作業中の感電事故|会社の安全配慮義務違反と損害賠償請求について弁護士が解説

感電災害は、発生件数こそ他の災害類型に比べて多くはありませんが、ひとたび起これば死亡や重篤な後遺障害に直結する、極めて危険性の高い労働災害です。

電気工事の現場だけでなく、製造業の設備保全、建設現場でのクレーンや高所作業車の架空電線への接触、溶接作業、機械の修理・清掃作業など、感電のリスクはあらゆる職場に潜んでいます。

そして感電事故は、そのほとんどが「防げたはずの事故」です。停電させずに作業させた、絶縁用保護具を支給していなかった、漏電遮断器を設置していなかった——事故の原因を辿ると、事業者が講じるべき措置を怠っていたという事実に行き着くことが少なくありません。

本記事では、感電災害における会社の法的責任と、適正な賠償を得るためのポイントについて、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

感電災害はなぜ重篤化するのか

感電災害はなぜ重篤化するのか

感電による人体への影響は、流れた電流の大きさ、通電した時間、電流の経路によって決まります。

電流の大きさと人体への影響

わずか数ミリアンペアの電流でも痛みを感じ、十数ミリアンペアを超えると筋肉が硬直して自分の意思では電線から手を離せなくなります。さらに大きな電流が心臓を通過すると心室細動を引き起こし、死亡に至ります。

「低圧だから安全」というのは、現場で最も危険な誤解の一つです。家庭用と同じ100ボルトでも、条件次第で人は死亡します。

電流の通り道が生死を分ける

片手から入った電流が同じ側の足に抜ける場合と、右手から入って左手に抜ける場合とでは、心臓を通過するかどうかが変わり、危険度が大きく異なります。

また、汗をかいていたり、雨で濡れていたり、金属製の足場の上にいたりすると、人体の電気抵抗が下がり、同じ電圧でもはるかに大きな電流が流れます。夏場の作業で感電災害が増えるのは、このためです。

二次災害という深刻な問題

感電災害には、電流そのものによる傷害だけでなく、二次災害という側面があります。感電した瞬間に驚いて姿勢を崩し、脚立や足場から墜落する。あるいはアーク放電による閃光で眼を損傷し、火傷を負う。実際の被害は、感電と墜落・火傷が複合したものになることが多いのです。

電流の出入口となった部位には深い熱傷(電撃傷)が生じ、外見以上に深部の組織が壊死していることがあります。切断に至る例も少なくありません。

会社が講じるべき法令上の措置

会社が講じるべき法令上の措置

労働安全衛生規則には、「電気による危険の防止」として、事業者が講じるべき措置が体系的に定められています。感電事故が起きた場合、まず確認すべきは、これらの措置がきちんと講じられていたかという点です。

ポイント① 停電作業の原則と絶縁用保護具

電路を修理・点検する際には、原則としてその電路を停電させ、開閉器に施錠したり通電禁止の表示をしたりして、作業中に誤って通電されることを防がなければなりません。

やむを得ず電気が流れたまま作業(活線作業)や、その近接作業を行う場合には、労働者に絶縁用保護具を着用させ、あるいは充電部分に絶縁用防具を装着することが義務付けられています。ゴム手袋一枚支給していなかった、支給されていたが劣化して穴が空いていた、という事案は決して珍しくありません。

ポイント② 漏電遮断器の設置と電動機械器具の管理

移動式・可搬式の電動機械器具を、水気のある場所や鉄板・鉄骨の上など導電性の高い場所で使用する際には、漏電による感電を防止するため、感電防止用の漏電遮断装置を設置しなければなりません。

電動工具のコードの被覆が破れたまま使用されていた、アース(接地)が取られていなかった、といった管理の不備も、重大な義務違反です。

ポイント③ 交流アーク溶接機の自動電撃防止装置

船舶の二重底や内部、タンクの内部、ボイラーの胴やドームの内部など、著しく狭あいな場所や、2メートル以上の高さで墜落の危険がある場所で交流アーク溶接を行う場合には、自動電撃防止装置を使用しなければなりません。

溶接作業は、汗をかきやすく、狭い場所で身体が金属に接触しやすい環境で行われるため、感電のリスクが特に高い作業です。

ポイント④ 架空電線への接近作業と教育

クレーン、移動式クレーン、高所作業車などを架空電線の近くで使用する場合には、電線を移設する、絶縁用防護具を装着する、監視人を配置するなどの措置が必要です。

また、低圧・高圧の充電電路の敷設・修理業務や、特別高圧の充電電路の点検・操作業務については、事業者は特別教育を実施しなければなりません。無資格・無教育の労働者に危険な電気作業をさせていた場合、それ自体が重大な過失と評価されます。

