
| 【この記事のポイント】 労災でケガをして働けなくなり、収入が途絶えた。休業補償が出るとは聞いたものの、いつ振り込まれるのか分からず、家賃や生活費の支払いが心配――。労災の休業補償は、請求してから振込までに1か月程度かかるのが一般的で、事故から数えると最初の振込まで2〜3か月かかることも珍しくありません。その間の生活費をどうつなぐかが、治療に専念できるかどうかの分かれ目になります。本記事では、休業補償が振り込まれるまでの目安と金額をおさらいしたうえで、会社に立て替えてもらう「受任者払い制度」、健康保険の傷病手当金、有給休暇、公的な貸付制度という4つの方法と、会社が協力してくれない場合の対処法を解説します。 |
1. 労災の休業補償はいつ頃振り込まれる?

給付までの目安期間
労災の休業(補償)給付は、自動的に振り込まれるものではありません。ご本人が請求書(業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6)に医師と会社の証明をもらい、労働基準監督署に提出して、審査を経て支給が決まります。請求書が受理されてから支給決定までは1か月程度が一般的ですが、初回は労災かどうかの調査が行われるため、これより長くかかることもあります。
しかも、請求書には「働けなかった期間」を医師に証明してもらう必要があるため、休業した後でなければ請求できません。たとえば、事故から1か月休んだ後に1か月分をまとめて請求し、そこから審査に1か月かかるとすると、最初の振込は事故から2か月以上先になります。休業が長引く場合は、1か月ごとに区切って請求するのが一般的で、2回目以降は書類に不備がなければ比較的スムーズに支給されます。
もらえる金額のおさらい
休業4日目から、1日につき給付基礎日額(事故前3か月の賃金の総額を暦日数で割った額)の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。最初の3日間は労災保険からは支給されず、業務災害の場合は会社が平均賃金の60%を補償します。計算方法は、当サイトのコラム「労災の休業補償はいつまでもらえる?」で詳しく解説しています。
当面の生活費をどう繋ぐかがカギ
振込までの数か月間、無収入の状態に耐えられる方は多くありません。生活費の不安から、ケガが治りきらないうちに無理をして復帰したり、会社の言うままに不利な条件で示談してしまったりする方もいます。振込までの期間を見越して、当面の生活費を確保する方法を早めに考えておくことが大切です。
2. 労災がおりるまでの生活費を確保する「4つの方法」

① 会社に立て替えてもらう「受任者払い制度」
受任者払い制度は、会社が休業補償給付に相当する額を先に従業員に立て替え払いし、後日、労災保険から支給される休業補償給付を会社の口座に振り込んでもらう仕組みです。労働基準監督署の審査を待たずに、会社から生活費相当額を受け取れるため、ご本人にとって最も負担の少ない方法です。
利用する場合は、会社が労働基準監督署に受任者払いの承認申請(届出)を行い、休業補償給付の請求書に、ご本人から会社への委任状を添えて提出します。書式は労働基準監督署によって異なることがあるため、会社から監督署に確認してもらいます。立て替えた額が労災の給付額より少ない場合は受任者払いができないなど、細かな条件があります。
注意したいのは、受任者払いは会社の協力があって初めて使える制度であり、会社に義務付けられたものではないという点です。また、労災が認められなかった場合には、立て替えてもらった分を会社に返す必要があります。まずは会社に、受任者払い制度を使ってもらえないか相談してみてください。
② 一時的に健康保険の「傷病手当金」を使う
健康保険の傷病手当金は、本来、仕事とは関係のない病気やケガで働けないときの給付で、労災保険の給付を受けられる場合は支給されません。しかし、労災かどうかの判断に時間がかかる場合(たとえば、仕事が原因の病気かどうかが争われているケース)には、労災の決定が出るまでの間、傷病手当金を先に受け取れる運用があります。
協会けんぽの傷病手当金支給申請書には、労災保険の請求と並行して申請する場合に「請求中」を選ぶ欄が設けられており、労災保険の支給が決定された後、給付の期間が重複した分は、受け取った傷病手当金の全部または一部を返納することになっています。傷病手当金は給料のおよそ3分の2、労災の休業補償は約8割ですから、労災が認められれば、差額を含めて労災から受け取れます。健康保険組合によって取扱いが異なることがあるため、加入している保険者に、労災を請求中であることを伝えたうえで相談してください。仕事中の事故のように労災であることが明らかな場合は、傷病手当金ではなく、労災の請求を急ぐ方が近道です。
③ 「有給休暇」を消化する
有給休暇を使えば、その日は給料が全額支払われるため、当面の収入を確保できます。ただし、有給休暇を使った日は賃金を受けているため、その日の休業補償給付は支給されません。また、有給休暇の日数は減ってしまい、復帰後に通院のための休みが取りにくくなることもあります。
休業の見込み期間が短く、有給休暇に余裕があるなら有効な方法ですが、長期の休業が見込まれる場合は、有給休暇を温存して労災の休業補償を受ける方が、結果として有利なことがあります。最初の3日間(待期期間)に有給休暇を使っても、待期期間は成立します。
④ 公的な貸付制度を利用する
収入が途絶えて生活に困窮した場合には、公的な貸付制度を利用できることがあります。代表的なものが、都道府県の社会福祉協議会が実施する「生活福祉資金貸付制度」で、緊急かつ一時的に生活費が必要な場合の「緊急小口資金」などがあります。窓口は、お住まいの市区町村の社会福祉協議会です。
このほか、ひとり親家庭を対象とした「母子父子寡婦福祉資金貸付金」など、状況に応じた制度もあります。いずれも貸付であり返済が必要ですが、無利子または低利で、労災の休業補償が振り込まれるまでのつなぎとして活用できます。家賃や公共料金、税金などの支払いが難しい場合は、それぞれの窓口に支払いの猶予や分割を相談することも検討してください。
| 【注意】生活費の不安から、不利な示談をしないでください 生活費に困っているときに、会社から「いくらか払うから、労災にはしないで」「これで示談にしよう」と持ちかけられることがあります。目の前のお金に心が動くのは当然ですが、一度示談をすると、後遺障害が残った場合の補償や、会社への請求が難しくなることがあります。署名をする前に、必ず弁護士にご相談ください。 |
3. 会社が「受任者払い」や労災申請に協力してくれない場合

