
日々、多くの労働者の方から残業代に関するご相談をお受けする中で、近年特に急増しているのが「タイムカードがない」「会社に都合よく改ざんされている」というご相談、そして「テレワーク(在宅勤務)だから残業代は出ないと言われた」というご相談です。
かつて、残業代請求といえば「タイムカードのコピー」や「手書きの業務日報」が必須の証拠とされてきました。そのため、タイムカードが存在しなかったり、上司から強制的に定時で打刻させられたりしている方々は、「証拠がないから」と泣き寝入りを余儀なくされるケースが少なくありませんでした。
しかし、現代はデジタル社会です。日々何気なく使用しているスマートフォン、パソコン、交通系ICカード、そして各種チャットツールには、あなたの「真の労働時間」を証明するデジタルデータが記録されています。
本コラムでは、タイムカードに代わる「デジタル証拠」の集め方と法的有効性、そしてテレワーク特有の「みなし労働」を打破して残業代を勝ち取るためのノウハウについて弁護士が詳しく解説いたします。
「タイムカードがない」・「改ざんされた」場合の法的対処法

まず大前提として、労働基準法および労働安全衛生法上、使用者は労働者の労働時間を「客観的な記録」によって適正に把握する義務を負っています。
タイムカードを設置していない、あるいは定時で強制的に打刻させるといった行為(いわゆる「サービス残業」の強要)は、厚生労働省のガイドラインにも違反する悪質な行為です。
また、裁判実務において、労働時間を証明する手段はタイムカードに限定されていません。タイムカードがない、あるいは打刻時間が実態と乖離して改ざんされている場合、労働者側が「別の客観的証拠」を提示することで、実際の労働時間を証明することが可能です。
会社がタイムカードを隠蔽・改ざんしている場合、むしろ「会社側の時間管理はずさんであった」として、労働者側が提示する代替証拠の信用性が高く評価される傾向にあります。
代替証拠「デジタルデータ」の集め方とその証拠能力

では、具体的にどのようなデジタルデータが残業代請求の証拠(証拠能力)として認められるのでしょうか。代表的な4つのデジタル証拠と、その集め方を解説します。
① PC(パソコン)のログオン・ログオフ履歴、操作ログ
現代の業務において、パソコンを使わずに仕事をすることはほぼ不可能です。
そのため、PCの起動(ログオン)とシャットダウン(ログオフ)の時刻は、「業務の開始・終了時刻」を推認させr強力なう証拠となります。
会社貸与のPCであっても、返却前に自分のスマホでログ画面を撮影する、あるいはCSV形式でエクスポートして個人のUSBメモリやクラウドにバックアップしておくことが有効です。(※ただし会社の機密情報持ち出し規則には抵触しないよう、ログデータのみに留める注意が必要です)。
また、業務システムや社内サーバーへのアクセスログ、VPNの接続・切断履歴も同様に強力です。
② LINE、Slack、Chatwork等のメッセージ送信時刻
社内外のコミュニケーションツールとして使われるチャットの送信履歴も、立派な労働時間の証拠です。
業務連絡のチャット:上司への「本日の業務終了しました」という報告LINEや、深夜にクライアントへ返信したSlackの時刻は直接的な証拠になります。
これらは「送信日時」が明確にわかるように、画面のスクリーンショットを撮るか、トーク履歴をテキストファイルとしてエクスポートして保存しておきましょう。
③ Googleマップのロケーション履歴(タイムライン)
スマートフォンのGPS機能を利用した位置情報データです。Googleマップの「タイムライン」機能をオンにしておくと、何時何分に会社(特定の場所)に到着し、何時何分に離れたかが秒単位で自動記録されます。
「職場に滞在していたこと」を証明する客観的データとして有用です。
ただし、会社側から「会社にはいたが、仕事はせずに休憩していただけだ」と反論されるリスクがあるため、単体ではなく後述する「合わせ技」で用いるのが効果的です。
④ 交通系ICカード(Suica・PASMO等)の乗降履歴
通勤に使用している交通系ICカードの改札通過記録です。
駅の券売機で直近の利用履歴(最大100件や26週間など、鉄道会社により異なる)を印字することができます。モバイルSuica等の場合はアプリ上から履歴をダウンロード可能です。
「最寄り駅を深夜23時に通過しているのだから、定時の18時に退勤したというのはあり得ない」という、会社側の主張(改ざんされたタイムカードなど)の矛盾を突くための強力な補助証拠となります。
★弁護士のワンポイント:証拠は「合わせ技」で
デジタル証拠は、単体では「PCをつけっぱなしにしていただけ」・「会社に残って私用スマホを見ていただけ」と反論される余地が残ります。
しかし、「Googleマップで22時まで会社にいた記録」+「21時50分に上司に送ったSlackの履歴」+「22時15分のSuicaの改札通過履歴」という複数のデジタルデータを組み合わせることで、会社側の言い逃れを封じ込め、裁判官にも「間違いなくこの時間まで労働していた」と認定してくれる可能性が高まります。
テレワーク・在宅勤務における残業代請求の壁と突破口

