「メタバース空間で、自社がデザインしたオリジナルの服がそっくりそのままアバター用として売られている……」、「ゲーム内の仮想店舗に、自社が苦労して設計した現実の店舗内装が完全にコピーされている……」

インターネット技術やVR・ARの進化、そして3Dデータの一般化に伴い、デジタル空間での経済取引は爆発的に拡大しています。

しかしその一方で、他人のクリエイティビティにただ乗りする「デジタル・デッドコピー」が深刻な問題となっていました。

このような状況に対応するため、2024年4月1日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が施行され、デジタル空間における商品の形態模倣行為が新たに規制の対象となりました。

本コラムでは、弁護士の視点から、この法改正の背景や具体的な規制内容、さらにECサイト運営企業や、デジタルツイン技術を活用する製造業・建設業における影響を詳しく解説します。

不正競争防止法がもたらした変化(2024年4月施行)

従来の不正競争防止法(以下「不競法」)第2条第1項第3号は、他人の商品のデザインをそっくり真似た商品(いわゆるデッドコピー)の販売などを「不正競争行為」として禁止していました。

しかし、この規定はあくまで「有体物(リアルな物)」を前提としていました。そのため、以下のようなデジタル空間での模倣行為は、どれほど精巧に真似されていても、不競法3号による差し止めや損害賠償請求が困難だったのです。

このような不均衡を解消し、デジタル空間における健全な取引環境を整備するために法改正が行われました。

改正により、条文中に「電気通信回線を通じて提供する行為」という文言が明記されました。これによって、規制の対象は「有体物(リアル)」から「無体物(デジタルデータ・仮想空間上のアイテム)」にまで広がりました。

現在では、以下の4つの模倣パターンのすべてが法的に規制(不正競争行為に該当)されます。

模倣元(オリジナル)模倣先(デッドコピー)具体例
① リアル商品リアル商品【従来通り】実在の服を真似て、実物のコピー品を作って販売する。
② リアル商品デジタル商品【新規制】 実在の靴を3Dデータ化し、ゲーム内のアバター衣服として無断販売する。
③ デジタル商品リアル商品【新規制】 メタバース発の仮想衣服を真似て、実物のリアル服を作ってEC等で販売する。
④ デジタル商品デジタル商品【新規制】 仮想空間の家具3Dデータを勝手にコピーし、別のプラットフォームで配信する。

具体的に何が規制されるのか?〜メタバース、3Dデータ、店舗デザイン〜

では、私たちが普段目にするデジタルデータのうち、何が不競法の「商品形態」として保護されるのでしょうか。

① アバター用衣服・アクセサリー(バーチャルファッション)
メタバースやゲーム内のキャラクターが着用するアバター用の衣服、帽子、靴、バッグなどは、その「形態」が保護の対象になります。
これらは仮想空間上で対価を払って取引される「商品」としての性格を持っているため、無断で3Dモデルを抽出したり、視覚的に酷似したアイテムを生成・販売したりする行為はアウトとなります。

② メタバース上の店舗デザイン・3Dオブジェクト
現実世界の店舗デザイン(外観や内装)だけでなく、メタバース空間内に配置されたバーチャル店舗、オリジナルのショーケース、特殊な家具などの3Dオブジェクトも、「商品の形態」として評価されれば模倣規制の対象になり得ます。

③ 3Dプリンタ用の設計・製品データ
3Dプリンターで出力することを前提とした「3Dデータ(CADデータ等)」そのものも、そのデータが即座に特定の造形物を作り出せる性質(物の代替性)を備えている場合、商品形態の提供行為とみなされ、無断コピーや配信が禁止されます。

不正競争防止法第2条第1項第3号の「アキレス腱」

改正不競法は非常に画期的ですが、これだけで万全の対策になるわけではありません。実務上、不競法3号による保護には「2つの大きな限界」があります。

① 「3年」という期間制限
不競法3号の保護期間は、「日本国内において最初に販売(デジタル空間における提供も含む)を開始した日から3年」と定められています。
トレンドの移り変わりが非常に早いファストファッションなどであれば3年でも十分対応できますが、家具や建築、製造業の機械など、ロングセラーを前提とする商品にとって「3年」はあまりにも短すぎます。発売4年目以降にデッドコピーされた場合、不競法3号では戦うことが困難となってしまいます。

