食品工場・飲食店の切創・やけど事故|スライサーや厨房機器による労災と会社の責任を弁護士が解説

食品加工工場や飲食店の厨房は、実は労働災害が非常に多く発生する職場です。厚生労働省の統計でも、食料品製造業は製造業のなかで労働災害の発生件数が最も多い業種の一つとされています。

スライサーやミンチ機に手指を巻き込まれる、包丁や裁断機で指を切断する、フライヤーの高温油を浴びる、蒸気で顔や腕を火傷する——こうした事故は、パートやアルバイトを含む多くの働き手を日々襲っています。

そして、これらの職場では「忙しいから仕方がない」「自分の手元が狂っただけ」という空気が強く、労災申請すらされないまま処理されてしまうことが少なくありません。

本記事では、食品加工・飲食業における切創・やけど事故について、会社の法的責任と適正な補償の受け方を、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

食品加工・飲食業で多発する事故の類型

食品加工・飲食業で多発する事故の類型

機械への巻き込まれ・切創

最も多いのが、食品加工用機械による手指の切創・切断事故です。スライサー(切断機)、ミンチ機(粉砕機)、ミキサー、裁断機、成型機などが典型です。

事故は、作業中よりもむしろ「詰まった原料を取り除こうとしたとき」「刃の付近を清掃しようとしたとき」「点検のために手を入れたとき」に集中して発生します。機械を止めずに手を入れた一瞬で、指が失われるのです。

刃物による切創

包丁、電動ナイフ、缶切り、スライサーの替え刃など、鋭利な刃物の取扱いによる切創も多発しています。深く切ると腱や神経を損傷し、指の可動域制限やしびれといった後遺障害が残ります。

高温物によるやけど

フライヤーの油、寸胴鍋の熱湯、スチームコンベクションオーブンの蒸気、加熱された鉄板やレトルト設備など、厨房と食品工場は高温の危険源に満ちています。

高温油による熱傷は深達性で、皮膚移植を要することも多く、瘢痕(はんこん)による醜状障害や、関節の拘縮といった後遺障害を残します。顔面や頸部に瘢痕が残った場合、外貌の醜状障害として後遺障害等級が認定されることもあります。

床の油による転倒

厨房の床は水と油で常に滑りやすく、転倒災害も頻発します。転倒しながら熱湯や熱した油に触れる、包丁を持ったまま転倒する、といった複合的な災害も起こります。

会社の安全配慮義務違反のポイント

会社の安全配慮義務違反のポイント

労働安全衛生規則には、「食品加工用機械」に特化した規定が置かれており、事業者が講じるべき措置が具体的に定められています。事故が起きた場合、これらの措置が講じられていたかどうかが、責任判断の出発点となります。

ポイント① 刃部の掃除・点検時の運転停止

切創事故が最も起きやすい「機械の刃部の掃除、検査、修理、調整」を行う際には、事業者は必ず機械の運転を停止させなければなりません。

やむを得ず運転を停止せずに行う場合には、労働者に専用の用具を使用させるなど、直接手で触れさせない措置を講じることが義務付けられています。

現場では、「いちいち止めていたら間に合わない」という理由で、機械を動かしたまま手で詰まりを取り除く作業が常態化していることがあります。会社がこれを指示していた、あるいは知りながら黙認していた場合、極めて悪質な義務違反と評価されます。

ポイント② 覆いや囲いなどの防護措置

食品加工用の粉砕機、切断機、混合機、成型機などについては、労働者が危険な部分に接触しないよう、覆いや囲いを設けることが求められています。

「洗浄しにくいから」「作業効率が落ちるから」という理由で安全カバーが外されたまま運用されていた事案は、決して珍しくありません。カバーを開けると刃が停止するインターロック機構が、意図的に無効化されていることもあります。

ポイント③ やけど防止のための措置と保護具

高温の物を取り扱う設備については、労働者が接触しないような措置を講じ、また耐熱手袋、前掛け、フェイスシールドなどの保護具を支給し、使用させる必要があります。

フライヤーの油の交換手順、熱湯の運搬方法、蒸気機器の開放手順といった作業手順が定められていなかった場合も、義務違反と評価されます。

ポイント④ 安全衛生教育の実施

労働安全衛生法は、労働者を雇い入れたとき、および作業内容を変更したときに、安全衛生教育を行うことを事業者に義務付けています。

食品加工・飲食業では、学生アルバイトや外国人技能実習生、短期のパート従業員が、十分な教育を受けないまま危険な機械を扱わされている実態があります。「見て覚えろ」で済ませていた、外国語での説明を一切行わなかった、といった事情は、会社の重大な過失です。

