとえば、過失割合が3割なら、受け取れる賠償は7割です。これに対して、労災保険の給付は、ご自身の過失によって減額されることがありません。信号のない交差点での出会い頭の事故や、自分にも一定の過失がある事故では、労災を使うことの意味が特に大きくなります。

理由③ 治療費に上限がなく、治療の打ち切りに備えられる

自賠責保険から支払われる治療費や休業損害、慰謝料は、傷害部分で合計120万円が上限です。治療が長引くと、すぐに上限に達します。また、相手方の任意保険会社から「そろそろ治療を終えてください」と治療費の支払いの打ち切りを求められることもあります。労災の療養給付には上限がなく、医師が治療の必要を認める限り続きます。相手の保険会社の事情に左右されずに治療を続けられることは、大きな安心につながります。

理由④ 相手が無保険・ひき逃げでも補償される

相手が任意保険に入っていなかった、自賠責保険も切れていた、ひき逃げで相手が分からない――こうした場合、相手方からの賠償はほとんど期待できません。労災保険は、相手の有無や支払能力にかかわらず、治療費と休業補償を支給します。通勤災害を申請しておくことが、最後の支えになります。

理由⑤ 後遺障害が残った場合、労災独自の認定と給付がある

後遺障害が残った場合、労災保険でも等級の認定を受けられます。自賠責の認定とは別に審査されるため、結果が異なることもあります。労災で等級が認定されると、障害給付のほかに障害特別支給金(一時金)が支給され、この特別支給金も相手方からの賠償と調整されません。労災の認定結果は、相手方との交渉でも参考資料になります(当サイトの「適切な後遺障害等級認定の重要性と手続について」もご覧ください)。

4. 労災と相手の保険、どちらを先に使うか

4. 労災と相手の保険、どちらを先に使うか

通勤災害でも、労災保険と相手方の自賠責保険のどちらを先に使うかは、ご本人が自由に選べます。同じ損害を両方から二重に受け取ることはできず、労災が先に支払った分は国が相手方の保険会社に請求し、相手方から先に受け取った分は、その限度で労災の給付が差し引かれます。

項目労災保険自賠責保険
治療費全額(上限なし)傷害部分全体で120万円まで
休業中の補償給付基礎日額の80%(休業4日目から)休業損害の原則100%(120万円の枠内)
慰謝料支給されない支払われる
自分の過失による減額なし過失7割以上の場合のみ減額
待期期間(最初の3日間)支給なし。通勤災害では会社の補償義務もない休業損害として請求できる

自分の過失が大きい、相手が無保険、治療が長引きそう、という場合は労災を先に使う方が有利なことが多く、慰謝料など労災からは出ないものは相手方に請求します。業務中の交通事故も含めた使い分けは、当サイトのコラム「配送中・運転中の交通事故は労災?自賠責?」で詳しく解説しています。

5. 通勤災害を申請する手続きの流れ

5. 通勤災害を申請する手続きの流れ
  1. 警察に届け出る:人身事故として届け出て、交通事故証明書を取れるようにします。
  2. 病院で「通勤中の事故」と伝える:健康保険は使えません。労災指定の医療機関であれば、窓口での支払いなしで治療を受けられます(通勤災害では、初回に200円の一部負担金が休業給付から差し引かれます)。誤って健康保険を使った場合は、早めに切り替えます(当サイトのコラム「労災で健康保険を使ってしまったら?」をご覧ください)。
  3. 会社に報告する:請求書の事業主証明欄に記入してもらいます。会社が「通勤中の事故は会社と関係ない」と証明を渋ることがありますが、証明が得られなくても請求はできます。
  4. 「第三者行為災害届」を提出する:相手のいる事故では、交通事故証明書や念書(兼同意書)を添えて労働基準監督署に提出します。正当な理由なく提出しないと、労災の給付が一時差し止められることがあります。
  5. 労災の給付を請求する:療養給付(様式第16号の3)、休業給付(様式第16号の6)などを請求します。通勤災害では、通勤経路や事故の状況を記載する書類も添えます。
  6. 後遺障害の等級認定、示談交渉:症状固定後に等級認定を受け、相手方の保険会社と慰謝料などの示談交渉をします。

