
郵便法上の「信書」は、日本郵政株式会社あるいは信書便事業者に配達を依頼しなければならず、通常の宅配便などで送ると法律違反になり、企業のコンプライアンスにも反することになります。今回は、「信書」について注意すべき点をまとめてみました。
第1 はじめに

近年、コミュニケーションや手続きのデジタル化が急速に進んでいます。電子メールやチャットツールの普及、さらには電子契約の導入により、紙の書類を郵送する機会自体は減少傾向にあります。しかし、企業の実務において、契約書の原本、重要な証明書、請求書や納品書といった「紙の重要書類」を外部へ送付する機会は依然として存在します。
こうした書類を発送する際、企業が最も注意しなければならない法律の一つが「郵便法」です。同法が定める「信書」の規制について、正しい知識を持たずに「早く届くから」「料金が安いから」「いつも使っているから」といった理由で安易に宅配便やメール便を利用すると、知らず知らずのうちに法律違反を犯してしまうリスクがあります。
第2 郵便法上の「信書」とは何か

郵便法における「信書」の取り扱いを理解する第一歩は、その定義を正確に把握することです。郵便法第4条第2項では、信書を「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と定義しています。
総務省のガイドラインに基づき、この定義をさらに「3つの要素」に分解して見ていきましょう。
- 特定の受取人
差出人が特定の個人、あるいは特定の法人・団体などを対象として送るものであることを意味します。文書自体に具体的な氏名や社名が記載されている場合はもちろん、記載がなくても、内容から実質的に特定の誰かに向けられたものであると判断されれば、この要件を満たします。
- 差出人の意思を表示し、又は事実を通知する
差出人の主観的な考えやメッセージを伝えること、あるいは客観的な事実(金額、期日、状態など)を相手に知らせることを指します。
3.文書
文字や記号などによって、人の思想・意思・事実などが記載された有体物(紙など)を指します。
どのような文書が信書に該当し、どのようなものが該当しないのか、総務省の指針をもとに代表的な例を下表にまとめてみました。
| 分類 | 信書に該当するもの(郵便・信書便に限定) | 信書に該当しないもの(宅配便などでの送達可) |
| 書状・通知類 | ・一般的なビジネスレター(挨拶状・案内状) ・結婚式の招待状 ・免許証、保険証、各種証明書 | ・新聞、雑誌、書籍 ・カタログ、パンフレット、チラシ ・カレンダー、ポスター |
| 金銭・契約関連 | ・契約書の原本、申込書、承諾書 ・請求書、見積書、納品書、領収書 | ・手形、小切手 ・株券、債券 ・クレジットカード、キャッシュカード |
| その他 | ・履歴書、各種申請書 ・特定の受取人に宛てた手書きの送り状 | ・図面、設計図、プログラムのソースコード ・単なる取扱説明書や製品の仕様書 |
企業の法務・総務として特に注意すべきは、「契約書」「請求書」「領収書」といった日常的なビジネス文書が、すべて「信書」に該当するという点です。これらは「事実の通知」や「意思の表示」が明確に含まれているため、例外なく信書としての取り扱いが求められます。
第3 郵便法が定める「信書」に対する規制内容

郵便法4条1項は、信書の送達について、次のような制限を設けています。
「日本郵便株式会社以外の者は、何人も、他人の信書の送達を業としてはならない。ただし、民間事業者による信書の送達に関する法律の規定により、信書便事業者が信書便物を送達する場合は、この限りでない。」
つまり、日本国内において信書を配達・送達できるのは、原則として日本郵便株式会社(郵便局)と、国の許可を受けた「信書便事業者」だけであるというルールです。
この厳しい規制が設けられている背景には、主に2つの重要な立法趣旨があります。
一つ目は、「通信の秘密」の厳格な保護です。日本国憲法第21条第2項では「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められています。信書には、個人のプライバシーや企業の機密情報が深く関わっているため、これを取り扱う事業者には極めて高い信頼性と、厳格な法令遵守義務が課されます。
二つ目は、「ユニバーサルサービス」の維持です。日本郵便は、日本全国どこへでも公平かつ安定した料金で郵便物を届ける義務を負っています。もし利益の出やすい都市部の効率的なルートだけを民間企業が自由に請け負えるようにしてしまうと、採算の取れない過疎地や離島への配達網を維持できなくなる恐れがあります。そのため、国全体の通信インフラを守る目的で、信書の送達事業が厳しく制限されているのです。
なお、「信書便事業者」には、私たちが日常的に利用する大手宅配便事業者の「通常の宅配便サービス」や「メール便サービス」は含まれていません。
第4 どのような場合に「信書規制違反」となるのか

