労災が不支給となった場合の対処法 納得できない時の「審査請求」を弁護士が解説
【この記事のポイント】
労災を申請したのに「不支給決定」が届いた――。とりわけ脳・心臓疾患や精神障害(うつ病など)の事案では、認定基準が厳しく、不支給となるケースが少なくありません。しかし、不支給決定は最終的な結論ではありません。決定を知った日の翌日から3か月以内であれば「審査請求」により争うことができ、さらに再審査請求・取消訴訟という道も残されています。本記事では、不支給決定通知書の見方、治療費の負担、認定基準の考え方、そして不服申立ての具体的な手続と期限を、弁護士がわかりやすく解説します。

労災保険の「不支給決定通知書」とは?

労災保険の「不支給決定通知書」とは?

労災保険の給付を請求すると、労働基準監督署長が調査を行い、支給するか否かを決定します。その結果、労災として認められなかった場合に届くのが「不支給決定通知書」です。正式には「保険給付を支給しない旨の決定」の通知で、療養補償給付や休業補償給付、障害補償給付などの請求が認められなかったことを示す書面です。

この通知書を受け取った方の多くが、「なぜ認められなかったのか分からない」と戸惑われます。通知書には不支給の理由が記載されていますが、その記載は簡潔なことが多く、監督署がどのような事実を認定し、どこを問題視したのかまでは読み取れないのが通常だからです。

【重要】不支給の「本当の理由」を知る方法
労働基準監督署を管轄する都道府県労働局に対して「保有個人情報開示請求」を行うと、監督署が収集した調査資料(同僚や上司からの聴取結果、会社が提出した資料、医師の意見書など)を確認できます。これにより、不支給決定に至った具体的な判断過程を把握でき、審査請求で何を主張・立証すべきかが明確になります。開示請求には指定の書式がありますので、労基署または労働局にご確認ください。

審査請求には後述のとおり期限があります。開示請求には一定の時間がかかりますので、「まず審査請求を申し立てて期限を確保し、詳細な理由は追って主張する」という進め方が実務上は有効です。通知書が届いたら、まずは日付を確認し、早めに動き出すことが何より大切です。

労災が不支給になった場合、治療費(医療費)の負担はどうなる?

労災が不支給になった場合、治療費(医療費)の負担はどうなる?

労災の不支給決定を受けた方にとって、直ちに切実な問題となるのが治療費です。ここには制度上の落とし穴があります。

まず前提として、業務上の負傷・疾病には健康保険を使うことができません。健康保険と労災保険は根拠となる法律が異なり、業務災害・通勤災害による傷病は労災保険が担当する領域とされているためです。そのため、労災申請中は労災保険の様式で受診し、自己負担なしで治療を受けるのが本来の流れです。

ところが不支給決定が出ると、その治療費は労災保険から支払われないことになります。労災保険指定医療機関で労災扱いの受診をしていた場合、医療機関から改めて自己負担分の支払いを求められることがあります。

この場合の対応としては、「業務上とは認められなかった」という決定を前提に、健康保険(または国民健康保険)への切り替えを申請し、通常の3割負担に戻す方法が考えられます。医療機関や保険者との調整が必要になるため、まずは受診先の医療機関と、ご自身が加入している健康保険の保険者に相談してください。

治療費をめぐる注意点
・審査請求で不支給決定が取り消されれば、改めて労災保険から給付を受けられます。
・健康保険に切り替えた後に労災認定された場合は、保険者への返還などの調整手続が必要になります。
・費用の負担が困難な場合は、労働基準監督署や保険者に事情を伝え、相談することが大切です。
・いずれの場合も、領収書・診療明細書は必ず保管しておいてください。

なお、休業補償給付が不支給となった場合には、生活費の問題も生じます。傷病手当金(健康保険)の受給可能性を含め、利用できる制度がないかを早めに確認することをおすすめします。

なぜ不支給に?労災認定の厳しい基準(脳・心臓疾患、精神障害)

なぜ不支給に?労災認定の厳しい基準(脳・心臓疾患、精神障害)

業務中の転倒や機械への挟まれといった、原因が明らかな事故(災害性の傷病)であれば、労災として認められやすいといえます。これに対し、過労による脳・心臓疾患や、パワハラ・長時間労働によるうつ病などの精神障害は、「業務が原因といえるか(業務起因性)」の判断が難しく、不支給となる例が少なくありません。国が定める認定基準の考え方を知っておくことが重要です。

