
ある日突然、身に覚えのある(あるいは身に覚えのない)不貞行為を理由として、交際相手の配偶者やその代理人弁護士から内容証明郵便が手元に届いたら、多くの方は激しい動揺と強い不安を覚えることでしょう。
「数百万円もの高額な慰謝料を請求された」
「○日以内に支払わなければ裁判を起こすと書かれている」
「職場や家族にバラすと脅されている」
通知書に並ぶ厳格な文章や高額な請求金額、厳しい支払期限を目にすると、パニックになり「すぐに謝罪して支払わなければならないのではないか」「このままでは人生が終わってしまうのではないか」と追い詰められてしまうかもしれません。
しかし、どれほど焦っていても、初期対応を誤ることだけは絶対に避けなければなりません。 相手の言い分に言われるがまま応じてしまったり、反対に感情的になって無視・放置したりすると、法的に極めて不利な状況に追い込まれ、本来支払う必要のない多額の金銭を支払うことになりかねません。
本コラムでは、不貞相手の配偶者から内容証明郵便が届いた際に、弁護士の視点から「絶対にやってはいけないNG行動」「通知が届いた直後に確認すべきポイント」「法的な反論・減額の可能性」「具体的な解決への手順」について、分かりやすく徹底的に解説します。
内容証明郵便が届いた直後に絶対やってはいけない4つのNG行動

不貞相手の配偶者から通知を受け取った際、焦りや恐怖から反射的に行ってしまいがちな行動があります。しかし、以下の4つの行動は事態を著しく悪化させるリスクが高いため、絶対に避けてください。
①パニックになり通知書を無視・放置する
請求内容が不当に高額であったり、身に覚えがない内容であったりすると、「怖くて見なかったことにしたい」「関わりたくない」と放置してしまう方がいます。
しかし、通知書(特に内容証明郵便)を無視し続けると、相手方は「交渉による解決は不可能」と判断し、裁判所への訴訟提起へステップを進めてしまいます。 裁判になると、自宅に訴状が届き、同居家族に不貞の事実が知られるリスクが飛躍的に高まります。また、裁判も無視した場合は相手の言い分が100%認められる判決が出てしまい、給料や預貯金を差し押さえられる最悪の事態に発展してしまうおそれがあります。
② 相手方の提示額に即座に同意・承諾する・誓約書にサインする
通知書に「○日以内に300万円を支払え」「支払わない場合は裁判にする」と書かれていると、恐怖のあまり「相手の請求のとおり支払って終わらせよう」と考えてしまうことがあります。また、相手から直接呼び出されて「反省の証としてこの誓約書にサインしろ」と迫られるケースもあります。
しかし、一度書面で支払いを約束したり、誓約書や示談書にサイン・捺印してしまうと、後から「高すぎる」「本当は不貞行為をしていない」と主張して取り消すことは極めて困難になります。相手の請求額は、交渉を前提として高めに設定されていることがほとんどです。誓約書・示談書への署名押印をする前に必ず弁護士に相談することをおすすめします。
③ 相手方の配偶者(不貞相手)と口裏合わせをする
通知が届いた後、焦って交際相手(相手方の配偶者)に連絡を取り、「LINEを消して」「相手にこう言ってほしい」などと口裏合わせを行おうとするのは非常に危険です。 相手方はすでにLINEのスクリーンショットや探偵の調査報告書など、確実な証拠を握っている可能性が高く、口裏合わせや証拠隠滅の形跡が発覚すると、「反省していない」「不誠実である」とみなされ、裁判で慰謝料が増額される要因になってしまいます。
④ 感情的に反論・攻撃する・相手の家や職場に押しかける
「あなたにも落ち度がある」「そっちの夫婦関係はもともと破綻していた」などと相手に怒りや感情的な反論をぶつけることも逆効果です。相手の感情を逆撫でし、こじれた感情から「絶対に許さない」「徹底的に追い詰める」と相手を頑なにしてしまいます。また、相手の自宅や職場に押し掛けたりすると、場合によっては脅迫罪や建造物侵入罪などの刑事事件に発展するおそれもあります。
通知が届いたらまず確認すべき「3つのチェックポイント」

通知書を受け取ったら、冷静になってまずは書面の中身をじっくり確認しましょう。以下の3つのポイントを整理することが、今後の防御方針を立てる第一歩となります。
① 差出人は誰か(本人か、弁護士か)
通知の差出人が「相手方本人」なのか「相手方が依頼した代理人弁護士」なのかを確認します。
- 本人名義の場合:感情的な文章になっていることが多く、相場からかけ離れた超高額な慰謝料(500万〜1000万円など)や、法的根拠のない要求(「会社を辞めろ」「引越ししろ」など)が含まれている傾向があります。
- 弁護士名義の場合:法的根拠に基づいた請求組み立てが行われており、期限内に回答しない場合は法的措置(訴訟)に移行する本気度が高いと言えます。
② 請求の内容と「期限」
相手が何を求めているのかを明確にします。
- 金銭の請求:慰謝料の金額、振込先口座、支払期限
- 行動の要求:不貞相手との接触禁止、謝罪文の提出、退職や転居の要求 特に「回答期限(請求書の受領から〇日以内、〇月〇日まで)」を必ず確認してください。期限が数日〜1週間程度と短いケースが多いですが、焦る必要はありません。期限内に「弁護士に相談中であり、〇日までに回答します」という回答保留の通知を出すことで、無用なトラブルを防ぐことができます。
③ 記載されている「不貞行為の事実関係」
通知書に記載されている不貞の期間、回数、具体的な内容が、ご自身の記憶と一致しているか確認します。「1回しか関係を持っていないのに、継続的な同棲と書かれている」「すでに別れた後の日付が記載されている」など、事実と異なる記載がある場合は、後の交渉で事実関係を正しく反論していく必要があります。
慰謝料を「減額」または「支払不要」にできる法的理由

