【交通事故】死亡事故のご遺族の損害賠償|慰謝料・逸失利益・相続と手続を弁護士が解説

ある日突然、家族が交通事故で命を奪われる。葬儀を終え、気持ちの整理もつかないうちに、保険会社から連絡が入り、示談の話が始まります。

ご遺族にとって、賠償金の話をすること自体が苦痛であろうと思います。しかし、死亡事故の賠償は、請求する項目も、金額の算定方法も、請求できる人の範囲も、すべて法律によって決まっています。そして、保険会社が最初に提示してくる金額は、裁判所が認める水準をかなり下回っているのが通常です。

本記事では、死亡事故におけるご遺族の損害賠償請求について、いわゆる赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)の基準と裁判例に沿って、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

誰が、何を請求できるのか

誰が、何を請求できるのか

相続人が承継する部分と、固有の権利

死亡事故の損害賠償請求権は、二つに分かれます。

ひとつは、亡くなった方ご本人に発生した損害賠償請求権です。死亡慰謝料のうちご本人分、死亡逸失利益、死亡までの治療費や入院雑費などがこれに当たり、相続人が法定相続分に従って承継します。

もうひとつは、ご遺族固有の権利です。民法七一一条は、被害者が死亡した場合に、その父母・配偶者・子が固有の慰謝料を請求できると定めています。これは相続とは別の、ご遺族自身の権利です。

したがって、配偶者と子が相続人である場合、ご本人分の損害を法定相続分で分けたうえ、さらに各自が固有の慰謝料を請求する、という構造になります。

相続放棄をした場合

相続放棄をすると、ご本人分の損害賠償請求権は承継できません。もっとも、民法七一一条に基づく固有の慰謝料は相続とは無関係ですので、相続放棄をしても請求できます。

裁判例には、相続放棄がされた事案で、相続放棄した妻に三〇〇万円、子二人に各一五〇万円の固有の慰謝料を認めたうえ、相続財産管理人の請求に係るご本人分として二五〇〇万円を認め、合計三一〇〇万円を認めたものがあります。

兄弟姉妹や内縁配偶者

民法七一一条に挙げられているのは父母・配偶者・子ですが、実務上は、被害者と同視できるほど密接な関係にあり深刻な精神的苦痛を受けた場合には、兄弟姉妹や内縁の配偶者にも固有の慰謝料が認められることがあります。

また、祖父母が孫を扶養していた場合、孫が祖父母を扶養していた場合など、実質的な扶養関係があれば考慮されます。

死亡慰謝料の基準

死亡慰謝料の基準

赤い本の基準

赤い本は、死亡慰謝料について、被害者の立場に応じて次の金額を目安としています。

一家の支柱であった場合は二八〇〇万円、母親・配偶者であった場合は二五〇〇万円、その他(独身の男女、子ども、幼児等)の場合は二〇〇〇万円から二五〇〇万円です。

この金額は死亡慰謝料の総額であり、民法七一一条所定の者とそれに準ずる者の分も含まれているとされています。したがって、ご本人分とご遺族固有分を合算した金額として理解することになります。

「一家の支柱」とは

その収入によって世帯の生計が維持されていた方をいいます。会社員である夫が典型ですが、共働きでも主たる収入を得ていれば該当しますし、離婚後も養育費を支払い続けていた方について一家の支柱と認めた裁判例もあります。

裁判例では、高齢の親を扶養していた大学教授(男・五八歳・独身)について、ご本人分二四〇〇万円、母・兄・妹二人に各一五〇万円、合計三〇〇〇万円を認めた例、娘を一七歳まで扶養してきた兼業主婦(四九歳)について、ご本人分二六〇〇万円、娘四〇〇万円、合計三〇〇〇万円を認めた例があります。

また、大手監査法人勤務の職員(男・三四歳)について、ご本人分三〇〇〇万円、妻二〇〇万円、父母各一〇〇万円、合計三四〇〇万円を認めた例もあります。基準額を超える認定は決して例外ではありません。

慰謝料が増額される事情

飲酒運転、無免許運転、著しい速度超過、あおり運転、信号無視、ひき逃げといった事情があれば増額されます。事故後に証拠を隠した、虚偽の供述を続けた、謝罪をしないといった対応も増額事由です。

裁判例には、ひとつの事故で生後一一か月の長男とともに死亡した被害者(男・二一歳)について、ご本人分二八〇〇万円、妻四〇〇万円、両親に各一〇〇万円、合計三四〇〇万円を認めたものがあります。

