独身と騙されて交際していたのに慰謝料請求された方へ|貞操権侵害の主張と反論・逆請求の手順を弁護士が解説

「独身だと信じて真剣に交際していた相手が、実は既婚者だった」
「それだけでも深いショックと絶望を味わっているのに、ある日突然、相手の配偶者や弁護士から『不倫の慰謝料として300万円を一括で支払え』という内容証明郵便が届いた」

このような事態に直面したとき、激しい怒りと動揺、そして言いようのない恐怖に襲われる方は少なくありません。

「既婚者だと知らなかったのに、自分が慰謝料を支払わなければならないのだろうか」
「相手の配偶者から裁判を起こされたら、周囲や職場に知られてしまうのではないか」
「騙されて体を弄ばれた自分こそが被害者なのに、なぜ加害者扱いされなければならないのか」

このように一人で思い悩み、夜も眠れないほど精神的に追い詰められてしまう方も多くいらっしゃいます。

しかし、結論から申し上げますと、独身であると信じて交際していた場合、相手の配偶者からの不貞慰謝料請求を法的に完全に拒否できる可能性が十分にあります。 それどころか、既婚であることを悪質に隠して性的関係を持った交際相手本人に対し、「貞操権を侵害された被害者」として、こちらから慰謝料を請求することさえ法的に可能です。

本コラムでは、独身と信じて交際していたにもかかわらず不貞慰謝料を請求された方に向けて、不貞慰謝料請求の法的仕組みをはじめ、なぜ支払いを拒否できるのかという「善意無過失」の理論、交際相手の責任を追及する「貞操権侵害」の法的位置づけ、有効な証拠の集め方、そして配偶者からの不当な請求を退けるための具体的な対処法について、弁護士の視点から徹底的に解説します。

不貞慰謝料請求の概要と法律上の責任要件

不貞慰謝料請求の概要と法律上の責任要件

相手の配偶者から届いた請求書に対処するためには、まず法律上どのような要件を満たしたときに不貞慰謝料の支払義務が生じるのかを正確に理解しておく必要があります。

不貞行為に基づく損害賠償責任の法的根拠

配偶者のある者と性的関係を結ぶ行為は、他方配偶者の「平穏な婚姻生活を維持する権利(法的利益)」を侵害するものとして、民法709条が定める「不法行為」に該当します。不貞行為が行われた場合、被害を受けた配偶者は精神的苦痛に対する賠償として慰謝料を請求することができます。

しかし、不法行為責任が成立するためには、単に「客観的に性的関係があった」という事実だけでは足りません。民法上、行為者に「故意(既婚者であると知っていたこと)」または「過失(注意を払っていれば既婚者であると気づけたこと)」が存在することが厳格な成立要件とされています。

「故意・過失」がなければ慰謝料の支払義務は生じない

もしあなたが、交際相手が既婚者であることを全く知らず(故意がない)、かつ通常の注意を払っていても既婚者であると気づくことができなかった(過失がない)場合、法律上「善意無過失」となり、不法行為は成立しません。

したがって、「独身だと騙されていた」「既婚者であることを知る由もなかった」という正当な事情がある場合、相手の配偶者からどれほど高額な慰謝料を一括請求されたとしても、法律上1円たりとも支払う義務はないのです。

「貞操権侵害」とは何か?|騙されていた側が持つ強力な権利

「貞操権侵害」とは何か?|騙されていた側が持つ強力な権利

相手の配偶者から見れば、あなたは「家庭を壊した不倫相手(加害者)」に見えるかもしれません。しかし、法律上、嘘をつかれて性的関係を持たされたあなたは、決して加害者などではなく、重大な法的人権侵害を受けた「被害者」です。

このとき問題となるのが、民法上保護される「貞操権」です。

貞操権の定義

貞操権とは、「誰と、どのような性的関係を結ぶか」を自らの自由な意思によって決定する権利を指します。

「相手が独身であり、将来的な結婚や誠実な交際が可能であるか」は、多くの人にとって性的関係を結ぶかどうかを判断する極めて重大な要素です。それにもかかわらず、交際相手が「自分は独身である」「妻とはとっくに離婚している」と虚偽の事実を述べ、あるいは既婚であることを巧妙に隠して性的関係を迫った場合、あなたの自由で正確な意思決定は不当に歪められたことになります。

