
執行役員、事業部長、本部長といった経営幹部の方から、「取締役会で解任が決まったと言われた」「明日から出社しなくてよいと告げられた」というご相談をお受けすることがあります。
経営幹部の報酬は、年収一千万円台から数千万円に及ぶこともあり、退職慰労金や賞与を含めれば、失われる利益はさらに大きくなります。しかも、同じ業界の同等のポストに移ることは容易ではありません。
会社側からは、「あなたは経営陣であって労働者ではないから、労働法の保護はない」と説明されることがあります。しかし、この説明が常に正しいわけではありません。
本記事では、執行役員や経営幹部が労働者として保護されるのはどのような場合か、そして地位を失ったときにどのような請求ができるのかについて、埼玉県大宮の弁護士が解説します。
まず問題になるのは「労働者かどうか」

執行役員は法律上の役員ではない
会社法上の役員は、取締役、会計参与、監査役です(会社法第329条第1項)。なお、指名委員会等設置会社に置かれる「執行役」は会社法上の機関ですが、本記事で述べる「執行役員」はこれとは別のものです。
執行役員は会社法に定めのない社内の職制であり、その法的な地位は会社ごとの取扱いによって異なります。
執行役員には、従業員としての地位を維持したまま就任する類型と、いったん退職して委任契約を締結する類型があります。前者であれば労働者性は明らかであり、後者であっても、実態によっては労働者と評価される場合があります。
労働者性は実態から判断される
判断にあたっては、業務内容が具体的に指示されているか、勤務時間や勤務場所の拘束があるか、報酬が労務の対価といえるか、社会保険や源泉徴収の扱いがどうなっているか、就業規則の適用があるか、他の従業員と同様の福利厚生を受けているかといった事情が総合的に考慮されます。
「執行役員規程がある」「委任契約書を交わした」といった形式だけで、労働者性が否定されるわけではありません。
使用人兼務取締役の場合
取締役でありながら部長などの従業員としての職務も担っている場合、従業員としての部分については労働者としての保護が及びます。取締役を解任されたことと、従業員としての地位を失うこととは、別の問題です。
労働者と認められる場合に主張できること

①解雇には合理的な理由と社会的相当性が必要
労働者と認められれば、労働契約法第16条が適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります。業績不振や経営陣との対立といった理由だけでは、解雇は正当化されません。
②解雇予告のルールが適用される
労働基準法第20条により、30日前の予告か、平均賃金30日分以上の解雇予告手当が必要です。予告手当を受け取ったからといって、解雇の効力を争えなくなるわけではありません。
③地位確認と賃金の請求ができる
解雇が無効であれば、従業員としての地位の確認を求め、解雇の日以降の賃金を請求することができます(民法第536条第2項)。報酬額が大きいだけに、請求額も大きくなります。
④降格・減給の当否も争える
執行役員を外されて一般社員に戻され、報酬が大幅に減額されるケースがあります。降格や減給には、就業規則上の根拠と、これを基礎づける事実が必要であり、裁量の逸脱があれば無効となります。
委任契約と評価される場合の考え方

任期途中の解任には損害賠償の余地がある
委任契約に基づく執行役員であっても、任期の途中で正当な理由なく地位を失った場合には、契約上の残存期間の報酬相当額について、損害賠償を請求できる余地があります。委任契約書の期間、解任事由、報酬に関する定めの確認が出発点になります。
取締役の解任と正当な理由
会社法第339条第1項により、取締役はいつでも株主総会の決議によって解任することができます。もっとも、同条第2項により、その解任について正当な理由がある場合を除き、解任された取締役は会社に対して解任によって生じた損害(通常は残任期分の報酬相当額)の賠償を請求することができます。
経営幹部の事案では、労働者としての地位、委任契約上の地位、会社法上の地位のいずれを基礎に主張するのかを、事実関係に即して選択する必要があります。
使用人兼務役員の退職金の算定
取締役でありながら従業員としての職務も担っていた場合、退職金は、従業員としての勤続期間に対応する部分と、役員としての在任期間に対応する部分とに分けて考えることになります。
従業員としての部分については退職金規程に基づいて算定され、役員としての部分については株主総会の決議や内規に基づくことになります。それぞれの根拠を確認しておくことが、請求の出発点になります。
退任・解雇を告げられたときに、まずすべきこと

①契約関係を示す書類を確認する
雇用契約書、執行役員契約書、執行役員規程、就業規則、退職金規程、役員退職慰労金規程などを確認し、自分の地位がどの類型に当たるかを整理してください。
②その場で辞任届・退職届を書かない
「円満に退任した形にしましょう」と勧められても、その場で署名しないでください。自ら辞任・退職したと扱われると、争う余地はほとんどなくなります。
③報酬と社会保険の扱いを確認する
給与所得として源泉徴収されていたか、健康保険・厚生年金の被保険者資格がどう扱われていたか、雇用保険に加入していたかは、労働者性を判断するうえで重要な事実です。
④指示・報告の記録を確保する
代表取締役や上位者からの指示、決裁の履歴、勤務実態が分かる資料を保存してください。労働者性を基礎づける有力な証拠になります。
退任に伴って問題になる周辺の論点