死亡逸失利益と生活費控除

計算の仕組み

死亡逸失利益は、基礎収入から生活費相当額を控除し、就労可能年数に対応するライプニッツ係数を乗じて算定します。

基礎収入は、給与所得者であれば事故前年の収入、家事従事者であれば賃金センサスの女性全年齢平均賃金、学生や幼児であれば賃金センサスの全年齢平均賃金を用います。

生活区分ごとの生活費控除率

赤い本は、生活費控除率について次の目安を示しています。

一家の支柱で被扶養者が一人の場合は四〇パーセント、被扶養者が二人以上の場合は三〇パーセント。女性(主婦、独身、幼児等を含む)は三〇パーセント。男性(独身、幼児等を含む)は五〇パーセントです。

なお、女子年少者の逸失利益について賃金センサスの全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合には、生活費控除率を四〇パーセントから四五パーセントとするものが多いとされています。

就労可能年数

原則として六七歳までです。六七歳を超える方については簡易生命表の平均余命の二分の一とし、六七歳までの年数が平均余命の二分の一より短くなる方についても平均余命の二分の一とします。

未就労者の就労の始期は原則として一八歳ですが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時とします。

中間利息控除の法定利率は、令和二年四月一日以降に発生した事故については年三パーセントです。この年三パーセントは、令和一一年三月三一日までは変わらないことが決まっています。それ以前の事故は年五パーセントが適用されます。

年金の逸失利益性

老齢年金や退職年金については、逸失利益性が認められます。もっとも、遺族年金は受給権者の生活保障のためのものであり、逸失利益性は否定されるのが原則です。

年金部分についても生活費控除が行われます。赤い本は、年金部分についての生活費控除率は通常より高くする例が多いとしており、裁判例では三〇パーセントから六〇パーセントの幅で、年齢や生活状況に応じて判断されています。

幼児・子どもが被害者の場合

お子様が亡くなられた場合、基礎収入は賃金センサスの全年齢平均賃金を用い、就労の始期を一八歳(大学進学の蓋然性が認められる場合は大学卒業予定時)、終期を六七歳として算定します。

男児については男性の平均賃金を基礎とし、生活費控除率五〇パーセントが目安です。裁判例には、将来一家の支柱となることが予定されていたとして男性大卒全年齢平均賃金を基礎としつつ控除率を四〇パーセントとしたもの、三〇歳までは五〇パーセント、それ以降は四〇パーセントとしたものなど、幅のある判断がみられます。

女児については、女性の平均賃金を基礎として生活費控除率三〇パーセントで算定する方法と、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎として控除率四〇パーセントから四五パーセントで算定する方法があります。赤い本は、令和三年以降は全労働者平均から四五パーセントを控除した額よりも、女性平均から三〇パーセントを控除した額の方が高額となっていることに注意すべきであると指摘しています。どちらの方法が有利かを計算して主張する必要があります。

また、近親者慰謝料については、幼いお子様を失ったご両親の苦痛の大きさを踏まえ、基準額を上回る認定がなされることが少なくありません。裁判例には、小学生(男・九歳)の事案で、葬儀関係費用について墓地・墓石の購入費以外の費用一二〇万円と、墓地・墓石の購入費一〇〇万円を別途認めたものもあります。

高齢の方が被害者の場合

高齢の方については、「就労していなかったから逸失利益はない」と言われることがあります。しかし、家族のために家事を担っていれば家事従事者として賃金センサスを基礎とする逸失利益が認められますし、年金についても逸失利益性が認められます。

裁判例には、年金収入等を基礎に平均余命までの期間について生活費控除率三〇パーセントから五〇パーセントで逸失利益を認めたものが多数あります。死亡慰謝料についても、高齢であることを理由に大幅に減額されるものではありません。

葬儀費用その他の損害

葬儀費用その他の損害

葬儀関係費用

赤い本の基準では、葬儀費用は原則として一五〇万円とされています。これを下回る場合は実際に支出した額が損害となります。

香典については損益相殺を行わず、香典返しは損害と認めないという取扱いです。

もっとも、裁判例では地域の相場や事案に応じて、一七〇万円余、二〇〇万円、二二二万円、二五〇万円、三〇〇万円を認めた例があります。仏壇・仏具の購入費、墓碑建立費、遺体搬送料、遺体処置費が別途認められた例もあります。