どのような行為がこの信書規制に抵触してしまうのでしょうか。よくある具体的な違法事例と、それに伴うリスクについて解説します。
よくある違反パターン
- ケース1:宅配便への契約書・請求書の同封
取引先から製品を購入した際、あるいは自社から製品を納品する際、ヤマト運輸の「宅急便」や佐川急便の「飛脚宅配便」といった通常の宅配便の荷物の中に、「契約書の原本」や「請求書の原本」をそのまま一いっしょに発送してしまうケースです。宅配便は貨物を運ぶための補助的なサービスであり、原則として信書を運ぶことはできません。
- ケース2:メール便による案内状の大量発送
新製品の発表会や創立記念パーティの案内状、あるいは特定の取引先に向けた時候の挨拶状などを、運賃を抑えるためにクロネコゆうメールなどの各種メール便サービスを使って大量に送るケースです。宛名が特定の担当者や企業名になっており、個別の案内を含んでいる場合、その案内状は信書となります。不特定多数を対象としたポスティング用チラシとは異なり、メール便での発送は違法となります。
第5 罰則の規定(差出人へのペナルティ)

多くの人が誤解しやすいのが、「法律違反になるのは、信書を運んだ配送業者(宅配便会社など)だけではないか」という点です。しかし、「違法な業者に信書の送達を依頼した差出人も同じく罰則の対象になります。つまり、企業が総務・法務担当者の知識不足によって誤った方法で重要書類を発送してしまった場合、企業自体が刑事罰(罰金刑など)の対象となり、報道などによって企業の社会的信用が失墜するというコンプライアンスリスクを背負うことにもなってしまいます。
第6 実務で注意すべきポイントと対策

企業の法務・総務担当者として、社内での信書違反を防ぐためには、例外規定の正しい理解と、具体的な発送ルールの策定が不可欠です。以下に、実践すべきポイントをあげてみます。
⑴ 「添え状(送り状)」の例外規定を活用する
郵便法第4条第3項には、非常に重要な例外規定が設けられています。
「運送営業者は信書の送達をしてはならない。ただし、貨物に添付する無封の添え状または送り状はこの限りではない。」
これは、「宅配便などで送る荷物の中身に関連する『従たる文書』であれば、信書であっても同封してよい」というルールです。例えば、自社製品を段ボールで発送する際、その中に「納品書」や「領収書」、あるいは「毎度ありがとうございます。ご注文の品をお送りします」といった短い挨拶状(添え状)を同封することは、法律上認められています。
ただし、この例外が認められるのは、あくまで文書が「従」であり、貨物が「主」である場合に限られます。例えば、製品は送らずに「契約書だけ」を宅配便の袋に入れて送る行為や、荷物の内容とは全く関係のない別の取引の請求書を同封する行為は、この例外には当てはまらず違法となります。
⑵ 発送手段の正しい選択マニュアルを作る
社内で書類を発送する際、担当者が正しい手段を選べるよう、以下のような選択基準を明確にルール化することが考えられます。
① 「書類だけ」を単体で送りたい場合
日本郵便のサービスである「レターパックプラス」「レターパックライト」「スマートレター」や、通常の「定形・定形外郵便」を使用します。これらはすべて郵便法の枠組み内であるため、信書を安心して送ることができます。
② 「荷物と一緒に書類(原本)」を送りたい場合
前述の「添え状の例外」の範囲内であれば、通常の宅配便に同封して構いません。もし、荷物とは関係のない大量の信書書類や、重要書類のみを宅配便と同等のセキュリティやスピードで送りたい場合は、佐川急便の「飛脚特定信書便」など、各配送業者が提供している「信書便対応の専用サービス」を明示的に契約・指定して利用する必要があります。
⑶ 社内教育とチェック体制の構築
法務・総務部門がどれだけ知識を持っていても、実際に現場で発送作業を行う他部署の社員(営業、経理、受付など)がルールを知らなければ意味がありません。次のようなことをすることも考えられます。
- 定期的(年1回など)に「信書に関するコンプライアンス研修」を実施する。
- 社内の発送伝票置き場や総務カウンターに、「信書に該当するもの・しないもの」の早見表を掲示する。
- 「ゆうパック」や「レターパック」などの信書対応資材を総務で一括管理し、利用時に用途を確認する。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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