「これから共同研究を進めたい」「共同研究の相手方と揉める可能性はないだろうか」「特許権が共有になった場合、どのように扱われるのか知りたい」といった声が聞かれます。

実際に、共同研究契約を締結して研究を進めていたにもかかわらず、共同研究の相手とトラブルになるという事案のご相談を受けることがあります。このような事態は、特許調査を通じて事後的に発覚することも少なくありません。

今回は、このような場面に備え、共同研究契約において定めておくべき事項と、共同発明に関する特許出願・特許権の取り扱いについて解説します。初めての方にもわかりやすく解説しておりますので、ぜひご覧ください。

共同研究契約とは

法人単独で行うことができる研究には限界があります。その限界を超えるために、ある研究について別法人との間で一緒に研究をすることがあります。このような研究、共同研究をする場合において、当事者間での決め事を定めるものが、共同研究です。

例えば、企業同士が有する技術・ノウハウを結集したり、大学等の研究機関と企業が協力するなど、新たな技術やビジネスを生み出すことを目的として締結されることがあります。近年では、産学連携での共同研究も注目されています。

共同研究契約は、単に研究を進めるための取り決めにとどまりません。研究の過程で生まれた発明について、誰が特許を受ける権利を有するのか、特許出願はどのように行うのか、生じた特許権をどのように扱うのかといった点まで定めておく必要があります。この点があいまいなまま研究を進めてしまうと、成果である発明の扱いをめぐって当事者間でトラブルが生じることがあると考えられます。

共同研究契約での決め事

まず、共同研究契約についてご説明します。下記のように、共同研究をするときにトラブルになりやすい事項について、当事者間で決めごとをしておくことが多いのです。

(1)研究内容の特定

まず、契約当事者間で何をするのかについて決めておく必要があります。

共同研究契約においては、研究の対象・内容をできる限り詳細に特定しておくべき場合が多いです。研究対象が曖昧なままでは、後に一方当事者が単独で行った特許出願について、その発明が共同研究の対象に含まれるものであったか否かという点自体が争点となってしまうことがあるからです(後述する共同出願違反の有無が問題となる場面など)。

また、研究の分担、研究の目標、研究スケジュールを明確にしておくことは、研究自体を計画的に進行させる作用も持つと考えられます。スケジュールが定められることで、当事者双方に、それに向けて誠実に取り組むことが期待されるためです。

(2)研究経費

研究のために新しい設備を置くとしましょう。当然なるべく懐は痛まない方法で研究をしたいのですから、共同研究の相手方に多く負担してもらおうとするでしょう。お互いがそのように考えているのですから、たとえ経費を「割り勘」にするとしても、どちらが何にどの程度支払うのかを決められる限り決めておくべきでしょう。

研究経費の金額や内訳をあらかじめ特定しておくことも重要です。後述するとおり、研究経費の負担割合は、特許権の持分割合や不実施補償の額を検討する際の考慮要素ともなり得るため、契約書上明確にしておく必要があります。

(3)特許権の実施について

一緒に研究をして特許発明が生じたのであれば素敵なことです。また、共同研究の結果として発明が生まれ、共同出願がなされた場合、生じた特許権は当事者間の共有となります。

特許権が共有となる場合、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得なくても、自らその特許発明を実施することができます(特許法73条2項)。そのため、共有者自身がビジネスを行っている場合には、この実施権に基づき、特許発明を用いた製品等を製造・販売することで収益を得ることが期待できます。

発明について特許出願をした結果、特許権が付与されたのであれば、その特許発明をどう使うか(実施)が共同研究当事者から関心を集めます。

想定されるトラブル

特に、特許権等が共有となる場合には、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得なくても自ら特許発明を実施することができます(特許法73条2項)。もっとも、実施の主体や範囲について当事者間で認識の齟齬が生じることもあるため、契約上明確にしておくことが望ましいと考えられます。

産学連携共同研究の特殊性

なお、共同研究の当事者に大学がかかわると、事情が異なることがあります。

大学等の研究機関は、自らビジネスを行うことを本来の目的としていません。そのため、産学連携による共同研究から生じた特許発明を実施し、直接収益を得る主体は、主として企業側になると考えられます。

大学側が収益を得る余地があるとすれば、第三者へのライセンスによるライセンス料収入です。もっとも、特許権が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができません(特許法73条1項)。また、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することもできません(同条3項)。

このため、大学側が第三者にライセンスをしようとしても、企業側の同意が必要となります。企業側としては、競業他社が自社の関わる共同研究の成果である特許発明を実施することを望まないことが多く、この同意が得られない場合もあります。

このような問題があるため、共同研究契約においては、大学側の利益を十分に確保するための工夫として、一定の条件のもとで企業側の同意を要さずにライセンスできる旨の条項を定めたり、共有者間で「不実施補償」を定めたりすることがあります。

不実施補償

不実施補償とは、自ら特許発明を実施しない共有者(多くの場合、大学側)に対し、実施する共有者(企業側)が一定の金銭を支払う旨の取り決めです。その額は、一時金や実施料の一定割合など様々な形で定められますが、一般に、研究経費の負担割合が少ない当事者ほど不実施補償の額が高くなる関係で決められることが多いと考えられます。これは、共同研究契約が対等な当事者間の契約であるという発想のもと、共同研究の成果による利益についても、当事者間で対等に近いものとすべきであるという考え方に基づくものと考えられます。

