
| 【この記事のポイント】 労災で重い後遺障害が残った、治療が長引いて働けない、家族を亡くした――。そのようなとき、労災保険からは一回きりの「一時金」ではなく、条件を満たす限り続けて受け取れる「年金」が支給されることがあります。労災年金には、障害(補償)年金、傷病(補償)年金、遺族(補償)年金の3つの種類があり、いずれも「給付基礎日額」をもとに、障害の等級や遺族の人数に応じて金額が決まります。年金は、支給の要件に当てはまった月の翌月分から始まり、年6回に分けて振り込まれ、障害の状態や遺族の資格が続く限り支給されます。本記事では、労災年金の全体像、受け取れる条件、金額の目安と計算方法、支給のタイミング、手続き、そして慰謝料や税金などの注意点を、わかりやすく解説します。 |
1. 労災年金とは?(まずは全体像をわかりやすく)

労災年金とは
労災年金とは、仕事中や通勤中の事故・病気によって、重い障害が残ったり、長期間働けなくなったり、亡くなられたりした場合に、労災保険から継続的に支給される給付です。治療費や休業補償のように、治るまでの一時的な補償ではなく、一回きりの「一時金」とも違い、条件を満たす限り何年にもわたって受け取れるため、ご本人やご家族の生活を長く支える重要な命綱になります。
年金は、2か月ごとにまとめて振り込まれます。金額は事故前の賃金をもとに決まり、毎年の賃金水準の変動に応じて改定(スライド)される仕組みがあるため、長期間受け取る場合も、その時々の物価や賃金の水準に大きく取り残されることはありません。
労災年金の3つの種類
| 種類 | どんなときに受け取れるか | 受け取る人 |
| ①障害(補償)年金 | 治療が終わった後(症状固定後)に、障害等級1級〜7級の重い後遺障害が残ったとき | ご本人 |
| ②傷病(補償)年金 | 療養を始めてから1年6か月たっても治らず、傷病等級1級〜3級の重い状態にあるとき | ご本人 |
| ③遺族(補償)年金 | 仕事や通勤が原因で亡くなられたとき | ご遺族 |
「補償」の文字は業務災害の場合に付き、通勤災害の場合は「障害年金」「傷病年金」「遺族年金」と呼ばれますが、内容はほぼ同じです。この記事では、まとめて「労災年金」と呼びます。
2. 労災年金がもらえる条件(自分はどれに当てはまる?)

①障害(補償)年金――後遺障害が1級〜7級のとき
治療を続けても症状が残り、医師が「これ以上治療しても良くならない」と判断した状態(症状固定)になったとき、残った障害が障害等級表の1級〜7級に当てはまれば、年金が支給されます。8級〜14級の場合は、年金ではなく一時金です。たとえば、両目の失明や両手足の機能の全廃は1級、片方の腕を肘から失った場合は4級、片耳の聴力を完全に失い、もう片方も1メートル以上離れると普通の話し声が聞き取れない場合は7級です。
等級は、ご本人の申告ではなく、医師の診断書やレントゲン写真などをもとに労働基準監督署が決めます。等級が1つ違うだけで、年金の額も、後述する会社への請求額も大きく変わるため、適切な等級の認定を受けることが重要です(当サイトの「適切な後遺障害等級認定の重要性と手続について」もご覧ください)。
②傷病(補償)年金――1年6か月たっても治らないとき
療養を始めてから1年6か月たっても治らず、その障害の程度が傷病等級の1級〜3級に当てはまるときは、それまでの休業(補償)給付に代わって傷病(補償)年金が支給されます。たとえば、神経や精神に著しい障害が残り常に介護が必要な状態は1級、終身にわたって働けない状態は3級です。
傷病(補償)年金は、ご本人が請求するものではなく、労働基準監督署長が職権で決定します。1年6か月を経過したときに、傷病の状態に関する届を提出し、監督署が傷病等級に当てはまるかを判断します。当てはまらなければ、引き続き休業(補償)給付が支給されます。
③遺族(補償)年金――ご家族を亡くされたとき
仕事中や通勤中の事故、仕事が原因の病気で亡くなられた場合、亡くなられた方の収入によって生計を維持していたご遺族に支給されます。共働きで、収入の一部を頼っていた場合も含まれます。
受け取れるのは、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹のうち、最も順位の高い方です。妻には年齢の条件がありませんが、夫・父母・祖父母は60歳以上(55歳以上60歳未満の場合は、60歳になるまで支給が停止されます)、子・孫・兄弟姉妹は18歳になった年度の末日までであることが必要です。一定の障害(障害等級5級以上)がある方は、年齢にかかわらず対象になります。事実婚の配偶者も含まれ、亡くなられた当時に胎児だった子も、生まれたときから対象になります。
年金を受け取れる遺族がいない場合は、遺族(補償)一時金(給付基礎日額の1,000日分)が支給されます。
3. 労災年金はいくらもらえる?(目安と計算方法)

