
オートバイや自転車は、車体に守られていません。そのため、同じ速度の衝突でも、四輪車に乗っていれば打撲で済む事故が、重傷や死亡につながります。頭部外傷、脊髄損傷、開放骨折、下肢の切断。重い後遺障害が残る事案の多くが、二輪車の事故です。
それにもかかわらず、賠償の場面では「車道の右寄りを走っていた」「速度を出していた」「ヘルメットをかぶっていなかった」といった主張を受け、過失割合を大きく取られることがあります。賠償額が大きい事案ほど、過失割合一割の差が数百万円から一千万円の差になります。
本記事では、オートバイ・自転車で重傷を負われた方が知っておくべき過失割合と保険の使い方について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。
二輪車の過失割合はどう決まるのか

別冊判例タイムズの類型表
交通事故の過失割合は、実務上、別冊判例タイムズ三九号(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)に掲載された基準をもとに算定されます。これは過去の裁判例を事故類型ごとに整理した書籍で、裁判所も保険会社も拠り所としています。
重要なのは、この基準が四輪車同士の事故とは別に、単車(オートバイ)対四輪車の類型表、自転車対四輪車の類型表を設けているという点です。二輪車は車体に守られておらず、四輪車側に手厚い注意義務が課されるため、同じ事故状況であれば四輪車同士の場合よりも二輪側の過失が低く設定されています。
保険会社が四輪車同士の基準をそのまま当てはめて提示してくることがありますので、どの類型表のどの図を前提としているのかを必ず確認する必要があります。
修正要素で大きく動く
基本の過失割合は、修正要素によって加減されます。
加害者側の修正要素としては、著しい過失(スマートフォンの操作、おおむね時速一五キロメートル以上三〇キロメートル未満の速度超過、酒気帯び運転、著しい前方不注意など)で一〇パーセント程度、重過失(酒酔い運転、無免許運転、時速三〇キロメートル以上の速度超過など)で二〇パーセント程度の加算が考慮されます。
また、幹線道路であるか、住宅街・商店街であるか、横断歩道上であるか、相手方が大型車であるかといった事情も修正要素になります。
二輪車側の事情としては、速度違反、酒気帯び、ヘルメットの不着用(後述)、二人乗りの違法性などが問題になりますが、そのすべてが当然に過失加算となるわけではありません。
ヘルメットの不着用
ヘルメットの不着用は、それ自体が当然に過失加算となるものではありません。問題になるのは、不着用と頭部の損傷の発生・拡大との間に因果関係があるかどうかです。
因果関係が認められる場合には、著しい過失として過失割合が加算されたり、損害の公平な分担の観点から減額されたりすることがあります。赤い本に掲載された裁判例にも、ヘルメット不着用が損害の拡大に寄与していることを他の事情と併せて考慮して減額したものがあります。
反対に、不着用が損害の拡大に影響していない場合(頭部以外の損傷が中心である場合など)には、減額の理由にはなりません。「ヘルメットをかぶっていなかったから過失が重い」という一般論に、無条件に従う必要はありません。
なお、自転車については令和五年四月から全年齢でヘルメット着用が努力義務となりましたが、これは罰則のない努力義務であり、直ちに過失加算の根拠になるものではありません。
自転車は交通弱者として扱われる
自転車対四輪車の事故では、自転車が交通弱者であることを前提に、四輪車側に重い過失が割り付けられています。
さらに、被害者が幼児(おおむね六歳未満)、児童(おおむね六歳以上一三歳未満)、高齢者(おおむね六五歳以上)である場合には、修正要素として自転車側の過失が減算されます。
もっとも、信号無視、一時停止義務違反、夜間の無灯火、右側通行、イヤホン使用といった事情があれば加算されます。自転車についても道路交通法上の車両としての義務が課されていることには注意が必要です。
過失割合を争うための証拠

