不動産オーナー・大家さんが交通事故に遭ったら|家賃収入は休業損害になる?弁護士が解説

不動産オーナーが交通事故に遭った場合、家賃収入が休業損害や逸失利益の対象になるのかを解説します。自主管理の労務、管理委託費の増加、本業や家事の休業損害、死亡事故の扱いも取り上げます。

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「家賃収入が多いのに、休業損害はゼロ」と言われる理由

「家賃収入が多いのに、休業損害はゼロ」と言われる理由

アパートやマンション、貸店舗などを所有し、家賃収入を得ている不動産オーナーの方が交通事故に遭うと、保険会社から「家賃収入は休業損害の対象になりません」と説明されることがよくあります。

休業損害や逸失利益は、事故によって働けなくなったことで失われた収入を補うものです。家賃収入は、不動産という資産から生まれる収入であり、オーナーが入院していても入居者がいる限り入ってきます。そのため、家賃収入は原則として休業損害・逸失利益の基礎収入にはならないとされています。

しかし、これで話が終わるわけではありません。不動産オーナーであっても、請求できる損害は少なくありません。以下、具体的に見ていきましょう。

不動産オーナーが交通事故に遭ったとき、今すぐすべき対応

不動産オーナーが交通事故に遭ったとき、今すぐすべき対応
  1. 医療機関を受診し、症状をすべて伝える:慰謝料や後遺障害の判断は診療録が基礎になるため、事故直後から受診します。
  2. 収入の内訳を整理する:家賃収入、本業の給与・事業所得、役員報酬などを分け、確定申告書や源泉徴収票を用意します。
  3. 自主管理の業務内容を記録する:入居者募集、契約、家賃管理、クレーム対応、修繕の手配など、ご自身が行っていた業務と時間を書き出します。
  4. 事故のために増えた支出の領収書を保管する:管理会社への委託費、清掃・見回りを依頼した費用などの請求書・支払記録を残します。
  5. 家事を担っている場合はその内容も記録する:家事従事者としての休業損害を請求する根拠になります。
  6. 「家賃収入があるから損害はない」と言われたら弁護士へ相談する:請求できる損害が見落とされていないかを確認します。

家賃収入でも「労務の対価」の部分は請求できる場合がある

家賃収入でも「労務の対価」の部分は請求できる場合がある

不動産賃貸業の収入が、純粋に資産から生じるものなのか、オーナー自身の労働によって生み出されているものなのかは、ケースによって異なります。

管理会社に任せきりで、オーナーは家賃の入金を確認するだけという場合は、収入のほとんどが資産から生じるものといえます。これに対し、オーナー自身が入居者の募集、契約、家賃の回収、クレーム対応、清掃や修繕の手配などを行っている自主管理の場合は、収入の一部がオーナーの労務によって得られているといえます。

このような場合、家賃収入のうち、オーナーの労務に対応する部分について、休業損害や逸失利益の基礎収入とすることを主張する余地があります。

労務の実態を示す資料

  • 入居者募集や契約手続を自ら行っていたことがわかる資料(募集広告、契約書の作成記録)
  • 家賃の管理・督促の記録
  • 清掃・修繕業者への発注記録、入居者とのやり取り
  • 所有物件の数、戸数、管理にかけていた時間

事故のために管理を外注した費用

事故のために管理を外注した費用

自主管理をしていたオーナーが、入院や通院のために管理業務を行えなくなり、管理会社に業務を委託したり、家族以外の人に手伝いを頼んだりした場合、その費用は事故によって余分に支出を強いられた損害として請求できる場合があります。

この場合、休業損害として構成するよりも、実際に支払った費用として主張するほうが立証しやすいことがあります。管理委託契約書、請求書、支払記録を残しておきましょう。

空室が埋まらなかった損害は認められるか

入院中に退去があり、募集活動ができずに空室期間が長引いたという主張もあり得ます。もっとも、空室の発生や期間には市況などさまざまな要因が影響するため、事故との因果関係の立証は簡単ではありません。退去の時期、募集を再開できた時期、同じ物件の過去の空室期間などを整理して、慎重に検討する必要があります。

本業の収入や家事労働は別に請求できる

本業の収入や家事労働は別に請求できる

不動産オーナーの中には、会社員や自営業者として本業を持ちながら、副業として賃貸経営をしている方も多くいます。この場合、本業の収入については通常どおり休業損害・逸失利益を請求できます。家賃収入があるからといって、本業の休業損害が減らされることはありません。

また、家族のために家事を担っている方であれば、家事従事者としての休業損害を請求できる場合があります。家事従事者の休業損害は、賃金センサスの女性の全年齢平均賃金を基礎として計算するのが一般的です(男性が家事を担っている場合も同様に扱われます)。

