
同じ職場の同僚、上司、あるいは部下と親密な関係になり、ある日突然、交際相手の配偶者やその代理人弁護士から「不貞行為の慰謝料として300万円を支払え」「職場にすべてを公表する」「会社を今すぐ辞めろ」といった厳しい内容証明郵便や電話連絡を受ける――。このような事態に直面したとき、激しい動揺と強い恐怖に襲われる方は少なくありません。
「不貞行為をしてしまった負い目があるため、相手の言うとおりにするしかないのだろうか」
「社内不倫が会社や上司に知られたら、懲戒解雇されてしまうのではないか」
「相手の配偶者が職場に怒鳴り込んできたり、同僚に言いふらされたりしたらどうしよう」
職場内不倫における不貞慰謝料請求は、単なる金銭トラブルにとどまらず、「社内での立場」「雇用関係・キャリア」「周囲への露呈」という生活の根幹に関わる問題が複雑に絡み合うため、精神的なプレッシャーは計り知れません。
しかし、どれほど後ろめたい気持ちがあったとしても、相手方の法外な要求や理不尽な脅しに屈する必要はありません。法律上の不貞慰謝料には適正な相場が存在し、適切な法的主張を行えば請求額を大幅に減額できるケースがほとんどです。また、相手方が職場に押しかけたり退職を強要したりする行為は、法的に許されない違法行為となり得ます。
本コラムでは、職場内不倫で不貞慰謝料を請求された方に向けて、不貞慰謝料請求の基本的な法的枠組みをはじめ、職場内不倫特有の問題点やリスク、請求された側の具体的な反論・大幅減額のポイント、そして会社やキャリアを守りながら穏便に解決するための実務的手順について、弁護士の視点から徹底的に解説します。
不貞慰謝料請求の概要と法的責任の構造

まずは、法律上どのような根拠で慰謝料が請求され、どのような責任を負うのかという基本構造を整理しておきましょう。
法律上の「不貞行為」とは
不貞慰謝料請求の法的根拠は、民法709条が定める「不法行為」です。婚姻関係にある配偶者以外の異性と性的関係を結ぶことは、相手夫婦の平穏な婚姻共同生活を侵害する違法な行為とみなされます。
ここで注意すべきは、法律上の「不貞行為」とは原則として「自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と肉体関係(性交または性交類似行為)を結ぶこと」を指すという点です。 社内の同僚と「2人きりで頻繁にランチや飲みに行っていた」「業務外で親密なLINEやチャットを送り合っていた」「手をつないで歩いていた」といった事実だけでは、道義的な非難を浴びることはあっても、直ちに法律上の「不貞行為」として高額な慰謝料支払義務が発生するわけではありません。
「共同不法行為」と「不真正連帯債務」
不貞行為は、あなた一人で行ったものではなく、交際相手(相手方の配偶者)と共同で行った不法行為(共同不法行為)です。 これにより生じる慰謝料支払義務は、法律上「不真正連帯債務」と呼ばれます。
被害を受けた配偶者は、ご自身の配偶者に対して請求することも、あなたに対して全額請求することも法的に自由です。ただし、被害者が受けた精神的苦痛(損害)の二重取りは認められません。事案全体の適正な慰謝料額が200万円と評価される場合、交際相手からすでに200万円の支払いを受けていれば、あなたに対して重ねて満額の支払いを求めることはできなくなります。
裁判における不貞慰謝料の相場
相手方から300万円〜500万円といった高額な請求を受ける例を数多く見ますが、裁判実務における不貞慰謝料の相場は、おおむね50万円〜300万円程度です。具体的には、不貞発覚後の夫婦関係への影響度によって大きく左右されます。
- 不貞が原因で夫婦が離婚・別居に至った場合: 150万円〜300万円程度
- 離婚せず、夫婦関係を継続・再構築する場合: 50万円〜150万円程度
婚姻期間の長さ、未成熟の子どもの有無、不貞関係の期間や頻度などを総合考慮して金額が決定されます。相手夫婦が離婚しないにもかかわらず、300万円もの慰謝料を請求されている場合、それは裁判相場から見て明らかに過大請求といえます。
相手が「職場にいる相手」である場合特有の問題点