計算のベースとなる「日額」について
労災年金の金額は、2つの「日額」をもとに計算されます。
| 日額の種類 | 計算方法 | 使われる場面 |
| 給付基礎日額 | 事故(または病気の確定)の直前3か月間の賃金の総額÷その期間の暦日数。残業代や手当は含みますが、ボーナスや臨時の賃金は含みません | 年金本体(障害・傷病・遺族(補償)年金) |
| 算定基礎日額 | 事故前1年間に支払われたボーナスなど(特別給与)の総額÷365。給付基礎日額×365の20%または150万円が上限 | 特別年金(障害特別年金など) |
たとえば、月給30万円(賃金締切日は月末)で10月に事故に遭った場合、直前3か月(7〜9月、92日)の賃金90万円を92日で割ると、給付基礎日額は約9,783円です。年金の計算に使う給付基礎日額には、年齢階層ごとの最低額と最高額が定められ、毎年スライド(改定)されます。
年金の支給は、年金本体のほかに「特別支給金(一時金)」と「特別年金」の3本立てです。特別年金はボーナスをもとに計算されるため、ボーナスがなかった方には支給されません。
等級・遺族数に応じた支給額の決まり方
障害(補償)年金と傷病(補償)年金は、等級ごとに「給付基礎日額の何日分」という形で年額が決まります。
| 等級 | 障害(補償)年金(年額) | 障害特別支給金(一時金) | 障害特別年金(年額) |
| 1級 | 給付基礎日額の313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 |
| 2級 | 277日分 | 320万円 | 277日分 |
| 3級 | 245日分 | 300万円 | 245日分 |
| 4級 | 213日分 | 264万円 | 213日分 |
| 5級 | 184日分 | 225万円 | 184日分 |
| 6級 | 156日分 | 192万円 | 156日分 |
| 7級 | 131日分 | 159万円 | 131日分 |
傷病(補償)年金は、1級が313日分、2級が277日分、3級が245日分で、傷病特別支給金(一時金)はそれぞれ114万円、107万円、100万円、傷病特別年金は算定基礎日額の同じ日数分です。
遺族(補償)年金は、遺族の人数(受給権者と、その方と生計を同じくしている受給資格者の数)に応じて決まります。
| 遺族の数 | 遺族(補償)年金(年額) | 遺族特別支給金(一時金) | 遺族特別年金(年額) |
| 1人 | 給付基礎日額の153日分(55歳以上の妻または一定の障害がある妻は175日分) | 300万円 | 算定基礎日額の153日分(同左の妻は175日分) |
| 2人 | 201日分 | 300万円 | 201日分 |
| 3人 | 223日分 | 300万円 | 223日分 |
| 4人以上 | 245日分 | 300万円 | 245日分 |
計算例
給付基礎日額が1万円、年間のボーナスが60万円(算定基礎日額は約1,644円)の方の場合です。
- 障害等級1級の年金:給付基礎日額1万円×313日=年313万円(年金)。これに障害特別支給金342万円(一時金)と、障害特別年金として算定基礎日額1,644円×313日=約51万円(年金)が加わります
- 妻と子2人(遺族数3人)の遺族(補償)年金:1万円×223日=年223万円(年金)。これに遺族特別支給金300万円(一時金)と、遺族特別年金として1,644円×223日=約37万円(年金)が加わります
端数の処理やスライドにより、実際の金額は変わります。また、障害や傷病の年金を受けている方のうち、1級と、2級で精神・神経や胸腹部臓器の障害がある方で、現に介護を受けている方には、別途「介護(補償)給付」が支給されます。
4. いつから・いつまでもらえる?(支給のタイミングと期間)