(4)研究成果の公表

「共同研究の一方当事者が勝手に発明内容を無断で発表してしまった」なんてことになれば、大きなトラブルが生じます。共同研究当事者の一方は発表したいと思っている一方、他方は発表を望まないことがあるからです。

研究成果の発表に関する利害の不一致

企業にとって、研究成果を公表することは対外的なアピールになりますし、投資を呼び込みます。画期的な技術の発表で株価を上昇させている企業のニュースは、よく聞かれるものです。特にスタートアップ企業には、資金調達のために公表をするインセンティブがあります。

逆に、企業の中には、共同研究の成果を用いた製品を流通させても、その解析が困難であったり、解析に相当の期間を要したりする場合には、あえて特許出願・公表をせず、ノウハウとして秘匿し続けることにビジネス上の合理性がある場合もあります。また、特許出願を予定している場合、企業の意図しないタイミングで研究成果が公表されてしまうと、新規性を喪失し、特許を受けられなくなるおそれがあります(特許法29条1項各号参照)。

産学連携共同研究の場合

なお、産学連携での共同研究では少々事情が異なることがあります。

大学等の研究機関にとって、研究成果の公表は、研究内容を外部にアピールし、大学の価値を高めるためにも重要な意味を持ちます。一方、研究成果を秘匿しておくことについて、大学側には基本的にメリットがないことが多いです。

この場合、大学と企業が共同研究をすると、研究成果の公表について利害が対立することが少なくありません。大学は秘密にして置くメリットがない反面、企業はノウハウとして秘密にしてしまいたいことも多いからです。そのため、共同研究契約においては、公表の時期についてあらかじめ双方で協議する旨の条項や、一方当事者の同意なく公表しない旨の条項を定めておくことが多く見られます。

無断出願(共同出願違反)への対応

ときに、共同研究当事者の一方が、勝手に単独出願をしてしまうケースがあります。

共同研究契約において、特許出願にあたっては事前に相手方の承諾を得る旨の条項(事前承諾条項)を定めていたとしても、一方当事者が無断で単独の特許出願をしてしまうという事態が生じることがあります。特許を受ける権利が共有に係る場合、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができないとされており(特許法38条)、これに違反する出願(共同出願違反)は、拒絶理由(同法49条2号)となるほか、特許登録後であっても無効理由(同法123条1項2号)となり得るものです。

このような事態を未然に防ぐためには、契約上、事前承諾条項に違反して単独出願がなされた場合の違約金条項を定めておくことや一方が出願をする場合に他方に通知をする条項を定めることなどが有効と考えられます。

もっとも、契約上の手当てをしていても、実際に無断出願がなされてしまうことはあり得ます。このような場合、他方当事者が取り得る是正手段としては、主に以下のものが考えられます。

①特許を受ける権利の持分について、移転登録を請求すること(特許法74条1項)。この移転登録請求による持分の移転については、通常必要とされる他の共有者の同意(特許法73条1項)を得る必要はないとされています(同法74条3項)。

②契約上の債務不履行に基づく損害賠償を請求すること

③当該特許について、無効審判を請求すること(特許法123条1項2号)。もっとも、共同出願違反を理由とする無効審判を請求できるのは、その特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者に限定されています(同条2項ただし書)。

これらの手段は、それぞれ目的や効果が異なります。無効審判は、特許自体を無効にするための手続であり、無断出願をした当事者を含め、誰も当該発明について特許権を持てない結果となります。これに対し、移転登録請求は、特許権(持分)を正当な権利者に帰属させることを目的とするものであり、登録された特許を有効なまま維持しつつ、権利の帰属だけを是正することができる点にメリットがあると考えられます。

そのため、特許を無効にするよりも、登録された特許権の持分移転を求める方が合理的な解決となる場合も少なくありません。事案ごとに、証拠の有無や立証の見通し等を踏まえ、複数の手段を比較検討したうえで、適切な是正手段を選択することが望ましいと考えられます。

まとめ

以上のように、共同研究契約においては、研究内容の特定、研究経費、特許発明の実施、研究成果の公表といった点をあらかじめ明確に定めておくことが重要です。

また、特許権が共有となる場合には、持分の譲渡やライセンスに他の共有者の同意が必要となること(特許法73条)から、大学等の研究機関の利益を確保するための不実施補償等の工夫が必要になることがわかりました。

さらに、持分割合は、発明者の記載や研究経費の負担割合等を考慮して定められる一方、無体財産権としての特許権の性質上、収益に直接結びつく指標として必ずしも大きな意味を持たない場合があることにも留意が必要です。

万が一、共同研究契約に違反して無断で特許出願がなされてしまった場合には、移転登録請求、損害賠償請求、無効審判請求など複数の是正手段が考えられますが、事案に応じた適切な選択が必要となります。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 小松原柊

特許

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、交通事故、労災、不動産、特許事件を中心に対応。特許に関する事件対応にも実績を有する。依頼者の声に深く耳を傾け、一人ひとりの状況に合わせたオーダーメイドの解決策を提案する。「話しやすさ」と「分かりやすい説明」をモットーに、今何ができるのかを伝えるアドバイスに定評がある。 常に最新の判例や実務トレンドのアップデートを怠らず、日々研鑽を積んでいる。