
アスベスト関連疾患にかかった方またはそのご家族が給付金の申請を検討する際に気になる疑問の一つが「給付金を受け取ったら、会社への損害賠償請求はできなくなるのか」「給付金には税金がかかるのか」という点です。このコラムでは、アスベスト給付金と損害賠償との支給調整の関係、および課税関係について詳しく解説します。
アスベスト給付金制度と損害賠償の関係

給付金を受け取っても損害賠償請求は可能
大前提として、アスベスト給付金(労災保険給付・石綿健康被害救済給付・建設アスベスト給付金)を受け取っても、会社や国への損害賠償請求権は原則として消滅しません。つまり、給付金と損害賠償は原則として並行して請求することが可能です。
ただし、「同一の損害」について二重に填補(損害を補填)することはできないという「損益相殺」の原則があります。給付金によって填補された損害部分については、損害賠償請求額から控除(差し引き)されることになります。これを「支給調整」といいます。
労災保険給付と損害賠償の調整
控除の仕組み
労災保険を管掌する政府は、保険給付を行った場合、その給付額の限度で被災者(またはその遺族)が使用者に対して持つ損害賠償請求権を代位取得します(求償権)。
実務的には、療養補償給付(治療費)は損害賠償の治療費から控除され、休業補償給付は損害賠償の休業損害から控除され、障害補償給付・遺族補償給付は損害賠償の後遺障害・死亡による損害と調整されます。
特別支給金は損害賠償から控除されない
労災保険の特別支給金(休業特別支給金・障害特別支給金など)は、政府から被災者への「社会復帰促進等事業」として給付されるものであり、損害賠償請求権の代位取得の対象とはなりません。
つまり、特別支給金は損害賠償額から控除されません。例えば休業補償給付の場合、給付基礎日額の60%が休業補償給付として支給され、20%が休業特別支給金として支給されますが、損害賠償から控除されるのは60%分のみです。20%の特別支給金は控除の対象外となります。これは実務上非常に重要な点です。
建設アスベスト給付金と損害賠償の関係
建設アスベスト給付金制度による給付と損害賠償との関係については、給付金制度自体が国の責任に基づくものであることから、受給した給付金額が損害賠償額から控除(調整)される場合があります。
また、建設アスベスト給付金と労災保険給付の双方を受給する場合にも支給調整が行われます。具体的な調整関係については事案の状況に応じて弁護士に確認することをお勧めします。
損害賠償請求(会社・国への請求)の概要

労災保険だけでは補填されない損害
アスベスト関連疾患による損害には、労災保険給付でカバーされない損害があります。最も重要なのが「慰謝料(精神的損害への補償)」です。アスベスト関連疾患による入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料は、労災保険では一切支給されません。
また、逸失利益(将来失った収入)についても、労災保険の給付額と弁護士基準(裁判所が認める基準)による逸失利益の額に差が生じる場合があります。
会社への損害賠償請求
勤務先の会社に「安全配慮義務違反」があった場合、会社に対して損害賠償を請求することができます。アスベスト被害においては、会社がアスベストの危険性を知りながら適切な防じんマスクの配備・使用指導・換気設備の整備などを怠ったと認められる場合に安全配慮義務違反が認められます。
損害賠償請求の時効は、原則として「損害および加害者を知った時から3年」(民法724条)です。アスベスト関連疾患においては発症が遅れることから時効の起算点の判断が問題となる場合があり、不安がある場合は早期に弁護士に相談することをお勧めします。
国への損害賠償請求(建設アスベスト訴訟)
2021年の最高裁判決により、国が建設現場でのアスベスト使用規制を怠ったことの責任が認められ建設アスベスト給付金制度が設立されました。
建設アスベスト給付金制度は一定の解決策として設けられたものですが、給付金では補填されない損害(慰謝料など)については別途損害賠償請求を検討する余地もあります。
アスベスト給付金の課税関係

労災保険給付は非課税
労災保険の各給付(療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料など)は、所得税法上「非課税所得」に該当します(所得税法9条1項17号・18号)。したがって、労災保険給付を受け取っても、その金額に所得税がかかることはありません。石綿健康被害救済制度による給付(医療費・療養手当・特別遺族弔慰金・特別遺族年金など)についても非課税とされています。
損害賠償金の課税関係
会社や国から受け取る損害賠償金については、その性格によって課税関係が異なります。身体の傷害(治療費・休業損害・慰謝料など)に対する損害賠償金は、原則として非課税です(所得税法9条1項18号)。
ただし、逸失利益のうち給与所得に代わるものとして認められる部分についての課税関係は複雑な場合もあります。具体的な課税関係については税理士または税務署に確認されることをお勧めします。
実務上の注意点とアドバイス

給付金申請と損害賠償請求の順序
実務上は、まず給付金申請(労災保険など)を行い、認定を受けた上で給付金では補填されない損害(慰謝料など)について会社への損害賠償請求を行うというのが一般的な流れです。
労災認定がなされた事実は、会社への損害賠償請求においても有力な証拠となります。損害賠償請求権と給付金申請権には、それぞれ時効があります。特に損害賠償請求については「損害および加害者を知った時から3年」の時効があるため、アスベスト関連疾患と診断されたら早期に弁護士に相談することが重要です。
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