
自社の社名やサービス名、新商品のネーミング、ロゴマークなど、ビジネスにおいて「ブランド」は企業価値を左右する極めて重要な資産です。
しかし、どれほど素晴らしいネーミングを考案して事業を展開しても、商標登録を行っていなければ、他社に同じ名前を先取りされたり、ある日突然「他社の商標権を侵害している」として商標の使用の差止めや損害賠償を請求されたりするリスクが潜んでいます。
自社の権利を守り、安心して事業を継続するためには、特許庁へ出願して「商標権」を取得することが不可欠です。
本コラムでは、弁護士の視点から、商標登録手続きの全体的な流れや必要な費用、手続きを成功させるための注意点についてわかりやすく解説いたします。
商標登録の重要性と「先願主義」のルール

商標権とは、自社の取り扱う商品やサービス(役務)を他社のものと区別するためのマークやネーミングを独占的に使用できる権利です。
日本の商標制度は「先願主義」をとっています。これは、原則として「実際に使い始めた日」ではなく「特許庁に早く出願した者」に権利を与えるというルールです。
たとえ自社が何年も前からその名称を愛用していたとしても、他社が先に特許庁へ出願して登録を認めてしまえば、自社がその名称を使えなくなってしまうばかりか、相手から権利侵害として訴えられる可能性すらあります。そのため、新事業や新商品を立ち上げる際は、できるだけ早い段階で商標出願を行うことが戦略上極めて重要となります。
商標登録手続きの全体的な流れ

商標登録の手続きは、申請してすぐに完了するわけではありません。特許庁による厳格な審査が行われるため、出願から登録完了まではおよそ半年〜1年程度の期間がかかります。
手続きの主なステップは以下のとおりです。
【STEP 1】事前準備(先行商標調査)
↓
【STEP 2】出願(商標登録出願書の提出)
↓
【STEP 3】特許庁による審査
↓(拒絶理由がない場合) ↓(拒絶理由がある場合)
【STEP 4】登録査定 【STEP 4’】拒絶理由通知への対応(意見書・補正書)
↓ ↓
【STEP 5】設定登録(商標権の発生) 拒絶査定
以下で、それぞれのステップを詳しく解説します。
【STEP 1】事前準備(先行商標調査)
商標登録を出願する前に、最も重要となるのが「事前調査(先行商標調査)」です。
すでに他社が同じ(または類似する)商標を、同じ(または類似する)事業分野で登録・出願していないかを事前に調べる必要があります。調査を行わずにいきなり出願すると、他社の先願にかかって拒絶されるだけでなく、印紙代などの費用や時間が無駄になってしまいます。
また、商標出願の際は、商標のマーク・ネーミングそのものだけでなく、それを「どのような商品・サービスで使うのか」という「指定商品・指定役務」および「区分(第1類〜第45類)」を選択しなければなりません。
- 調査方法: 特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」などを活用して検索を行います。ただし、商標の「類似性(音が似ているか、見た目が似ているか、意味が似ているか)」の判断は非常に高度で専門的であるため、弁護士や弁理士などの専門家に相談することが確実です。
【STEP 2】出願(特許庁への商標登録出願)
出願書類を作成し、特許庁に提出します。提出方法は、電子出願または書面提出のいずれかです。
出願書類には以下の事項を正確に記載します。
- 出願人の氏名・住所(法人の場合は会社名・所在地・代表者名)
- 登録したい商標(文字、ロゴ画像など)
- 指定商品・指定役務およびその区分
出願時には、国の手数料(特許印紙代)を納付します。 (出願手数料の目安:3,400円 +(区分数 × 8,600円))
【STEP 3】特許庁による審査