これは、あなたの人格権・貞操権に対する明白な侵害行為(民法709条の不法行為)にあたります。

貞操権侵害が認められる典型的なケース

裁判実務上、以下のような事情が存在する場合に交際相手に対する貞操権侵害が認められています。

独身者限定のマッチングアプリや婚活パーティーでの出会い

利用規約で独身が義務付けられている出会いの場で、「未婚」「独身」と虚偽の登録をしてアプローチしてきた場合。

結婚を前提とした具体的な交際の約束(婚約・結婚の匂わせ)

「将来結婚しよう」「親に挨拶に行きたい」「一緒に住むための部屋を探そう」など、将来の結婚を信じ込ませる言動を弄していた場合。

偽造身分証や離婚の虚偽説明

「元妻とは2年前に離婚が成立している」「戸籍の変更手続き中だ」などと具体的な嘘をつき、あるいは身分証明書や独身証明書を偽造・偽装して見せていた場合。

自宅への招致や私生活の徹底的な偽装

相手の自宅(一人暮らし用のマンション等)に頻繁に泊まらせており、生活圏内に家族や配偶者の気配・痕跡が一切排除されていた場合。

貞操権侵害に基づく慰謝料の相場

騙して肉体関係を持った交際相手(既婚者)に対し、あなたが請求できる慰謝料の相場は、おおむ数十万円〜数百万円程度です。

交際期間の長さ、性的関係の頻度、結婚に向けた具体的な進展度合い(両親への紹介、式場の見学など)、妊娠や中絶を余儀なくされたか否か、詐欺的言動の悪質性などを総合的に考慮して金額が判断されます。

配偶者からの不貞慰謝料請求に対して請求を拒否するためのポイント

配偶者からの不貞慰謝料請求に対して請求を拒否するためのポイント

配偶者側から届く通知書には、「不倫相手として責任を取れ」と一方的な主張が書かれています。これに対して慰謝料の支払いを法的に完全拒否するためには、前述の「過失(落ち度)がなかったこと」を客観的な事実に基づいて反論していく必要があります。

「過失あり」と判断されやすい危険な事情とは?

裁判所は、単に「独身だと言われていたから信じた」という主観的な言い分だけでは過失を否定してくれないことがあります。以下のような「既婚者であることを疑うべき不自然な事情」があったにもかかわらず、漫然と交際を続けていた場合、「過失があった(注意義務違反)」と判断されてしまうリスクがあります。

  • 連絡やデートの時間帯が極端に制限されていた(例:土日祝日は絶対に連絡が取れない、夜間は通話できず平日の昼間しか会えない)
  • 相手の自宅に一度も行かせてもらえなかった(「実家暮らしだから」「部屋が散らかっているから」と言い訳され、ホテルや自身の自宅でしか会っていなかった)
  • 身元や勤務先を頑なに明かさなかった(名刺をくれない、本名を教えてくれない、SNSのアカウントを教えてくれない)
  • 所持品や外見に既婚の兆候があった(左手薬指に指輪の跡があった、車内や私物に子ども・異性の私物があった)
  • 「妻とは別居している」「離婚調停中だ」と聞かされていた(=既婚者であること自体は認識していた)

「過失なし(善意無過失)」を証明する反論材料

配偶者からの請求を完全に拒絶するためには、上記のような不審点がなく、「誰であっても独身だと信じてしまう客観的状況があった」ことを示さなければなりません。

  • マッチングアプリのプロフィール欄に「独身」「未婚」と明記されていた証拠
  • 相手から「独身の一人暮らしである」と説明されていたLINEやメールのやり取り
  • 相手の自宅に日常的に出入りし、日用品や着替えを置いていた事実
  • 土日祝日も含めて自由に旅行や宿泊デートを行い、いつでも電話が繋がっていた事実
  • 共通の友人や知人に対しても「独身の恋人」として紹介されていた事実