パート・アルバイトでも補償は同じ

パート・アルバイトでも補償は同じ

雇用形態を問わず労災保険は適用される

労災保険は、正社員かパート・アルバイトかを問わず、労働者を一人でも雇用していれば適用される制度です。加入手続をしていない事業所であっても、労働者は労災保険給付を受けることができます。

「アルバイトだから労災は使えない」「試用期間中だから対象外」というのは、まったくの誤りです。

外国人労働者にも同じ権利がある

技能実習生や特定技能の在留資格で働く外国人労働者にも、日本人と同じく労災保険が適用され、会社に対する損害賠償請求権も認められます。在留資格の有無や種類によって、この権利が左右されることはありません。

言語の壁や、監理団体・受入企業との関係から声を上げにくい状況にある方こそ、弁護士にご相談ください。

健康保険で治療してしまっている場合

会社に「労災にすると面倒だから健康保険を使ってほしい」と言われ、健康保険証で治療を受けてしまっている方がいらっしゃいます。これは本来認められない扱いですが、後から労災保険への切替えを行うことは可能です。

手続には一定の手間がかかりますので、早めにご相談ください。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

指の後遺障害を適正な等級で認定させる

手指の切断や機能障害は、欠損した部位や関節の可動域のわずかな違いで等級が変わり、賠償額が大きく変動します。弁護士は、後遺障害診断書の記載内容を事前に確認し、認定基準に沿った正確な記載がなされるようサポートします。

やけどによる醜状障害を漏らさず主張できる

顔や首、腕に残った瘢痕は、後遺障害として評価される可能性があります。被災者ご自身では「見た目のことは仕方がない」と考えてしまいがちですが、法的には正当な損害です。

小規模事業所への請求にも対応できる

飲食店などでは、会社が小規模で「賠償する資力がない」と言われることがあります。弁護士は、労災上乗せ保険や施設賠償責任保険の加入状況を調査し、実際に回収可能な方法を検討します。

事故後にすぐ取るべき行動

事故後にすぐ取るべき行動

厨房や工場での事故は、混乱のなかでその場の対応に追われ、記録が残らないまま終わってしまいがちです。次の点を意識してください。

①事故直後の現場を撮影する

機械の状態、安全カバーの有無、刃の露出状況、床の状態などを、可能な限りその場で撮影してください。会社は事後にカバーを取り付けたり、配置を変えたりすることがあります。

②労災であることを医療機関に明確に伝える

受診時に「仕事中のケガです」と伝えてください。会社に「健康保険で」と言われても、それは誤りです。労災保険指定医療機関であれば、窓口での自己負担なく治療を受けられます。

③作業手順書・教育記録の有無を確認する

作業手順書が存在したのか、それがどのような内容だったのか、雇入れ時の安全衛生教育を受けたのかを確認してください。教育記録が存在しない場合、それ自体が会社の義務違反を示します。

④示談書にすぐサインしない

小規模な事業所ほど、早期に見舞金を渡して「これで解決」としたがる傾向があります。一度示談書にサインすると、後から追加の請求をすることは原則としてできません。金額の妥当性を確認してから判断してください。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

当事務所の労災チームでは、食品加工・飲食業の労働災害について、次のような形でご支援しています。

①雇用形態を問わない労災申請サポート

パート、アルバイト、技能実習生、特定技能の方など、雇用形態や国籍を問わず、労災申請をサポートします。

②健康保険から労災保険への切替対応

会社の指示で健康保険を使ってしまった場合の切替手続についても対応します。

③機械の安全措置の不備の立証

刃部の掃除時の運転停止、覆い・囲いの設置、インターロックの無効化の有無などを調査し、義務違反を主張します。

④手指・醜状の後遺障害等級認定サポート

欠損部位や可動域の測定、瘢痕の範囲の評価について、後遺障害診断書の作成段階から関与します。

おわりに

おわりに

食品加工や飲食の現場は、日々のスピードが求められる職場です。だからこそ、「止めてから触る」「カバーを外さない」という基本を守れる体制を整えることが、事業者の責任なのです。

指を失った、顔にやけどの痕が残った——その痛みと悔しさは、労災保険の給付だけでは到底償われません。会社から提示された見舞金や示談金にサインをしてしまう前に、一度ご相談ください。

私たちは、被災された方が正当な補償を受け取り、生活を立て直せるよう、全力でサポートいたします。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働災害(労災)

弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。