損害賠償請求に向けた証拠の確保

損害賠償請求に向けた証拠の確保

現場と設備に関する証拠

事故が起きた電路や機器の状況を撮影した写真、漏電遮断器の設置状況、電動工具のコードやアースの状態、支給されていた絶縁用保護具の有無と劣化の程度は、決定的な証拠になります。

絶縁用保護具や絶縁用防具については、定期的な自主検査と絶縁性能の検査が義務付けられています。その検査記録が存在しない、あるいは長期間実施されていないという事実は、管理の欠如を示す強い証拠です。

作業手順と教育に関する証拠

停電作業の手順書、施錠や表示のルール、作業指示の内容、特別教育の受講記録、安全衛生委員会の議事録などを確保してください。

特に、「納期に間に合わないから停電させずにやれ」といった指示が口頭でなされていた場合、その事実を裏付けるメールやチャット、同僚の証言が重要になります。

労働基準監督署の調査結果

死亡や重篤な災害が発生した場合、労働基準監督署が災害調査を行い、法令違反があれば是正勧告や指導が行われます。会社が書類送検されることもあります。

これらの記録は、会社の過失を立証するうえで極めて有力です。弁護士を通じて開示を求めることができます。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

技術的な争点を法的主張に組み立てられる

感電事故の責任追及では、電圧、電流、絶縁、接地といった技術的な事項を扱うことになります。弁護士は、法令と技術基準を照らし合わせ、会社が何を怠ったのかを法的な主張として明確に組み立てます。

重度の後遺障害に応じた賠償額を算定できる

感電災害では、四肢の切断、高次脳機能障害、心機能障害、視力障害など、重い後遺障害が残ることがあります。等級が一つ違えば賠償額は数百万円から数千万円変わります。後遺障害診断書の作成段階から関与し、適正な等級認定を目指します。

ご遺族に代わって会社と交渉できる

感電災害は死亡事故に至る割合が高い災害です。突然大黒柱を失われたご遺族に代わり、弁護士が事故原因の調査から賠償交渉、必要に応じて訴訟までを担います。

感電災害で残りやすい後遺障害

感電災害で残りやすい後遺障害

感電災害は、外見からは分かりにくい深刻な後遺障害を残すことがあります。適正な賠償を得るには、これらを漏らさず主張することが必要です。

四肢の欠損・機能障害

電流の出入口となった手指や上肢には深い電撃傷が生じ、組織の壊死により切断に至ることがあります。切断を免れても、瘢痕拘縮によって関節の可動域が大きく制限されることがあります。

高次脳機能障害・神経症状

電流が頭部を通過した場合や、心停止により低酸素状態が続いた場合には、記憶障害、注意力の低下、感情のコントロール困難といった高次脳機能障害が残ることがあります。

また、感電後しばらく経ってから、しびれ、麻痺、疼痛といった末梢神経の症状が現れることもあります。事故直後に異常がなかったからといって、油断はできません。

心機能障害・その他の内部障害

心室細動を起こした後、不整脈が残存することがあります。腎機能障害や白内障が生じた例も報告されています。

外貌の醜状障害・PTSD

顔面や頸部に電撃傷の瘢痕が残った場合には、外貌の醜状障害として後遺障害等級が認定される可能性があります。また、死を意識する体験をしたことによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)が生じることもあり、これも賠償の対象となります。

当事務所のサポート内容

当事務所の労災チームでは、感電災害について、次のような形でご支援しています。

①事故原因の技術的な検証

電路の状況、漏電遮断器の設置、絶縁用保護具の管理状況などを調査し、法令上の措置が講じられていたかを検証します。

②労働基準監督署の調査結果の取得

災害調査の結果、是正勧告書、書類送検の有無などを確認し、会社の法令違反を立証する資料として活用します。

③後遺障害の見落としを防ぐ

四肢の機能障害、神経症状、高次脳機能障害、醜状障害、PTSDなど、感電特有の後遺障害を漏らさず主張します。

④ご遺族に代わる交渉・訴訟対応

死亡事故の場合、ご遺族に代わって会社との交渉・訴訟の一切をお引き受けし、ご負担を最小限に抑えます。

おわりに

おわりに

感電災害の被災者やご遺族から、「電気を扱う仕事なのだから、ある程度の危険は仕方がない」というお話を伺うことがあります。

しかし、危険な作業だからこそ、法令は事業者に対して詳細かつ厳格な措置を義務付けているのです。その義務を果たさずに労働者を危険にさらした責任は、当然に問われなければなりません。

会社や保険会社から提示された金額にサインをする前に、一度ご相談ください。私たちは、被災された方とご家族が正当な補償を得られるよう、全力でサポートいたします。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働災害(労災)

弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。