
労働者は、労働契約に基づいて使用者に労務を提供し、その対価として賃金を得る存在です。しかし、労働関係においては、使用者の方が強い立場にあるのが現実です。そのため、労働者が一方的に不利益を受けないように、労働基準法をはじめとする労働関係法令によって最低限の労働条件が定められ、労働者には一定の権利が保障されています。本稿では、労働者が使用者に対して主張・要求できる代表的な内容を整理して解説します。
賃金に関する要求

まず最も重要なのは賃金です。労働基準法第11条は「賃金」を「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義しており、これには基本給や手当、賞与などが含まれます。
労働者は次のような点について使用者に要求することができます。
最低賃金の遵守
地域別最低賃金や産業別最低賃金を下回る賃金の支払いは許されません。労働者は最低賃金以上の支払いを要求できます。
賃金全額払いの原則
労働基準法第24条は、賃金は通貨で直接労働者に、その全額を支払うことを定めています。過剰な天引きや賃金の一部未払いがあれば是正を求められます。
時間外労働に対する割増賃金
法定労働時間を超える残業、休日労働、深夜労働については割増率を適用した賃金が必要です。これが支払われない場合、労働者は請求できます。
同一労働同一賃金
パート・有期雇用・派遣労働者も、仕事内容や責任の程度が同じであれば正社員と不合理な待遇差を受けない権利があります。
労働時間・休憩・休日に関する要求

労働基準法第32条は、労働時間の上限を「1日8時間、1週40時間」と定めています。これを超える労働を命じるには、労使協定(いわゆる36協定)の締結が必要であり、労働基準監督署への届出も求められます。
労働者は以下の権利を主張できます。
・法定労働時間を超える労働を強制されない権利
・6時間を超える労働で45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を取得できる権利
・毎週少なくとも1日の休日を得る権利
また、労働者の健康の観点から、労働安全衛生法により、使用者には労働時間の把握が義務付けられており、さらに、働き方改革関連法によって、残業時間の上限規制も導入されており、これに違反するような過重労働については是正を求めることが可能です。
安全で健康に働くための環境整備の要求

労働者が使用者に対して要求できるのは賃金や時間だけではありません。安全で健康的な職場環境を確保することも重要な権利です。
労働安全衛生法に基づく措置の要求
安全衛生教育の実施、定期健康診断の受診、ストレスチェックの実施(従業員50人未満の職場は令和10年度までにストレスチェックが義務化)など、使用者には労働者の安全と健康を守る義務があります。
ハラスメント防止の要求
2020年6月施行の改正労働施策総合推進法により、使用者はパワハラ防止のための措置義務を負っています。また、セクハラやマタハラについても男女雇用機会均等法や育児・介護休業法により対策義務が規定されています。労働者はこれらに基づき、適切な相談窓口や対策を求めることが可能です。
危険有害業務からの保護
未成年者や妊産婦については、特に危険・有害な業務に就かされない権利が法令で保障されています。
休暇に関する要求

労働者の心身の回復のためには休暇制度も不可欠です。労働基準法やその他の法律は様々な休暇制度を整えています。
年次有給休暇の取得
労働基準法第39条は、6か月継続勤務し、出勤率が8割以上であれば、最低10日の年休が付与されることを定めています。有給休暇の取得は労働者の権利であり、使用者は原則として拒否できません。
産前産後休業・育児休業
労働基準法や育児・介護休業法により、出産前後の休暇や子の養育のための休業が保障されています。
介護休暇・子の看護休暇
家族の介護や子の病気対応のための短期休暇についても労働者が請求可能です。
均等待遇・差別の禁止に基づく要求

労働者は使用者に対し、合理的な理由のない差別的取り扱いを受けないよう求めることができます。
・性別による差別の禁止(男女雇用機会均等法)
・国籍・信条・社会的身分による差別の禁止(労働基準法第3条)
・障害者差別の禁止と合理的配慮の要求(障害者雇用促進法)
これらの規定に基づき、労働者は差別的な取り扱いがあれば改善を求めることが可能です。
団体交渉を通じた要求

個人で要求しても使用者が応じない場合、労働組合を通じて団体交渉を行うことができます。労働組合法第7条は、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することを「不当労働行為」として禁止しています。団体交渉では賃上げや労働時間の短縮、福利厚生の改善など幅広い要求を行うことが可能です。
まとめ

労働者が使用者に対して要求できる内容は多岐にわたります。賃金、労働時間、休暇、安全衛生、ハラスメント防止、均等待遇と差別禁止など、法令に基づいた権利は幅広く保障されています。これらは「特別な要求」ではなく、法律上当然に認められた最低限の権利にすぎません。
労働者が安心して働き、生活を守るためには、これらの権利を理解し、必要に応じて適切に行使することが欠かせません。万が一、使用者が応じない場合には、労働組合や労働基準監督署など外部機関を活用する道も開かれています。
「働きやすい環境をつくること」は労働者にとっての権利であると同時に、使用者にとっても生産性や企業価値を高める重要な取り組みです。法律が保障する権利を基盤に、健全で持続可能な職場づくりを目指すことが、労働者と使用者双方にとっての利益となるでしょう。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。