
「個人再生を使えば借金が5分の1に減るはずだったのに、提示された返済額が想定よりはるかに高額だった」
こうした戸惑いの声を聞くことは少なくありません。借金を法的に大幅圧縮できる個人再生ですが、法律が定める計算ルールを正確に把握していないと、減額幅が予想を大きく下回る事態に直面します。
その原因の1つとして「清算価値保障原則(せいさんかちほしょうげんそく)」があります。
手持ちの資産を没収されないことが個人再生の大きなメリットですが、「手持ち資産の総額」そのものが返済総額の基準額を引き上げる仕組みになっています。
本記事では、個人再生における返済額決定のメカニズムをはじめ、退職金見込額・生命保険解約返戻金・過払い金・財産分与予定財産といった主要資産の厳格な算定基準、そして清算価値を抑えるための実務上の留意点までを分かりやすく解説します。
1 なぜ財産があると返済額が増えるのか?「清算価値保障原則」の基礎知識

個人再生は、住宅や車などの財産を手元に残しつつ、債務を大幅に免除してもらう手続きです。自己破産のように原則として財産を換価・処分されることはありません。
しかし、債権者(貸主)の立場から見ると、「借金を大幅にカットする一方で、債務者が多額の財産を温存したまま生活を再建する」ことは著しく公平性を欠きます。もし破産していれば、債務者の財産はすべて破産管財人によって回収・換金され、債権者への配当に充てられていたはずだからです。
そこで民事再生法は、「自己破産をした場合に債権者へ配当される総額(=清算価値)以上の金額を、個人再生の手続き内で分割返済しなければならない」という制約を設けました。
これが「清算価値保障原則」です。
弁済額を決める「3つの基準」
小規模個人再生における最終的な返済総額は、次の基準を比較し、最も高額な金額が採用されます。
| 算定基準 | 内容の概要 |
| ① 法定最低弁済額 | 法律上、負債総額に応じて機械的に割り出される最低返済額 |
| ② 清算価値 | 保有財産を破産手続きに準じて金銭換算した総額 |
| ③ 可処分所得の2年分 | ※給与所得者等再生を選択した場合のみ適用 |
法定最低弁済額の算定テーブルは以下の通りです。
| 負債総額(住宅ローンを除く) | 法定最低弁済額 |
| 100万円未満 | 借金総額そのもの(減額なし) |
| 100万円以上 500万円以下 | 100万円 |
| 500万円超 1,500万円以下 | 負債総額の5分の1 |
| 1,500万円超 3,000万円以下 | 300万円 |
| 3,000万円超 5,000万円以下 | 負債総額の10分の1 |
たとえば、負債総額が700万円の場合、法定最低弁済額は5分の1の「140万円」となります。もし財産総額(清算価値)が50万円であれば、高い方である140万円を3年(または5年)で分割返済します。
しかし、手持ちの財産総額が「300万円」と評価された場合、法定基準の140万円ではなく、清算価値である300万円を返済しなければなりません。これが「手持ち財産によって返済額が増える」構造です。
2 裁判所が精査する「財産評価」の詳細な基準

