労災は退職後でも申請できる?会社を辞めたら打ち切られる?給付の条件と注意点を解説

労災保険は退職後でも申請でき、受給中に退職しても給付は打ち切られません。自己都合・定年・解雇など退職理由別の扱い、退職後に申請する際の注意点、健康保険からの切替え、会社への損害賠償請求までを解説します。

結論:労災は退職後でも申請可能!受給中の給付も打ち切られません

結論:労災は退職後でも申請可能!受給中の給付も打ち切られません

「仕事中のケガで会社を辞めたけれど、今からでも労災を申請できるのだろうか」
「労災で休んでいる間に退職することになった。休業補償は止まってしまうのではないか」
「労災 退職後」と検索される方の多くは、このどちらかの不安を抱えていらっしゃいます。

結論から申し上げると、労災保険は退職した後でも申請でき、受給中に退職しても給付は打ち切られません。

労働者災害補償保険法12条の5第1項は、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない」と定めています。労災保険の給付を受ける権利は、会社に在籍していることを条件とするものではなく、仕事中や通勤中のケガ・病気そのものに対して与えられる権利だからです。

「後から申請したい人」も「受給中に辞める人」も同じ

退職した後に初めて労災を申請する場合も、すでに労災の給付を受けていて途中で退職する場合も、考え方は同じです。

  • 退職後に申請する場合:時効にかかっていなければ、在職中と同じように申請できます。
  • 受給中に退職する場合:療養や休業が続いている限り、退職後も給付は続きます。

もっとも、退職後は会社の協力を得にくくなる、時効が迫っている、証拠が集めにくいなど、在職中とは異なる注意点があります。本コラムでは、退職理由別の扱いと、退職後に注意すべき点を弁護士が解説します。

退職後も受け取れる労災保険の給付

退職後も受け取れる労災保険の給付

退職後も、要件を満たせば次の給付を受け取ることができます。

  • 療養(補償)給付:治療費、入院費、薬代など。労災指定病院であれば窓口負担はありません。
  • 休業(補償)給付+休業特別支給金:療養のため働けず、賃金を受けられない日について、休業4日目から給付基礎日額の60%+20%が支給されます。
  • 傷病(補償)年金:療養開始から1年6か月を経過しても治らず、一定の傷病等級に該当する場合に支給されます。
  • 障害(補償)給付:治療を続けても症状が改善しなくなった(症状固定)後、後遺障害が残った場合に、等級に応じて年金または一時金が支給されます。
  • 介護(補償)給付、遺族(補償)給付、葬祭料など

休業補償の金額は退職しても変わらない

休業補償の基準となる給付基礎日額は、原則として事故が起きた日(または病気と診断された日)の直前3か月間の賃金をもとに計算されます。そのため、退職して給料がなくなっても、休業補償の金額が下がることはありません。

休業補償が続く条件

ただし、休業補償は「療養のために働けない」ことが条件です。退職後に別の会社で働き始めた場合や、医師が就労可能と判断した場合には、休業補償は支給されなくなります。退職したことが理由ではなく、「働けない状態かどうか」で判断されるということです。

【パターン別】退職後の労災で知っておくべき労働者の権利

【パターン別】退職後の労災で知っておくべき労働者の権利

①自己都合退職・定年退職の場合:退職理由に関係なく、給付は継続されます

自分の意思で退職した場合や、定年を迎えて退職した場合でも、労災保険の給付は継続されます。

  • 自己都合退職:「迷惑をかけたくない」と自分から退職しても、給付を受ける権利は失われません。
  • 定年退職:定年により賃金の支払いがなくなっても、療養や休業が続く限り給付は続きます。
  • 契約期間の満了:有期契約の期間が満了して退職した場合も同様です。

「自分から辞めたのだから、もう労災はもらえない」と考える必要はありません。

②会社から解雇・退職勧奨された場合:労災休業中の「解雇」は原則法律で禁止されています

労働基準法19条は、業務上のケガや病気の療養のために休業している期間と、その後30日間は、原則として労働者を解雇してはならないと定めています。労災で休んでいることを理由に解雇された場合、その解雇は無効となる可能性が高いといえます。

