【交通事故】外貌醜状障害|顔や首に傷が残ったときの等級認定と逸失利益を弁護士が解説

交通事故で顔に大きな傷が残った。首に広い範囲の瘢痕が残った。頭皮に毛髪が生えない部分ができた。

骨折や麻痺と違って、外貌の傷は「動く」「働ける」という点では支障がないように見えます。そのため保険会社は「労働能力は失われていない」として逸失利益をゼロと主張してくることが多く、ご本人の受けている苦痛との落差が最も大きい後遺障害のひとつです。

しかし、裁判例は、外貌の醜状が職業選択の幅を狭め、対人関係を消極的にし、労働意欲に影響を与えることを正面から認めてきました。立証の仕方によって、結論は大きく変わります。

本記事では、外貌醜状障害の等級認定の基準と、逸失利益・慰謝料をめぐる実務について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

外貌醜状の後遺障害等級

外貌醜状の後遺障害等級

三つの等級

自賠責保険の後遺障害別等級表(別表第二)では、外貌の醜状について三つの等級が定められています。

第七級一二号が「外貌に著しい醜状を残すもの」、第九級一六号が「外貌に相当程度の醜状を残すもの」、第一二級一四号が「外貌に醜状を残すもの」です。

労働能力喪失率は、第七級が五六パーセント、第九級が三五パーセント、第一二級が一四パーセントです。赤い本の基準による後遺障害慰謝料の目安は、第七級一〇〇〇万円、第九級六九〇万円、第一二級二九〇万円です。

「外貌」の範囲

「外貌」とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢および下肢以外の日常露出する部分をいいます。

上肢や下肢の露出面に残った瘢痕は、外貌の醜状ではなく別の規定で評価されます。上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すものは第一四級四号、下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すものは第一四級五号です。

胸や腹、背中といった日常露出しない部分の瘢痕については、等級表に規定がないため、準用等級として判断されます。

認定基準を具体的に知っておく

認定基準を具体的に知っておく

著しい醜状を残すもの(第七級一二号)

次のいずれかに該当する場合をいいます。

頭部にあっては、てのひら大(指の部分を除く)以上の瘢痕、または頭蓋骨のてのひら大以上の欠損。顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、または一〇円銅貨大以上の組織陥没。頸部にあっては、てのひら大以上の瘢痕。

相当程度の醜状を残すもの(第九級一六号)

顔面部に長さ五センチメートル以上の線状痕を残すものをいいます。

平成二三年の基準改定で新設された等級です。それ以前は男女で異なる等級が定められており、顔面の線状痕は女性で第一二級、男性で第一四級にとどまっていました。改定は平成二二年六月一〇日以降に発生した事故に遡及して適用されています。

醜状を残すもの(第一二級一四号)

次のいずれかに該当する場合をいいます。

頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損。顔面部にあっては、一〇円銅貨大以上の瘢痕、または長さ三センチメートル以上の線状痕。頸部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕。

測り方で等級が変わる

瘢痕の面積、線状痕の長さが基準にわずかに届かないだけで、等級が一段階、二段階変わります。

後遺障害診断書には、瘢痕の部位、形状、縦と横の寸法をミリメートル単位で記載してもらう必要があります。「右頬部に瘢痕あり」という記載だけでは、等級の判断ができません。

線状痕が複数ある場合、それぞれの長さを合計できるかが問題になります。原則として一本ずつ評価されますが、近接して並んでいる場合には全体として評価される余地もありますので、配置が分かるよう写真を添えて主張します。

面接調査が行われる

外貌醜状の等級認定では、書面審査だけでなく、自賠責損害調査事務所の調査員による面接調査(面接による確認)が行われるのが通常です。

化粧や髪型で傷が目立たない状態にして臨むと、実態より軽く評価されます。素顔のまま、傷が見える状態で面接を受けてください。写真も、正面・斜め・側面から、明るい場所で撮影したものを提出します。