不倫の相手が同じ職場にいる人物である場合、一般的な不倫トラブルには見られない、以下のような極めて深刻かつデリケートな問題が発生します。
「職場への暴露」や「会社への怒鳴り込み」という実力行使のリスク
相手の配偶者が感情的になり、「誠意を見せないなら会社に不倫の事実をぶちまける」「上司や社長宛てに告発文を送りつける」「職場に直接乗り込んで騒ぎ立てる」と脅してくるケースが多発します。 日々の業務に支障が出るだけでなく、社内での信用を失う恐怖から、パニックになって相手の法外な言い値にサインしてしまう方が後を絶ちません。
「退職・異動の強要」という理不尽な要求
「顔を合わせるのが不快だから、今すぐ会社を自主退職しろ」「遠くの支社へ異動願いを出せ」といった要求をされることも珍しくありません。 しかし、後述のとおり、一私人にすぎない相手方の配偶者が、あなたの雇用契約や働き方に対して退職や異動を強制する法的権利は一切存在しません。
不倫を理由とする「解雇・懲戒処分」の不安
「会社に不倫がバレたら、クビ(懲戒解雇)になってしまうのではないか」と恐れる方が多くいらっしゃいます。 しかし、労働法実務上、男女関係という極めてプライベートな私生活上の非行のみを理由として、企業が従業員を懲戒解雇することは原則として無効と判断されます。ただし、社内の風紀を著しく乱した、業務を放棄して密会を繰り返していた、社内メールや社用携帯を不適切に私的利用していたなどの事情がある場合、戒告・減給・配置転換などの処分を受けるリスクは残ります。
示談成立後も「顔を合わせざるを得ない」接触禁止のジレンマ
不貞慰謝料の示談書には、通常「今後一切の接触を禁止する(接触禁止条項)」が盛り込まれます。 しかし、同じ部署や同じチームで勤務している場合、業務上の打ち合わせや業務連絡を完全に遮断することは不可能です。「業務上の必要最小限の連絡」と「私生活上の接触」をどのように線引きして条項を作成するか、極めて緻密な法的主張と文言調整が求められます。
職場の上下関係(パワハラ・セクハラ)が絡むケース
相手が「直属の上司」や「人事権を持つ役員」であった場合、立場の優位性を利用されて関係を強要されたり、断りきれずに肉体関係を持たされたりしたケースがあります。 このような場合、あなたは単なる加害者ではなく、職権濫用によるハラスメントの被害者という側面を持つことになり、慰謝料支払義務の存否や責任割合に決定的な影響を及ぼします。
職場内不倫で慰謝料請求された直後に「絶対にやってはいけないこと」