② 「模倣したこと」の立証責任(依拠性)
不競法3号を主張するためには、「相手が自社の商品に依拠して(=知っていて真似をして)作った」ことを被害者側が立証しなければなりません。
相手が「他人の商品なんか見ていない。たまたま自分たちのアイデアで同じものができただけだ(独自開発)」と主張した場合、その嘘を見破り、アクセス可能だった証拠(ECサイトのアクセス履歴や商談履歴など)を揃えるのは、中小企業にとって極めて大きな負担となります。

中小企業が今すぐ取り組むべき防衛策

不競法3号の「3年制限」や「立証の難しさ」を補い、デジタル・リアル双方でデザインを守るためには、複数の知的財産権を組み合わせる「知財ミックス(重畳的保護)」が不可欠であると考えられます。

防衛策①:意匠法(意匠権)の活用 〜内装・画像・デジタル意匠の保護〜

かつて意匠権は「リアルな物品の形状」しか登録できませんでしたが、近年の意匠法改正により、以下のものも保護対象に含まれるようになりました。

・画像意匠:スマホやPCの画面上に表示される操作用・表示用のグラフィックデザイン(アバターの衣服やメタバースのインターフェースデザイン等も内容によっては対象となり得ます)。

・建築物・内装の意匠:現実の店舗デザインだけでなく、デジタルツイン上の店舗設計も、意匠登録しておくことで強力に模倣を制限できます。

【意匠権を取得するメリット】

意匠権は、登録されれば出願から最長25年間保護されます。また、「相手が真似したこと(依拠性)」を立証する必要がなく、単に「デザインが同一または類似している」という事実だけで差し止めや損害賠償が可能です。

防衛策②:著作権法の活用 〜創作性の立証と実用性のジレンマ〜

3Dモデルデータやメタバース上の独自店舗のデザインに、作者の「個性的で豊かな創作表現」が認められる場合、著作物として保護される余地があります。

・メリット:登録が不要で、費用がかかりません。保護期間も原則「著作者の死後70年(法人は公表後70年)」と非常に長いです。

・デメリット・注意点:単に機能性のみを追求した形状や、ありふれたデザインには著作権が認められません(いわゆる応用美術のハードル)。また、相手が「独自に創作した」と主張した場合の立証は、不競法同様に難易度が高い点に注意が必要です。

防衛策③:商標法の活用 〜デジタル空間のブランド防衛〜

自社のブランド名やロゴマークは、現実世界だけでなく「デジタル空間」での使用も想定して商標登録しておく必要があります。

特にメタバース内で自社のロゴが入ったアバター衣服を他人が無断で販売するような事態を防ぐため、商標登録の際には「被服」や「電子応用機械器具(ダウンロード可能な画像・3Dデータなど)」といった適切な「区分(役務・商品のカテゴリ)」をあらかじめ指定して出願しておくことが不可欠です。

まとめ

2024年4月施行の不正競争防止法の改正は、「デジタル空間におけるデザインや創作は、リアルな物と同様に価値がある」という社会的なメッセージでもあります。これは、優れたクリエイティビティや設計技術を持つ中小企業にとって、自社の知的財産を守り、さらにライセンスビジネスへと発展させる大きなチャンスです。

デジタル時代の模倣対策は、トラブルが起きてから動くのでは手遅れになるケースがほとんどです。「どの権利で」「何を」「いつまで」守るべきか、開発段階から中長期的なグランドデザインを描いておくことが、これからのビジネスの重要課題となります。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 安田伸一朗

不正競争防止法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所、埼玉弁護士会所属。令和4年の登録以来、営業秘密の漏洩や商品形態の模倣、混同惹起行為など、不正競争防止法が関わる複雑な紛争解決に注力。