いつから始まるか
労災年金は、支給の要件に当てはまることになった月の翌月分から支給されます。障害(補償)年金なら症状固定した月の翌月分から、遺族(補償)年金なら亡くなられた月の翌月分からです。ただし、実際の振込は、請求書を提出し、労働基準監督署の審査を経て支給が決定された後になるため、請求から最初の振込までには数か月かかることもあります。決定後は、それまでの分がまとめて支払われます。
年6回、2か月分ずつ振り込まれる
年金は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6回に分けて、それぞれ前の2か月分が振り込まれます。たとえば、4月には2月分と3月分が支払われます。
いつまで続くか
労災年金に「何年まで」という期間の上限はありません。障害(補償)年金は、障害の状態が続く限り、生涯にわたって支給されます。傷病(補償)年金は、治癒(症状固定)するまで支給され、症状固定後に障害が残れば障害(補償)年金に切り替わります。
遺族(補償)年金は、受給している方が亡くなったとき、再婚したとき、子や孫が18歳になった年度の末日を迎えたとき、障害の状態でなくなったときなどに権利が消滅します。そのときに次の順位の遺族がいれば、その方が引き継いで受け取ります(転給)。
まとまったお金が必要なときの「前払一時金」
障害(補償)年金と遺族(補償)年金には、1回に限り、年金の前払いを受けられる制度があります。障害(補償)年金では等級に応じて給付基礎日額の200日分から最大1,340日分(1級)まで、遺族(補償)年金では200日分から1,000日分までの中から選べます。前払いを受けた分に達するまで年金の支給は止まりますが、住宅の改修や当面の生活資金など、まとまったお金が必要なときに役立ちます。
5. 労災年金の手続きの流れと必要書類

手続きの大まかな流れ
- 請求書を準備する:障害(補償)年金は様式第10号(通勤災害は様式第16号の7)、遺族(補償)年金は様式第12号(通勤災害は様式第16号の8)を使います。用紙は労働基準監督署の窓口や厚生労働省のウェブサイトで入手できます。特別支給金と特別年金の申請も、同じ様式で同時に行います。
- 医師の診断書や証明書類をそろえる:障害(補償)年金では、医師の診断書とレントゲン写真などの資料を添えます。遺族(補償)年金では、死亡診断書や戸籍謄本などが必要です。
- 事業主の証明を受ける:請求書には事業主の証明欄がありますが、会社が証明を拒んだり、廃業していたりしても請求はできます。
- 労働基準監督署に提出する:事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。審査の後、支給決定の通知と年金証書が届き、年金の振込が始まります。
- 受給中の手続き:年金を受けている間は、毎年、現在の状況を報告する書類の提出が求められます。住所や振込先の変更、受給資格の変更があったときも届け出が必要です。
傷病(補償)年金は、ご本人の請求ではなく、監督署長の職権で決定されます。療養開始から1年6か月たったときに、傷病の状態などに関する届を提出します。
必要な主な書類
- 障害(補償)年金:請求書(様式第10号)、医師の診断書、レントゲン写真などの資料、同じ事故について障害厚生年金などを受けている場合はその支給額を証明する書類
- 遺族(補償)年金:請求書(様式第12号)、死亡診断書または死体検案書、戸籍謄本など身分関係を証明する書類、亡くなられた方の収入で生計を維持していたことを証明する書類、事実婚の場合はその事実を証明する書類
- 共通:請求人の本人確認書類(個人番号を記入するため)、振込先口座が分かるもの
6. 知っておくべき!労災年金の注意点とQ&A