未払報酬と役員退職慰労金
取締役の報酬は、定款または株主総会の決議によって定められます(会社法第361条)。役員退職慰労金についても、支給の基準を定めた内規があり、その内規に従って支給される慣行が確立していれば、請求が認められる余地があります。
これに対し、従業員としての地位に基づく退職金であれば、退職金規程に従って請求することになります。自分の地位がどちらに当たるのかによって、根拠も手続も変わります。
株式報酬・ストックオプションの扱い
権利が確定していない株式報酬やストックオプションは、退職によって失権する定めになっていることが一般的です。付与契約や規程を確認し、退職日を調整することによって権利の確定時期を迎えられないかを検討する余地があります。
引継ぎと対外的な公表のしかた
経営幹部の退任は、社内外に公表されることが少なくありません。公表の文言、取引先への説明、退任の理由の記載は、その後のキャリアに直接影響します。合意書のなかで、相互に誹謗中傷をしないことや、公表内容をあらかじめ定めておくことが有効です。
解決までの流れと期間の目安

交渉
まず代理人から通知を出し、地位の回復や解決条件について交渉します。経営幹部の事案では、対外的な影響を避けたいという会社側の事情が働き、比較的早期に条件の協議に入ることも少なくありません。
労働審判
労働者性が認められる事案であれば、労働審判を申し立てることができます。第1回の期日は申立てから原則40日以内に指定され、原則3回以内の期日で審理が終わります。
訴訟
労働者性そのものが争点となる事案や、委任契約上の請求・会社法上の請求による場合には、訴訟で審理を尽くすことになります。請求の構成によって管轄や主張の組み立てが変わりますので、早い段階での検討が必要です。
解雇された後の生活を支える手続

雇用保険の基本手当は会社都合として扱われる
解雇による離職は、原則として会社都合の離職(特定受給資格者)として扱われ、自己都合退職の場合のような給付制限を受けることなく基本手当を受給できます。所定給付日数も、多くの場合、自己都合退職より長く設定されています(年齢や被保険者であった期間によっては同じ日数となることもあります)。
ただし、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」(重責解雇)と判断された場合には特定受給資格者に当たらず、給付制限を受けることになります。解雇の効力そのものを争っている場合には、その事情もハローワークに伝えてください。
離職票に記載された離職理由に納得できない場合には、ハローワークに異議を申し出ることができます。会社都合であるはずなのに「一身上の都合」と記載されていないか、必ず確認してください。
解雇を争いながら基本手当を受けられる場合がある
解雇の効力を争っている場合でも、現に就労できていないのであれば、基本手当を受給できることがあります。ただし、後に解雇が無効となって賃金がさかのぼって支払われたときは、受給した基本手当の返還などが必要になる場合がありますので、あらかじめハローワークに事情を伝えておくことが大切です。
健康保険は任意継続と国民健康保険を比較して選ぶ
退職後の健康保険には、これまでの健康保険を任意継続する方法と、国民健康保険に加入する方法があります。保険料の額や扶養家族の人数によって有利不利が変わりますので、期限内に比較して選択してください。任意継続は、退職日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることを要件に、資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申し出る必要があり、加入できる期間は最長2年です。国民健康保険は、原則として退職日の翌日から14日以内の届出となります。
弁護士に依頼するメリット

主張の組み立て方を誤らずに済む
労働者性を争うのか、委任契約上の債務不履行として争うのか、会社法上の請求を行うのか。入り口の選択を誤ると、回収できる金額が大きく変わります。専門的な検討が必要な場面です。
報酬・退職慰労金を含めた総額で交渉できる
未払報酬、賞与、退職金または役員退職慰労金、株式報酬の扱いを含めて、総額での解決を目指すことができます。
業界内での評判に配慮した解決ができる
経営幹部の事案では、退任の形式や対外的な説明のしかたが、その後のキャリアを大きく左右します。合意書の文言まで含めて調整することができます。
当事務所のサポート内容

①地位と契約関係の分析
契約書、規程、報酬と社会保険の扱いを精査し、労働者性の有無と取り得る請求について見通しをお伝えします。
②会社との交渉
代理人として、地位の回復、または未払報酬・退職金を含む適正な解決金の支払いを求めて交渉します。
③労働審判・訴訟の申立て
交渉での解決が難しい場合には、地位確認と未払賃金の支払いを求める労働審判または訴訟を提起します。委任契約や会社法上の請求による構成も検討します。
④合意書・競業避止条項の精査
退任の理由、対外的な公表内容、守秘義務、競業避止条項の範囲を精査し、その後のキャリアを不当に制約する内容にならないよう修正を求めます。
おわりに

経営幹部の方は、「役員なのだから労働法の保護はない」と説明されると、そのまま受け入れてしまいがちです。しかし、保護の有無を決めるのは肩書きではなく、実際の働き方です。
また、仮に労働者と認められない場合でも、契約上の請求や会社法上の請求という道が残されています。何を根拠にどう主張するかは、早い段階で見極めておく必要があります。
辞任届や合意書への署名を求められている方は、その前に一度ご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
労働問題
弁護士登録後、グリーンリーフ法律事務所にて残業代未払い・不当解雇など多数の労働問題を取り扱う。法テラス民事法律扶助審査委員として幅広い労働者支援にも従事。中央大学法科大学院・埼玉工業大学の講師を務め、不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、依頼人の権利を守る。