ただし、次の点に注意が必要です。

  • 通勤災害は対象外:解雇制限は業務災害に限られ、通勤中のケガによる休業には適用されません(ただし、合理的な理由のない解雇は別途無効となり得ます)。
  • 休業していない場合は対象外:通院しながら働いている場合は、19条の解雇制限の対象にはなりません。
  • 打切補償:療養開始から3年を経過しても治らない場合、会社が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払うと、解雇制限が解除されます(労働基準法81条)。療養開始から3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合などは、打切補償を支払ったものとみなされます(労災保険法19条)。

退職勧奨には応じる義務はない

会社から「辞めてくれないか」と勧められる退職勧奨は、あくまでお願いにすぎません。退職する意思がなければ、応じる必要はありません。

特に注意が必要なのは、退職時に会社から渡される「退職合意書」に、「今後、会社に対して一切の請求をしない」という清算条項が入っている場合です。労災保険の給付は国から支給されるものなので影響を受けませんが、会社への損害賠償請求(慰謝料など)について争いになるおそれがあります。署名する前に、内容を必ず確認してください。

退職後に労災を申請する際の「3つの注意点」と対処法

退職後に労災を申請する際の「3つの注意点」と対処法

注意点①:時効が迫っている

労災保険の給付には時効があり、期限を過ぎると請求できなくなります。

給付の種類時効期間起算点
療養(補償)給付2年療養の費用を支出した日の翌日
休業(補償)給付2年賃金を受けない日ごとにその翌日
介護(補償)給付2年介護を受けた月の翌月1日
葬祭料2年死亡日の翌日
障害(補償)給付5年症状固定日の翌日
遺族(補償)給付5年死亡日の翌日

休業補償は1日ごとに時効が進むため、申請が遅れると古い日の分から順に受け取れなくなります。退職後に申請を考えている方は、まず時効にかかっていないかを確認してください。

なお、令和9年(2027年)4月施行の労災保険法改正では、脳・心臓疾患や石綿関連疾病など政令で定める一定の疾病について、2年の時効が5年に延長される予定です。

対処法:退職から時間が経っている場合でも、時効にかかっていない部分は請求できます。全部を諦めずに、早めに労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。

注意点②:会社が「事業主証明」に協力してくれない

労災の請求書には、会社が事故の発生状況や賃金を証明する「事業主証明欄」があります。退職後は、元の会社に証明を頼みにくかったり、会社が「労災ではない」として証明を拒否したりすることがあります。

対処法:事業主証明がなくても、労災の申請はできます。労災かどうかを判断するのは会社ではなく労働基準監督署です。証明欄が空欄のまま、「退職後のため会社の証明が得られない」「会社が証明を拒否した」といった事情を記載した書面を添えて提出すれば、労働基準監督署が会社に事実確認を行います。

注意点③:証拠が集めにくい

退職後は、職場の記録を見たり、同僚に話を聞いたりすることが難しくなります。事故から時間が経つほど、関係者の記憶も薄れていきます。

対処法:手元に残っている次のような資料を、できるだけ早く確保しておきましょう。

  • 事故当日の業務内容が分かるシフト表、業務日報、メール、LINE
  • 初診時の診断書、診療明細書、領収書
  • 給与明細(給付基礎日額の計算に使います)
  • 事故を見ていた同僚の氏名・連絡先、事故直後のやり取りのメモ
  • 事故現場の写真

退職後に労災を申請する手順

退職後に労災を申請する手順
  1. 時効を確認する:給付の種類ごとに、時効期間を過ぎていないか確認します。
  2. 請求書を準備する:厚生労働省のホームページから、給付の種類に応じた様式(療養は5号・7号、休業は8号など)を入手します。
  3. 元の会社に事業主証明を依頼する:退職後でも、まずは元の会社に依頼します。拒否された場合は、その経緯を記録しておきます。
  4. 医師の証明を受ける:療養や休業の請求書には、医師の証明欄があります。
  5. 労働基準監督署に提出する:事故が起きた事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。会社の証明がない場合は、事情を説明する書面を添えます。
  6. 調査・支給決定を待つ:労働基準監督署が会社や医療機関に調査を行い、支給・不支給を決定します。不支給の決定に不服がある場合は、決定を知った日の翌日から3か月以内に審査請求ができます。