労災年金だけで十分?(慰謝料は出ない!)
労災年金は生活を支える大切な給付ですが、損害のすべてを補償するものではありません。特に、精神的な苦痛に対する慰謝料は、労災保険からは一切支給されません。後遺障害が残った場合の慰謝料や、亡くなられた場合の慰謝料、将来の収入の損失(逸失利益)のうち年金で足りない部分は、会社に責任がある事故であれば、会社に損害賠償として請求できます(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」「労災事故で死亡した場合の慰謝料(損害賠償)の相場はどれくらい?」もご覧ください)。
このとき、労災年金のうち特別支給金と特別年金は、会社からの賠償額から差し引かれません。年金本体についても、すでに支給された分が差し引かれるにとどまり、将来の年金分は原則として差し引かれません。年金を受けているからといって、会社への請求をあきらめる必要はありません。
税金はかかる?
かかりません。労災保険の給付は、年金も一時金も非課税です。所得税や住民税の課税対象にならず、確定申告の必要もありません。
厚生年金や障害年金との調整(併給調整)
同じ事故や病気について、厚生年金や国民年金の障害年金・遺族年金を受けられる場合は、両方を受け取れますが、労災年金の方が一定の割合で減額されます。厚生年金側は全額支給され、労災年金に政令で定められた調整率が掛けられます。障害(補償)年金の場合、障害厚生年金と障害基礎年金の両方を受けるときは0.73、障害厚生年金だけのときは0.83、障害基礎年金だけのときは0.88です。遺族(補償)年金の場合は、遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方で0.80、遺族厚生年金だけで0.84、遺族基礎年金だけで0.88です。ただし、減額後の労災年金と厚生年金などの合計が、調整前の労災年金の額を下回ることはありません。調整の対象は年金本体だけで、特別支給金や特別年金は減額されません。
時効に注意
障害(補償)年金は症状固定した日の翌日から5年、遺族(補償)年金は亡くなられた日の翌日から5年で、請求する権利が時効により消滅します。前払一時金の請求は2年、葬祭料の請求も2年です。一度支給が決定された年金については、その後の各回の支払いに時効はありませんが、受給資格の変更などの届出を怠ると、支給が止まったり、受けすぎた分の返還を求められたりすることがあります。
よくあるご質問
Q. 年金を受けながら働いても大丈夫ですか?
A. 障害(補償)年金は、障害の状態に対して支給されるものなので、働いて収入を得ても減額されません。遺族(補償)年金も、ご遺族ご自身の収入によって減額されることはありません。
Q. 等級の認定に納得がいきません。
A. 決定を知った日の翌日から3か月以内に、労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることができます。認定の根拠となった診断書や画像を確認し、医学的な資料を補って争う方法があります。
Q. 会社が廃業していますが、年金は受けられますか?
A. 受けられます。労災保険は国の制度なので、会社の存続とは関係なく支給されます。事業主の証明が得られなくても請求できます。
7. まとめ:労災年金や損害賠償のことは弁護士に相談を

労災年金は、重い後遺障害が残った方、長期間働けない方、ご家族を亡くされた方の生活を長く支える制度です。障害の等級や遺族の人数によって金額が決まり、年6回に分けて、条件が続く限り支給されます。慰謝料は含まれないため、会社に責任がある事故では、年金とは別に損害賠償を請求できる可能性があります。
年金の額は等級の認定で大きく変わり、会社への請求には時効もあります。障害の等級認定、年金の請求、会社との交渉まで、弁護士が一貫してサポートします。「自分はどの年金に当てはまるのか」「いくらになるのか」「会社に請求できるのか」――どの段階のご質問でも、まずはご相談ください。
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【出典・参照条文】
- 労働者災害補償保険法第8条〜第8条の4(給付基礎日額・算定基礎日額等)・第12条の8(傷病補償年金)・第15条(障害補償給付)・第16条〜第16条の9(遺族補償給付)・第12条の6(公課の禁止)・第42条(時効)、同法別表第1・第2
- 労働者災害補償保険法施行令第2条(他の年金との調整率)
- 労働者災害補償保険特別支給金支給規則
- 厚生労働省パンフレット「障害(補償)等給付の請求手続」「遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」
- 厚生労働省「労災保険給付と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか」(労災保険に関するQ&A)
- 最高裁判所平成8年2月23日第二小法廷判決(特別支給金と損害賠償額の調整)、最高裁判所昭和52年10月25日第三小法廷判決(三共自動車事件・判例時報870号63頁。将来の年金給付と損害賠償額の調整)
- (注)本記事は一般的な解説であり、実際の支給額や受給の可否は、賃金の内容、障害の程度、遺族の状況などにより異なります。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
労働災害(労災)
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。




