
派遣社員や契約社員が交通事故に遭った場合の休業損害、事故を理由とする派遣契約の終了や雇止めによる損害、傷病手当金との関係、将来の正社員化を見込んだ逸失利益の考え方を解説します。
派遣社員・契約社員の交通事故で起こりやすいこと

派遣社員や契約社員など、期間の定めのある契約で働く方が交通事故に遭った場合、正社員とは違った問題が生じます。
最も深刻なのは、けがで休んでいる間に派遣契約が打ち切られたり、契約が更新されなかったりして、仕事そのものを失ってしまうことです。正社員であれば、休職制度などによって身分が守られることが多いのに対し、有期契約の方は、事故をきっかけに収入の道が断たれてしまうことがあります。
本コラムでは、派遣社員・契約社員の方が交通事故に遭った場合の休業損害、契約終了後の損害、そして逸失利益の考え方を解説します。
派遣社員・契約社員が交通事故に遭ったとき、今すぐすべき対応

- 医療機関を受診し、医師の指示どおりに通院する:仕事が不安でも通院を控えると、症状が残っても後遺障害が認定されにくくなります。
- 派遣元(契約社員は勤務先)に事故と治療見込みを連絡する:連絡した日時、内容、担当者の回答を記録しておきます。
- 通勤中・業務中の事故なら労災保険の手続をする:派遣社員の場合は派遣元の労災保険を使います。
- 収入と勤務予定の資料を確保する:給与明細、雇用契約書・就業条件明示書、勤務予定表、過去の契約更新の記録を保管します。
- 契約終了・雇止めの通知は必ず書面で受け取って保管する:契約が終わった理由が事故による休業であることを示す重要な証拠になります。
- 契約終了を告げられたら、示談の前に弁護士へ相談する:契約終了後の減収を損害として請求できるかを検討します。
休業損害の計算について

派遣社員の場合
派遣社員の方は、雇用主は派遣先ではなく派遣元(派遣会社)です。そのため、休業損害証明書は派遣元に作成してもらいます。事故前3か月間の給与の総額をもとに1日あたりの基礎収入を算定し、休業日数を掛けて計算します。
時給制で働いている方の場合、事故前の勤務日数や勤務時間にばらつきがあることがあります。事故がなければ勤務する予定だった日を、派遣先の勤務予定表や契約書の就業条件をもとに示すことが大切です。
契約社員の場合
契約社員の方は、勤務先が作成する休業損害証明書をもとに、同様に計算します。有給休暇を使って通院した日も、休業日数に含めて請求できます。
傷病手当金を受け取った場合
通勤中や業務中以外の交通事故で、健康保険から傷病手当金を受け取った場合、その金額は休業損害から差し引かれるのが一般的です。傷病手当金は、休業損害の全額を補うものではないため、残りの部分は相手方に請求します。
派遣契約の終了・雇止めによる損害

けがで長期間休んだために、派遣先から派遣契約を打ち切られたり、契約期間の満了時に更新されなかったりすることがあります。この場合、仕事を失った後の収入の減少が、事故による損害といえるかが問題になります。
事故との因果関係を示す
契約の終了が事故によるものであれば、次の仕事が見つかるまでの期間の収入の減少は、事故と相当因果関係のある損害として認められる場合があります。そのためには、次のような資料が重要です。
- 契約終了の通知書や、派遣元・派遣先とのやり取りの記録
- 事故前の契約更新の実績(何回更新されていたか)
- 事故がなければ更新される予定であったことを示す資料
- 事故後の就職活動の記録
特に、事故前に何度も契約が更新されていた事実は、事故がなければ契約が続いていた可能性が高いことを示す有力な事情になります。
どこまでの期間が認められるか
仕事を失った後の減収がどこまで認められるかは、けがの程度、治療の期間、再就職の難しさなどによって判断されます。治療が終わった後も、けがの影響で以前と同じような仕事に就けない場合には、後遺障害による逸失利益の問題として扱われることになります。
逸失利益の基礎収入

後遺障害が残った場合の逸失利益は、原則として事故前の実際の収入を基礎に計算します。
参考までに、年収300万円の方について、法定利率3%のライプニッツ係数で試算すると次のとおりです(労働能力喪失率は自賠責保険の基準による目安です)。
| 等級(喪失率・期間の例) | 逸失利益の試算 |
| 第14級(5%・5年) | 約69万円 |
| 第12級(14%・10年) | 約358万円 |
| 第10級(27%・20年) | 約1,205万円 |
有期契約でも67歳まで
派遣社員や契約社員の方については、「契約期間が終われば収入はなくなるのだから、逸失利益は契約期間分だけだ」と主張されることがあります。しかし、逸失利益は、契約の残り期間ではなく、原則として67歳までの就労を前提に計算されます。有期契約であっても、契約の更新や別の仕事への就労によって、働き続けることが見込まれるからです。
将来の収入の見込み
若い方で、事故時点の収入が低い場合には、将来の昇給や正社員への登用が見込まれることもあります。正社員登用の制度があり、その対象として具体的に検討されていた、あるいは就職活動中で正社員の内定が出ていたといった事情があれば、それを踏まえた基礎収入を主張することを検討します。また、おおむね30歳未満の若年者については、賃金センサスの全年齢平均賃金を基礎収入とすることが認められる場合があります。
通勤中・業務中の事故と労災