症状固定の時期を誤らない

瘢痕は、受傷直後が最も目立ち、時間の経過とともに赤みが引いて平坦化していきます。逆に、ケロイドや瘢痕拘縮は時間をかけて悪化することもあります。

保険会社は受傷から六か月程度で症状固定を打診してきますが、形成外科の治療が続いている段階で固定してしまうと、その後に残った最終的な状態が評価されません。反対に、瘢痕形成術を予定している場合には、手術後の状態で評価すべきか、手術前の状態で評価すべきかという判断も必要になります。

いずれにしても、形成外科の主治医の見通しを確認したうえで時期を決めるべきであり、保険会社の都合で決めるものではありません。

重傷事案では他の障害と併せて評価される

外貌醜状は、単独で残ることは多くありません。頭部外傷に伴う高次脳機能障害、顔面骨骨折に伴うそしゃく・言語機能の障害、眼や耳の障害とともに残ることが一般的です。

裁判例には、高次脳機能障害(第七級四号)、背部瘢痕(第一四級相当)、右下肢欠損(第四級五号)、右股関節機能障害(第一〇級一一号)、左大腿部醜状(第一二級相当)により併合第二級相当とされた会社員(女・症状固定時二七歳)について、傷害分三二一万円のほか、ご本人分二五〇〇万円、父母各一〇〇万円、姉妹各五〇万円の後遺障害分合計二八〇〇万円を認めたものがあります。

また、外貌醜状(第七級一二号)と右眼球障害(第一二級一号)で併合第六級となった生保外務員(女・三六歳)について、労働能力喪失率四〇パーセントを二〇年間、一四パーセントを一一年間認めたうえ、認定外の歯牙障害も考慮して後遺障害分一三〇〇万円を認めた例もあります。

逸失利益をどう主張するか

逸失利益をどう主張するか

「労働能力に影響しない」という主張への反論

保険会社は、外貌醜状について「容姿が仕事の内容に直接関係しない職種であれば減収は生じない」として、逸失利益を否定してきます。

これに対しては、裁判例の蓄積が反論の武器になります。裁判例は、外貌の醜状が、就労の機会や就労可能な職種を狭め、労働意欲に間接的に影響を及ぼすという考え方を採ってきました。

たとえば、七歯の歯科補綴と顔面醜状(併合第一一級)の会社員について、労働能力に直接的な影響を与えているとまではいえないが、対人関係に消極的となっており、労働意欲その他労働能力に間接的に影響を及ぼしていることから、併合第一一級の基準額四二〇万円を大きく上回る後遺障害慰謝料六三〇万円を認めた例があります。

また、左耳後部・左眉下部・左鼻部の瘢痕(第一二級一四号)の小学生(男・事故時八歳)について、労働能力喪失率一四パーセント、労働能力喪失期間を六七歳までの四九年間として逸失利益を認めたうえ、瘢痕の多さに照らすと精神的苦痛はより大きいとして後遺障害慰謝料三三〇万円を認めた例もあります。

職業上の支障を具体的に示す

接客業、営業職、美容師、モデル、俳優、保育士、教員など、人と接することが業務の中心である職種では、支障が現実のものとして生じます。

裁判例には、洋服デザイン販売会社経営のファッションモデルについて、鼻根部の色素沈着等が等級に該当する程度に至らないとして逸失利益を否定しつつ、モデルという容姿が特に重視される職業で仕事を受けられなくなり廃業したことなどから、傷害分と後遺障害分として二〇〇万円を認めたものがあります。

配置転換、退職、転職、顧客対応からの外し。こうした事実があれば、勤務先の人事記録や上司の陳述書で裏づけます。

逸失利益が否定されても慰謝料で調整される

逸失利益が認められない場合、その分を慰謝料で考慮するのが実務の傾向です。

裁判例には、左顔面裂傷等で約八年四か月の治療後に顔面醜状(大きな瘢痕三か所、線状痕二か所、第一二級一四号)が残った被害者(女・症状固定時九歳)について、加害者が飲酒して居眠り運転により事故を起こしたこと、皮膚移植の手術を繰り返したことを考慮し、傷害分二二二万円のほか後遺障害分七八四万円を認めたものがあります。第一二級の基準額二九〇万円を大きく超える金額です。

