
近年、将来の資産形成に向けた国策としての「新NISA(少額投資非課税制度)」の拡充や、老後資金づくりとしての「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の普及に伴い、多くの方が個人で株式や投資信託を運用する時代になりました。
また、ビットコインやイーサリアムをはじめとする「暗号資産(仮想通貨)」を保有・取引する方も急速に増えています。
一方で、思わぬ生活環境の変化、住宅ローンの負担、あるいは投資や暗号資産取引に伴う急激な価格変動やレバレッジ取引の失敗などによって返済困難に陥り、法律事務所へご相談に来られるケースも少なくありません。
ご相談の際、多くの方が疑問に思われるのが「自分が積み立ててきた新NISAやiDeCo、保有している暗号資産は、個人再生や自己破産をするとどうなるのか?」・「手続きをした場合に処分されてしまうのか、あるいは手元に残せるのか?」という点です。
本コラムでは、個人再生における「清算価値(手元残存財産・弁済額)」への影響を中心に、自己破産での扱いや、差押禁止財産であるiDeCoとの決定的な違い、実務上の留意点について解説いたします。
基礎知識:「清算価値保障の原則」と「差押禁止財産」とは

まずは、個人再生や自己破産の手続きを理解する上で極めて重要な2つの概念について整理しておきましょう。
① 清算価値保障の原則(個人再生)
個人再生は、裁判所の認可を得て借金を大幅に減額(多くの場合は5分の1)し、原則3年(最長5年)で分割返済していく手続きです。
また、住宅ローンを残したままマイホームを守る「住宅資金特別条項」が利用できるなど、財産を処分せずに済む点が大きなメリットとされています。
しかし、無制限に借金を減額できるわけではありません。個人再生には「清算価値保障の原則」というルールが存在します。
これは、「仮に今、自己破産を選んだとしたら債務者が所有している資産(破産財団)から債権者に配当されるであろう金額(=清算価値)」以上の金額を、個人再生の返済期間を通じて最低限支払わなければならない、という仕組みです。
つまり、債務者が価値の高い資産を多く持っていればいるほど、清算価値が高くなり、個人再生で支払うべき最低弁済額(返済総額)が引き上げられることになります。
② 差押禁止財産(自己破産・個人再生に共通)
破産法や民事執行法などの各種法律により、債務者の生活保障や特定の政策目的のために「差し押さえてはならない」と定められている財産を「差押禁止財産」と呼びます。
自己破産の手続きにおいて、差押禁止財産は破産財団に組み入れられず、破産管財人によって換価処分されません(手元に残ります)。
同様に、個人再生の手続きにおいても、差押禁止財産は債務者の所有財産であっても「清算価値」の算定対象から除外されます。
どの資産が差押禁止財産に該当し、どの資産が該当しないかによって、債務整理手続きにおける影響は180度変わってくるのです。
新NISA口座(株式・投資信託等)の扱いと清算価値への影響

新NISA(旧NISA含む)は、投資で得られた利益(譲渡益や配当金)にかかる約20%の所得税・住民税が非課税になるという税制上の優遇制度です。
法律上の性質としては、通常の特定口座や一般口座で保有している株式・投資信託と何ら変わりありません。法令上、NISA口座内の資産を差押禁止とする規定は存在しないため、NISA口座にある資産は「差し押さえ可能な通常資産」として扱われます。
個人再生を選択した場合、申立時や再生計画案の作成時点におけるNISA口座内の資産の「時価評価額(解約返戻金相当額)」がそのまま全額、清算価値に計上されます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の扱い

iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型確定拠出年金の最大の特徴は、法令によって明確に差押えが禁止されます。
したがって、iDeCoの積立金(資産評価額)は清算価値に一切計上されません。仮にiDeCoの資産額が500万円や1,000万円に膨らんでいたとしても、個人再生での返済額(最低弁済額)を吊り上げる要因にはなりません。
iDeCoに関する実務上の注意点・例外

iDeCoが差押禁止財産であっても、以下の点には注意が必要です。
iDeCoを一時金や年金として実際に受け取り、自身の銀行口座に入金された後は、もはや「年金受給権」ではなく「通常の預金」へと性質が変化します。
口座に着金した預金は差押禁止財産ではなくなるため、清算価値に計上され、自己破産でも換価対象となります。
また、債務整理を予期しながら、他の債権者への返済を免れる目的で、差し押さえられないiDeCoへ直前に一括して多額の掛金を投入するような行為は、「不当な財産隠し」や破産法上の「否認権(行為の効力を否定して財産を取り戻す手続き)」の対象とされるリスクがあります。
暗号資産(仮想通貨)の扱いと清算価値への影響

ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産(仮想通貨)は、資金決済に関する法律において「代価の弁済のために不特定のものに対して使用できる財産的価値」として位置付けられています。
差押禁止財産に指定されているわけではないため、暗号資産は通常の動産や預貯金と同様、債務者の所有する「財産」として取り扱われます。
まとめ

債務整理を検討するうえで、新NISAやiDeCo、暗号資産といった多様な資産の取り扱いを正確に把握することは、最適な解決策を選択するための不可欠なプロセスとなっています。
特に個人再生においては、「新NISAや暗号資産の評価額が思った以上に高く、清算価値が跳ね上がってしまって予定していた返済計画が組めなくなる」というトラブルや、逆に「iDeCoが差押禁止財産であることを知らず、無理に解約しようとしてしまった」といったというケースが散見されます。
また、最も避けるべきなのは、「暗号資産や投資信託なら裁判所にバレないだろう」と甘く考えて申告を隠したり、弁護士への相談前に勝手に親族へ名義変更・売却・送金して現金化したりする行為です。
これらは「偏頗弁済」や「不当な財産隠し」と判断され、本来解決できるはずであった個人再生や自己破産の道が一瞬にして閉ざされてしまう原因になります。
弁護士は、一人ひとりの負債状況だけでなく、保有されている新NISA口座・iDeCo・暗号資産・不動産などの資産状況を細かくヒアリングし、どの債務整理手続き(任意整理・個人再生・自己破産)が最もご相談者様の未来にとって有利かつ安全であるかを総合的に判断いたします。
資産運用を行いながらも借金や返済の工面に悩まれている方は、ご自身で判断して資産を動かす前に、弁護士までご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 安田伸一朗
債務整理
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和4年の弁護士登録以来、債務整理・借金問題の解決に特化し、自己破産、個人再生など、多重債務に苦しむ依頼者の生活再建に向けて数々の解決事例あり。最新の法制度に基づいた緻密な戦略と丁寧なヒアリングで、生活再建や早期の根本解決へと導くことに注力。