健康保険を使って受診してしまっていた場合の切り替え方法

健康保険を使って受診してしまっていた場合の切り替え方法

退職後に労災を申請する方の中には、在職中に会社から「健康保険で治療しておいて」と言われ、健康保険証を使って受診していた方も少なくありません。

しかし、業務中や通勤中のケガ・病気には健康保険は使えません。後から労災に切り替える手続が必要です。

受診した病院で切り替えられる場合

受診からあまり時間が経っていない場合は、病院の窓口で労災への切替えができることがあります。この場合、労災の請求書(労災指定病院であれば様式第5号)を病院に提出すると、窓口で支払った自己負担分(3割など)が返金されます。

病院で切り替えられない場合

病院での切替えができない場合は、次の流れになります。

  1. 加入していた健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)に、労災であったことを連絡する
  2. 健康保険が負担した医療費(7割分など)の返還通知が届くので、いったん返還する
  3. 返還した金額と、窓口で支払った自己負担分の領収書を添えて、労働基準監督署に療養の費用の請求(様式第7号)を行う
  4. 労災保険から、治療費の全額が支払われる

いったん全額を支払うのが難しい場合

医療費が高額で、一時的に返還金を用意することが難しい場合は、労働基準監督署に相談してください。健康保険と労災保険との間で調整し、立替えの負担を軽くできる場合があります。

なお、退職後に国民健康保険などへ切り替わっている場合でも、手続の相手は、受診した当時に加入していた健康保険になります。

退職後の雇用保険(失業手当)との関係

退職後の雇用保険(失業手当)との関係

労災で療養中の方は、すぐには雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受け取れません。基本手当は「働く意思と能力がある」ことが条件のため、療養のため働けない間は対象外となるからです。

ただし、病気やケガで30日以上働けない場合は、基本手当の受給期間の延長を申請できます(原則1年の受給期間に、最大3年を加えることができます)。延長しておかないと、療養が終わったころには受給期間が過ぎてしまうおそれがあります。労災で療養しながら退職した方は、ハローワークで受給期間の延長を申請しておきましょう。

退職後でも請求できる!会社に対する「損害賠償(慰謝料)」

退職後でも請求できる!会社に対する「損害賠償(慰謝料)」

労災保険では足りない部分がある

労災保険は、仕事中のケガに対する最低限の補償を行う制度です。次の損害は、労災保険では補償されません。

  • 入通院慰謝料・後遺障害慰謝料:労災保険には慰謝料という項目がありません。
  • 休業損害の不足分:休業補償は給料の約8割(うち2割は特別支給金)にとどまり、残りや賞与の減額分は補償されません。
  • 逸失利益の不足分:後遺障害による将来の収入減は、障害補償給付だけでは十分にカバーされないことがほとんどです。

会社に請求できる場合

事故の原因が会社の安全配慮義務違反(安全装置の不備、安全教育の不足、危険な作業の放置など)や、同僚の不注意(使用者責任)にある場合には、労災保険とは別に、会社に損害賠償を請求できます。

この請求は、退職した後でも行うことができます。在職中は会社との関係を考えて請求をためらっていた方でも、退職後に改めて請求を検討するケースは少なくありません。

損害賠償請求の時効

人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、原則として、損害と加害者を知った時(または権利を行使できることを知った時)から5年で時効になります。労災保険の時効とは別に管理する必要があります。

二重取りはできない

すでに労災保険から受け取った給付のうち、損害を補う性質のものは、会社への請求額から差し引かれます。ただし、慰謝料からは差し引かれず、特別支給金も差し引かれません。

よくある質問(Q&A)

よくある質問(Q&A)

Q. 仕事中にケガをして会社を辞めたけど、辞めた後からでも労災って申請できるの?
A. はい、申請できます。労災保険の給付を受ける権利は、退職によって変わらないと法律で定められているからです。ただし、時効(療養・休業は2年、障害・遺族は5年)を過ぎた分は請求できなくなるため、早めの申請が必要です。

Q. 労災で休業補償をもらっている途中で退職したら、打ち切られちゃうの?
A. いいえ、打ち切られません。退職しても、療養のために働けない状態が続く限り、休業補償は支給され続けます。ただし、退職後に別の仕事を始めた場合や、医師が就労可能と判断した場合には支給されなくなります。

