変形労働時間制という制度があり、従業員の残業代請求を減額させる効果がありますので、今回は、制度の仕組みと、制度を有効とするための要件、制度の効果について、解説をいたします。また、フレックスタイム制についても解説をいたします。

変形労働時間制とは

 変形労働時間制が採用されていますと、一定の期間内において、所定労働時間(会社と従業員が約束した労働時間)を平均した場合に、その時間が1週間の法定労働時間を超えなければ、期間内の一部の日または週において所定労働時間が1日または1週の法定労働時間を超えても、所定労働時間の限度で法定労働時間を超えたという扱いがなされません。

 例えば、1年間を期間とする変形労働時間制において、3月の所定労働時間を180時間と定めて、この労働時間が、1日8時間または1週40時間の法定労働時間を超えたとしても、4月の所定労働時間を150時間と定めることにより、年間の所定労働時間を平均した場合に、その時間が1週40時間の法定労働時間を超えなければ、3月においては、所定労働時間の限度で法定労働時間を超えたという扱いがなされなくなります。そして、法定労働時間を超えるが、所定労働時間の範囲内の労働については、残業代が発生しないということになります。

 商品の製造やサービスの提供のためや、時期によって忙しさの波があるために、一定期間の中で法定労働時間を超えて労働を行わざるを得ない事業も存在するため、このような制度が認められています。

 そのため、このような制度を活用することで、法定労働時間を超えた労働を可能にしたり、残業代の発生を抑制する効果がありますので、その具体的内容をご案内いたします。

1年以内の期間の変形労働時間制

はじめに

労働基準法32条の4の定めにより、使用者は、事業場の労使協定によって、1か月を超え1年以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない定めをした時に、1週40時間、1日8時間が法定労働時間であるにもかかわらず、特定された週において40時間を、また特定された日において8時間を超えて労働をさせることができます。

制度が有効となるための要件

・事業場の労使協定によって制度の内容を定めること

・労使協定において、変形制の対象となる労働者の範囲を規定し、かつ、1か月を超えて1年を超えない対象期間を、その起算日を示して規定すること

・労使協定においては、対象期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えないように、対象期間中の労働日と各労働日の所定労働時間を規定すること

➞なお、対象期間の全期間にわたって、労働日と各労働日の所定労働時間を労使協定で定めても良いですが、対象期間を1か月以上の期間ごとに区分して、労使協定では、最初の区分期間の労働日と各労働日の所定労働時間を定めつつ、残りの区分期間については各期間の総労働日数と総所定労働時間数を定めるということでも良いです。

・労使協定においては、有効期間を定め、所轄労働基準監督署に届け出ること

・常時10人以上を使用する使用者は、就業規則において始業・終業時刻の記載をすること➞対象期間における各労働日の始業・終業の時刻を規定する必要がありますが、1か月以 

上の区分期間を設ける場合には、就業規則において、始業・終業時刻の類型とその組み

合わせ方、これらによる勤務割の作成・明示の仕方を規定しておくことでも良いです。

また、対象期間の所定労働日数(休日日数)、連続労働日数(休日の配置)、1週・1日の所定労働時間の長さ等について、省令において定められています。

制度の法律効果

使用者は労働者を特定の週または特定の日において、法定労働時間を超えて労働させることができます。

なお、労使協定の締結・届け出は、変形労働時間制を労働基準法上適法とさせる効果を持つにすぎず、労働契約によって労働者に義務づけるためには、就業規則または労働協約において労使協定同様の規定を設けることが必要となります。

時間外労働となる時間

この制度において、時間外労働となる時間は次の通りです。

①8時間を超える所定労働時間を定めた日はその所定労働時間を、それ以外の日は8時間を、超えて労働した時間

②40時間を超える所定労働時間を定めた週はその所定労働時間を、それ以外の週は40時間を、超えて労働した時間

③単位期間の総労働時間のうち同期間の法定労働時間の総枠を超える労働時間

なお、これらの時間外労働については、労働基準法において、3か月を超える変形労働時間制については、三六協定で定める時間外労働の原則的な上限が、1か月42時間、1年で320時間と設定されています。

1か月以内の期間の変形労働時間制

はじめに

労働基準法32条の4の定めにより、使用者は、事業場の労使協定または就業規則その他これに準ずるものによって、1か月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした時に、法定労働時間の規定にもかかわらず、その定めにより、特定された週において1週の法定労働時間を、または特定された日において1日の法定労働時間8時間を超えて、労働をさせることができます。

制度が有効となるための要件

・事業場の労使協定または「就業規則その他これに準ずるもの」(10人以上の労働者を常用する場合は就業規則)によって、制度の内容を定めること

・事業場の労使協定で定めた場合は、労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出ること

・変形労働時間制の単位期間(1か月以内)について、期間の起算日を明らかにして特定すること

・単位期間内のどの週ないしどの日に1週ないし1日の法定労働時間を何時間超えるかを特定すること

・単位期間内の各週・各日の所定労働時間を就業規則または労使協定で特定すること

・常時10人以上を使用する事業場においては、変形期間内の毎労働日の労働時間を始業・終業時刻とともに特定すること。

ただし、業務の実態上、就業規則または労使協定による特定が困難な場合には、変形制の基本事項(変形の期間、各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続き・周知方法など)を就業規則または労使協定で定め、各人の各日の労働時間を、例えば1か月ごとに勤務割表によって特定することでも良いです。

