離婚を検討する際、お子様がいらっしゃる夫婦にとって最も深刻で、譲れないテーマが「親権」です。

「自分が引き取って育てたいけれど、相手も譲らない」「専業主婦(主夫)で収入が少ないと不利になるのか」「子どもが父親(母親)を選んだらどうなるのか」など、不安や悩みを抱えている方は少なくありません。

相手と話し合いで決まれば問題ありませんが、お互いに親権を譲らない場合、離婚調停や離婚裁判(訴訟)といった手続きを通じて裁判所が親権者を指定することになります。

では、裁判所は一体どのような基準や要素を考慮して親権者を決定しているのでしょうか。

本コラムでは、弁護士の視点から、親権の基本的な考え方をはじめ、裁判所が親権者を指定する際に重視する「主な判断要素」や「確立された原則」、さらに希望する親権を獲得するために押さえておくべきポイントまで詳しく解説します。

親権、監護権とは

親権とは、①子の身上に関する権利義務(身上監護権)と②子の財産に関する権利義務(財産管理権)の全てを含む権利です。

監護権とは、親権のうち①子の身上に関する権利義務(身上監護権)をいいます。

すなわち、子と一緒に暮らし、日常の世話や教育を行うことができる権利です。

親権者の判断における4つの原則

裁判所による親権者としての適格性判断の際に、どのような基準で判断するのかについて法律で明文化されてはいません。その判断において個々の事案による個別具体的な事情が大きく影響しますが、裁判所は一般的に以下の事由を判断要素としていると言われています。

監護の継続性

裁判所は、離婚の条件の親権をどちらの親にするかといった点について判断する場合、「監護の継続性」を重視します。子にとって、急激な環境の変化はストレスになる可能性があるため、現状の生活に問題がなければ、裁判所はその状態を尊重する傾向があります。

そのため、子どもが突然連れ去られて別居が始まった場合、最終的に離婚時に親権を獲得するためにも、まずは今どちらが子の監護者として適切かを争う子の監護者の指定審判、子の引渡の審判及び審判前の保全処分の申立てを迅速に進めることが最優先事項となります。

子の監護者の指定審判、子の引き渡し審判

監護権以外の養育費に関する紛争等では、審判の申立て前に話し合いの手続きである調停を申し立てるのが一般的な流れとなりますが、子の連れ去りが問題となっているような場合には、話し合いで解決できる見込みは低いと考えられ、調停を経ずに審判を申し立てることが多いです。

子の監護者指定の審判とは、どちらの親が子の監護者(子と一緒に暮らし、日常の世話や教育を行う者)となるかを裁判官が判断する手続きです。

子の引き渡し審判とは、未成年の子を引き渡すよう裁判所に判断を求める手続きです。

審判前の保全処分

子の監護者の指定審判と子の引き渡し審判と併せて審判前の保全処分を申し立てることが重要です。

審判前の保全処分とは、現在の子の監護状況に問題がある場合に、子の監護者の指定審判と子の引き渡し審判の裁判所による判断が出されるまでの間に、仮に子を引き渡すよう裁判所に判断を求める手続きです。

母性優先

乳幼児や低年齢の子どもにおいては、母親との情緒的な繋がりや皮膚感覚での触れ合いが健やかな成長に不可欠であると考えられており、実質的に母親が優先されやすいという原則です。

もっとも家庭の在り方が多様化した現在では、母性優先から主たる監護者優先(今まで育児を主に担ってきた親を優先するといった考え方)判断基準の内容が変化している。

子どもの意思の尊重

子どもがある程度の年齢に達している場合、どちらの親と暮らしたいかという子ども本人の気持ち・意思が尊重されます。

子どもが15歳以上の場合、 法律上、裁判所は子どもの意見を必ず聴かなければならないと定められています。15歳以上の場合、子ども本人の意思が決定的な要素となることが多いです。

一方で、子どもが10〜14歳程度の場合でも、発達段階に応じて、家庭裁判所の調査官が子どもの意見や心情を丁寧に聞き取り、その結果が判断に強く影響します。

兄弟不分離

兄弟姉妹は、成長の過程で互いに強い精神的支えとなるため、特別な事情(年齢差が大きい、双方の育成環境が著しく異なる等)がない限り、分離せずに同じ親のもとで育てることが望ましいとする原則です。

具体的な判断要素(裁判所がチェックするポイント)

裁判所は、上記の原則を踏まえつつ、「親側の事情」と「子ども側の事情」の両面から具体的な事実関係を調査・分析して判断を下します。

どのような点がチェックされるのか、項目ごとに詳しく見ていきましょう。

監護能力・適性(心身の健康状態、養育能力)

  • 子どもを健全に育てられる身体的・精神的な健康状態にあるか。
  • アルコール中毒やギャンブル依存症、重度の精神疾患などがあり、育児に支障をきたすおそれがないか。
  • 虐待(身体的暴力、ネグレクト、暴言などの心理的虐待)の有無。

 監護実績(これまでどのような育児をしてきたか)