働いていない資産家の逸失利益

働いていない資産家の逸失利益

家賃収入だけで生活しており、他に仕事をしていない方の場合、逸失利益は原則として認められにくいといえます。

もっとも、若くて健康で、事故がなければ将来働く意欲と能力があったと認められる場合には、賃金センサスの平均賃金を基礎として逸失利益が認められる可能性があります。事故前の職歴、就職活動の状況、資格の有無、将来の事業計画などが判断材料になります。

死亡事故の場合の家賃収入

死亡事故の場合の家賃収入

被害者が亡くなった場合、所有していた不動産は相続人に引き継がれ、家賃収入も相続人が受け取り続けることになります。そのため、家賃収入そのものは死亡による逸失利益にはならないとされるのが一般的です。

ただし、自主管理によって収入を生み出していた部分がある場合には、その労務の対価部分について逸失利益を主張する余地があります。また、死亡慰謝料は収入の多寡とは関係なく請求できます。

交通事故で請求できるお金の内訳

交通事故で請求できるお金の内訳

交通事故の被害者が相手方に請求できる損害は、職業に関係なく、大きく次の4つに分けられます。職業特有の損害にばかり目が向きがちですが、基本となる損害項目を漏れなく請求することが出発点です。

  1. 治療関係費(積極損害):治療費、入院費、通院交通費、入院雑費、付添費、装具・器具の購入費など
  2. 休業損害:事故によるけがのために働けず、収入が減った分
  3. 逸失利益:後遺障害が残ったために、将来にわたって減る収入
  4. 慰謝料:入通院慰謝料(けがの治療による精神的苦痛)と後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことによる精神的苦痛)

このほか、車両の修理費、代車費用、評価損などの物損も請求の対象になります。

慰謝料・治療費などは他の被害者と同じ

慰謝料・治療費などは他の被害者と同じ

入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、治療費、通院交通費、付添費などは、職業や収入に関係なく請求できます。不動産オーナーだからといって減額されることはありません。

慰謝料は、弁護士が交渉することで、保険会社が当初提示する金額よりも高い「弁護士基準(裁判基準)」で請求できることが多くあります。休業損害が認められにくい分、慰謝料を適正な基準で請求することが重要です。

慰謝料は「どの基準で計算するか」で大きく変わる

慰謝料は「どの基準で計算するか」で大きく変わる

交通事故の慰謝料には、次の3つの算定基準があります。

  1. 自賠責保険の基準:法律で定められた最低限の補償の基準です。
  2. 任意保険会社の基準:保険会社が独自に定める基準で、自賠責保険の基準に近い水準であることが多いです。
  3. 弁護士基準(裁判基準):裁判所の判断を基にした基準で、3つの中で最も高い水準です。

保険会社から最初に提示される慰謝料は、自賠責保険の基準や保険会社独自の基準で計算されていることがほとんどです。弁護士が交渉することで、弁護士基準を前提とした交渉が可能になります。

後遺障害慰謝料の目安

等級自賠責保険の基準弁護士基準(裁判基準)
第9級249万円690万円
第10級190万円550万円
第12級94万円290万円
第14級32万円110万円

入通院慰謝料の目安

入通院慰謝料は、入院・通院の期間を基に算定します。弁護士基準では、通院6か月の場合、骨折などの場合(別表Ⅰ)で約116万円、むちうちなど他覚所見のない場合(別表Ⅱ)で約89万円が目安です。自賠責保険の基準(1日4,300円)で計算した金額と比べると、大きな差が生じることが少なくありません。

相手方保険会社の典型的な主張と対応

相手方保険会社の典型的な主張と対応

「家賃収入は入ってきているので損害はありません」

家賃収入そのものは減っていなくても、自主管理の労務や、管理を外注した費用、本業の休業損害は別に検討できます。収入の内訳ごとに整理して主張します。

「確定申告上は不動産所得なので、休業損害はゼロです」

所得の区分だけで決まるわけではありません。オーナー自身がどのような管理業務を行っていたか、実態を資料で示します。

「無職なので逸失利益はありません」

年齢、健康状態、職歴、就労の意欲などから、将来働く蓋然性があったことを主張します。家事を担っていた場合は家事従事者として請求します。

不動産オーナーの交通事故でよくある質問(Q&A)

不動産オーナーの交通事故でよくある質問(Q&A)

Q. 家賃収入しかない大家だけど、交通事故の休業損害ってもらえないの?
A. 家賃収入そのものは、原則として休業損害の対象になりません。入院中も家賃は入ってくるからです。ただし、自主管理をしていた場合の労務の対価部分や、管理を外注した費用は請求できる場合があります。また、慰謝料や治療費は収入に関係なく請求できます。

Q. 法人名義で不動産を持ってて役員報酬をもらってる。役員報酬は休業損害になる?
A. 役員報酬のうち、実際の労務の対価と認められる部分は休業損害の対象になり得ます。報酬を受け取っていても、法人の業務を実際に行っていたかどうかが問題になるため、業務内容を具体的に示すことが大切です。