◆ 脳・心臓疾患の認定基準

脳出血・脳梗塞・心筋梗塞などの脳・心臓疾患については、令和3年9月に認定基準が改正されています。判断の枠組みは、①発症直前から前日までの間の異常な出来事、②発症前おおむね1週間の短期間の過重業務、③発症前おおむね6か月間の長期間の過重業務、という3つの視点です。

視点評価の目安
異常な出来事極度の緊張・興奮・恐怖・驚がくを伴う突発的な出来事、急激で著しい作業環境の変化など
短期間の過重業務発症前おおむね1週間に、特に過重な業務に就労したか
長期間の過重業務発症前1か月におおむね100時間、または2〜6か月平均で月おおむね80時間を超える時間外労働は、業務と発症の関連性が強いと評価される

令和3年の改正では、この時間外労働の水準に至らない場合でも、これに近い時間外労働に加えて、勤務間インターバルが短い勤務、休日のない連続勤務、身体的負荷を伴う業務といった労働時間以外の負荷要因を総合的に評価することが明確化されました。「月80時間に届かなかったから」といって、直ちに諦める必要はないのです。

◆ 精神障害(うつ病等)の認定基準

精神障害については、令和5年9月1日に改正された「心理的負荷による精神障害の認定基準」が用いられ、次の3つの要件をすべて満たす場合に労災と認定されます

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したとは認められないこと

②の判断には「業務による心理的負荷評価表」が用いられます。まず「特別な出来事」に該当すれば、それだけで心理的負荷は「強」と評価されます。該当しない場合は、具体的な出来事に当てはめ、強度と総合評価(弱・中・強)を判断します。令和5年の改正では、いわゆるカスタマーハラスメント(顧客や取引先などからの著しい迷惑行為)が明記され、パワーハラスメントの6類型すべての具体例が示されるなど、評価表が明確化されました。

不支給になりやすい典型的なパターン
・時間外労働の時間数が基準に届かないと判断された
・ハラスメントの事実が「確認できない」とされた(同僚らが証言しない、記録が乏しい)
・持病や私生活上の出来事が原因(業務以外の要因)とされた
・発病の時期が「業務による出来事より前」と認定された

重要なのは、これらの判断は監督署が集めた資料に基づく事実認定であり、資料が不十分であれば、実態と異なる結論に至ることがあるという点です。会社が事実を否定する回答をしている、重要な証拠が提出されていない――そうした事情で不支給になっている例は、決して珍しくありません。だからこそ、開示請求によって判断の根拠を確認し、不足している資料を補って争う意味があるのです。

労災の不支給決定に納得できない場合の対処法「審査請求」

労災の不支給決定に納得できない場合の対処法「審査請求」

不支給決定に納得できない場合、労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の「労働者災害補償保険審査官」に対して審査請求をすることができます。これが不服申立ての第一段階です。

項目内容
請求先決定をした労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官
請求できる人被災した労働者本人、またはその遺族
期限決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内
方法審査請求書を提出(郵送可)。口頭ですることも可能。資料の添付もできる
費用無料(印紙代等はかかりません)
【最重要】期限は「3か月」です
審査請求は、不支給決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過すると、原則としてできなくなります。この期限を過ぎると不服を申し立てる道が閉ざされてしまいますので、通知書が届いたらすぐに日付を確認し、早めに動き出してください。

審査請求があると、審査官は、請求人からの聴取のほか、原処分をした労働基準監督署からも意見を聴き、さらに独自に資料を収集するなどして、原処分を取り消すかどうかを判断します。審査官が「原処分を取り消す」と決定すれば、労働基準監督署長が改めて処分を行い、通常は労災保険が支給されることになります。

◆ 審査請求を成功させるポイント

審査請求は「納得できません」と述べるだけでは足りません。一度出た決定を覆すには、客観的な資料に基づく反論が必要です。具体的には、次のような準備が重要になります。

  • 保有個人情報開示請求により、不支給の判断根拠を正確に把握する。
  • 労働時間の実態を示す資料(タイムカード、PCのログ、入退館記録、メールの送信時刻など)を収集する。
  • ハラスメントについては、録音、メール・チャットの記録、日記、同僚の陳述書などを確保する。
  • 主治医の意見書・診断書を取得し、業務との関連について医学的な説明を補強する。
  • 認定基準のどの要件を満たすのかを、証拠と対応づけて具体的に主張する。

審査請求の結果にも不服がある場合(再審査請求・取消訴訟)

審査請求の結果にも不服がある場合(再審査請求・取消訴訟)

