【交通事故】お子様が重傷を負ったとき|逸失利益・学習費・将来の進路と賠償を弁護士が解説

小学生のお子様が下校中にはねられた。中学生が自転車で走行中に車と衝突した。保育園の送り迎えの途中で事故に遭った。

お子様の重傷事故は、ご家族にとって最もつらい事故です。そして賠償の面でも、大人の事故とは異なる難しさがあります。働いていないお子様の逸失利益をどう算定するのか。障害が学習や進路にどう影響するのか。症状固定をいつにすべきなのか。

さらに、お子様の後遺障害は、これから五〇年、六〇年にわたって続きます。それだけに、賠償額は大人の事案より大きくなり、保険会社も強く争ってきます。

本記事では、お子様が重傷を負われた事案について、争点ごとの考え方を、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

逸失利益の算定

逸失利益の算定

基礎収入は賃金センサスの平均賃金

まだ働いていないお子様については、実収入がありませんので、賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の全年齢平均賃金を基礎収入とします。

男児については男性労働者の学歴計全年齢平均賃金を用います。女児については、かつては女性労働者の平均賃金が用いられていましたが、男女の賃金格差をそのまま将来の損害に反映させるのは相当でないとして、現在は男女を合わせた全労働者の学歴計全年齢平均賃金を用いるのが一般的になっています。

もっとも、死亡事案では生活費控除が行われるため、全労働者平均を基礎として控除率四〇パーセントから四五パーセントで算定するか、女性平均を基礎として控除率三〇パーセントで算定するかで有利不利が変わります。赤い本は、令和三年以降は後者の方が高額となっていることに注意すべきであると指摘していますので、双方を計算して有利な方を主張する必要があります。

大学進学の蓋然性が認められる場合には、大学卒業者の平均賃金を基礎とすることもあります。本人の学業成績、在籍校の進学率、ご家庭の経済状況や兄姉の進学状況などが判断材料になります。

就労の始期と終期

赤い本の基準では、未就労者の就労の始期は原則として一八歳、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時とされ、終期は原則として六七歳とされています。

したがって、事故当時八歳のお子様であれば、症状固定から一八歳までの期間は逸失利益が発生せず、一八歳から六七歳までの四九年間について労働能力の喪失が認められるという構造になります。

この「待機期間」があるため、中間利息控除の影響が大きくなります。令和二年四月一日以降に発生した事故については法定利率は年三パーセントで、この年三パーセントは令和一一年三月三一日までは変わらないことが決まっています。

それでも、喪失期間が四〇年から五〇年に及びますので、第一級の事案では逸失利益だけで一億円前後に達することも珍しくありません。

労働能力喪失率

等級ごとの喪失率は大人と同じです。第一級から第三級までが一〇〇パーセント、第五級七九パーセント、第七級五六パーセント、第九級三五パーセント、第一二級一四パーセントなどとなっています。

保険会社は「子どもなのでこれから新しい職業を身につけられる」として喪失率の引下げを主張することがありますが、これは逆です。裁判例は、若くして重大な障害を負ったこと、職業選択の幅が最初から狭められたことを、慰謝料の増額事由として考慮してきました。

裁判例には、高次脳機能障害(第九級一〇号)の中学生(女・症状固定時一五歳)について、六七歳まで三五パーセントの労働能力喪失を認めたうえ、額の上の生え際から一センチメートルのところに四センチメートルの線状痕が残ったことも考慮して七五〇万円の慰謝料を認めたものがあります。

後遺障害慰謝料は増額されやすい

赤い本の基準では、後遺障害慰謝料は第一級二八〇〇万円、第二級二三七〇万円、第三級一九九〇万円、第五級一四〇〇万円、第七級一〇〇〇万円、第九級六九〇万円が目安です。

お子様の事案では、この基準額を上回る認定がなされることが少なくありません。若くして重大な障害を負ったこと、学業の道を事実上断たれたこと、将来の職業選択の範囲を狭められたこと、ご両親の介護の負担が長期にわたることなどが、増額事由として考慮されます。

