配偶者が子どもを連れて突然家を出て行ってしまった、あるいは実家に帰ったまま無断で子どもとの別居を始めてしまったとき、多くの方が「これから一体どうなってしまうのか」「二度と子どもに会えなくなるのではないか」という、これまでに経験したことのないような深い不安や孤独に直面します。これからの自身の生活や何よりも大切なお子様の未来を考えると、目の前が真っ暗になり、絶望的な気持ちになってしまうのも当然のことです。

特に、相手方がこちらの同意を得ないまま一方的に子どもを連れ去って別居を強行した場合、「自分のケースではどのような法的手段がとれるのか」「子どもを取り戻すため、あるいは適正な条件を定めるためにはどう手続きを進めればいいのか」など、分からないことばかりで混乱し、立ち止まってしまう方も少なくありません 。

子どもとの関係や今後の生活基盤は、あなたのこれからの人生の再出発において極めて重要なものです。だからこそ、感情的に動いて事態を悪化させることなく、法律に基づいた客観的かつ適切な手続きを速やかに選択する必要があります 。

そこで、本コラムでは、子どもを不当に連れ去られて別居されてしまった場合に、子どもを取り戻すため、あるいは親権・監護権などの条件を適正に決めるための具体的な手続き、そして確実にこちらの主張を認めてもらうために重要なポイントまで、弁護士の視点から分かりやすく徹底的に解説します 。

親権、監護権とは

親権とは、①子の身上に関する権利義務(身上監護権)と②子の財産に関する権利義務(財産管理権)の全てを含む権利です。

監護権とは、親権のうち①子の身上に関する権利義務(身上監護権)をいいます。

すなわち、子と一緒に暮らし、日常の世話や教育を行うことができる権利です。

親権争いでは監護の継続性が重視される

裁判所は、離婚の条件の親権をどちらの親にするかといった点について判断する場合、「監護の継続性」を重視します。子にとって、急激な環境の変化はストレスになる可能性があるため、現状の生活に問題がなければ、裁判所はその状態を尊重する傾向があります。

そのため、子どもが突然連れ去られて別居が始まった場合、最終的に離婚時に親権を獲得するためにも、まずは今どちらが子の監護者として適切かを争う子の監護者の指定審判、子の引渡の審判及び審判前の保全処分の申立てを迅速に進めることが最優先事項となります。

子どもを連れ去られたときの具体的な対処法と請求手続き

子どもを無断で連れ去られ、別居されてしまった場合、そのまま放置していると現在の養育環境が安定しているとみなされ、将来的に親権や監護権を取り戻すことが極めて困難になります(これを実務上「継続性の原則」といいます)。そのため、以下のような適切な法的手段を速やかに選択して実行する必要があります。

監護権以外の養育費に関する紛争等では、審判の申立て前に話し合いの手続きである調停を申し立てるのが一般的な流れとなりますが、子の連れ去りが問題となっているような場合には、話し合いで解決できる見込みは低いと考えられ、調停を経ずに審判を申し立てることが多いです。審判では、話し合いではなく、双方が提出した主張書面や客観的な証拠、さらには家庭裁判所調査官による子どもの意向・養育環境の調査結果をもとに、裁判官がどちらに監護権を認めるべきか、子どもを引き渡すべきかという最終的な判断を審判として下します 。

子の連れ去り別居がなされてしまった際には、以下の申立てを迅速に漏れなく申し立てることが重要です。

子の監護者の指定審判

子の監護者指定の審判とは、どちらの親が子の監護者(子と一緒に暮らし、日常の世話や教育を行う者)となるかを裁判官が判断する手続きです。

子の引き渡し審判

子の引き渡し審判とは、未成年の子を引き渡すよう裁判所に判断を求める手続きです。

審判前の保全処分

子の監護者の指定審判と子の引き渡し審判と併せて審判前の保全処分を申し立てることが重要です。

審判前の保全処分とは、現在の子の監護状況に問題がある場合に、子の監護者の指定審判と子の引き渡し審判の裁判所による判断が出されるまでの間に、仮に子を引き渡すよう裁判所に判断を求める手続きです。

裁判所が子の監護者指定審判、子の引き渡し審判において、子の監護権者はどちらの親が適しているのかを判断するには、これまで及び現在の子の養育状況や夫婦から直接話を聞いたり、家庭訪問を行ったり、親子の交流状況を観察したり、子自身の意向を聞いたり等様々な調査をする必要があります。この調査は半年から1年程度かかることも珍しくなく、判断が出るまでに時間がかかってしまいます。