相手方から通知書が届いたり、直接呼び出されたりした際、恐怖や焦りから反射的に以下の行動をとってしまうと、取り返しのつかない不利益を被ることになります。
焦って相手の提示額や示談書・誓約書にサインする
相手から「今日中にこの念書にサインしろ」「サインしなければ明日会社に連絡する」などと強い口調で脅迫されても、その場で署名・押印してはいけません。 一度サインしてしまうと、法的には「その金額・条件で有効な合意が成立した」と扱われます。後から「脅されて書かされた」「相場より高すぎる」と争って合意を取り消すことは裁判上極めて困難です。必ず「弁護士に相談してから回答します」と告げ、持ち帰る勇気を持ってください。
恐怖のあまり通知書を無視・放置する
「会社に知られたくないから」「お金がないから」と通知を放置し続けると、相手方は「誠意がない」と激怒し、本当に職場へ連絡を入れてきたり、裁判所へ民事訴訟を提起したりします。裁判を起こされれば、自宅に訴状が届いて同居家族に発覚するだけでなく、最終的には給料口座を差し押さえられ、会社に裁判沙汰が公知となる最悪の結果を招きます。
社内の不倫相手と安易に口裏合わせや証拠隠滅を図る
焦って社内の交際相手に連絡を取り、「社内チャットやLINEの履歴を全部消して」「関係はなかったことにしてほしい」と口裏を合わせようとする行為は極めて危険です。相手方の配偶者は、すでに探偵の調査報告書やスマートフォンのバックアップなど確実な証拠を握っていることが多く、証拠隠滅の形跡が露呈すると「不誠実で反省の色がない」とみなされ、裁判で慰謝料が増額される要因になります。
相手の退職要求・異動要求を鵜呑みにして退職届を出す
「責任を取って会社を辞めます」と自ら退職届を出してしまうと、職と収入を同時に失い、その後の生活や慰謝料の支払いに深刻な破綻をきたします。退職に応じる義務は法的に一切ありませんので、決して早まった行動をとってはいけません。
職場内不倫で請求された側が行うべき「法的反論」と「減額のポイント」

相手から請求された金額をそのまま支払う必要はありません。法律および裁判例に基づき、以下の反論要素を精査して適正な水準まで減額交渉を進めます。
職場の上下関係・主導権による責任割合の主張
不倫関係が始まった経緯において、相手方配偶者が「上司」「先輩」などの優位な立場にあり、業務上の地位や人事権を背景に強引に関係を迫ってきた場合、あなたの帰責性は相対的に低いと評価されます。 裁判例においても、上司側が主導して始まった職場内不倫については、部下側の慰謝料額が大幅に減額される傾向にあります。
「不倫相手も既婚者」である場合(W不倫と求償権)
あなた自身にも家庭(配偶者)がある、いわゆる「W不倫」であった場合、極めて強力な防御策が存在します。あなたの配偶者もまた、社内の交際相手に対して慰謝料を請求できる権利を持っています。また、あなたが慰謝料全額を支払った場合、交際相手に対して半額相当を返還請求できる「求償権」が発生します。 双方が離婚しない場合、お互いの慰謝料請求権と同額で相殺し、金銭のやり取りを一切行わない「ゼロ和解」で全面清算するスキームが実務上極めて有効です。
婚姻関係破綻の抗弁
交際を開始するより前の段階で、相手方夫婦がすでに長期間別居していたり、離婚協議が具体的に進んでいたりした場合、法的に保護すべき婚姻生活がすでに破綻していたとして、慰謝料支払義務そのものが否定される可能性があります。
※ただし、単に「妻(夫)とうまくいっていない」「近いうちに別れる」と口頭で聞かされていた程度では、破綻とは認められにくい点には注意が必要です。
不貞行為(肉体関係)の不存在
「社内で親密に会話していた」「2人で食事に行った」事実があっても、肉体関係が存在しない場合、あるいは相手方に肉体関係を推認させる客観的証拠がない場合、法律上の不貞行為責任は成立せず、請求を完全に拒否することができます。
職場・キャリア・生活を守るための防衛実務

