
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
売上や客単価を向上させるためのセット販売は、多くの業界で広く行われている営業手法だと思います。しかし、顧客に対して実質的にセット購入を強制し、単品での購入選択肢を奪ってしまうと、独占禁止法が禁じる「抱き合わせ販売」として公正取引委員会からの厳しい処分の対象となる可能性があります。
そこで、本コラムでは、2025年に起きた最新の事例を基に、違法となる境界線と適切な販売戦略を弁護士が解説いたします。
2025年の公取委による警告

2025年4月、公正取引委員会(以下、公取委)は、大手自動車ディーラー(トヨタモビリティ東京(株))に対し、人気ミニバンの新車を販売する際、ボディーコーティング等の有料オプションを事実上強制的にセット購入させていたとして、独占禁止法(以下、独禁法)違反のおそれがあると警告を行いました。
このようなセット販売行為は、自動車業界に限らず、高級時計、不動産、ITシステム、機械販売など、あらゆるBtoC・BtoBの現場で行われてきた「よくある営業の工夫」のように思われます。
もっとも場合によっては、上記のようなセット販売は独禁法に違反するおそれがあるとして、公取委から処分を受ける可能性があります。
そこで、どこまでが合法的な「セット割引」で、どこからが違法な「抱き合わせ販売」になるのかについて、公取委の指針(流通・取引慣行ガイドライン)に基づき、その境界線を以下で解説していきたいと思います。
独占禁止法が定める「抱き合わせ販売」とは

抱き合わせ販売は、独禁法第19条が禁じる「不公正な取引方法(一般指定第10項)」に該当する違法行為です。条文では以下のように定義されています。
「相手方に対し、正当な理由がないのに、商品又は役務の供給に併せて、他の商品又は役務を購入させること。」
簡単にいうと、「主たる商品(新車など)」の販売に際して、本来は別個の商品である「従たる商品(コーティングなど)」をセットで買わせる行為が対象となります。
公取委がこの行為を厳しく取り締まる理由は、大きく分けて2つあります。
⑴ 顧客の「選択の自由」を奪うおそれがあるため
本来は不要なオプションであったり、あるいは「コーティングは別の専門業者に安く頼みたい」と考えていたりする顧客に対し、その選択権を不当に剥奪する不利益を与えるおそれがあると考えられます
⑵ ライバル企業を市場から排除するおそれがあるため
人気商品を人質に取ることで、オプション分野(例:コーティング専門業者やサードパーティ製の周辺機器メーカー)で公正に勝負している中小・競合企業の参入機会を奪い、市場を閉鎖させてしまうおそれもあると考えられます。
抱き合わせ販売の違法性を決める「2つの要件」

独占禁止法(一般指定第10項)において、抱き合わせ販売が違法と判断されるためには、単に「2つの商品をセットで売った」というだけでなく、主に、2つの要件を満たす必要があります。
要件①:不当に強制していること(押し付け)
顧客に対し、主たる商品に添えて、別個の商品(従たる商品)を購入させていること。
要件②:市場における競争に悪影響(公正競争阻害性)を与えること
その行為によって、市場の公正な競争が妨げられること。
この「要件②(公正な競争を阻害するおそれの有無)」を判断する上で、最大の基準となるのが「有力な事業者」という概念です。
「有力な事業者」とは何か?

公取委のガイドラインでは、市場で強い影響力を持つ企業のことを「有力な事業者」と呼びます。
抱き合わせ販売は、「有力な事業者」が行うか、あるいは「それ以外の普通の事業者」が行うかによって、違法となるリスクが大きく変わります。
「有力な事業者」の判断基準
単に「大企業」という意味だけではなく、公取委は以下の要素を総合的に見て判断します。
・シェア基準: 当該市場におけるシェアが原則として20%以上であること。
ガイドライン上、シェアが20%未満であれば、基本的には「有力な事業者」とはみなされず、違法となるリスクは格段に低くなります。
すなわち、自社の製品が「特定のニッチな市場でシェアが高い」、「地域の顧客にとって他に変えがきかない」という場合、自社が大企業でなくとも、法律上は「有力な事業者」とみなされる可能性が十分にあり得ると考えられるということになります。
まとめ

営業部門が掲げる「セット販売による客単価の向上」という目標自体は、企業の成長に不可欠な経営戦略です。しかし、それが現場の運用の末に「抱き合わせの強要」となっていないかは、経営陣や法務部門が厳しくチェックする必要があるといえます。
2025年の警告事例を参考として、貴社の営業戦略が法的に安全といえるか、今一度検討することをお勧めします。
独占禁止法は専門的な法分野だといえますので、お悩みの際には、同法に精通した弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 渡邉千晃
独占禁止法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。法科大学院において、独占禁止法を専攻し知見を深める。令和4年登録後、顧問会社からの独占禁止法に関する多数の相談に応じる。公正取引委員会の指針や審決例を熟知し、優越的地位の濫用や再販売価格維持などといった現場特有のリスクに対し、理論と実務の両面から即効性のある提言を行う。経営戦略と法遵守を両立させる専門家であることを身上とする。






