【弁護士が解説】副業・ダブルワークの労災は給与合算でどう変わる?補償と損害賠償

副業先でケガをして本業も休むことになったとき、労災の補償を副業の給与だけで考えていませんか。複数の会社に雇用されている人には、各勤務先の賃金を合算して労災給付を算定する制度があります。対象となる収入、会社への損害賠償、副業禁止規定や事業主証明への対応を整理し、請求を諦める前に確認したい点を解説します。

2020年改正で変わった副業・ダブルワークの労災補償

2020年改正で変わった副業・ダブルワークの労災補償

2020年9月から、事業主が異なる複数の会社で働く人について、各勤務先の賃金を合算した額を基礎に、労災保険給付を算定する仕組みが設けられました。例えば副業先の事故で本業も休む場合に、副業の少額の給与だけを基準として補償を考える必要はありません。

対象の中心は、複数の事業主と雇用関係にある複数事業労働者です。本業が正社員、副業がアルバイトという組合せも含まれます。ただし、本人が副業と呼んでいれば、売上や事業所得まで全部合算できるわけではありません。業務委託による収入やフリーランスの特別加入は、契約と制度を別に確認します。

休業補償は各勤務先の賃金と休業状況から計算する

休業(補償)等給付では、各就業先について算定した給付基礎日額に相当する額を合算するのが原則です。療養のため働けず、賃金を受けられないなどの要件を満たせば、休業4日目から給付基礎日額の60%と、休業特別支給金20%が支給されます。障害が残った場合などの給付額にも、賃金合算が関係します。

例えば、各勤務先の給付基礎日額相当額が8,000円と2,000円と算定され、合算額が1万円となる場合を考えます。両方の仕事を終日休み、賃金を受けられないなどの要件を満たす日の給付は、6,000円と特別支給金2,000円の計8,000円が目安です。実際には算定上の特例や、働いた日・賃金が出る日の扱いも確認します。

給与の合算は、後遺障害に対する労災給付にも影響します。障害等級12級の一時金は給付基礎日額の156日分なので、日額が本業分8,000円だけなら124万8,000円、合算後1万円なら156万円です。この仮定では、一時金本体だけで31万2,000円の差になります。

障害特別支給金は12級では20万円の定額で、給与が増えた割合に連動して増えるものではありません。合算日額1万円で12級なら、一時金本体156万円と合わせて176万円です。14級の場合は56日分の56万円と特別支給金8万円で64万円となります。ボーナス等を基礎とする障害特別一時金があれば別に計算します。いずれも慰謝料ではありません。

片方の仕事を続けている、片方で有給休暇を使ったという場合は、単純に合算額の8割が毎日出るとは限りません。事故前の給与明細だけでなく、それぞれの会社でいつ働き、いつ休み、いくら支払われたかを示す資料を用意してください。

申請の準備では、事故が起きた勤務先の情報に加え、他の勤務先の名称、雇用期間、賃金の支払状況も整理します。給与の振込額だけでは、税金や社会保険料を引く前の賃金や対象期間が分からないことがあるため、給与明細や賃金台帳の情報も必要です。各会社へ何の資料を求めるかは、監督署と相談して進められます。

事故後に本業を退職した、副業の契約が終わったなど、就業状況が変わった場合は、その時期も伝えてください。事故時の雇用関係と、その後に休業給付を求める日の就労・賃金の状況は、いずれも確認が必要です。古い給与を全部足した数字だけでは、適切な算定にならない場合があります。

また、本業の職場から副業の職場へ向かう途中の事故も、就業場所から他の就業場所への移動として、通勤災害に当たる可能性があります。勤務終了・開始の時刻、移動経路、途中で立ち寄った場所を記録します。移動中の事故を、どちらの会社の仕事でもないとして直ちに対象外と考えないことが大切です。

労働時間などを総合評価する複数業務要因災害

改正では、1社だけの業務負荷では労災と認められない場合に、複数の仕事の負荷を総合して判断する仕組みも設けられました。脳・心臓疾患や精神障害などについて、各社の労働時間、仕事の内容、心理的負荷などを認定基準に沿って評価します。

これは、残業時間を足せば必ず労災になる制度ではありません。病気の発症時期と業務の負荷との関係なども重要です。各社の勤怠記録、業務メール、シフト表を同じ日付の流れで整理し、労働基準監督署に相談してください。なお、この認定と、個々の会社が損害賠償責任を負うかは別の問題です。

労災保険とは別に副業の収入減を会社へ請求できるか

労災保険とは別に副業の収入減を会社へ請求できるか

労災保険には、入通院や後遺障害による精神的苦痛に対する慰謝料という給付はありません。会社に安全配慮義務違反などの責任がある場合には、治療関係費、休業損害、慰謝料、後遺障害による逸失利益などについて、損害賠償を請求する余地があります。

