労災の休業補償はいつまでもらえる?金額の計算方法・振込までの期間・申請手続きの流れ――弁護士が解説
【この記事のポイント】
労災事故でケガをして会社を休むことになったとき、「休んでいる間の収入はどうなるのか」「いくら、いつまでもらえるのか」「どうやって申請するのか」は、誰もが気になるところです。労災保険の休業(補償)給付は、3つの条件を満たせば休業4日目から、ケガが治る(症状固定する)まで支給され、金額は給付基礎日額の80%です。申請から振込までは1か月程度かかるのが一般的です。そして、労災保険から支給されるのは給料の8割までですが、会社に過失がある事故では、足りない分を会社に請求できる可能性があります。本記事では、受け取れる条件、計算方法、振込までの期間、申請の流れ、そして会社への請求までを、順番に解説します。

1. 労災の休業補償(休業給付)とは?受け取れる3つの条件

1. 労災の休業補償(休業給付)とは?受け取れる3つの条件

労災事故にあった場合、ケガの治療のために会社を休まざるを得ないことがあります。そこで気になるのが「会社を休んでいる間の収入はどうなるのか」という点です。

結論として、労災保険から「休業(補償)給付」を受け取れる場合があります。ただし、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

条件解説
①業務上の事由または通勤による負傷・疾病の療養のため仕事中のケガ(業務災害)または通勤中のケガ(通勤災害)であり、その治療のために休んでいること
②労働することができないため療養のため、これまで行っていた業務ができない状態であること(医師の証明が必要)
③賃金を受けていない休業した期間について、会社から給与が支払われていないこと

これらの条件を満たす限り、休業4日目からその期間中、休業(補償)給付が支給されます。逆にいえば、最初の3日間(待期期間)については、労災保険からの給付はありません。業務災害の場合、この3日分については、労働基準法にもとづき、会社が平均賃金の60%を補償する義務があります。

会社が休みの日でも休業(補償)給付はもらえるのか

勤務日数にかかわらず、上記の3つの条件を満たしていれば支給されます。土日祝日や会社の所定休日であっても、療養のため働けない状態が続いていれば、給付の対象になります。

有給休暇を使った日はどうなるのか

有給休暇を使った日は賃金を受けているため、その日の休業(補償)給付は支給されません。会社から「有給で処理しておく」と言われたときは、有給休暇の残日数や休業の見込み期間を考えて、どちらを選ぶか判断しましょう。

2. 休業補償はいつまでもらえる?

2. 休業補償はいつまでもらえる?

休業(補償)給付は、原則として休業4日目から、ケガや病気が「治癒(症状固定)」するまで支給されます。健康保険の傷病手当金のような「最長1年6か月」といった期間の上限はありません。治療を続けている限り、何か月でも、何年でも対象になります。

労災保険でいう「治癒」とは、完全に元どおりになることではなく、症状が安定し、これ以上治療を続けても効果が期待できなくなった状態(症状固定)をいいます。症状固定になると休業補償は終わり、症状が残っている場合は、後遺障害の等級認定と障害(補償)給付の手続きに進みます(当サイトの「適切な後遺障害等級認定の重要性と手続について」もご覧ください)。

療養開始後1年6か月を経過しても治っておらず、その障害の程度が傷病等級(第1級〜第3級)に該当する場合には、休業(補償)給付に代わって「傷病(補償)年金」が支給されます。これは労働基準監督署の職権で決定されるもので、別途の請求手続きは必要ありません。傷病等級に該当しない場合は、引き続き休業(補償)給付が支給されます。

なお、休業中に退職しても、労災の給付は止まりません。労災保険の給付を受ける権利は、退職によって変わらないためです(当サイトの「退職しないで労災保険申請や損害賠償請求をすることはできる?」もご覧ください)。

3. 具体的な休業給付の計算方法

3. 具体的な休業給付の計算方法

休業1日につき、給付基礎日額の80%が支給されます。この80%の内訳は次のとおりです。

給付の名称支給割合性質
休業(補償)給付給付基礎日額の60%労災保険制度の本体からの給付
休業特別支給金給付基礎日額の20%社会復帰促進等事業からの上乗せ給付
合計給付基礎日額の80%この2つを合わせて支給されます

なお、所定労働時間の一部について労働した場合(一部休業日)には、その日の給付基礎日額から実際に働いた分の賃金額を控除した額の80%(60%+20%)が支給されます。通勤災害の場合は、初回の休業給付から一部負担金として200円が差し引かれます。