◆ 再審査請求

審査官の決定にも納得できない場合には、厚生労働省の「労働保険審査会」に対して再審査請求をすることができます。期限は、決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内とされています。また、審査請求をしてから3か月を経過しても審査官の決定がないときにも、再審査請求をすることができます。

◆ 取消訴訟(行政訴訟)

裁判所の判断を仰ぐ方法が、不支給処分の取消訴訟です。被告は国となります。かつては審査請求・再審査請求の両方を経る必要がありましたが、現在は、審査請求の決定を経ていれば、再審査請求をすることなく取消訴訟を提起することもできます。また、審査請求をしてから3か月を経過しても決定がない場合にも、訴訟を提起することができます。

出訴期間は、原則として処分または裁決があったことを知った日から6か月以内(処分または裁決の日から1年以内)です。訴訟では、労災に当たるか否かを判断する主体が裁判所になりますので、行政の段階では覆らなかった判断が覆ることもあり得ます。もっとも、統計上、労災の行政訴訟で請求が認められる割合は決して高くはありません。訴訟に進むかどうかは、証拠の状況や見通しを踏まえて慎重に判断する必要があります。

段階申立先期限
① 審査請求都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官決定を知った日の翌日から3か月以内
② 再審査請求厚生労働省 労働保険審査会決定書謄本の送付日の翌日から2か月以内
③ 取消訴訟地方裁判所(被告は国)処分・裁決を知った日から6か月以内

労災不支給を覆すなら弁護士へ!会社への損害賠償請求も可能

労災不支給を覆すなら弁護士へ!会社への損害賠償請求も可能

審査請求は、ご本人だけで行うことも制度上は可能です。しかし、実際に決定を覆すためには、認定基準のどの要件が問題とされているのかを正確に読み解き、それに対応する証拠を集め、法的に構成して主張する必要があります。これは容易な作業ではありません。弁護士に依頼することで、次のようなサポートを受けられます。

  • 保有個人情報開示請求を代理して行い、不支給の判断根拠を分析する。
  • 認定基準に沿って、争うべき点を絞り込み、必要な証拠を特定する。
  • 会社や医療機関からの資料収集、陳述書の作成をサポートする。
  • 審査請求書・意見書を法的に整理した形で作成・提出する。
  • 再審査請求、取消訴訟まで一貫して対応する。

◆ 労災保険だけでは足りない――会社への損害賠償請求

見落とされがちですが、労災保険の給付とは別に、会社に対して損害賠償を請求できる場合があります。会社は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務。労働契約法第5条)を負っています。長時間労働を放置した、ハラスメントを認識しながら対策を怠った、安全対策が不十分だった――こうした事情があれば、債務不履行(民法第415条)や不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求が考えられます。

労災保険からは、慰謝料は支給されません。また、休業補償給付も給付基礎日額の6割(休業特別支給金と合わせて8割)にとどまります。つまり、労災保険だけでは、被った損害の全部が填補されるわけではないのです。会社に対する損害賠償請求によって、慰謝料や、労災保険で填補されない逸失利益などを請求できる可能性があります。

【時効に注意】
会社に対する損害賠償請求権には消滅時効があります。人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から5年、権利を行使できる時から20年で時効にかかります(民法第724条の2、第167条等)。労災の不服申立てと並行して、会社への請求も検討する必要がありますので、早めにご相談ください。

労災の不支給決定は、決して最終的な結論ではありません。判断の根拠を確認し、必要な証拠を補って争うことで、結論が変わることは十分にあり得ます。ただし、審査請求には3か月という期限があります。「もう無理かもしれない」と諦めてしまう前に、まずは通知書を手元に、できるだけ早く弁護士にご相談ください。あなたが本来受けられるはずの補償を実現するために、私たちが力を尽くします。

グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ
私たちは、開所以来35年以上、地域の皆様の法律問題に一貫して寄り添って参りました。労災でお困りの方が安心できる日常を取り戻していただくために、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの未来への不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

【出典・参照条文】

  • 労働者災害補償保険法/労働保険審査官及び労働保険審査会法/行政不服審査法/行政事件訴訟法第14条
  • 厚生労働省「労災保険給付に関する決定に不服がある場合」(審査請求は決定があったことを知った日の翌日から起算して3月以内)
  • 厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日改正)/「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)
  • 労働契約法第5条(安全配慮義務)/民法第415条・第709条・第724条の2
  • (注)本記事は一般的な解説であり、個別の事案における判断は事情により異なります。実際の手続にあたっては専門家にご相談ください。
ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志

労働災害(労災)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。