これらを論理的に組み立てて主張することで、「既婚者であると気づくことは不可能であった」として、配偶者からの不法行為責任を完全に遮断します。

貞操権侵害を受けた側が取るべき「具体的な対抗方法」

貞操権侵害を受けた側が取るべき「具体的な対抗方法」

相手の配偶者から慰謝料請求通知が届いた場合、単に受け身で反論するだけでなく、交際相手本人の責任を巻き込んだ攻防一体の戦略をとることが極めて重要です。

実務上、以下の2つの方針を状況に応じて使い分けます。

方針①
配偶者への支払いを完全拒絶し、交際相手へ貞操権侵害の慰謝料を請求する

あなたに過失が一切認められない場合、配偶者に対しては「善意無過失であるため支払い義務はない」と回答書を送付して請求を完全に突っぱねます。

同時に、あなたを騙して弄んだ交際相手(既婚者)本人に対し、内容証明郵便を送付して「貞操権侵害に基づく慰謝料」を正式に請求します。配偶者の請求から逃げ回るのではなく、被害者として正当な法的権利を行使し、加害者である元交際相手に金銭的・社会的な責任をとらせる手順です。

方針②
交際相手の責任を盾にした「相殺・求償権」交渉(過失が否定しきれない場合)

万が一、「土日に連絡が取れなかった」などの事情があり、裁判でわずかでも過失が認められる懸念がある場合であっても、言われるがまま配偶者に支払う必要はありません。

相手夫婦が離婚しない場合、あなたが交際相手に対して持っている「貞操権侵害の損害賠償請求権」や、支払った慰謝料の負担分を請求する「求償権」を行使すると、結局はその夫婦の家計からお金が出ていくことになります。

そこで、弁護士が代理人となり、相手方配偶者や交際相手に対して以下のように迫ります。

「仮に当方に何らかの過失があるとしても、元はといえば貴殿の配偶者が独身と偽って当方の貞操権を侵害したことが発端です。当方は元交際相手に対し、直ちに同等以上の貞操権侵害の慰謝料を請求します。夫婦の家計全体で見れば金銭の移動が無意味になる以上、双方が一切の金銭請求を放棄する『ゼロ和解』で清算すべきです」

このように主張することで、持ち出しを一切発生させずに紛争を完全終結に導くことが可能となります。

通知が届いた直後に「絶対にやってはいけないこと」

通知が届いた直後に「絶対にやってはいけないこと」

配偶者側から内容証明郵便が届いた際、焦りやパニックから以下の行動をとってしまうと、本来認められるはずの権利を失い、取り返しのつかない不利益を被ることになります。

焦って相手の請求額にサイン・合意する

通知書に「期日までに300万円を支払え」「支払わなければ裁判にする」と書かれていても、その場で支払いを約束したり、示談書・念書に署名押印してはいけません。

一度合意書を交わしてしまうと、法的には「既婚者と知っていたかどうかに関わらず、慰謝料の支払いに合意した」と扱われ、後から「騙されていたから取り消したい」と主張しても裁判上認められなくなってしまいます。

通知書を無視・放置する

「自分は騙された被害者なのだから、こんな理不尽な手紙は無視して構わない」と放置することは厳禁です。

相手方は事情を知らないため、「不倫相手が逃げ回っている」と判断し、裁判所へ民事訴訟を提起します。訴訟になれば自宅に訴状が届き、同居家族に知られるリスクが生じます。さらに裁判も放置すれば相手の言い分が100%認められる欠席判決が下され、給与や預貯金を差し押さえられてしまいます。

交際相手(既婚者)と安易に連絡を取り、証拠を消去する

怒りや混乱から交際相手に連絡し、「どういうことなの!」「LINEを消して」などと感情的にやり取りしてはいけません。

交際相手が保身のために「最初から既婚者だと伝えてあった」「お互い合意の遊びだった」と嘘の証言を配偶者に吹き込んだり、アプリのやり取りを先回りして消去したりする恐れがあります。連絡を取る前に、まずは手元の証拠を完全に保全することが最優先です。

貞操権侵害を立証するために確保すべき「決定的な証拠」

貞操権侵害を立証するために確保すべき「決定的な証拠」

貞操権侵害を主張し、配偶者からの請求を退けるためには、「相手が独身と偽っていたこと」「自身がそれを信じていたこと」を裏付ける客観的証拠が不可欠です。相手に感づかれる前に、以下のデータを確実に保存してください。