派遣社員の方が、通勤中や派遣先での業務中に交通事故に遭った場合は、派遣元の労災保険が適用されます。労災の手続は、派遣元を通じて行います。
労災保険を使うと、過失割合にかかわらず療養補償給付を受けられ、休業補償給付(給付基礎日額の60%)に加えて休業特別支給金(同20%)が支給されます。また、業務中の事故によるけがの療養のために休業している期間とその後30日間は、原則として解雇が制限されます(労働基準法19条)。ただし、この解雇制限は通勤中の事故には適用されず、また、有期契約の期間満了による契約終了にも及ばないと解されているため注意が必要です。
派遣元・派遣先への伝え方

事故に遭ったら、できるだけ早く派遣元(派遣会社)の担当者に連絡し、事故の状況と、医師から見込まれている治療期間を伝えましょう。派遣先への連絡は、原則として派遣元を通じて行います。
このとき、連絡した日時や内容、担当者の回答を記録に残しておくことが大切です。後に契約が終了した場合、その理由が事故による休業にあったことを示す重要な資料になります。メールやチャットでやり取りした場合は、そのまま保存しておきましょう。
また、派遣元によっては、次の派遣先の紹介を受けられることもあります。治療を続けながら働ける仕事を紹介された場合、それを受けるかどうかは、医師の意見を聞いたうえで判断しましょう。紹介を断った場合には、その理由(医師から就労を止められていた等)も記録しておくことが大切です。
後遺障害の認定と慰謝料

治療を続けても症状が残った場合には、後遺障害の等級認定を申請します。認定された等級は、逸失利益だけでなく、後遺障害慰謝料の金額も左右します。
むちうちなどの神経症状では、画像で明らかな異常が見つからないことも多く、通院の頻度や期間、症状の一貫性が重視されます。仕事が見つからない不安から通院を控えてしまうと、症状が残っているにもかかわらず認定を受けられないことがあります。医師の指示に従って、継続的に通院することが大切です。
交通事故で請求できるお金の内訳

交通事故の被害者が相手方に請求できる損害は、職業に関係なく、大きく次の4つに分けられます。職業特有の損害にばかり目が向きがちですが、基本となる損害項目を漏れなく請求することが出発点です。
- 治療関係費(積極損害):治療費、入院費、通院交通費、入院雑費、付添費、装具・器具の購入費など
- 休業損害:事故によるけがのために働けず、収入が減った分
- 逸失利益:後遺障害が残ったために、将来にわたって減る収入
- 慰謝料:入通院慰謝料(けがの治療による精神的苦痛)と後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことによる精神的苦痛)
このほか、車両の修理費、代車費用、評価損などの物損も請求の対象になります。
慰謝料は「どの基準で計算するか」で大きく変わる

交通事故の慰謝料には、次の3つの算定基準があります。
- 自賠責保険の基準:法律で定められた最低限の補償の基準です。
- 任意保険会社の基準:保険会社が独自に定める基準で、自賠責保険の基準に近い水準であることが多いです。
- 弁護士基準(裁判基準):裁判所の判断を基にした基準で、3つの中で最も高い水準です。
保険会社から最初に提示される慰謝料は、自賠責保険の基準や保険会社独自の基準で計算されていることがほとんどです。弁護士が交渉することで、弁護士基準を前提とした交渉が可能になります。
後遺障害慰謝料の目安
| 等級 | 自賠責保険の基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
| 第9級 | 249万円 | 690万円 |
| 第10級 | 190万円 | 550万円 |
| 第12級 | 94万円 | 290万円 |
| 第14級 | 32万円 | 110万円 |
入通院慰謝料の目安
入通院慰謝料は、入院・通院の期間を基に算定します。弁護士基準では、通院6か月の場合、骨折などの場合(別表Ⅰ)で約116万円、むちうちなど他覚所見のない場合(別表Ⅱ)で約89万円が目安です。自賠責保険の基準(1日4,300円)で計算した金額と比べると、大きな差が生じることが少なくありません。
相手方保険会社の典型的な主張と対応

