
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
企業において、従業員は事業活動に必要不可欠な財産であるといえます。もっとも、近年では働きすぎといった理由により、従業員がメンタルヘルスを患い、労務提供が出来なくなってしまうという事態が多く発生しています。労働力に支障を生じさせるメンタルヘルスの問題は、使用者である企業においても、真摯に向き合うべき問題といえます。
また、メンタルヘルス不調者への対応方法を誤ると、企業にとっては、安全配慮義務違反を問われたり、社会的評価の低下などといった多面的なリスクが生じ得ます。そこで、本コラムでは、メンタルヘルス不調者を出さないための予防策や、具体的な対応方法を解説いたします。
はじめに:なぜ「メンタル不調」は企業にとって重大なリスクなのか

企業には、安全に働ける環境を確保する「安全配慮義務」があり、これは労働契約法第5条において定められています。この義務が果たされないと、企業は民事責任(損害賠償)や労災認定、社会的信用の低下など重大なリスクを背負うことになります。
特に長時間労働やハラスメントなどが原因でメンタル不調が発生すると、企業責任が問われやすくなります。
また、メンタルヘルス不調に関する紛争は、その判断や主張・立証に関して、医学的、かつ、専門的な知見が必要となるため、解決に至るまで長期化しやすく、企業全体の生産性の低下にもつながるという問題もあります。
したがって、使用者側にとっても、従業員がメンタルヘルス不調に陥ることは、大きなリスクを生じるといえます。
メンタルヘルス不調者を出さないための予防策

そこで、使用者としては、従業員がメンタルヘルス不調に罹患しないための施策を講じることが重要となります。
この点、2014年に改正された労働安全衛生法において、従業員へのストレスチェック制度の創設が、使用者に義務付けられたところ、従業員のメンタルヘルスの不調にいち早く気付くことができる社内体制作りが望ましいと考えられます。
また、メンタルヘルス不調の大きな原因となりうる過重労働を抑制することも大切です。
さらに、近年では、セクハラやパワハラといったことが原因により、メンタル不調を引き起こす事例が増えているため、社内において、ハラスメントの防止に関する啓蒙活動や研修の実施、及び、通報窓口の整備などの対応も求められます。
メンタルヘルス不調者の相談対応について

従業員がメンタルヘルスの不調を訴えてきた場合、まずは、当該従業員の体調をできるだけ正確に把握する必要があります。
この点、当該従業員から診断書を提出してもらい、その内容に基づいて、労務の軽減や担当業務の変更、あるいは休職といった手続を、就業規則等に基づき、対応していくこととなります。
なお、従業員自身に病識がない場合に、使用者側から受診を求めるべきかどうかという点が問題となることもあります。
この場合、いきなり当該従業員に「精神科を受診してください。」と求めると、当該従業員にショックを与える可能性もあるため、例えば、「最近疲れていませんか。一度、医師に相談してみてはどうですか。」などと言って、提案することが考えられます。
休職命令に関する対応
当該従業員について、メンタルヘルスの不調であると医師によって診断された場合には、就業規則等の定めに従い、欠勤や休職を命じることになります。
休職命令については、口頭で行われている例もあるようですが、後の紛争予防と言う観点から、書面により行うことが推奨されます。
その書面においては、例えば、①休職の理由と休職命令の根拠規定、②休職期間、③休職期間中の処遇、④休職期間中の必要書類(定期的な診断書の提出等)などを明記することが考えられます。
復職の可否の判断に関する対応について

休職期間を満了した場合に、復職が可能かどうかについても判断をする必要があります。
そこで、まずは、休職期間中においても、当該従業員の体調の把握に努めることが大切だといえます。
また、復職可能かどうかについては、主治医による「復職可」とする診断書の提出が前提となりますが、当該診断書があるからといって、必ず復職させなければならないわけではありません。
もっとも、使用者が一方的に復職不可の判断をすることも妥当ではないため、判断が困難な場合には、①主治医の診断書の内容について、主治医と面談し情報提供を求めてより詳しい意見を出してもらう、②産業医と面談してもらい、産業医の意見も聞く、③人事部等と面談してもらい、復職後の勤務可能性について十分に話し合う、といった対応をとることが考えられます。
このようなケースでは、後に当該従業員と紛争が生じる可能性もあることから、将来の紛争に備えて、全て書面等に残しておくとよいでしょう。
まとめ

メンタルヘルス不調は、使用者にとって法的責任や企業イメージ、従業員の安全・生産性に深刻な影響を及ぼします。安全配慮義務を意識し、ストレスチェックや産業医配置、制度整備・教育など、段階的な予防策が必要です。特に医師や弁護士などの専門家との連携も欠かせません。
この点、弁護士との顧問契約は、トラブル予防だけでなく、緊急時の法的対応、制度設計の強化、組織の信頼構築にも直結いたします。企業が持続的に健全な環境を保つための最善の一手として、顧問弁護士契約の検討をお勧めいたします。
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