  • 婚姻中、日常の食事の準備、洗濯、風呂、寝かしつけ、学校や保育園の送迎、病院への連れて行きなどを「主として担当していたのはどちらか」。
  • 母子手帳の記載内容や、学校・保育所でのやり取りの記録などが客観的証拠となります。

監護環境・経済的状況(住環境、生活費)

  • 居住環境: 子どものための個室や学習環境が確保できるか。
  • 経済力: 子どもを育てるための収入や資産があるか。

※なお、「相手より収入が低い(専業主婦など)」という理由だけで不当に不利になることはありません。離婚後は相手方から養育費の支払いを受けることができるため、最低限の生活基盤と就労の意思があれば、経済力のみを理由に親権を奪われる可能性は低いです。

監護体制の補助者(手伝ってくれる親族の有無)

  • 仕事で遅くなる際や病気の際など、自分の親(子どもの祖父母)や親族など、育児をサポートしてくれる監護補助者が近くにいるかどうか。
  • 補助者の健康状態や協力の意思も評価対象となります。

親子交流への寛容性(他方配偶者との関係維持)

  • 親権者となった場合、もう一方の親と子どもとの親子交流に積極的・協力的な姿勢を示しているか。
  • 理由なく相手と子どもの面会を拒否したり、相手の悪口を吹き込んで子どもに親を嫌わせようとしたりする姿勢は、子の利益を軽視しているとみなされ、不利益に働くことがあります。

違法な連れ去りの有無

  • 別居の際、これまで主として監護していなかった親が、相手の意に反して強引に子どもを連れ去ったような場合、違法な連れ去りとして評価が極めて低くなることがあります。

子どもの年齢・性別・発達段階

  • 乳幼児なのか、小中学生なのか、高校生なのかによって優先される原則(母性優先か、本人の意思尊重かなど)が変わります。

子どもの環境への適応状況

  • 現在の学校や幼稚園、友人関係、習い事などにどの程度適応しているか。
  • 転校や引越しによって子どもの生活環境が激変することが、大きなストレスにならないか。

子ども本人の意向

  • 「お父さんと過ごしたい」「お母さんと暮らしたい」という本人の素直な気持ち。
  • ただし、一方の親の誘導や洗脳、遠慮によって発言していないか、家庭裁判所調査官(心理学や社会学の専門家)が慎重に見極めます。

親権に関してよくある誤解と注意点

親権を巡るトラブルでは、法律上の誤解から思い悩まれる方が少なくありません。代表的な誤解について解説します。

有責配偶者(不貞行為をした側)は親権をとれない?

【回答】必ずしも取れないわけではありません。

不貞行為や暴力によって離婚の原因を作った親を「有責配偶者」と呼びます。道義的には強い非難を受けるべきですが、「有責性と親権の適性は別問題」として扱われます。

配偶者に対して不貞行為をしたとしても、子どもに対して深い愛情を注ぎ、これまで主たる監護者として適切に育ててきた実績があれば、親権者に指定されるケースは十分にあり得ます。

ただし、不貞相手のもとへ頻繁に行き子どもを置き去りにしていたような場合は、「監護能力なし」として強く不利に働きます。

収入がない(少ない)専業主婦は親権をとれない?

【回答】収入の多寡だけで親権が決まることはありません。

「自分はパート(または無職)で、夫(妻)の方が高収入だから親権を取られてしまうのでは」と心配される方が多くいらっしゃいます。

しかし、裁判所は「経済力は養育費の請求によって補完できる」と考えます。それよりも「これまでどちらがメインで子どもを育ててきたか(監護実績)」を重視するため、専業主婦(主夫)であっても、適切な監護を行ってきたのであれば親権の獲得において非常に有利です。

父親は親権をとるのが絶対に不可能なの?

【回答】不可能ではありません。父親が親権を獲得するケースも増えています。

歴史的・実務的には母親が親権者になる割合が高いのは事実ですが、それは「母親が主に育児を担当してきた家庭が多い」という実態を反映しているに過ぎません。

  • 母親が育児放棄(ネグレクト)やDVを行っていた
  • 母親が病気などで育児が困難である
  • 父親が育休を取得するなどメインで育児を行ってきた
  • 別居後、父親のもとで子どもが安定して暮らしており、継続性の原則が働く

上記のような条件が揃っている場合、父親が親権者に指定される事例も多数存在します。

まとめ

  • 親権とは、①子の身上に関する権利義務(身上監護権)と②子の財産に関する権利義務(財産管理権)の全てを含む権利をいう。
  • 監護権とは、親権のうち子の身上に関する権利義務(身上監護権)をいう。
  • 子が不当に連れ去られ別居が始まってしまった場合には、すぐに子の監護者指定の審判、子の引き渡しの審判と併せて審判前の保全処分を申し立てることが重要。
  • 親権については、これまでの監護実績、監護能力、監護補助者、子の意思等を総合考慮しどちらに適格性が認められるか判断される。
ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧

離婚・不倫慰謝料

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。