不貞相手の配偶者から慰謝料を請求されたからといって、相手の提示額をそのまま支払わなければならないケースは極めて稀です。法的には、以下のような事情が存在する場合、慰謝料を大幅に減額できる、あるいは支払いを拒否できる可能性があります。
不貞行為の時点で「婚姻関係がすでに破綻していた」と言える場合
不貞行為に対する慰謝料請求の法的根拠は、「他人の平穏な婚姻生活を破壊したこと」にあります。したがって、あなたが交際を開始するより前の段階で、相手方夫婦がすでに長期間別居していたり、離婚協議・離婚訴訟が進んでいたりして「婚姻関係が客観的に破綻していた」場合、保護すべき婚姻生活が存在しないため、法律上の不法行為は成立せず、慰謝料を支払う義務はありません。
※ただし、「単に夫婦仲が冷め切っていた」「家庭内で会話がなかった」という程度では破綻とは認められにくく、客観的な別居等の事実が必要です。
相手が「既婚者であることを知らなかった」場合
不貞行為で損害賠償責任を負うのは、相手が既婚者であることを「知っていた(故意)」、あるいは「注意していれば知ることができた(過失)」場合です。
- 相手が「独身だ」と偽っており、SNSや普段の言動からも既婚者と見抜くことが不可能な状況だった
- マッチングアプリで「独身限定」と記載されており、既婚であることを完全に隠されていた
このような場合、あなたに故意・過失がないため、慰謝料の支払義務は発生しません。
相手から「強要・脅迫」されて性的関係を持った
自由な意志に基づいて性的関係を持ったのではなく、職場の上下関係を利用したパワハラや、暴行・脅迫、薬物等によって無理やり関係を持たされた場合、あなたは加害者ではなく被害者となります。この場合も慰謝料請求に応じる必要はありません。
請求金額が「裁判上の相場」より著しく高い
法律上の不貞慰謝料の相場は、事情によって概ね以下のようになっています。
- 不貞が原因で離婚・別居に至っていない場合:50万〜150万円程度
- 不貞が原因で離婚・別居に至った場合:150万〜300万円程度
通知書で300万円〜500万円以上の高額な請求がされている場合、裁判相場に照らして過大であるため、交渉によって適正な金額まで大幅に減額させることが可能です。
「求償権」の主張による減額交渉
不貞行為は、あなたと交際相手(相手方の配偶者)の2人による「共同不法行為」です。したがって、発生した慰謝料は2人で連帯して支払う責任があります。 もし、あなただけが相手方配偶者に慰謝料全額(例:200万円)を支払った場合、あなたは交際相手に対して「本来交際相手が負担すべき半分(例:100万円)を返してほしい」と請求する権利があります。これを「求償権(きゅうしょうけん)」といいます。
相手方夫婦が離婚しない場合、あなたから交際相手へ求償権を行使すると、夫婦の家計からお金が出ていくことになります。そのため、「求償権を放棄する代わりに、最初から支払う慰謝料の額を半額程度に減額して示談する」という交渉(求償権の事前放棄・一括解決)が極めて有効な実務的手段となります。
通知が届いてから解決までの具体的ステップ

実際に通知書が届いた場合、どのような手順で手続きを進めるべきか、具体的なステップを解説します。
ステップ1:証拠の整理と事実確認
届いた通知書の内容をもとに、手元の証拠を整理します。
- 相手とのLINEやメールのやり取り(既婚であることを知っていたか、既婚であることを否定していたか等のやり取り)
- 交際期間や頻度がわかるもの
- 相手方夫婦の仲や別居の有無に関するやり取り
ステップ2:弁護士への相談
通知書を持参して、弁護士に相談します。弁護士は、通知書の内容とあなたの言い分を精査し、「減額できる見込み」「支払いを拒否できる可能性」「適切な返答内容」を即座に判断します。
ステップ3:回答書の送付
相手方に対し、「回答書」を送付します。
- 期限が迫っている場合:まずは「弁護士を代理人に選任し、事実関係を確認中であるため、〇月〇日まで回答を待たれたい」旨の回答保留通知を送ります。
- 内容が固まっている場合:認める部分と反論する部分を整理し、適正な金額の提示や拒否の意思を回答します。
ステップ4:示談交渉
弁護士が代理人となり、相手方または相手方弁護士と交渉を行います。 感情論を排し、過去の裁判例や求償権の取り扱い、相手方の提示額の不当性を法的に主張することで、相手方に適正額での合意を促します。代理人が就いた後は、相手方からあなたへ直接連絡することは禁止されますので、精神的なストレスは激減します。
ステップ5:示談書の締結と解決
交渉がまとまれば、必ず「示談書(合意書)」を作成します。示談書には以下の条項を確実に盛り込みます。
- 合意金額と支払方法
- 清算条項(本件に関し、示談書に定めた内容以外に金銭等の請求を一切行わないこと)
- 接触禁止条項・口外禁止条項(今後お互いに接触しないこと、第三者やSNS、職場等に不貞の事実を口外しないこと)
- 求償権の放棄条項(必要に応じて)
示談書を取り交わした上で慰謝料を支払えば、問題は完全に法的解決となり、将来の二次トラブルを防止できます。
まとめ

- 内容証明郵便が届いたら無視をしない。
- 相手の主張のとおり合意書に署名押印してしまう前に弁護士に相談する。
- 津内容証明が届いたら、まずは差出人が本人か弁護士か、請求内容、不貞の事実について確認する。
- 事案によっては慰謝料の減額やそもそも法律上支払い義務が認められない場合もあるため、まずは弁護士に相談を。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。




