薬剤師の不当解雇|調剤過誤や管理薬剤師の解任を理由とする解雇について弁護士が解説

薬剤師は、調剤薬局、病院、ドラッグストア、製薬企業などで活躍する国家資格職です。管理薬剤師や薬局長といった役職に就けば、年収は相応の水準に達し、地域によっては一千万円に届くこともあります。

その一方で、薬剤師の職場では、調剤過誤の責任追及、店舗の統廃合、本部との方針対立などをきっかけに、突然の解雇や執拗な退職勧奨が行われることがあります。

「薬歴の記載が不十分だった」「監査を怠った」といった指摘を受けると、資格に傷がつくことを恐れて、言われるままに退職届を書いてしまう方も少なくありません。

本記事では、薬剤師の解雇が無効となる法的枠組みと、調剤過誤を理由とする解雇の考え方、そして解雇を告げられたときの対応について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

薬剤師の解雇にも解雇権濫用法理が適用される

薬剤師の解雇にも解雇権濫用法理が適用される

解雇には合理的な理由と社会的相当性が必要

労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇を無効と定めています。薬局や企業が「もう任せられない」と判断したというだけでは、解雇は正当化されません。

懲戒解雇であれば、就業規則に懲戒事由の定めがあること、その事由に該当すること、処分が重すぎないこと、弁明の機会が与えられたことといった要件も満たす必要があります。

管理薬剤師の解任と解雇は別の問題

管理薬剤師を外されたことと、雇用そのものを失うことは、法律上まったく別の問題です。役職を解かれたとしても、一般の薬剤師として勤務を続けられるのであれば、解雇を選ぶ必要性は乏しく、解雇の相当性が否定される方向に働きます。

また、管理薬剤師手当の減額を伴う降格については、就業規則上の根拠と、降格を基礎づける事実が必要です。

有期契約・パート勤務でも保護される

有期契約で勤務している薬剤師についても、契約期間中の解雇には労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」が必要であり、更新を重ねてきた場合には同法第19条により雇止めが制限されます。

薬剤師の解雇でよくある理由と、その問題点

薬剤師の解雇でよくある理由と、その問題点

①調剤過誤・薬歴の不備を理由とする解雇

規格違いや数量の誤り、薬歴の記載漏れなどは、忙しい薬局では起こり得るものです。過誤の事実があったとしても、患者に生じた結果、過失の程度、これまでの指導歴、監査体制の整備状況を総合して、解雇が重すぎないかが判断されます。

処方箋枚数に対して人員が不足していた、監査を行う体制がなかったといった事情は、責任を個人だけに負わせられないことを示す重要な事実です。

②本部・経営者との方針対立を理由とする解雇

在庫管理や後発医薬品の採用、営業時間、人員配置をめぐって本部と対立し、「協調性がない」という理由で解雇されるケースです。抽象的な相性の問題では、解雇は正当化されません。

③店舗の閉鎖・統廃合を理由とする解雇

店舗の閉鎖を理由とする解雇は整理解雇として、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性の四つの要素から厳格に判断されます。他店舗への配置転換が可能であるにもかかわらず打診もしないまま解雇するのは、解雇回避努力を尽くしたとはいえません。

④能力不足・接遇を理由とする解雇

「服薬指導が不十分」「患者対応が悪い」といった評価を理由とする解雇では、具体的な指導と改善の機会が与えられたかどうかが厳しく問われます。

薬剤師が解雇されたときに請求できるもの

薬剤師が解雇されたときに請求できるもの

解雇が無効なら、その間の賃金を請求できる

解雇が無効であれば、解雇の日以降の賃金を請求できます(民法第536条第2項)。管理薬剤師手当や住宅手当など、毎月支給されていた手当も算定の対象となります。

退職金の不支給・減額も争える

懲戒解雇を理由に退職金を不支給とされることがあります。しかし、まず退職金規程に不支給・減額の定めがあることが前提となるうえ、退職金には賃金の後払いという性格があり、それまでの勤続の功労を全部または一部帳消しにするほどの重大な背信行為があったといえなければ、全額不支給は認められません。

未払残業代を併せて請求できることが多い

開局前の準備、閉局後の在庫確認や薬歴入力、本部研修などが労働時間として扱われていない例は珍しくありません。解雇の問題と併せて請求できる場合があります。

解雇を告げられたときに、まずすべきこと

解雇を告げられたときに、まずすべきこと

①解雇理由証明書を請求する

労働基準法第22条(退職の日までは第2項、退職後は第1項)に基づき、解雇の理由を記載した証明書の交付を求めてください。口頭の説明だけでは、後から理由が差し替えられてしまいます。

②その場で退職届を書かない

「自己都合の方が次に響かない」と勧められても、その場で署名しないでください。自ら退職に同意したと扱われると、解雇を争うことは著しく困難になります。

③調剤体制に関する資料を確保する

処方箋の受付枚数、勤務シフト、人員配置、監査手順やマニュアルの有無、インシデント報告の記録など、過誤の背景を示す資料を確保してください。

④指導の記録を確認する

指導書、面談記録、始末書の控えなど、会社が主張する「改善の機会」の実態が分かる資料を集めておくことが有効です。

⑤免許に関する行政処分とは別の問題であることを理解する

調剤過誤を指摘されると、「薬剤師免許にも影響するのではないか」と強く不安になり、会社の求めるまま退職してしまう方がおられます。

しかし、勤務先による解雇や懲戒処分と、厚生労働大臣による免許の行政処分とは、まったく別の手続です。会社が処分を決めたからといって、免許に影響が及ぶわけではありません。逆に、会社の求めに応じて事実と異なる責任を認めてしまうことのほうが、後の不利益につながります。