Q. 自分から辞めた(自己都合退職)場合でも、労災はもらえるの?
A. はい、もらえます。自己都合退職、定年退職、契約期間満了など、退職理由によって労災保険の給付が変わることはありません。

Q. 労災で休んでいたら、会社から「辞めてほしい」と言われた。辞めないといけないの?
A. いいえ、応じる義務はありません。業務上のケガで休業している期間とその後30日間は、法律上、原則として解雇が禁止されています。ただし、通勤災害の場合や、療養開始から3年が経過して打切補償が支払われた場合などは例外があります。

Q. 辞めた会社が労災の書類にハンコを押してくれない。どうしたらいい?
A. 会社の証明がなくても、労災の申請はできます。証明欄を空欄にしたまま、会社に証明を拒否された事情を書いた書面を添えて、労働基準監督署に提出してください。労働基準監督署が会社に事実確認を行います。

Q. 在職中に健康保険で治療してしまった。退職後でも労災に切り替えられる?
A. はい、切り替えられます。病院で切り替えられない場合は、健康保険に医療費を返還したうえで、労働基準監督署に治療費を請求します。一時的な立替えが難しい場合は、労働基準監督署に相談してください。

Q. 退職した後でも、会社に慰謝料を請求できるの?
A. はい、会社に安全配慮義務違反などがあれば請求できます。労災保険からは慰謝料が出ないため、会社への損害賠償請求で補う必要があります。ただし、原則として5年の時効があり、退職時の合意書に清算条項がある場合は争いになることがあります。

退職後の労災トラブル・会社への慰謝料請求はグリーンリーフ法律事務所へ

退職後の労災トラブル・会社への慰謝料請求はグリーンリーフ法律事務所へ

自分で対応する場合と弁護士に依頼する場合の違い

退職後の労災は、在職中に比べて会社の協力が得られにくく、時効や証拠の問題も生じやすいため、弁護士に相談する意味が大きい場面です。

項目自分で対応する場合弁護士に依頼する場合
労災申請元の会社が証明を拒むと、手続が止まりやすい証明がなくても、事情を整理した書面を添えて申請を進められる
時効の管理給付ごとに異なる時効を見落としやすい給付ごと・損害賠償ごとの期限を確認し、期限内に手続を行う
証拠の確保退職後は職場の記録を入手しにくい必要な資料を特定し、開示請求や訴訟手続で取得できる
後遺障害等級必要な検査や診断書の記載が漏れ、等級が低くなりやすい認定に必要な検査や記載について事前に助言できる
会社への賠償請求安全配慮義務違反の立証や過失割合の交渉が難しい裁判例に基づいて会社の責任と損害額を主張できる
退職合意書清算条項の意味が分からないまま署名してしまう署名前に内容を確認し、権利を失わないよう助言できる

弁護士に相談すべき理由

退職後に会社へ損害賠償を請求する場合、事故の状況を示す資料の多くは会社が持っています。会社が「本人の不注意だった」「安全教育はしていた」と反論してくることも多く、会社の安全配慮義務違反を立証し、過失割合を法的に交渉するには、裁判例を踏まえた主張が必要です。

また、労災保険の時効と損害賠償請求の時効は別々に進むため、どちらかを見落とすと、本来受け取れるはずの補償を失うことになりかねません。退職後の労災では、時効と証拠の問題が在職中よりも深刻になるため、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。

早めに弁護士へ相談すべきケース

  • 退職後に労災を申請したいが、元の会社が協力してくれない
  • 労災で休業中に、会社から解雇や退職を求められている
  • 退職合意書への署名を求められている
  • 後遺障害が残りそうで、会社に慰謝料や逸失利益を請求したい
  • 事故から時間が経っており、時効が心配

まとめ

・労災保険は退職後でも申請でき、受給中に退職しても給付は打ち切られません。
・自己都合・定年・契約満了など、退職理由によって給付は変わりません。
・業務上のケガで休業中の解雇は、原則として法律で禁止されています。
・退職後は、時効、会社の協力、証拠の確保に特に注意が必要です。
・慰謝料など労災保険で補償されない損害は、退職後でも会社に請求できる場合があります。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀

労災(労働災害)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、現在は労災(労働災害)分野に注力している。会社側への損害賠償請求や後遺障害等級認定、労基署への申請等、数多くの複雑な事案に対応。緻密な法的思考と事故態様の詳細な分析に基づき、被災労働者の正当な補償と権利擁護の実現に尽力している。迅速かつ粘り強い対応で、依頼者の信頼も厚い。