死亡までの治療費・付添費

事故から死亡までの間に治療を受けていた場合、その治療費、入院雑費(一日一五〇〇円)、付添看護費、入通院慰謝料を請求できます。

裁判例には、四二日間の入院後に死亡した小学生について、心肺停止・脳浮腫の状態が続いていたことから親の声かけ等を要したとして、母親について日額六三〇〇円で四二日分の付添看護費を認めたものがあります。

弁護士費用と遅延損害金

訴訟になった場合、認容額のおおむね一割が弁護士費用として損害に加算されます。また、認容額に対して事故日からの遅延損害金(令和二年四月一日以降の事故は年三パーセント)が付きます。

賠償額が大きい死亡事案では、この二つを合わせると数百万円規模の違いになります。

進めるうえで注意したいこと

進めるうえで注意したいこと

刑事手続との関係

加害者の刑事裁判では、ご遺族は被害者参加制度を利用して意見を述べることができます。また、刑事記録(実況見分調書、供述調書、写真撮影報告書)は、過失割合や慰謝料の増額事由を立証する最重要の証拠です。

不起訴になった場合でも、弁護士を通じて検察庁に記録の開示を請求することができます。示談を急ぐ前に、まず記録を確認すべきです。

示談を急がない

保険会社は、四十九日や一周忌の頃に示談を打診してくることがあります。しかし、一度示談をすれば、原則としてやり直しはできません。

人身損害の損害賠償請求権の時効は、損害及び加害者を知った時から五年です。自賠責保険への請求は死亡日の翌日から三年です。急ぐ必要はありません。

自賠責保険からの先払い

自賠責保険は死亡事故について三〇〇〇万円(死亡に至るまでの傷害分は別に一二〇万円)を限度に支払います。被害者請求により、示談を待たずに受け取ることができます。

また、当座の出費に充てるため、死亡の場合は二九〇万円の仮渡金を請求できます。葬儀費用や当面の生活費の手当てとして活用できる制度です。

過失相殺をめぐる争い

死亡事案では、ご本人から事情を聞くことができません。そのため、加害者の供述だけが残り、「被害者が飛び出してきた」という主張が通ってしまう危険があります。

これに対しては、実況見分調書の記載、車両の損傷状況、ブレーキ痕、目撃者の供述、ドライブレコーダーや周辺の防犯カメラの映像といった客観的証拠を積み上げて反論します。映像は上書きや保存期間の経過で失われますので、早期の保全が不可欠です。

なお、被害者側の過失が七割以上の場合には自賠責保険でも重過失減額が行われます。後遺障害・死亡に係る部分については、七割以上八割未満で二割、八割以上九割未満で三割、九割以上一〇割未満で五割の減額です。七割未満であれば減額されません。

加害者が無保険・ひき逃げの場合

加害者が任意保険に加入していない場合、自賠責保険の三〇〇〇万円を超える部分は加害者本人から回収しなければなりません。資力に不安があるときは、財産の調査や仮差押えを検討します。

自賠責保険にも加入していない無保険車による事故、あるいはひき逃げで加害者が不明な事故については、国の政府保障事業(自動車損害賠償保障事業)に請求できます。限度額は自賠責と同じで、死亡三〇〇〇万円、傷害一二〇万円、後遺障害は障害の程度に応じて七五万円から四〇〇〇万円です。

ただし、健康保険や労災保険などの社会保険から給付を受けるべき金額は差し引かれます。請求期限は死亡日から三年です。損害保険会社の窓口が受付先で、保険代理店では受け付けていません。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①相続関係と請求権者の整理

戸籍を取り寄せて相続人を確定し、ご本人分と固有分に分けた請求の枠組みを設計します。相続放棄をされた方がいる場合の処理もご案内します。

②刑事記録の取寄せと過失割合の検討

検察庁から刑事記録を取り寄せ、事故態様と加害者の供述を確認し、過失割合と慰謝料の増額事由を検討します。

③自賠責への被害者請求・仮渡金請求

当面の資金を確保するため、仮渡金または被害者請求の手続を代行します。

④示談交渉と訴訟

赤い本の基準に基づく請求書を作成して交渉し、折り合えない場合には訴訟を提起して、弁護士費用と遅延損害金を含めた認定を求めます。

おわりに

おわりに

どれだけの金額を受け取っても、失われた命は戻りません。それでも、賠償金はご遺族のこれからの生活を支えるものであり、同時に、加害者の責任を社会的に明らかにするものでもあります。

提示された金額が妥当かどうかは、基準と裁判例に照らせば判断できます。ご遺族だけで判断される必要はありません。

示談書に署名をする前に、一度ご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。