収集すべき証拠具体的な内容とポイント
アプリやサイトの登録画面マッチングアプリや婚活サイトのプロフィール画面(「未婚」「独身」の表示、自己紹介文など)。アカウントが削除される前にスクリーンショットや画面収録で保存する。
メッセージのやり取り(LINE等)「独身である」「一人暮らしである」「元妻とは別れた」といった発言履歴。「将来結婚しよう」「親に会わせたい」などの結婚を匂わせるやり取り。トーク履歴のバックアップおよび画面の撮影を行う。
相手の自宅に出入りしていた証拠相手の部屋で撮影した写真や動画、合鍵の写真、部屋に置いていた私物の記録、相手宅周辺での位置情報・レシートなど。
デートや旅行の記録土日祝日や連休、年末年始などに宿泊を伴う旅行やデートをしていた事実を示す写真、ホテルの予約確認メール、新幹線や航空券の領収書など。
金銭のやり取り・プレゼント婚約指輪や結婚準備に関する支出、相手から贈られた手紙やメッセージカードなど。

貞操権侵害・不貞トラブルを弁護士に依頼するメリット

貞操権侵害・不貞トラブルを弁護士に依頼するメリット

独身と信じていたにもかかわらず不倫の責任を追及される事案は、当事者同士の感情が極度にこじれやすく、法的な立証責任も複雑です。弁護士へご相談・ご依頼いただくことで、以下のような絶大なメリットが得られます。

配偶者からの直接の連絡・督促を即座に完全遮断できる

弁護士が代理人に就任すると、相手方配偶者やその弁護士に対して直ちに「受任通知」を送付します。以後の連絡窓口はすべて弁護士となり、あなた自身への電話、メール、手紙、自宅や職場への接触は法的に禁止されます。厳しい追及の恐怖から解放され、平穏な日常生活を取り戻すことができます。

「加害者」から「正当な権利者」へ立場を逆転できる

個人で「騙されていた」と配偶者に訴えても、「言い訳をするな」と一蹴されるのが関の山です。弁護士が介入することで、過去の裁判例と客観的証拠に基づき「善意無過失による請求棄却」を論理的に主張します。さらに、交際相手に対する貞操権侵害の慰謝料請求を正式に突きつけることで、理不尽に加害者扱いされていた立場を法的に正当な被害者へと逆転させます。

持ち出しゼロの「ゼロ和解」や適正な金銭解決を実現できる

事案の性質や過失の有無を専門家の目で精査し、配偶者からの法外な請求を完全拒否、あるいは相殺・求償権を駆使した「金銭の支払いなし(ゼロ和解)」を取りまとめます。また、交際相手から正当な貞操権侵害の慰謝料を回収し、傷つけられた精神的苦痛に対する賠償を勝ち取るサポートを行います。

まとめ

まとめ
  • 独身と騙されて性的関係を持っていた場合、あなたには「故意・過失」が認められないため、相手の配偶者からの不貞慰謝料を支払う義務は原則として存在しない(善意無過失による完全拒否)。
  • 既婚であることを隠して性的関係を迫った交際相手の行為は「貞操権侵害」にあたり、あなたから交際相手本人に対して100万〜300万円程度の慰謝料を逆請求することが可能。
  • 相手からの通知書にパニックになり、その場で示談書にサインしたり、逆に放置・無視したりすることは絶対にしてはならない。
  • 貞操権侵害を法的に立証するためには、マッチングアプリのプロフィール画面、LINEのトーク履歴、相手の自宅に出入りしていた記録などの客観的証拠を即座に保全することが重要。
  • 弁護士が代理人となることで、相手方配偶者からの不当な請求をブロックし、ゼロ和解や元交際相手への責任追及を有利に進めることができる。

信じていた交際相手の裏切りに傷つき、そのうえ理不尽な慰謝料請求に晒される苦しみは、到底一人で抱え込めるものではありません。しかし、法律は誠実に交際していたあなたを保護する強力な武器を持っています。相手の言い値に屈して泣き寝入りしてしまう前に、まずは一度、男女問題・不貞トラブルの解決実績が豊富な当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧

離婚・不倫慰謝料

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。