刑事記録の取寄せ
二輪車の重傷事案では、加害者が過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法第五条)などで捜査を受けていることが通常です。警察が作成する実況見分調書には、事故現場の状況、当事者・目撃者の供述、事故状況を示す平面図が記載されています。
これらは刑事記録の一部として検察庁に保管され、弁護士が開示請求をすることで入手できます。不起訴になった場合でも、一定の範囲で開示を受けられます。
重傷でご本人が事故の状況を説明できない場合、加害者の供述だけが残ってしまいます。刑事記録を確認せずに示談をするのは、極めて危険です。
ドライブレコーダー・防犯カメラ
相手方車両のドライブレコーダー映像は、任意での提出を求めることが難しい場合もありますが、訴訟等の法的手続を通じて証拠として提出させることが可能な場合があります。
また、事故現場周辺の店舗や住宅の防犯カメラ、コンビニエンスストアの駐車場のカメラなども有力な証拠になります。これらの映像は保存期間が一週間から一か月程度と短いため、早期の保全が不可欠です。
バイクにドライブレコーダーを装着していた場合、映像が上書きされる前に別の媒体に保存してください。
車両の損傷状況と現場の状況
車両のどこがどのように損傷しているかは、衝突の角度と速度を推定する資料になります。修理前に、複数の角度から写真を撮っておいてください。
ブレーキ痕、路面のガウジ痕(車体が路面を削った跡)、散乱物の位置も重要です。現場の状況は時間とともに変化しますので、可能であれば早い段階で撮影しておきます。
素因減額の主張にも注意する
二輪車の事故では、転倒の衝撃で頸椎や腰椎に損傷が生じることが多く、保険会社から「もともと脊柱管狭窄症があった」「加齢による変性があった」として素因減額を主張されることがあります。
最高裁は、疾患にあたらない身体的特徴は原則として減額の理由にならないとしています。事故前はまったく症状がなく通常に就労していたことを、健康診断の結果や就労実績によって立証することが反論の柱になります。
自賠責と任意保険の使い方

重過失減額に注意する
被害者側の過失が七割以上の場合、自賠責保険でも減額が行われます。これを重過失減額といいます。
後遺障害・死亡に係るものについては、過失割合が七割以上八割未満で二割減額、八割以上九割未満で三割減額、九割以上一〇割未満で五割減額です。傷害に係るものについては、七割以上であれば一律に二割減額とされています。
七割未満であれば減額されませんので、過失割合が七割前後になる事案では、一割の違いが自賠責の支払額にも直接響きます。
人身傷害保険を活用する
ご自身やご家族の自動車保険に人身傷害保険が付いていれば、過失割合にかかわらず約款基準の保険金を受け取ることができます。自動車保険の人身傷害保険が「一般型(車内・車外補償型)」であれば、契約者やその家族が歩行中や自転車乗車中に自動車事故に遭った場合もカバーされますので、オートバイや自転車での事故でも使えることがあります。「搭乗中のみ型(車内のみ補償型)」の場合は対象外ですので、保険証券で型を確認してください。
治療費や当面の生活費を確保する手段として有効ですが、受領の順序によって最終的な手取り額が変わります。加害者からの賠償金を先に受け取るか、人身傷害保険金を先に受け取るかで、いわゆる過失部分の回収に差が生じるためです。受領の前に一度ご相談いただくことをお勧めします。
加害者が無保険の場合
加害者が任意保険に加入していない場合、自賠責保険の限度額を超える部分は加害者本人から回収しなければなりません。資力に不安があるときは、財産の調査や仮差押えを検討します。
ご自身の自動車保険に無保険車傷害保険が付いていれば、そこから回収できる場合があります。
自賠責保険にも加入していない無保険車による事故、あるいはひき逃げで加害者が不明な事故については、国の政府保障事業(自動車損害賠償保障事業)に請求できます。限度額は自賠責と同じで、死亡三〇〇〇万円、傷害一二〇万円、後遺障害は障害の程度に応じて七五万円から四〇〇〇万円です。ただし、健康保険や労災保険などの社会保険から給付を受けるべき金額は差し引かれます。請求期限は、傷害は事故発生日から三年、後遺障害は症状固定日から三年、死亡は死亡日から三年です。
なお、自転車同士の事故や自転車と歩行者の事故では自賠責保険の適用がありませんので、相手方の個人賠償責任保険や自転車保険の有無を確認することになります。
弁護士費用特約を確認する
弁護士費用特約は、自動車に乗っていなくても使える場合があります。ご自身の自動車保険、ご家族(配偶者、同居の親族、別居の未婚の子)の自動車保険、火災保険、傷害保険、クレジットカードの付帯サービス、自転車保険に付いていることがあります。
特約を使っても等級が下がったり保険料が上がったりすることはありません。まずは保険証券を確認してください。
重傷事案で押さえておくこと