「契約が終わったのは事故とは関係ありません」
事故前の更新実績、契約終了の通知の内容、派遣先とのやり取りを示し、事故が原因であることを主張します。
「派遣社員なので、逸失利益は契約期間の分だけです」
逸失利益は原則として67歳までの就労を前提とすることを示して反論します。
「時給制なので、休業日数は実際に通院した日だけです」
事故がなければ勤務する予定であった日を、就業条件や勤務予定表で示します。
派遣社員・契約社員の交通事故でよくある質問(Q&A)

Q. 事故で休んでたら派遣契約を切られた。仕事を失った分の収入って請求できるの?
A. 契約の終了が事故による休業が原因であれば、次の仕事が見つかるまでの減収を損害として請求できる場合があります。事故前の更新実績や契約終了の通知の内容が重要な証拠になるため、やり取りの記録を保管しておきましょう。
Q. 事故の後、別の派遣先で働き始めたけど時給が下がった。差額はもらえる?
A. 事故によるけがのために以前と同じ仕事ができなくなった結果であれば、時給の差額について、休業損害や逸失利益として主張できる場合があります。
Q. 失業保険(雇用保険の基本手当)をもらったら、休業損害から差し引かれちゃうの?
A. 一般的には差し引かれないと考えられています。雇用保険の基本手当は、損害の填補を目的とするものではないとされているためです。一方、健康保険の傷病手当金は差し引かれるのが一般的です。
Q. 派遣会社に「事故の相手に請求して」と言われて、休んでる間の給料が出ない。どうすればいい?
A. 休業中の給与の減少は、休業損害として相手方に請求できます。通勤中や業務中の事故であれば、労災保険の休業補償給付も利用できます。
Q. 事故のすぐ後に契約期間が終わる予定だった。満了後の分も請求できる?
A. 事故がなければ契約が更新された可能性が高かったことを示せれば、満了後の減収についても主張できる場合があります。反対に、事故前から更新しないことが決まっていた場合には、満了後の減収は事故による損害とは認められにくくなります。
Q. 派遣会社に登録してただけで、事故の時は仕事をしてなかった。休業損害はゼロなの?
A. 必ずしもゼロではありません。仕事の紹介を受ける予定が具体的にあったなど、就労の蓋然性があれば、休業損害や逸失利益が認められる場合があります。
弁護士に依頼するメリット

契約終了後の損害まで視野に入れて請求できる
派遣社員・契約社員の方の事案では、休業損害だけでなく、事故をきっかけとした契約終了・雇止めによる減収をどこまで請求できるかが大きな争点になります。保険会社は「契約が終わったのは事故とは関係ない」と主張してくることが多く、事故前の更新実績や契約終了の経緯を証拠として整理し、事故との因果関係を法的に主張する必要があります。治療と仕事探しを並行しながら、これを一人で行うのは大きな負担です。
ご自身で交渉する場合と弁護士に依頼する場合の違い
| 項目 | ご自身で交渉する場合 | 弁護士に依頼する場合 |
| 慰謝料の基準 | 保険会社の基準で計算された金額を前提に交渉することになる | 弁護士基準(裁判基準)で請求できる |
| 休業損害・基礎収入 | 保険会社の計算方法が正しいか判断しにくい | 職業ごとの収入の実態に合った計算方法を主張できる |
| 後遺障害等級 | 必要な検査や診断書の記載が漏れやすい | 症状固定前から、検査や診断書の記載を確認できる |
| 逸失利益 | 等級表の喪失率・期間で画一的に計算されやすい | 職業上の具体的な支障を踏まえた喪失率・期間を主張できる |
| 保険会社とのやり取り | 治療や仕事と並行して、自分で対応する負担が大きい | 窓口を弁護士に一本化でき、治療と仕事に専念できる |
弁護士費用特約を使えば、多くの場合自己負担なし
ご自身やご家族が加入している自動車保険、火災保険などに弁護士費用特約が付いている場合、通常は300万円を上限として、弁護士費用を保険会社が負担します。多くのケースでは、自己負担なしでご依頼いただけます。
- 弁護士費用特約を使っても、保険の等級が下がることは通常ありません。
- ご本人の保険だけでなく、同居のご家族の保険の特約を使える場合もあります。
- 特約を使う場合でも、依頼する弁護士はご自身で選ぶことができます。
まずは、加入している保険の証券を確認してみてください。
まとめ

派遣社員・契約社員の方の交通事故では、休業損害の計算に加えて、事故をきっかけとした契約終了や雇止めによる損害をどう評価するかが重要な問題になります。また、有期契約であっても、逸失利益は原則として67歳までの就労を前提に計算されます。
契約終了の通知や、派遣元・派遣先とのやり取りは、後で重要な証拠になります。お早めに弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀
交通事故
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、現在は交通事故案件を中心に多数の損害賠償請求に対応している。後遺障害等級認定や保険会社との示談交渉を含む実務に精通し、緻密な法的思考に基づいた立証に注力。被害者の適正な賠償実現のため、専門知識を活かした迅速な解決を追求している。