裁判例には、高次脳機能障害(第五級二号)の高校生(男・症状固定時一八歳)について、事故により高校における学業の途を事実上断たれ、将来の職業選択の範囲を狭められる結果となったことなどを考慮して、傷害分二五〇万円のほか後遺障害分一五〇〇万円を認めたものがあります。

また、左下肢を足関節以上で失った(第五級五号)大学生(男・症状固定時二〇歳)について、加害者が不合理な主張・陳述を行い続けたことで争点が不明確になり著しい精神的苦痛を与えたことなどから、傷害分二二六万円のほか後遺障害分一六〇〇万円を認めた例もあります。

症状固定の時期が難しい

症状固定の時期が難しい

障害が「見えてくる」のに時間がかかる

お子様の後遺障害の最大の特徴は、障害が後から顕在化することです。

特に高次脳機能障害では、受傷直後は会話もでき歩けるため「後遺症はない」と言われることがあります。ところが、学年が上がって学習内容が抽象的になると、急についていけなくなります。中学校の数学、高校の受験勉強、大学の専門科目。段階が上がるたびに、新たな困難が現れます。

また、幼児期に受傷した場合は、そもそも事故前の能力との比較ができません。「もともとこういう子だった」という主張に対して、何を根拠に反論するかが問題になります。

症状固定を急がない

保険会社は受傷から六か月から一年で症状固定を打診してきますが、お子様の事案でこれに応じるべきではありません。

就学前のお子様であれば就学後、小学生であれば進級・進学の段階まで経過を見て、学習上・生活上の困難が具体的に現れてから判断すべきです。裁判例でも、学齢が上がってから障害の程度が明らかになった事案が多数あります。

治療費を打ち切られても、健康保険(通学中の事故で学校の管理下であれば災害共済給付も併用可)に切り替えて通院を継続できます。健康保険を使う場合は、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出します。

学校の記録を確保する

お子様の障害を立証するうえで、学校の記録は決定的な資料になります。

通知表、成績の推移、出席状況、担任の所見、特別支援学級や通級指導教室の利用状況、個別の指導計画、就学支援委員会の記録。事故前と事故後で何が変わったかを示す資料として、いずれも有力です。

担任の先生に、授業中の様子、友人関係、集中の持続時間について陳述書を書いていただくことも検討します。学校は年度で担任が替わりますので、記憶が新しいうちに依頼することが大切です。

お子様の事案に特有の損害

お子様の事案に特有の損害

学習費・保育費

赤い本は、学生・生徒・幼児等の学習費、保育費、通学付添費等を独立の損害項目として掲げています。

裁判例には、進級が遅れた場合の授業料や補習費を認めたもの、家庭教師や塾の費用を損害と認めたもの、受傷によって無駄になった支払済みの教育費(授業料)や通学定期代を認めたもの、保育料を認めたもの、通学付添費を認めたもの、通学のために賃借したマンションの賃料等を認めたもの、家族の監護料を認めたものがあります。

復学のために要した費用も損害となります。塾や家庭教師の費用は領収書を保管し、支出の必要性が分かるようメモを残しておいてください。

付添費の増額

赤い本の基準では、入院付添費は職業付添人が実費全額、近親者付添人が一日につき六五〇〇円とされていますが、症状の程度により、また被害者が幼児・児童である場合には、一割から三割の範囲で増額が考慮されるとされています。

通院付添費は一日につき三三〇〇円が目安ですが、お子様の場合は付添いが当然に必要ですので、認められやすい項目です。

また、付添いのためにご両親が仕事を休んだ場合、付添費の日額を超える減収が生じたときは、実際の減収額を損害とする裁判例もあります。給与明細や勤務表で減収の事実を示せるようにしておいてください。