治療費の打切りに備える
二輪車の事故は骨折や開放創を伴うことが多く、手術とリハビリで治療が長期化します。保険会社は受傷から六か月程度で打切りを打診してきますが、重傷事案でこれに応じる必要はありません。
打ち切られても、健康保険(業務中・通勤中の事故であれば労災保険)に切り替えて治療を継続できます。健康保険を使う場合は、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出します。
さらに、過失割合がある事案では、健康保険や労災保険を使って治療費の総額を圧縮しておくことが有効です。総額が下がれば、過失相殺で差し引かれる金額も下がり、結果として手取り額が増えます。
後遺障害を取りこぼさない
二輪車の事故では、複数の部位を同時に損傷することが一般的です。下肢の開放骨折に伴う可動域制限と短縮、骨盤骨折に伴う変形と神経症状、頭部外傷に伴う高次脳機能障害、顔面の瘢痕。
これらを一つひとつ拾い上げて主張すれば、併合によって等級が繰り上がります。第一三級以上が二つ以上あれば一級繰上げ、第八級以上が二つ以上あれば二級繰上げ、第五級以上が二つ以上あれば三級繰上げです。
整形外科の診断書だけでは足りず、脳神経外科、形成外科、泌尿器科など、治療を担当した科から別途所見を取得する必要があります。
慰謝料の水準
赤い本の基準では、後遺障害慰謝料は第一級二八〇〇万円、第三級一九九〇万円、第五級一四〇〇万円、第七級一〇〇〇万円、第八級八三〇万円、第一〇級五五〇万円、第一二級二九〇万円が目安です。
入通院慰謝料は赤い本別表Ⅰによって算定し、入院三か月・通院六か月であれば二一一万円が目安です。傷害の部位・程度によっては二〇パーセントから三〇パーセント程度の増額、生死が危ぶまれる状態が継続した場合や手術を繰り返した場合には別途の増額が認められます。
当事務所のサポート内容

①刑事記録の取寄せと過失割合の検証
検察庁から実況見分調書等を取り寄せ、別冊判例タイムズのどの類型が適用されるかを検討し、修正要素を含めた主張を組み立てます。
②映像・車両の証拠保全
防犯カメラやドライブレコーダーの映像、車両の損傷状況について、早期の保全を行います。
③保険の使い方の設計
人身傷害保険、無保険車傷害保険、健康保険・労災保険、政府保障事業のうち、どれをどの順序で使えば手取りが最大になるかを設計します。
④後遺障害の申請と示談交渉・訴訟
科ごとの診断書を揃えて被害者請求を行い、併合等級を主張します。赤い本の基準で交渉し、折り合えない場合には訴訟を提起します。
おわりに

二輪車の事故は、身体の損傷が重いのに、過失割合で大きく値切られるという二重の不利を受けやすい類型です。
しかし、別冊判例タイムズには二輪車専用の類型表があり、修正要素も定められています。そして、それを適用するための材料は、刑事記録と映像と写真の中にあります。いずれも、時間が経つほど手に入りにくくなります。
過失割合に疑問を感じたら、示談書に署名をする前にご相談ください。弁護士費用特約をご利用いただける場合はご自己負担なく、特約がない場合も原則として着手金無料で対応しております。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
交通事故
弁護士登録後、交通事故による後遺障害・慰謝料増額・保険会社との示談交渉など多数の事案を担当。不当要求防止責任者講習の講師として培った毅然とした交渉力を武器に、保険会社との粘り強い折衝を得意とする。交通事故問題について、テレビ朝日「グッド!モーニング」出演歴があり、また中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。