計算例:月20万円の給与を受けていた方の場合

賃金締切日が毎月末日で、事故が10月に発生したケースで具体的に計算してみます。

STEP1 給付基礎日額を計算する

給付基礎日額とは、原則として労働基準法の「平均賃金」に相当する額をいいます。平均賃金とは、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った、1日あたりの賃金額のことです。ここでいう「賃金」には、残業代や各種手当は含まれますが、臨時に支払われた賃金や、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。

上記の例では、20万円×3か月÷92日(7月31日+8月31日+9月30日)≒6,521円73銭となり、給付基礎日額に1円未満の端数がある場合は1円に切り上げるため、給付基礎日額は6,522円です。

STEP2 給付基礎日額をもとに休業(補償)給付を計算する

休業4日目以降について、労災保険から支給される1日あたりの給付額を計算します。

給付の名称計算式1日あたりの金額
休業(補償)給付(60%)6,522円×0.63,913円
休業特別支給金(20%)6,522円×0.21,304円
合計3,913円+1,304円5,217円

1円未満の端数が生じた場合には、これを切り捨てます。簡単にまとめると、労災保険からは、労災が計算した給料の6割(休業補償給付)+特別支給の2割(休業特別支給金)=合計8割が支給されます。では、足りない2割はどうなるのでしょうか。実はこの点にこそ、多くの方が知らない重要なポイントがあります(第6章で詳しく解説します)。

4. 休業補償はいつ振り込まれる?

4. 休業補償はいつ振り込まれる?

休業(補償)給付は、自動的に支払われるものではなく、請求書を労働基準監督署に提出した後、審査を経て支給が決定され、指定した口座に振り込まれます。

項目目安・ポイント
振込までの期間請求書が受理されてから支給決定までは1か月程度が一般的です。初回は労災かどうかの調査が行われるため、調査の内容によっては、これより長くかかることもあります
請求の頻度休業が長期にわたる場合は、1か月ごとに請求するのが一般的です。まとめて請求すると審査に時間がかかり、支給が遅れるおそれがあります
2回目以降の請求労災認定のための調査は初回請求時に行われるため、2回目以降は書類に不備がなければ比較的スムーズに支給されます

事故から数えると、最初の振込までに2か月以上かかることも珍しくありません。その間の生活費に不安がある場合は、会社が休業補償給付相当額を先に立て替える「受任者払い」などの方法があります。当サイトのコラム「労災がおりるまでの生活費はどうする?」で詳しく解説しています。

5. どのように休業給付を申請するのか(手続きの流れ)

休業(補償)給付は、被災した労働者ご本人が請求手続きを行う必要があります。手続きは大きく3つのステップに分かれます。

STEP1 請求書の準備

まず、災害の種類に応じた請求書の様式を入手します。用紙は労働基準監督署の窓口で交付を受けられるほか、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることもできます。

災害の種類使用する様式正式名称
業務災害(仕事中のケガ)様式第8号休業補償給付支給請求書・休業特別支給金支給申請書
通勤災害(通勤中のケガ)様式第16号の6休業給付支給請求書・休業特別支給金支給申請書

請求書本体のほか、「別紙1(平均賃金算定内訳)」などの添付書類が必要になります。通勤災害の場合は、通勤経路や災害発生状況を記載する書類も必要です。

STEP2 請求書への記入と証明の取得

請求書には、ご本人の記入に加えて、医師と会社(事業主)それぞれの証明が必要です。

記入・証明する人内容
①被災労働者ご本人氏名・住所・災害発生の状況・休業した期間・振込先口座などを記入します
②医師(診療担当者)「診療担当者の証明」欄に、療養のため労働できなかった期間などを証明してもらいます。通院先の病院に請求書を持参して依頼します
③会社(事業主)「事業主証明」欄に、休業した事実・その期間に賃金を支払っていないこと・平均賃金の算定内訳などを証明してもらいます

会社が事業主証明欄への記入を拒否するケースがありますが、その場合でも申請をあきらめる必要はありません。証明を得られない旨を記載したうえで、労働基準監督署に提出することができます。労災かどうかを決めるのは会社ではなく、労働基準監督署です(当サイトの「会社が労災を認めてくれないときの対処法|労災隠しと事業主証明の拒否について弁護士が解説」もご覧ください)。