したがって、逸失利益と慰謝料は切り離さず、全体として適正な賠償額になっているかを見る必要があります。

近親者の慰謝料と家族への影響

重度の醜状が残った場合、ご本人だけでなくご家族も深い精神的苦痛を受けます。第一級・第二級に相当する重度後遺障害と併発している事案では、民法七一一条の類推適用により、ご家族固有の慰謝料が認められます。

また、お子様が被害者の場合には、進学や就職の場面で不利益を受ける可能性、結婚観への影響といった事情も、慰謝料の算定で考慮されます。将来にわたって続く問題であることを、具体的な生活上のエピソードとともに主張していくことになります。

男性と女性で差を設けるべきではない

かつては「男性の外貌醜状は労働能力に影響しない」とする判断もみられましたが、現在の等級表は男女差を設けていません。平成二三年の改定前は男女で異なる等級が定められていましたが、これは憲法一四条違反との判断(京都地判平成二二年五月二七日)を受けて改められたものです。

男性の事案でも、同じ基準で主張すべきです。

併発する障害を見落とさない

併発する障害を見落とさない

歯牙障害

顔面を強打した事案では、歯の損傷を伴うことが多くあります。一四歯以上に対し歯科補綴を加えたものは第一〇級四号、一〇歯以上は第一一級四号、七歯以上は第一二級三号、五歯以上は第一三級五号、三歯以上は第一四級二号です。

外貌醜状と歯牙障害は別の障害ですので、併合によって等級が繰り上がります。

嗅覚・味覚の障害

顔面の骨折、特に篩骨や上顎骨の骨折では、嗅覚や味覚が失われることがあります。鼻を欠損しその機能に著しい障害を残すものは第九級五号です。嗅覚の脱失・減退、味覚の脱失・減退は、程度に応じて第一二級相当、第一四級相当として評価されます。

これらは診断書に書かれにくい項目ですので、耳鼻咽喉科でT&Tオルファクトメトリーや濾紙ディスク法などの検査を受け、所見を残しておいてください。

瘢痕による運動制限と将来の手術

瘢痕が関節をまたいで拘縮を生じている場合には、関節の機能障害としても評価されます。また、将来の瘢痕形成術が予定されている場合には、将来の手術費用を請求できます。

裁判例には、皮膚移植の手術を繰り返した事実を慰謝料算定上考慮したものがあります。治療の経過は、すべて記録に残しておく価値があります。

治療費の打切りと健康保険への切替え

形成外科の治療は長期にわたることが多く、保険会社から早い段階で治療費の打切りを打診されがちです。打ち切られても、健康保険(業務中・通勤中の事故であれば労災保険)に切り替えて治療を継続できます。

健康保険を使う場合には、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出します。自己負担した治療費は、必要性・相当性が認められれば後から損害として請求できます。

なお、瘢痕に対する手術が保険診療の対象になるか、自由診療になるかは、医学的な必要性によって変わります。自由診療の場合には金額が大きくなり、保険会社が支払いを争いやすくなりますので、医師に必要性を診断書に明記してもらうことが大切です。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①瘢痕の計測と写真資料の整備

瘢痕の部位・形状・寸法をミリメートル単位で記載してもらうための依頼書を主治医にお渡しし、提出用の写真資料を一緒に整えます。

②面接調査への備え

調査員による面接で実態が正しく伝わるよう、確認される項目と臨み方を事前にご説明します。

③併発する障害の洗い出し

歯牙障害、嗅覚・味覚障害、瘢痕による運動制限など、見落とされやすい障害を拾い上げ、併合等級を主張します。

④逸失利益と慰謝料の両面からの請求

職業上の支障を立証して逸失利益を主張し、併せて慰謝料の加算も求めます。折り合えない場合には訴訟を提起します。

おわりに

おわりに

外貌に残った傷は、鏡を見るたびに事故を思い出させます。その苦痛は、数字で測れるものではありません。

それでも、賠償の場では数字にしなければなりません。瘢痕の寸法を正確に記録し、職業への影響を具体的に示し、裁判例を踏まえて主張する。その積み上げが、結果を変えます。

後遺障害診断書を書いてもらう前に、一度ご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

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この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。