時間外労働となる時間

この制度において、時間外労働となる時間は次の通りです。

①8時間を超える所定労働時間を定めた日はその所定労働時間を、それ以外の日は8時間を、超えて労働した時間

②40時間を超える所定労働時間を定めた週はその所定労働時間を、それ以外の週は40時間を、超えて労働した時間

③単位期間の総労働時間のうち同期間の法定労働時間の総枠を超える労働時間

なお、時間外労働については、1か月45時間以内、1年360時間以内という三六協定の定めの原則的上限、1か月100時間未満(休日労働含め)、1年720時間という特別協定の定めの上限、及び、有害業務1日2時間以内、1か月100時間未満(休日労働含め)、複数月平均で80時間以内という時間外労働の実時間数の上限は、1か月単位の変形労働時間制の時間外労働時間にも適用されます。

変形労働制の適用の制限

妊産婦についての適用制限

妊産婦が請求した場合、使用者はいずれかの変形労働時間制を実施している場合であっても、妊産婦を1週間および1日について法定労働時間を超えて労働させてはなりません。

育児等を行うものについて

いずれかの変形労働時間制により労働をさせる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者について、使用者はこれらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければなりません。

フレックスタイム制との違い

はじめに

フレックスタイム制は、労働者が、1か月などの単位期間の中で一定時間数(契約時間)労働することを条件として、1日の労働時間を自らが選択する時間に開始し、終了できる制度です。通常は、全員が必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)を定めるものが多いです。

フレックスタイム制では、始業時刻と終業時刻を従業員が選択できる一方、変形労働時間制においては、使用者が始業時刻と終業時刻を決定しますので、従業員がこれらの時間を選択することはできません。

フレックスタイム制の要件

・一定範囲の労働者について、始業・終業時刻を各労働者の決定に任せることを就業規則(10人未満の事業では、これに準ずるもの)で定めること

・一定事項を定めた事業場の労使協定を締結すること

  一定事項とは、①フレックスタイム制をとる労働者の範囲②3か月以内の単位期間(労働基準法では「清算期間」と呼ばれており、協定または就業規則において期間の起算日を明らかにする必要があります。)③単位期間において働くべき「総労働時間」(従来は、契約時間と呼ばれていました。単位期間における総所定労働時間です。)です。

・労使協定で、標準となる1日の労働時間の長さ(年休の際に基準となる時間数)を定めること

・労働者が労働しなければならない時間帯(コアタイム)を定める場合にはその時間帯の開始及び終了の時刻を、労使協定で定めること

・労働者がその選択により労働することができる時間帯(フレキシブルタイム)に制限を設ける場合には、その制限の開始及び終了の時刻を、労使協定で定めること

3か月単位のフレックスタイム制

清算期間が1か月を超え3か月以内のフレックスタイム制においては、当該清算期間の開始以後1か月ごとに区分した期間(最後に1か月未満の期間が生じたときは、当該期間が最後の区分期間)を平均して1週間当たりの労働時間が50時間を超えない範囲で、週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができます。もっとも、1か月ごとの各期間の総労働時間について1週平均50時間という枠を設定し、それを超えた時間は時間外労働の扱いをします。

また、3か月単位のフレックスタイム制を定める協定は、労働基準監督署長への届出が必要になります。

制度の法律効果

1か月以内の期間のフレックスタイム制の場合

使用者は、労働者について、「清算期間」を平均し週法定労働時間を超えない範囲内において、1週または一日の法定労働時間を超えて労働してもらうことができます。

1か月以内の清算期間のフレックスタイム制において時間外労働が成立するのは、労働者が自らの選択で労働時間を割り振った結果、当該清算期間における労働時間の合計が清算期間における法定労働時間の枠を超えた場合です。

この場合、超えた時間については、三六協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要となります。

3か月単位のフレックスタイム制の場合

1か月を超え3か月以内で清算期間を定めた場合には、当該清算期間の開始日以後1か月ごとに区分した期間(最後に1か月未満の期間が生じた時は、当該期間)を平均して1週間当たりの労働時間が50時間を超えない範囲内で、週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができます。

1か月の区分期間を平均して1週当たり50時間を超えて労働させた時間については、清算期間の途中であっても、時間外労働としてその度に割増賃金を支払わねばなりません。

まとめ

変形労働時間制やフレックスタイム制についてご案内しました。制度の設計に手間がかかるところもありますが、残業代発生を抑制したり、柔軟な働き方を生み出す制度ですので、活用をして頂くのがよろしいと考えます。制度の仕組み等でご不明な点があれば、弁護士にご相談を頂けますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉

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