協力しない会社に潜む「労災隠し」のリスク
受任者払いを断られるだけでなく、労災の請求書への証明を拒む、労災の報告をしないよう求める、といった会社もあります。会社には、従業員が仕事中のケガで休業した場合、労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出する義務があり、これを怠ったり虚偽の報告をしたりする「労災かくし」は、労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金の対象です。
会社が労災の手続きに非協力的な場合、その背景に労災かくしの意図が潜んでいることがあります。会社の言うままに健康保険で治療を続けたり、休業補償の請求を先延ばしにしたりすると、治療が長引いたときに困るのはご本人です。
会社が手続きを拒否しても、労働基準監督署へ直接請求は可能
労災の請求は、ご本人の権利です。請求書の事業主証明欄に会社が記入してくれない場合でも、証明を得られなかった事情を書いて、労働基準監督署に直接提出することができます。労働基準監督署が会社に事情を確認し、労災かどうかを判断します。詳しい進め方は、当サイトのコラム「『運送会社が労災を使わせてくれない』ときの対処法」や、「会社から『労災申請をしないでほしい。会社がお金を支払いますので大丈夫です。』と言われている。どうすればいい?」もご覧ください。
会社の過失(安全配慮義務違反)が疑われる場合は要注意
会社が労災に非協力的なケースでは、事故の原因が会社の安全対策の不備にあることも少なくありません。安全設備がなかった、必要な教育をしていなかった、無理な作業を指示していた、といった事情があれば、会社には安全配慮義務違反として損害賠償責任が生じます。
労災保険からは、給料の8割までの休業補償しか出ず、慰謝料も支給されません。会社に過失がある事故では、休業補償の不足分(給料の4割相当)や慰謝料を会社に請求できます。労災の手続きに非協力的な会社ほど、こうした請求を早めに検討する必要があります(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」をご覧ください)。
4. よくあるご質問

Q. 受任者払いで会社が立て替えた額と、労災の給付額が違ったらどうなりますか?
A. 立て替えた額と労災からの振込額に差が出ることがあります。差額をどう精算するかは、受任者払いを使う前に会社と取り決めておきましょう。労災の給付額を超えて会社が支払った分があれば、会社が返還を求めることもあります。
Q. 最初の3日分を会社が払ってくれません。
A. 業務災害の場合、最初の3日間(待期期間)の休業補償は、労働基準法にもとづく会社の義務です。支払われない場合は、労働基準監督署に相談できます。通勤災害の場合は、会社にこの義務はありません。
Q. 貸付を受けると、労災の給付は減りますか?
A. 減りません。労災の給付は、ご本人の資産や借入れとは関係なく支給されます。給付が振り込まれたら、貸付の返済に充てることができます。
5. まとめ:会社との交渉や将来の補償に不安がある場合は弁護士へ

労災の休業補償が振り込まれるまでには時間がかかります。その間の生活費は、会社の受任者払い、傷病手当金の先行受給、有給休暇、公的な貸付制度を組み合わせて確保しましょう。会社が協力してくれなくても、労災の請求はご本人でできます。
弁護士にご相談いただくと、生活費の確保についてのアドバイスだけでなく、労災申請の進め方、会社との交渉、後遺障害の等級認定、会社への損害賠償請求まで、一貫してサポートを受けられます。会社とのやり取りを弁護士に任せることで、治療に専念していただけます。「会社が労災を認めてくれない」「生活費が尽きそうで不安」――そのような状況こそ、早めにご相談ください。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、地域の皆様の法律問題に一貫して寄り添って参りました。仕事中の事故やケガ、病気でお困りの方とそのご家族が、適正な補償を受けられるよう、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 初回相談は60分まで無料です。弁護士による10分無料電話相談もあります。会社への損害賠償請求と後遺障害等級認定のサポートは着手金0円ですので、手持ちのお金がない方も安心してご相談ください(弁護士費用)。電話、LINEビデオ通話、Zoomでのご相談にも対応しています。お電話(048-649-4631/平日9:00〜20:00・土曜9:00〜17:00)のほか、メール・LINEでもお問い合わせいただけます。 |
【出典・参照条文】
- 労働者災害補償保険法第14条(休業補償給付)
- 健康保険法第55条(他の法令による保険給付との調整)・第99条(傷病手当金)
- 労働基準法第76条(休業補償)、労働安全衛生法第100条・第120条、労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)
- 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
- 厚生労働省パンフレット「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」、厚生労働省「生活福祉資金貸付制度」
- 全国健康保険協会「健康保険傷病手当金支給申請書 記入の手引き」
- (注)本記事は一般的な解説であり、受任者払いの可否や傷病手当金の取扱いは、会社や加入している保険者の判断によります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
労働災害(労災)
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。