例えば本業の工場で安全装置の不備による事故に遭い、本業だけでなく副業の勤務もできなくなった場合です。副業の収入減も、事故との因果関係や金額を裏付けられれば、損害として検討できます。副業をしていることだけで自動的に上乗せ額が決まるものではなく、事故がなければ働けたか、どの程度の収入が見込まれたかを示す必要があります。

副業の給与明細、勤務予定、雇用契約書、これまでの継続的な就労実績を保存してください。後遺障害が残る場合には、本業と副業それぞれの仕事内容にどのような支障が出るかも重要です。労災の給付基礎日額を合算したからといって、民事賠償も同じ式で計算されるわけではありません。

また、労災認定だけで会社の責任が確定するものではありません。会社の安全対策、事故原因、本人の過失などを検討し、同じ損害を補う労災給付との調整も行います。休業特別支給金など、通常は調整対象とならないものもあるため、受給総額を機械的に差し引かないことが大切です。

休業損害・慰謝料・逸失利益は分けて算定する

休業損害は、事故がなければ得られた収入を、働けなかった期間に対応させて考えます。本業では月給の控除額、副業では欠勤したシフトの報酬など、賃金の仕組みごとに確認が必要です。副業の予定を取り消した記録や、ケガを理由に勤務を断ったやり取りも、単なる仕事の減少と事故による減収を区別する資料になります。

治療のために有給休暇を使った場合も、給与が支払われたことだけで休業損害がなくなるとは限りません。事故によって休暇を消費したことを損害として検討する余地があります。ただし、民事上の休業損害の評価と、賃金の支払を確認して行う労災給付の計算は同じではありません。どの制度についての説明かを分けて確認します。

入通院慰謝料は治療による苦痛を、後遺障害慰謝料は障害が残ったことによる苦痛を評価する費目です。2社で働いていたから慰謝料も必ず2倍になるわけではありません。他方、副業の給与が少ないことだけを理由に、ケガの重さや治療の負担まで軽く評価してよいものでもありません。

逸失利益では、事故前の年収を基にする基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間を検討し、将来分を一括で受け取ることによる中間利息を控除します。一般的な計算式は「年額の基礎収入×労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数」です。本業と副業の収入を把握しても、喪失率や期間の根拠まで示す必要があります。

同じ後遺障害でも、本業の事務作業はできる一方、副業の配達や重量物運搬は難しい場合があります。反対に、本業の減収が少なくても、同僚の援助や本人の特別な努力で収入を維持していることもあります。各仕事でできなくなったこと、必要になった配慮、今後の継続性を具体的に整理してください。

慰謝料と逸失利益の金額を具体的にみる

骨折などの外傷事故で会社に賠償責任がある場合、入通院慰謝料の裁判実務上の目安は、入院なし・通院3か月で73万円、通院6か月で116万円です。他覚所見のないむち打ち症や軽い打撲等では、同じ通院期間でも53万円、89万円という別の目安を用います。精神障害などについて、これらの表を療養期間だけで機械的に当てはめることはできません。

後遺障害慰謝料の代表的な目安は、14級110万円、12級290万円、10級550万円、7級1,000万円です。これらは慰謝料のみの金額で、ダブルワークだから2倍になるものではありません。一方、将来の収入減を補う逸失利益では、本業と副業の両方の収入を適切に把握する必要があります。

例えば、基礎収入として本業の年収360万円と副業の年収60万円の合計420万円が認められ、労働能力喪失率14%、喪失期間10年、年3%の中間利息控除とする仮定では、420万円×14%×8.5302=約501万6,000円となります。

本業の360万円だけで同じ計算をすると約429万9,000円なので、副業収入60万円の評価により約71万7,000円の差が生じます。仮に12級相当の後遺障害慰謝料290万円を合わせると、合算収入による逸失利益との二つの費目は約791万6,000円です。これは過失相殺や労災給付との調整前の計算例で、入通院慰謝料や休業損害等を含む総額ではありません。

12級なら必ず14%・10年間というわけではなく、副業収入の継続性、障害が各仕事に与える影響、喪失期間の根拠を確かめます。中間利息の控除率は事故の時期等も踏まえて確認します。収入や障害の評価が異なれば、賠償額も変わります。労災給付を含めて、同じ収入減を重複して受け取る計算にしないことも必要です。

本業と副業先それぞれの安全配慮義務を確認する

使用者は、労働者の生命や身体の安全を確保するために必要な配慮をする義務を負います。事故が起きた現場では、設備の不備、保護具の有無、作業方法や教育の内容を確認します。危険な作業を指示した人、管理する会社、実際に雇用する会社が誰なのかも、賠償の相手を考えるうえで重要です。

長時間労働による健康被害では、各社が副業や本人の体調をどの程度把握し、業務全体の過重さを認識できたかも問題になります。会社へ勤務時間や不調を相談したメール、面談記録、医師の指示を提出した記録などを残してください。労災認定で複数社の負荷が評価されたからといって、すべての会社に同じ責任が生じるとは限りません。