出願書類が受理されると、特許庁の審査官によって、商標登録出願が手続的・形式的要件を具備しているかの審査(方式審査)と法律上の要件を満たしているかの審査(実体審査)が行われます。
実態審査では、主に以下のような点が確認されます。
- 識別力(自他商品識別力)があるか
誰でも使う一般的な名称や、商品の品質・地名をそのまま表しただけのネーミングではないか(例:清涼飲料水に「サイダー」、服に「絹100%」など)。 - 他社の先行商標と衝突していないか
同一または類似の先願・先登録商標が存在しないか。 - 公序良俗に反していないか など
【STEP 4】登録査定 または 拒絶理由通知書への対応
審査の結果によって、その後の流れが分かれます。
① 拒絶理由がない場合 ➔「登録査定」
審査の結果、登録を拒絶する理由が見つからなかった場合、特許庁から「登録査定(登録を認めますという通知)」が届きます。
② 拒絶理由がある場合 ➔「拒絶理由通知」と反論対応
審査官が「この商標は登録できない」と判断した場合、まず「拒絶理由通知書」が届きます。 ここで「拒絶されたからダメだ」と諦める必要はありません。通知書に記載された理由に対し、指定期間内(原則40日以内)に「意見書」や「手続補正書」を提出して反論・修正する機会が与えられています。
- 意見書: 審査官の判断に対し、「他社の商標とは類似していない」「識別力はある」などの反論を法的に主張する書面。
- 補正書: 指摘された指定商品・役務の範囲を狭めたり、不適切な記載を修正したりする書面。
適切な反論や補正を行うことで、拒絶理由が解消され、登録査定へと覆るケースも少なくありません。
【STEP 5】設定登録(登録料の納付)と商標権の発生
登録査定が届いたら、指定された期間内(原則30日以内)に特許庁へ登録料を納付します。
登録料の納付が完了すると、特許庁の商標原簿に権利が設定登録され、「商標権」が正式に発生します。後日、手元に「商標登録証」が届きます。
商標権の存続期間は設定登録の日から10年間です。なお、特許権などとは異なり、商標権は10年ごとに更新手続き(更新申請)を行うことで、半永久的に権利を維持・保持できるのが大きな特徴です。
商標登録手続きで失敗しないための注意点

商標登録をスムーズに成功させ、自社ブランドを強固に保護するためには、以下の点に注意する必要があります。
① 事業の将来を見据えた「区分・指定商品」の選択
出願時に指定した区分や商品・サービスの範囲外については、商標権の効力が及びません。 現在行っている事業だけでなく、今後数年以内に新しく展開する予定のサービスや、ECサイトでの販売(第35類)、フランチャイズ展開なども考慮して出願範囲を決定することが大切です。
「コンセント制度」の理解と活用
商標法の令和5年改正により、日本にも「コンセント制度(同意制度)」が導入されました。 以前は、他社の先行登録商標と類似している場合、相手企業から承諾(同意)を得ていたとしても一律で拒絶されていました。しかし改正後は、「先行商標権者の同意」があり、かつ「両者の間で混同を生ずるおそれがない」と認められれば、例外的に併存して登録できる可能性があります。先行商標が存在して困った場合の選択肢として頭に入れておくとよいでしょう。
登録後の「不使用取消審判」リスク
商標登録が無事に完了しても、継続して3年以上その登録商標を日本国内で使用していない場合、第三者から「不使用取消審判」を請求され、商標登録を取り消されてしまうリスクがあります。登録した商標は、実際のビジネスで正しく使用し続けることが重要です。
まとめ:適切な商標登録で安全な事業経営を

商標登録手続きは、単に書類を出して終わりではなく、「事前調査」「適切な区分指定」「拒絶理由通知への法的対応」など、専門的なノウハウが求められる場面が数多く存在します。
出願のタイミングが遅れたり、指定商品・役務の選択を誤ったりすると、競合他社に権利を先取りされたり、将来の事業拡大の足かせになったりする危険性があります。
自社のビジネスや大切なブランド価値を守るためにも、ネーミングの決定や事業立ち上げの初期段階から、知的財産に詳しい弁護士などの専門家に相談し、確実な手続きを進めていくことを強くお勧めいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧
商標法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
令和7年登録後、商標権侵害等、商標法関連案件全般において数多くの案件を担当。企業のブランド価値を守るための迅速な初動対応と、緻密な情報分析を通じて、適正な事業活動の維持と依頼者の利益保護に尽力している。