不安を感じたときこそ、事実関係を整理したうえで、冷静に対応することが大切です。

解雇と紛らわしい取扱いにも注意が必要

解雇と紛らわしい取扱いにも注意が必要

管理薬剤師の解任と手当の減額

管理薬剤師を外され、手当がなくなることで、月々の収入が大きく減ることがあります。降格や手当の廃止には、就業規則や賃金規程上の根拠と、これを基礎づける事実が必要です。根拠のない一方的な減額は、賃金の全額払いの原則(労働基準法第24条)にも反します。

遠方店舗への配置転換

「異動できないなら退職を」という形で、事実上の退職強要が行われることがあります。就業規則に配転条項があっても、業務上の必要性がない場合、不当な動機・目的による場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える場合には、配転命令は権利の濫用として無効となり得ます。

シフト削減による実質的な収入減

パートや契約社員の薬剤師について、契約は残したまま勤務日を大幅に減らすという扱いがなされることがあります。実質的に就労を拒否するものであれば、賃金の請求が問題となります。シフト表や勤務予定の連絡は保存しておいてください。

解決までの流れと期間の目安

解決までの流れと期間の目安

交渉

まず代理人から通知を出し、解雇の撤回や解決条件について交渉します。チェーン薬局のように法務担当がいる相手方であれば、比較的早い段階で条件の協議に入れることもあります。

労働審判

交渉がまとまらない場合には、労働審判を申し立てます。第1回の期日は申立てから原則40日以内に指定され、原則3回以内の期日で審理が終わります。おおむね3か月から半年程度での解決が見込めます。

訴訟

労働審判に異議が出された場合や、事案が複雑で慎重な審理を要する場合には、地位確認訴訟を提起します。解決までに時間はかかりますが、その分バックペイの請求額は積み上がっていきます。

解雇された後の生活を支える手続

解雇された後の生活を支える手続

雇用保険の基本手当は会社都合として扱われる

解雇による離職は、原則として会社都合の離職(特定受給資格者)として扱われ、自己都合退職の場合のような給付制限を受けることなく基本手当を受給できます。所定給付日数も、多くの場合、自己都合退職より長く設定されています(年齢や被保険者であった期間によっては同じ日数となることもあります)。

ただし、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」(重責解雇)と判断された場合には特定受給資格者に当たらず、給付制限を受けることになります。解雇の効力そのものを争っている場合には、その事情もハローワークに伝えてください。

離職票に記載された離職理由に納得できない場合には、ハローワークに異議を申し出ることができます。会社都合であるはずなのに「一身上の都合」と記載されていないか、必ず確認してください。

解雇を争いながら基本手当を受けられる場合がある

解雇の効力を争っている場合でも、現に就労できていないのであれば、基本手当を受給できることがあります。ただし、後に解雇が無効となって賃金がさかのぼって支払われたときは、受給した基本手当の返還などが必要になる場合がありますので、あらかじめハローワークに事情を伝えておくことが大切です。

健康保険は任意継続と国民健康保険を比較して選ぶ

退職後の健康保険には、これまでの健康保険を任意継続する方法と、国民健康保険に加入する方法があります。保険料の額や扶養家族の人数によって有利不利が変わりますので、期限内に比較して選択してください。任意継続は、退職日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることを要件に、資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申し出る必要があり、加入できる期間は最長2年です。国民健康保険は、原則として退職日の翌日から14日以内の届出となります。

弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリット

過誤の責任を個人に集中させる主張に反論できる

調剤過誤の事案では、体制上の問題を含めて事実を整理し、解雇という最も重い処分が相当でないことを、具体的な資料に基づいて主張することができます。

再就職への影響を抑えた解決を目指せる

薬剤師の転職では退職理由が問われることがあります。懲戒解雇を撤回させ、合意退職に切り替えるなど、その後の就業に影響しにくい解決を目指せます。

労働審判で短期間の決着を図れる

労働審判は原則3回以内の期日で審理を終える制度で、数か月での解決が見込めます。生活の再建を急ぐ方にとって現実的な選択肢です。

当事務所のサポート内容

当事務所のサポート内容

①解雇理由と懲戒手続の検証

就業規則の懲戒規定と実際の手続を照らし合わせ、解雇の有効性について見通しをお伝えします。

②薬局・企業との交渉

解雇の撤回、復職、または適正な解決金の支払いを求めて交渉し、退職金の不支給についても是正を求めます。

③労働審判・訴訟の申立て

交渉での解決が難しい場合には、地位確認と未払賃金の支払いを求める労働審判または訴訟を提起します。

④未払残業代の調査と請求

勤務記録を精査し、開局前後の業務や研修に関する未払賃金を算定して、併せて請求します。

おわりに

おわりに

薬剤師の方は、患者の安全に直結する仕事をしているという責任感が強い分、過誤を指摘されると自分を責めてしまいがちです。

しかし、解雇が有効かどうかは、反省の深さではなく、法律の要件を満たしているかどうかで決まります。体制上の問題を抜きにして、個人の責任だけが問われるべきではありません。

退職届に署名する前に、まずは一度ご相談ください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働問題

弁護士登録後、グリーンリーフ法律事務所にて残業代未払い・不当解雇など多数の労働問題を取り扱う。法テラス民事法律扶助審査委員として幅広い労働者支援にも従事。中央大学法科大学院・埼玉工業大学の講師を務め、不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、依頼人の権利を守る。