清算価値の計算対象となる財産は、現預金だけにとどまりません。
裁判所(および個人再生委員)は、破産財団を構成し得るすべての権利・資産を厳しく評価します。
実務上、とくに評価額が膨らみやすい重要資産の算定基準を確認しておきましょう。
① 退職金見込額(1/8または1/4の評価)
個人再生実務において、会社員や公務員の方の清算価値を大きく押し上げる代表例が退職金です。まだ退職していなくても、「現時点で自己都合退職した場合の支給見込額」を算定し、その一部を清算価値に計上します。
退職予定が当面ない場合(一般的なケース)
- 算定式:退職金支給見込額 × 1/8(12.5%)
- 退職金は将来の生活保障としての側面が強いため、差押禁止債権の範囲や将来の不確実性を考慮し、8分の1相当額を計上します。
- 例:勤続年数が長く、自己都合退職金見込額が1,600万円の場合 → 1,600万円 × 1/8 = 200万円が清算価値に算入。
近々退職予定がある場合、またはすでに退職している場合
- 算定式:退職金支給見込額(または受取額) × 1/4(25%)
- すでに受領済みで手元の口座に残っている場合は、全額が現金・預金としてそのまま計上されます。
勤続年数が20〜30年を超える中堅・ベテラン社員の場合、退職金評価だけで200万〜300万円以上の清算価値が計上され、法定最低弁済額をあっさりオーバーすることが珍しくありません。
② 生命保険・学資保険の「解約返戻金」
積立型の終身保険、養老保険、学資保険、個人年金保険などがある場合、「申立時点の解約返戻金見込額」がそのまま清算価値になります。
③ 離婚時の「財産分与予定の財産」
個人再生の直前や手続き中に離婚協議・調停を行っている場合、あるいは離婚後2年以内で財産分与請求権が残っている場合、相手方から受領する予定の財産分与額が清算価値として評価されます。
逆に、債務者が配偶者に過大な財産分与を行って離婚した場合、債権者を害する「不当な財産処分(詐害行為)」とみなされ、不相当に引き渡した財産相当額を清算価値に加算するよう裁判所から指示されるリスクがあります。
④ 不動産(自宅・土地)のアンダーローン状態
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用して自宅を残す場合でも、不動産の時価が住宅ローン残高を上回っている(アンダーローン)ケースでは注意が必要です。
- 算定式:不動産の査定価格 - 住宅ローン残高 = 余剰価値(清算価値へ加算)
不動産価格が3,500万円で、住宅ローン残高が2,500万円の場合、差額の1,000万円が清算価値となります。この場合、最低弁済額が跳ね上がり、分割返済が事実上不可能になって自己破産へ舵を切らざるを得なくなる事例も存在します。
逆に、時価よりもローン残高の方が多い「オーバーローン」状態であれば、余剰価値はゼロとなり、不動産起因の清算価値は加算されません。
⑥ その他の資産項目
・預貯金・現金:合算して一定額(裁判所の運用基準による。一般に現金99万円超、預貯金合計20万円超など)を超える分が対象。
- 自動車:初度登録からの経過年数等で減価償却し、査定額を計上。ローン完済済みであれば査定額全額が算入。
- 株式・投資信託・暗号資産:申立基準日の時価評価額。
4 清算価値が高額になりそうな場合の対処法と実務上の留意点

「資産が多いから個人再生を諦めるしかない」と即断する必要はありません。弁護士が申立前から計画的に準備を行うことで、適切な対策を講じることが可能です。
①弁済期間の延長(3年から5年へ)
清算価値により毎月の返済負担が重くなった場合、民事再生法が認める「特別な事情」を主張し、原則3年の弁済期間を最長5年(60回払い)まで延長する申立てを行います。
②不動産査定書の複数取得
アンダーローンが疑われる不動産がある場合、1社だけの高額な査定書をそのまま提出すると清算価値が不当に跳ね上がります。
複数の不動産仲介業者から査定を取り、実勢価格に即した現実的な査定額(場合によっては机上査定ではなく訪問査定による修繕必要箇所等を反映した減額査定)を提出することが重要です。
③ 任意整理や自己破産への手続き変更の検討
資産総額が負債総額に近く、清算価値保障原則によって借金がほとんど減額されないケースでは、そもそも個人再生を選択するメリットが薄れます。
- 金利カットのみで分割返済を目指す「任意整理」
- 守りたい財産(自宅等)がなく、免責不許可事由もない場合の「自己破産」
各手続きの得失を冷静に天秤にかけ、手続きの再選択を行う柔軟性も不可欠です。
まとめ

個人再生は、住宅ローンを維持しながら借金を大幅に圧縮できる強力な債務整理手法ですが、その成否は「申立前の正確な資産査定」にかかっています。
弁護士へ相談される際は、借入の明細だけでなく、以下の資料を可能な限り揃えて確認することをおすすめします。
- 退職金の支給見込額証明書(または就業規則の退職金規程・退職金計算シート)
- 加入している全保険の解約返戻金証明書
- 保有車両の車検証および査定書
- 自宅不動産の登記簿謄本および住宅ローン残高証明書
- 過去1〜2年分の全銀行口座の通帳記帳コピー
早期に財産の全容を把握すれば、「清算価値がいくらになるのか」「毎月の返済額は無理のない水準に収まるか」を申立前に正確に予測できます。借金の圧縮率だけに目を奪われず、ご自身の資産状況を踏まえた綿密な返済計画を立てることができます。
借金返済にお困りの際は、一度弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 安田伸一朗
債務整理
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和4年の弁護士登録以来、債務整理・借金問題の解決に特化し、自己破産、個人再生など、多重債務に苦しむ依頼者の生活再建に向けて数々の解決事例あり。最新の法制度に基づいた緻密な戦略と丁寧なヒアリングで、生活再建や早期の根本解決へと導くことに注力。