平均賃金の計算と記入は会社が行いますが、この金額が給付額を左右します。ご自身の給与明細と照らし合わせ、残業代や手当が漏れていないか、必ず確認してください。

STEP3 労働基準監督署へ提出

準備が整った請求書と添付書類を、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。提出方法は、窓口への持参または郵送が一般的です。提出後、労働基準監督署が業務災害(または通勤災害)に該当するかを審査し、支給・不支給が決定されます。

休業(補償)給付の請求権は、賃金を受けない日ごとにその翌日から2年で時効になります。早めの請求を心がけてください。

申請方法についてさらに詳しく知りたい方はこちら
請求書の記入方法や添付書類など、申請手続きの詳細は、当サイトの「労災の休業補償とは?申請手続きと金額を弁護士がわかりやすく解説」で解説しています。

6. 合計で8割しかもらえないのか?――足りない分は会社に請求できます

6. 合計で8割しかもらえないのか?――足りない分は会社に請求できます

ここまで見てきたとおり、労災保険から支給されるのは給付基礎日額の8割までです。「残りの2割はどうなるの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。

実は、会社に過失のある労災事故の場合、会社に対して「労災から6割をもらったから、残りの4割を補償してください」と請求することができます。なぜなら、「休業特別支給金の2割」は、損害賠償との調整(差し引き)の対象にならないためです。つまり、特別支給金は受け取ったうちにカウントしなくてよいのです。

なぜ「2割」ではなく「4割」を請求できるのか

給付の名称割合損害賠償との調整
休業(補償)給付60%調整される(受け取った分として差し引かれる)
休業特別支給金20%調整されない(そのまま手元に残る)

休業特別支給金は、労災保険の本体給付ではなく「社会復帰促進等事業」として支給されるものです。そのため、会社への損害賠償請求の際に「すでに受け取った金額」として差し引かれません。したがって、損害の100%のうち、労災保険で填補されたとみなされるのは休業(補償)給付の60%のみで、残りの40%(4割)については、会社に対して損害賠償として請求できることになります。労災保険の8割と会社への請求の4割を合わせると、合計で12割になります(会社に100%過失のある労災事故が前提です。ご本人にも過失がある場合は、その割合に応じて会社への請求額が減らされることがあります)。

また、労災保険からは、精神的苦痛に対する「慰謝料」は一切支払われません。会社に安全配慮義務違反(労働契約法第5条)が認められる場合には、休業損害の不足分に加えて、慰謝料も請求することができます(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」もご覧ください)。

【注意】会社はここまで教えてくれません
「労災保険から8割出るので、それで終わりです」――会社からそう説明され、それ以上請求できることを知らないまま示談してしまう方が少なくありません。会社に過失がある場合、あなたにはもっと多くの補償を受け取る権利があります。少しでも疑問があれば、示談する前に弁護士にご相談ください。
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7. まとめ

7. まとめ
  1. 休業(補償)給付は、3つの条件を満たせば休業4日目から、治癒(症状固定)まで支給される。期間の上限はない
  2. 支給額は給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)
  3. 申請から振込までは1か月程度。休業が長引く場合は1か月ごとに請求する
  4. 申請は様式第8号(通勤災害は様式第16号の6)に医師と会社の証明を得て労基署へ提出。会社が証明を拒んでも申請できる
  5. 労災保険だけでは8割まで。会社に過失がある場合、残り4割と慰謝料を会社に請求できる
  6. 休業(補償)給付の請求権は2年で時効。早めの手続きが重要

労災の休業補償は、制度を正しく理解しているかどうかで、受け取れる金額に大きな差が生まれます。特に「会社への請求」については、会社側から積極的に説明されることはまずありません。わからないことがあれば、一人で判断せず、まずは弁護士にご相談ください。あなたが本来受け取るべき補償を、しっかりと確保するお手伝いをいたします。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、地域の皆様の法律問題に一貫して寄り添って参りました。仕事中の事故やケガ、病気でお困りの方とそのご家族が、適正な補償を受けられるよう、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。
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【出典・参照条文】

  • 労働者災害補償保険法第8条(給付基礎日額)・第14条(休業補償給付)・第12条の8第3項(傷病補償年金)・第42条(時効)
  • 労働者災害補償保険特別支給金支給規則第3条(休業特別支給金)
  • 労働基準法第12条(平均賃金)・第76条(休業補償)
  • 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
  • 最高裁判所平成8年2月23日第二小法廷判決(特別支給金と損害賠償額の調整)
  • 厚生労働省パンフレット「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」
  • (注)本記事は一般的な解説であり、実際の支給額や振込までの期間は、賃金の内容や調査の状況により異なります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

労働災害(労災)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。