新型コロナウイルスの流行以降、テレワーク(在宅勤務)が普及しましたが、それに伴い、「テレワーク中は残業代が出ない」と会社から告げられ、サービス残業を強いられている方からのご相談が一定数あります
会社側がテレワーク残業代の支払を拒否する際、よく使われる反論の1つとして「在宅勤務は『事業場外みなし労働時間制』を適用しているから、何時間働いても定時(例:8時間)働いたとみなされる。だから残業代は発生しない」があります。
しかし、労働基準法上の「事業場外みなし労働時間制」が適用されるには、「労働時間を算定し難いとき」という極めて厳格な条件をクリアしなければなりません。現代のテレワーク環境において、この条件が認められるケースは実は非常に稀なのです。
テレワークであっても、労働者が使用者の「指揮命令下(しきめいれいか)」に置かれていれば、通常の労働時間としてカウントされ、当然に残業代が発生します。
以下のような実態があれば、「労働時間を算定し難い」とは言えず、みなし労働は無効(=残業代請求が可能)となる可能性があります。
・情報通信機器(PCやスマホ)が常時通信可能な状態に置かれている
会社から「業務時間中(残業中含む)は常にTeamsやSlack、Chatworkをログイン状態(オンライン)にしておくこと」と指示されている場合。
・随時、上司からの指示に即応しなければならない
メールやチャットで指示が飛んできたら、すぐに返信・対応することが求められている状態。
・業務の進捗を細かく管理されている
「1時間ごとに作業内容をチャットで報告する」「Web会議システム(Zoom等)を常時接続状態にして監視されている」といった場合。
テレワーク残業で集めるべき特有のデジタル証拠

テレワークにおける残業代請求では、あなたが「サボっていたのではなく、会社の指揮命令下で業務に従事していた」ことを証明する必要があります。そのためのデジタル証拠として以下を集めることが必要です。
・チャットツールの「ステータス履歴」や「ログイン・ログオフ時刻」
・深夜や休日に上司から送られてきた業務指示メール・チャットのスクリーンショット(「明日までにこの資料を作っておいて」等の指示)
・深夜帯に作成・更新したWord/Excel/PowerPoint等のファイル更新日時(プロパティ画面をスクショ)
・Web会議(Zoom、Teams等)の参加履歴や通話記録
会社が「みなし労働だから残業は命じていない」と主張しても、上司が深夜に業務連絡をしてきたり、深夜に更新されたファイルを翌朝の会議で使用していたりすれば、「黙示(暗黙)の残業命令」があったと法的に評価されます。
残業代請求に「弁護士を入れる」5つの絶大なメリット

ここまでデジタル証拠の集め方を解説してきましたが、集めた証拠を持って労働者個人が会社と交渉するのは、非常に困難でリスクが伴います。
「お前の証拠は法的に無効だ」、「勝手に残業しただけだろう」と一蹴され、最悪の場合はハラスメントや不当評価に繋がる恐れもあります。
残業代請求を成功させるために、弁護士に依頼する理由とメリットを解説します。
メリット1:集めたデジタル証拠の「証拠能力」を正確に評価・構築できる
集めた断片的なデータ(LINE、PCログ、GPSなど)を、裁判所や労働基準監督署が納得する「法的に意味のある証拠」へとパズルのように組み立てるには、専門的な法的知識が必要です。
弁護士は、どの証拠を前面に出し、どの証拠を補助として使うかという「勝つためのストーリー」を構築してくれます。
メリット2:「みなし労働」や「固定残業代」の違法性を突いてくれる
会社側は、「当社はみなし労働制だから」、「固定残業代を払っているから」と、もっともらしい法的専門用語で反論してきます。
一般の方ではこれに言い返すのは困難ですが、労働法に精通した弁護士であれば、過去の判例(裁判例)を引用し、会社の制度の法的瑕疵(不備)を的確に突いて論破することが可能です。
メリット3:会社との直接交渉を全て任せられ、精神的負担がゼロになる
弁護士が代理人となった瞬間から、会社への連絡・交渉はすべて弁護士の窓口で行われます。パワハラ気質の上司や、威圧的な社長と直接話す必要は一切なくなります。
在職中であっても退職後であっても、あなたは日常の生活や新たな仕事に専念することができ、精神的なストレスから完全に解放されます。
メリット4:回収額の最大化(遅延損害金と付加金の獲得)
未払い残業代には「遅延損害金」が付きます。
特に退職後は「年14.6%」という非常に高い利率の遅延損害金(賃金支払確保法)を請求できます。
さらに、悪質な未払いに対しては、裁判所から会社に対して未払いと同額のペナルティ支払いを命じる「付加金(ふかきん)」の請求も視野に入ります。
つまり、請求額が2倍になる可能性があるのです。こうした法的権利を最大限に行使し、回収額を最大化できるのは弁護士だけです。
まとめ

「タイムカードがない」、「テレワークだから」という理由で、身を粉にして働いた時間と労力が無かったことにされるのは、法的に絶対に許されません。
相手が会社という組織である以上、労働者一人の力で立ち向かうのは勇気がいることです。しかし、手元にあるスマートフォンやICカード、そして日々の業務で叩いていたPCのキーボードの記録が、武器(証拠)となります。
「これって証拠になるのかな?」「いくらくらい取り戻せるのだろう?」と迷ったら、まずは弁護士にご相談ください。 あなたが流した汗の「正当な対価」を取り戻すため、私たちが全力でサポートいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 安田伸一朗
労働問題
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和4年の登録以来、労働問題の解決に精通し、不当解雇、残業代請求などの紛争トラブルに幅広く対応。労働者側・使用者側双方の視点を踏まえ、数々の解決事例あり。現場の実態に即した緻密な証拠収集と粘り強い交渉力を武器に、早期の円満解決から労働審判・訴訟まで、依頼者の正当な利益を最大化することに注力。




