メンタルの不調を訴える従業員が増えています。このような従業員に対してどのように対処したらよいか、メンタルの不調が業務に起因する場合とそうでない場合、休職制度の内容・活用などについてまとめてみました。また、ストレスチェックにも触れました。

1 メンタルの不調が増えている理由

最近、メンタルの不調を訴える従業員が増えているように思います。その原因は、多岐にわたると思いますが、長時間勤務・サービス残業、パワハラ・セクハラ、人出不足による負担の集中、ノルマ、トラブルに1人で対処している、管理職の無理解・コミュニケーション不足などが考えられると思います。

2 メンタルに不調のある社員が出たときに注意をすべき点

従業員のメンタルに不調があるのではないかと感じた場合、勤務の継続を強要すると、症状の悪化や安全配慮義務違反による損害賠償などにつながります。上司や人事担当者としては、非難や人事評価をするのではなく、まず否定をせずに話を聞き、本人に気持ちを整理する機会を与えることが重要だとされています。

また、本人にメンタルの不調があるということは、産業医、人事担当者、直属の上司などの最小限の人に相談、情報共有する場合を除き、秘密として保持しなければなりません。

3 メンタルの不調は業務上のものか、そうでないのかによる対応の違い

 ンタルの不調が業務上のものである(業務起因性がある)場合と、そうでないのとでは、次のような違いがあります。

⑴ 業務上のものである場合

 ① 労災保険の対象となる。

 ② 賃金は、原則無給となるが、労災であれば労災給付によって賃金補償が受けられる。

 ③ 使用者に安全配慮義務違反があれば、損害賠償請求が問題になる。

 ④ 業務上の疾病による休業期間およびその後30日間は解雇することができない。

⑵ 業務上のものでない場合

 ①② 労災保険の対象とならない。

 ③ 安全配慮義務も問題にならない。

 ④ 解雇の制限はない。ただし、解雇するには「解雇権乱用の法理」の要件を満たす必要はある。

4 休職についての就業規則の確認

メンタルの不調が業務上のものかそうでないかによって上記のような違いはありますが、いずれにしても就業規則に休職制度がある場合は、この休職制度の適用があります。

休職制度は、労働基準法上の制度ではなく、各会社が会社の判断で決めるため、休職制度がない会社の場合は、休職は問題になりませんし、休職制度がある会社の場合、その内容は就業規則次第ということになります。

日本においては、就業規則を持っている会社のうち、多くの会社が休職制度を設けていますので、まずは就業規則を確認してみることが必要です。

5 休職制度とはどのような制度か。

 上記のように休職制度は会社によって違いますが、一般的には次のようなものです。

① 休職命令の要件

  • 心身の疾病・負傷などにより、業務に耐えられないと会社が認めた場合
  • 一定期間(例:連続して1ヶ月以上)勤務不能が見込まれる場合
  • 医師の診断書の提出を求めるのが通例

② 休職期間

会社によって異なりますが、例えば、勤続年数に応じて 3ヶ月~1年 などとなっています。

③ 休職期間中の待遇

  • 原則として無給
  • 労働者は傷病手当金(健康保険)などの公的給付を受ける
  • 勤務しないため、賞与・退職金・昇給に影響を与えることもある

6 医師の診断書を受けるよう命じることができるか。

上記のとおり、休職を命じるためには、従業員が医師の診察を受け、業務に耐えられないという診断をもらうことが必要です。

それでは、従業員が医師の診察を受けること拒否した場合は、どうでしょうか。会社は、医師の診察を受けることを業務命令として命じることができるでしょうか。

会社は従業員に対して、労働契約上の安全配慮義務を負っています。そこで、メンタルの不調が疑われる従業員に対して、精神科医の受信を進めることは、安全配慮義務の一環として会社の義務と考えられています。

ただ、精神疾患ということについては、本人も社会も否定的な印象をもっていますから、プライバシーに配慮することが必要と言われています。

また、医師について社会的評価に差があるのも現実ですので、指定に合理性があるのであれば、会社が医師の指定を行うことも可能とされています。

以上のような方法で、医師の診断を受けるよう業務命令を出したにもかかわらず、本人がこれを無視する場合は、会社としては、業務命令違反を根拠として、就業規則にもとづき懲戒することができるとされています。

7 復職と退職

上記のとおり、休職を命じ休職した後、医師の診断書により就労可能と判断されれば復職可能となり、反対に、休職期間が満了し、なお就労不能な場合は、自然退職(みなし退職)扱いとする休職規定が一般的です。

8 ストレスチェック制度

2015年の労働安全衛生法の改正により、ストレスチェック制度が導入されましたので、ここで一言触れておきます。

その主な内容は以下のとおりです。

  • 労働者50人以上の事業場においては、すべての従業員に対して、年1回のストレスチェック検査が義務付けられる。
  • 検査結果は、検査を実施した医師から直接従業員に通知され、本人の同意なく会社に通知することは禁止されている。
  • 従業員から申し出があった場合、医師による面談指導を実施することが会社の義務となる。
  • 面接指導の結果にもとづき、医師の意見を聞いた上、必要に応じ就業上の措置を講じることが事業者の義務となる。
ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。
また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
  ※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

弁護士のプロフィールはこちら