
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
2026年1月1日に施行された「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」により、企業間の取引ルールは変化いたしました。
例えば、「テクノロジーで効率化したのだから安くできるはず」という買い手側の思い込みにより、十分な協議なしに単価を下げる行為は、独占禁止法や下請法(取適法)が禁じる「買いたたき」などの深刻な法的リスクを孕んでいます。
そこで、この取適法時代に、一般企業が陥りがちな盲点と守るべき事項を弁護士が解説します。
生成AI・DXの普及は「一方的なコスト削減」について

昨今のAI技術の進歩により、「生成AIを使えば、デザインやシステム開発、文書作成は一瞬でできるはず」、「従来通りの外注費を支払い続ける必要はない。次の契約から一律で単価を3割引き下げよう」、「我が社がDXを推進して発注の仕組みを効率化したのだから、下請け企業の負担も減ったはず。その分、取引価格を下げてもらおう」といったコスト削減を考えることがあるかと思います。
一見すると、最先端のIT技術を活用した「正当なコスト削減」のようにも思えます。
しかし、ここに極めて深刻な法務上の問題が潜んでいます。
2026年1月1日、「下請代金支払遅延等防止法(旧下請法)」が約50年ぶりに抜本的改定され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)」として新たに施行されました。
この新法の施行により、発注側(委託事業者)には、取引条件や価格の決定においてこれまで以上に厳格な「説明責任」と「真摯な協議」が法的に義務付けられています。
これにより、上記のような「一方的なコスト削減」は、買いたたき・優越的地位の濫用として厳しいペナルティの対象となる可能性が高まっていると考えられます。
独占禁止法上問題となる「買いたたき」とは

独占禁止法(優越的地位の濫用)および下請法を引き継いだ「取適法」では、取引上の立場が強い発注側が、受注者側(中小受託事業者)の同意なく、または、実態を無視して著しく低い対価を押し付ける行為を「買いたたき」として厳しく禁じています。
例えば、以下のような行為は問題となる可能性が高いと考えられます。
実態を無視した「思い込みによる一律減額」
「生成AIを使えば楽になるはずだ」という発注側の思い込みだけで、受注者側の実際の作業プロセスを検証せず、一方的に単価を引き下げる行為です。
生成AIを実務で使いこなすためには、適切なプロンプトの考案、出力された成果物のファクトチェック、権利侵害の有無の確認、微調整など、相応の時間(労務費)が引き続き発生すると考えられます。
また、受注者側がそのAIツールや高性能なシステムを維持するために支払っているライセンス料(必要経費)も存在します。
したがって、これらを一切考慮しない一律の減額要求は、「買いたたき」に該当する可能性が高いと言えます。
「取引適正化法(取適法)」が求める義務について

2026年施行の「取適法」において、企業が最も留意しなければならないのは、価格協議における「積極的な説明責任」です。
新法下では、抽象的・一方的な理由は法的な「真摯な説明」とは認められず、価格交渉を行う場合、発注側は受注者側のコスト構造(労務費、ツール代、原材料費など)に配慮し、客観的なデータや実態に基づいた協議を行うことが求められます。
まとめ

上述の法的義務を守りながら、コスト削減を適法に進めるために、以下のような衛策を講じる必要があると考えられます。
- 「AIを導入したから一律〇〇%カット」という強引な押し付けは厳禁だと考えられます。外注先や下請企業に対し、「自社で導入した新システムやAIツールの活用によって、実際の作業工程や時間がどれだけ削減されたか」を個別にヒアリングし、実態に即した適正な価格改定のベースを算出することが求められます。
- 「価格交渉プロセスの「書面・データ化」
新法が求める「真摯な協議」を行った証拠を残すため、発注先との価格交渉の経緯(メールの履歴、提示した算定根拠、打ち合わせの議事録など)は必ず書面や電子データで厳重に保存するのが良いと考えられます。
上述のとおり、独占禁止法は専門的な法分野だといえますので、お悩みの際には、同法に精通した弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 渡邉千晃
独占禁止法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。法科大学院において、独占禁止法を専攻し知見を深める。令和4年登録後、顧問会社からの独占禁止法に関する多数の相談に応じる。公正取引委員会の指針や審決例を熟知し、優越的地位の濫用や再販売価格維持などといった現場特有のリスクに対し、理論と実務の両面から即効性のある提言を行う。経営戦略と法遵守を両立させる専門家であることを身上とする。