近親者の慰謝料

第一級・第二級といった重度後遺障害の場合には、民法七一一条の類推適用により、ご両親固有の慰謝料が認められます。

裁判例では、遷延性意識障害(別表第一第一級一号)の高校生(男・症状固定時一七歳)についてご本人分三〇〇〇万円、父母各四〇〇万円の合計三八〇〇万円を認めた例、脊髄損傷により両下肢麻痺等(別表第一第一級一号)となった男児(事故時二歳七か月)について傷害分二五〇万円のほかご本人分三〇〇〇万円、父母各四〇〇万円の合計三八〇〇万円を認めた例があります。

また、高次脳機能障害(別表第一第二級一号)の高校生(男・症状固定時一五歳)について、ご本人分三一〇〇万円、父母各一五〇万円、妹五〇万円の合計三四五〇万円を認めた例もあり、兄弟姉妹にも慰謝料が認められています。

将来介護費と家屋改造費

重度の後遺障害が残った場合、将来介護費は平均余命までの期間について算定されます。お子様の事案では期間が七〇年、八〇年に及びますので、総額は極めて大きくなります。

赤い本の基準は、職業付添人が実費全額、近親者付添人が一日につき八〇〇〇円を目安としつつ、具体的看護の状況により増減することがあるとしています。裁判例では、ご両親が六七歳に達するまでは近親者介護を前提とし、それ以降は職業介護人による介護を前提として日額を引き上げる、二段構えの認定が多くみられます。もっとも、介護者の年齢や健康状態に応じて、区切りの時期は事案ごとに判断されています。

住宅のバリアフリー化、福祉車両への改造、車椅子や装具の買替費用も請求できます。成長に伴って装具を頻繁に作り替える必要があることは、お子様の事案に特有の事情です。

過失相殺と手続

過失相殺と手続

事理弁識能力と被害者側の過失

お子様自身に過失相殺が適用されるかは、事理弁識能力(危険を理解する能力)の有無によります。おおむね五歳から六歳程度で事理弁識能力が認められるとされており、それ未満の幼児には過失相殺が適用されません。

もっとも、幼児の場合でも、監督者である親に監督上の過失があれば、「被害者側の過失」として減額される場合があります。

また、別冊判例タイムズの基準では、被害者が児童や幼児である場合には修正要素として過失が減算されます。提示された過失割合をそのまま受け入れる必要はありません。

未成年者の示談と親権者

未成年のお子様の示談は、法定代理人である親権者が行います。ただし、ご両親とお子様の利害が対立する場合(たとえば同乗していた親の運転が事故原因である場合)には、特別代理人の選任が必要になることがあります。

また、受け取った賠償金の管理方法も問題になります。高額の賠償金を長期にわたって管理することになりますので、使途と管理方法をあらかじめ整理しておくことをお勧めします。

時効

人身損害の損害賠償請求権の時効は、損害及び加害者を知った時から五年です。後遺障害については症状固定日が起算点になります。自賠責保険への請求は、症状固定の翌日から三年です。

お子様の事案では症状固定が遅くなりますが、時効の起算点も後ろにずれますので、焦って示談する必要はありません。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①症状固定時期についての助言

進級・進学の節目まで経過を見るべきか、医学的な見通しを踏まえて助言し、治療費打切り後の通院方法もご案内します。

②学校の記録と陳述書の収集

通知表、個別の指導計画、担任の所見などを整理し、必要に応じて担任の先生の陳述書を取得します。

③被害者請求と異議申立て

弁護士名義の意見書を添えて被害者請求を行い、認定結果に不服があるときは異議申立てを行います。

④将来損害の積算と交渉・訴訟

将来介護費、家屋改造費、装具の買替費用、学習費を積算し、近親者慰謝料も含めて請求します。折り合えない場合には訴訟を提起します。

おわりに

おわりに

お子様の後遺障害は、これからの人生のほとんどの期間にわたって続きます。だからこそ、賠償額は大きくなり、そして一度の判断の誤りが取り返しのつかない差になります。

特に危ういのは、症状固定を急いでしまうことです。「元気に歩いているから大丈夫」と言われても、学年が上がってから困難が現れることは、裁判例が繰り返し示してきました。

焦って示談をする必要はありません。進級後の様子に気になることがあれば、その段階でもご相談いただけます。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

交通事故

弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。