Q. 入院中、物件の見回りを家族に頼んだ。その分の費用って請求できる?
A. 家族が無償で手伝った場合は、実際の支出がないため請求は難しいことが多いといえます。ただし、家族が仕事を休んで対応した場合などには、事情によって検討の余地があります。業者に依頼した費用であれば、請求できる可能性があります。

Q. 会社員をしながら副業で大家をしてる。家賃収入があると本業の休業損害は減らされるの?
A. いいえ、減らされません。本業の給与については、通常どおり休業損害・逸失利益を請求できます。家賃収入の有無は、本業の休業損害の計算には影響しません。

Q. 弁護士に頼みたいけど、費用が心配…。
A. ご自身やご家族の自動車保険などに弁護士費用特約が付いていれば、通常は300万円を上限として保険から弁護士費用が支払われます。多くのケースで自己負担なくご依頼いただけますので、まずは保険の内容を確認してみてください。

確定申告の区分と休業損害の関係

確定申告の区分と休業損害の関係

不動産オーナーの方は、確定申告で家賃収入を「不動産所得」として申告しているのが一般的です。保険会社は、所得の区分が不動産所得であることを理由に、休業損害を一律に否定してくることがあります。

しかし、損害賠償の場面で問題になるのは、税務上の所得区分ではなく、その収入が本人の労働によって得られていたかどうかという実態です。反対に、事業所得として申告していても、実態が管理会社への丸投げであれば、労務の対価とは認められにくいでしょう。

たとえば、多数の物件を自主管理し、入居者対応や修繕の手配に日々時間を割いていたオーナーが入院した場合、その間に行えなかった管理業務の価値は、決して小さくありません。業務の内容や時間を具体的に説明できるよう、日頃の業務を記録しておくことが役に立ちます。

後遺障害が残った場合の注意点

後遺障害が残った場合の注意点

後遺障害が残った場合、家賃収入を理由に逸失利益が否定されても、後遺障害慰謝料は等級に応じて請求できます。また、自主管理をしていたオーナーが、後遺症のために管理業務を続けられなくなり、将来にわたって管理会社への委託費を支払わなければならなくなった場合には、その費用の増加分を損害として主張することも考えられます。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

請求できる損害を漏れなく洗い出せる

不動産オーナーの事案では、「家賃収入は対象外」という説明だけで、他に請求できる損害まで見落とされがちです。弁護士が収入の内訳と生活の実態を確認し、自主管理の労務、外注費、本業や家事の休業損害などを整理して請求します。

弁護士基準で慰謝料を請求できる

保険会社が最初に提示する慰謝料は、自賠責保険の基準や保険会社独自の基準で計算されていることが多く、裁判で認められる水準(弁護士基準)より低いのが一般的です。弁護士が交渉することで、弁護士基準を前提とした交渉が可能になります。

ご自身で交渉する場合と弁護士に依頼する場合の違い

項目ご自身で交渉する場合弁護士に依頼する場合
慰謝料の基準保険会社の基準で計算された金額を前提に交渉することになる弁護士基準(裁判基準)で請求できる
休業損害・基礎収入保険会社の計算方法が正しいか判断しにくい職業ごとの収入の実態に合った計算方法を主張できる
後遺障害等級必要な検査や診断書の記載が漏れやすい症状固定前から、検査や診断書の記載を確認できる
逸失利益等級表の喪失率・期間で画一的に計算されやすい職業上の具体的な支障を踏まえた喪失率・期間を主張できる
保険会社とのやり取り治療や仕事と並行して、自分で対応する負担が大きい窓口を弁護士に一本化でき、治療と仕事に専念できる

弁護士費用特約を使えば、多くの場合自己負担なし

ご自身やご家族が加入している自動車保険、火災保険などに弁護士費用特約が付いている場合、通常は300万円を上限として、弁護士費用を保険会社が負担します。多くのケースでは、自己負担なしでご依頼いただけます。

  • 弁護士費用特約を使っても、保険の等級が下がることは通常ありません。
  • ご本人の保険だけでなく、同居のご家族の保険の特約を使える場合もあります。
  • 特約を使う場合でも、依頼する弁護士はご自身で選ぶことができます。

まずは、加入している保険の証券を確認してみてください。

まとめ

まとめ

不動産オーナーの交通事故では、家賃収入は原則として休業損害・逸失利益の対象になりません。しかし、自主管理の労務の対価、管理を外注した費用、本業や家事の休業損害など、請求できる損害は数多くあります。

「家賃収入があるから損害はない」という説明をそのまま受け入れず、収入の内訳と実態を整理したうえで、適正な賠償を求めることが大切です。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀

交通事故

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、現在は交通事故案件を中心に多数の損害賠償請求に対応している。後遺障害等級認定や保険会社との示談交渉を含む実務に精通し、緻密な法的思考に基づいた立証に注力。被害者の適正な賠償実現のため、専門知識を活かした迅速な解決を追求している。