会社から副業の存在を知らなかったと言われても、それだけで賠償の結論が出るとは限りません。安全対策や健康管理の義務違反があったかと、副業収入を含むどの範囲の損害が認められるかを検討します。本人から何を伝えていたか、会社がどのように応じたかという経緯も、判断材料になります。

副業が知られる不安と会社が協力しない場合への対応

副業が知られる不安と会社が協力しない場合への対応

副業禁止規定があっても給付の判断とは分けて考える

会社に副業を申告していなかったことだけで、労災保険の給付対象から外れるわけではありません。ただし、申請で各就業先の賃金や勤務実態を確認するため、副業が本業の会社へ伝わらないと約束することもできません。事実と異なる内容で請求せず、連絡や説明の方法を検討します。

副業を理由とする懲戒や解雇の有効性は、就業規則、業務への支障、秘密の漏えい、競業、健康への影響などによって判断されます。禁止規定があればどの処分も有効ということではありませんが、不当解雇の可能性が高いと一律に決めることもできません。処分通知や就業規則を確保し、退職届へ署名する前に検討してください。

事業主証明を断られたときは労働基準監督署へ

労災給付を請求するのは被災した本人です。会社の事業主証明は勤務や事故などの事実を確認するもので、会社が給付を許可する仕組みではありません。証明を拒まれるなどやむを得ない場合は、証明がなくても請求書は受理されます。

管轄の労働基準監督署へ、どの会社が何を理由に協力しないのかを説明し、勤務実績や賃金の資料を提出してください。支給の可否は監督署の調査・判断によります。会社が出してくれるのを待ち続けると請求期限の問題も生じるため、本人から相談を進めることができます。

雇用保険と労災保険ではダブルワークの扱いが違う

雇用保険と労災保険ではダブルワークの扱いが違う

労災保険は、原則として雇用形態にかかわらず労働者に適用されます。各職場で労災の対象になり得ることと、給付額の算定でどの賃金を合算するかは、分けて確認します。原則として週20時間以上であることなどが問題となる雇用保険と、加入要件を混同しないでください。

雇用保険は原則として主たる1社で加入し、複数社の時間を通常の加入要件のために自由に合算できるものではありません。ただし、65歳以上の人には、2社の勤務を合計して一定の要件を満たす場合に、本人の申出で加入するマルチジョブホルダー制度があります。「雇用保険は例外なく1社だけ」とする説明も正確ではありません。

マルチジョブホルダー制度では、対象となる2社それぞれの週所定労働時間が5時間以上20時間未満で、合計20時間以上となること、それぞれに31日以上の雇用見込みがあることなどが必要です。労災給付の申請をすれば雇用保険にも加入できるわけではなく、本人からハローワークへの申出を別に行います。

適正な給付と損害賠償のために準備したいこと

適正な給付と損害賠償のために準備したいこと

1. 各勤務先の契約書、給与明細、勤怠記録、休業状況をそろえ、合算対象と申請内容を労働基準監督署に確認する。
2. 事故原因を示す現場写真や作業指示、診断書、副業で失った収入の資料を保管する。会社からの処分・示談の文書も残します。
3. 給付の算定、会社の責任、退職合意のいずれに問題があるかを整理し、必要に応じて弁護士へ相談する。

Q. 会社に知られないよう、副業分を申請しない方がよいでしょうか。
A. 不安があっても、まず必要な申告内容を監督署に確認してください。副業分を外すことで本来の給付額に影響する場合があります。会社から処分を示唆されているときは、その文書と就業規則を持参し、申請と雇用上の対応を併せて相談します。

Q. 本業と副業の給料を合算すれば、会社への賠償も必ず増えますか。
A. 必ずではありません。会社の責任と事故との因果関係、副業の収入減を別に示す必要があります。労災給付と民事賠償の計算や調整を確認し、請求できる損害を積み上げて判断します。

Q. 副業の収入は、通帳の振込履歴だけで証明できますか。
A. 振込履歴は資料の一つですが、対象月や控除前の賃金、欠勤した勤務の内容までは分からないことがあります。契約書、給与明細、シフト表と突き合わせると、実際の収入と事故による減収を説明しやすくなります。資料を会社から取得できない場合も、その事情を監督署や弁護士へ伝えてください。

弁護士は、事故原因の証拠と各勤務先の収入を確認し、会社やその保険会社への賠償請求、給付との調整、解雇・退職をめぐる対応を検討します。会社側が副業収入を認めない、後遺障害で両方の仕事に戻れない、早期の示談を求められているといった場面では、資料に基づく交渉が重要になります。

当事務所では、事故による労災のご相談を初回60分まで無料で承っています。無料相談の対象や予約方法は、お問い合わせの際にご確認ください。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀

労災(労働災害)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、現在は労災(労働災害)分野に注力している。会社側への損害賠償請求や後遺障害等級認定、労基署への申請等、数多くの複雑な事案に対応。緻密な法的思考と事故態様の詳細な分析に基づき、被災労働者の正当な補償と権利擁護の実現に尽力している。迅速かつ粘り強い対応で、依頼者の信頼も厚い。