職場内不倫のトラブルにおいて、依頼者が最も強く望まれるのは「会社に知られず、仕事を続けながら穏便に解決したい」という点です。そのための法的防衛策を解説します。
相手方の「職場への暴露」「嫌がらせ」は違法行為
怒りに任せて「会社にバラす」「職場に乗り込む」と脅す行為や、実際に社内へ密告する行為は、名誉毀損罪(刑法230条)や脅迫罪(刑法222条)、威力業務妨害罪(刑法234条)などの犯罪に該当し得る重大な違法行為です。たとえ相手が被害者であっても、法的手続きを逸脱した私的制裁は許されません。 万が一会社に暴露された場合、相手方に対して逆に不法行為に基づく損害賠償請求を行ったり、刑事告訴を検討したりすることが可能であり、このリスクを相手方弁護士へ論理的に突きつけることで、このような行動を取ることを抑止できます。
退職や異動に応じる法的義務はない
相手方の配偶者が「会社を辞めろ」と要求してきても、法律上これに従う義務は毛頭ありません。 労働者が会社を退職するかどうかは、労働者本人と雇用主(会社)との間の契約問題であり、部外者である不倫相手の配偶者が指図できる権限はないからです。示談交渉においても、「退職要求には一切応じられない」旨を毅然と突っぱねることが実務上の鉄則です。
職場での「接触禁止条項」を現実的に設計する
示談書を取り交わす際、相手方はほぼ確実に「接触禁止条項」を求めてきます。 しかし、同じ職場で働き続ける以上、「いかなる理由があっても一切の接触・会話を禁止する」という厳格すぎる条項を結んでしまうと、業務上の挨拶やメールのやり取りだけで「条項違反」とみなされ、数十万円〜数百万円の違約金を請求されるリスクを抱えることになります。 そのため、示談書には「ただし、業務の遂行上真にやむを得ない範囲における必要最小限の業務連絡・接触についてはこの限りではない」といった除外規定を必ず明記させることが不可欠です。
職場内不倫の示談交渉を弁護士に依頼するメリット

職場内不倫の慰謝料問題は、感情の激しい対立に加えて雇用問題が直結するため、当事者間での解決は極めて困難です。弁護士へ依頼することにより、以下の決定的なメリットが得られます。
職場への接触・連絡を即座に完全ブロックできる
弁護士が代理人に就任すると、相手方に対して直ちに「受任通知」を送付します。この書面において、「以後の連絡窓口はすべて代理人弁護士とする」「当事者本人への直接の連絡、自宅や勤務先への訪問・架電は一切禁止する」旨を厳格に通告します。これにより、相手方が職場に乗り込んできたり、嫌がらせ電話をかけてきたりするリスクを封じ込めることができます。
会社や周囲に知られずに解決できる
弁護士が間に入ることで、すべての交渉は書面や電話を通じて代理人同士で水面下で進められます。相手方の感情的な暴発を防ぎ、裁判を回避して早期に示談をまとめることで、会社や同僚、家族に知られることなく紛争を完全に終結させることが可能です。
妥当な裁判相場への大幅減額と適正な条件設定
弁護士は、職場の上下関係、交際期間、求償権の放棄などを緻密に主張し、相手方の法外な言い値(300万円〜500万円など)を裁判基準の適正額(数十万〜100万円程度)まで引き下げます。また、無理のない分割払いの交渉や、業務に配慮した接触禁止条項、秘密保持条項の策定など、将来の生活を守る万全の合意書を作成します。
まとめ

- 職場内不倫であっても、相手の言い値(300万〜500万円)をそのまま支払う義務はなく、裁判所の相場(離婚しない場合は50万〜150万円程度)まで大幅に減額できる可能性が高い。
- 相手が「会社にバラす」「職場に乗り込む」と脅す行為は、名誉毀損罪や脅迫罪にあたる違法行為であり、屈する必要はない。
- 一私人にすぎない相手の配偶者に、あなたの退職や異動を強制する法的権利は一切存在しない。
- 同じ職場で働き続ける場合、示談書における接触禁止条項に「業務上の必要最小限の接触を除く」という除外規定を盛り込むことが実務上極めて重要。
- 弁護士が介入して窓口を一本化することで、職場への連絡を遮断し、社内に知られることなく平穏な解決を図ることができる。
職場内不倫による慰謝料請求は、一歩初動を誤るとキャリアや社会的立場まで失いかねない非常に危険なトラブルです。相手からの請求や脅迫に一人で怯え、不利な合意書にサインしてしまう前に、速やかに男女問題・不貞トラブルの解決実績が豊富な弁護士へご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。