もし、子がその間に、同居の夫(妻)から暴力を受けていたり、他方の親の悪口を聞かされるような状況であった場合、子の健全な成長は損なわれてしまいます。

そのため、そのような事態を防ぐために、仮に早期にお子さんの監護者に指定されて、引渡しを受けるために行うのが、審判前の保全処分という手続きです。

審判前の保全処分の最大のメリットは、迅速な判断を得られる点にあります。裁判所も審判前の保全処分が申し立てられた場合は、事案によって優先度を柔軟に検討しています。子の監護者指定審判及び子の引渡し審判に比べて、かなり早期に判断が出ます。

また、子の監護者指定審判、子の引き渡し審判は審判が出た後2週間以内に相手方が不服申し立て(即時抗告といいます。)をすると、審判が確定せず、高裁で再び争うことになります。一方で、審判前の保全処分が認められた場合、相手方は、その判断を不服とし異議申し立て(即時抗告)をすることができます。しかし、即時抗告に執行停止の効力は認められていないため、保全処分の結果に基づき子の引き渡しの強制執行をすることができる(その意味でも子の監護者指定審判、子の引き渡し審判よりも早期のこの引き渡しが実現できる)ことも審判前の保全処分を申し立てるメリットと言えます。

審判は非常に専門性が高いことから、ご自身が弁護士なしで対応を続けるのは極めて困難です。意図せず不利益な審判が出てしまい、二度とお子様を取り戻せなくなるような最悪の事態を防ぐためにも、この段階では弁護士のサポートを受けることが不可欠といえます。

監護権・親権の主張を成功させるために最も重要なこと

子どもを不当に連れ去られた状態から、裁判所に自分こそが子の育ての親(監護者・親権者)として適切であると認めてもらい、有利な条件で子どもを取り戻すために最も重要なこと、それは相手方の言い逃れのできない客観的な証拠です 。

いくら裁判所の待合室や書面で私がこれまで主となって子を育ててきた、相手方の連れ去り行為は不当で、養育環境も劣悪だと熱弁を振るっても、それを裏付ける証拠がなければ、裁判所はその事実を客観的な事実として認めてくれません。確実な証拠があるからこそ、裁判所は迅速に子どもの引き渡しを命じる審判を下すものです。

子どもの問題において、どのような証拠を集めておくべきかは、事案の性質によって様々ですが、主に以下のようなものが有効な証拠となります。

主たる監護者であったことを示す証拠

裁判所は「これまでにどちらが実質的に子どもの面倒を見てきたか(監護の監護実績)」を極めて重視します。

  • 母子手帳の写し、育児日記: 定期健診の記録や、日々の成長・世話の記録がどちらの手で細かく書かれているか。
  • 保育園・幼稚園、学校の連絡帳: 日常の送り迎えの担当者や、先生とのやり取りの記載。
  • 小児科の診察券や領収書: 子どもが病気になった際、どちらが病院へ連れて行っていたかの実績。
  • 写真や動画: 日常生活の中で、子どもと一緒に過ごし、食事や入浴の世話をしている風景。

相手方の連れ去りの不当性・帰責性を示す証拠

相手方の別居が子どもの福祉を害する不当な連れ去りであることを立証するための証拠です 。

  • DV・モラハラの証拠: 相手方から暴力を受けていた、あるいは子どもに対して虐待や暴言があった場合は、医師による怪我の診断書、痣の写真、暴言の録音データ、被害の詳細を克明に記録した日記などが有効です 。これらは、相手方の養育環境が子どもにとって有害であることを示す材料になります。

その他にどのような証拠が個別のケースで有効となるかは、それぞれの家庭環境や事案の経緯によって千差万別です。そのため、子どもを連れ去られて別居が始まってしまったら、一刻も早く、確実に請求ができるようにするために一度弁護士に専門的なアドバイスを求めることを強くおすすめします 。

まとめ

  • 親権とは、①子の身上に関する権利義務(身上監護権)と②子の財産に関する権利義務(財産管理権)の全てを含む権利をいう。
  • 監護権とは、親権のうち子の身上に関する権利義務(身上監護権)をいう。
  • 子が不当に連れ去られ別居が始まってしまった場合には、すぐに子の監護者指定の審判、子の引き渡しの審判と併せて審判前の保全処分を申し立てることが重要。
  • 審判前の保全処分を申し立てることで仮に早期に子の引渡しを受けることができる可能性がある。
  • 子どもを取り戻し、監護権・親権の主張を確実に裁判所に認めさせるために最も重要なのは、これまでの監護実績や相手方の不当性を示す客観的な証拠であり、証拠の有無が手続きの成否を大きく左右する。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧

離婚・不倫慰謝料

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。