通勤災害には、業務災害と異なる点が2つあります。休業の最初の3日間について、会社に補償の義務がないことと、療養給付の初回に200円の一部負担金があることです。それ以外の給付の内容は、業務災害とほぼ同じです。

【注意】「全部示談」をすると、労災の給付を受けられなくなることがある
相手方と「これ以外の請求はしない」という示談(全部示談)をすると、その後の労災の給付を受けられなくなることがあります。労災の請求前に示談をしてしまい、後から治療が長引いても労災から給付されない、という事態は避けなければなりません。示談書に署名する前に、労災の給付をどう扱う内容になっているかを必ず確認してください。示談が成立したときは、示談書の写しを労働基準監督署に提出します。

6. よくあるご質問

6. よくあるご質問

Q. 会社から「通勤中の事故は会社に責任がないから、労災は使えない」と言われました。
A. 通勤災害は、会社に責任があるかどうかとは関係なく、労災保険の対象です。会社が証明を拒んでも、ご本人が請求できます。

Q. 相手の保険会社から「労災を使うなら、うちは払わない」と言われました。
A. 労災を使っても、慰謝料など労災から出ないものは相手方に請求できます。労災と相手方の保険は、重複する部分を調整するだけで、どちらかしか使えないわけではありません。保険会社の説明をそのまま受け入れず、一度ご相談ください。

Q. 自転車で通勤中、一人で転んでケガをしました。
A. 相手のいない単独事故でも、合理的な経路での通勤中であれば通勤災害の対象です。相手の保険がないため、労災保険が唯一の補償になります。

Q. 事故から時間がたっています。今からでも申請できますか?
A. 申請できる可能性があります。治療費や休業補償は2年、障害給付は5年で時効になります。相手方の保険だけで済ませてきた方も、早めにご相談ください。

7. まとめ――通勤災害の申請は「もらえるものを確実に受け取る」ための手続きです

7. まとめ――通勤災害の申請は「もらえるものを確実に受け取る」ための手続きです

通勤中の交通事故では、相手方の保険があっても、通勤災害を申請することで、休業特別支給金の上乗せ、過失による減額のない給付、上限のない治療費、無保険の相手への備え、労災独自の後遺障害の給付という5つのメリットがあります。通勤災害の申請は、相手方との交渉を妨げるものではなく、もらえるものを確実に受け取るための手続きです。

どの保険をどの順番で使うか、示談の内容をどうするかで、受け取れる総額は変わります。グリーンリーフ法律事務所は、労災と交通事故の両方に力を入れてきた法律事務所です。示談書に署名する前に、一度ご相談ください。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、地域の皆様の法律問題に一貫して寄り添って参りました。仕事中の事故やケガ、病気でお困りの方とそのご家族が、適正な補償を受けられるよう、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。
初回相談は60分まで無料です。通院中の方は、電話・LINEビデオ通話・Zoomでのご相談も可能です。後遺障害等級認定のサポートは着手金0円です(弁護士費用)。JR大宮駅から徒歩5分、埼玉を中心に全国に対応しています。お電話(048-649-4631/平日9:00〜20:00・土曜9:00〜17:00)のほか、メール・LINEでもお問い合わせいただけます。

【出典・参照条文】

  • 労働者災害補償保険法第7条(通勤災害の定義)・第12条の4(第三者の行為による事故)・第22条〜第22条の5(通勤災害に関する保険給付)・第31条第3項(一部負担金)
  • 自動車損害賠償保障法第3条(自動車損害賠償責任)
  • 最高裁判所平成8年2月23日第二小法廷判決(特別支給金と損害賠償額の調整)
  • 東京労働局「第三者行為災害について」
  • (注)本記事は一般的な解説であり、どの保険を先に使うべきかは事故の状況や過失割合などにより異なります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

労働災害(労災)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。