
平成23年(2011年)の民法改正により、離婚時の養育費の取決めを積極的に行ってもらおうと、協議離婚時に協議で定めるべき事項の一例として、「子の監護に要する費用の分担(養育費)」が明示されましたが、その後も離婚した父母等の間で養育費の取決めや支払がされている割合は、あまり高いとはいえません。これを受けて、令和6年(2024年)の民法改正では、さらに養育費についての法規定・制度の見直しがされています。今回は、この改正法による養育費への影響について、簡単に解説します。
令和6年の法改正を受けた養育費について

養育費についての法改正の概要
養育費とは
養育費とは、離婚後の子の監護に要する費用を意味します。
日本での養育費の支払い状況
離婚をしても、その父母がそれぞれ子に対し責任を負っていることに変わりはありません。
しかし、実際には日本で離婚した父母間で養育費取決めがされている割合や養育費の支払がされている割合は低調です。令和3年度(2021年)の統計によれば養育費の受領率(推計値)は、母子世帯で28.1%、父子世帯で8.7%、取決め率は、母子世帯で46.7%、父子世帯で28.3%となっています。
改正法による対応
そこで、改正法は、①養育費の合意、②養育費の合意がない場合の対応策、③養育費を回収する手段、④養育費の分担額等を定める家庭裁判所での手続について、それぞれ規定の新設・見直しをしました。
改正の概要

(1) 先取特権
養育費を含めた子の監護の費用の債権に、法律上特別な効果、すなわち一般先取特権を認めました。
先取特権が認められると、養育費を請求できる側(権利者)は、債務名義(判決や審判、調停調書など)がなくても、民事執行(担保権実行としての差押え等や財産開示手続、第三者からの情報取得手続)の申立てをすることができる上、その執行手続において、他の一般債権者に優先して弁済を受けられるという立場を得られます。
(2) 法定養育費
さらに、父母が養育費の額を定めずに離婚した場合であっても父母の一方が他の一方に一定の金銭(現在は子一人当たり月額2万円)を請求することができる「法定養育費」を認めました。
(3) 民事執行手続のワンストップ化
権利者から義務者(養育費を支払う側)に対し養育費を強制的に回収する手段、つまり民事執行の申立ての負担を軽減するため、①財産開示手続、②債務者の給与債権に係る情報取得手続、③当該債権の差押えの手続を1回の申立てにより連続的に行うことができる仕組み が導入されました。
(4) 情報開示命令
家庭裁判所が、養育費等に関する家事審判事件・離婚訴訟事件において、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、当事者に対し、その収入及び資産の状況に関する情報の開示を命ずることができることとし、これに違反した場合の制裁(最大10万円の過料)の規定を設けています。
法定養育費について

法定養育費は誰が請求できるのか
法定養育費を請求できるのは「父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」です。
「監護」とは、子の身の回りの世話を現実に行っているという事実状態で、裁判所の審判などにより「子の監護をすべき者」と指定されていない場合でも、監護を担うものであればこれに当たると考えられています。
請求の要件
法定養育費の請求の要件は「父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく」 離婚をしたこと、となっており、定めることなく離婚した正当理由等がなくても要件を満たすとされ、協議自体がそもそもなかったとしても請求可能です。
逆に、父母の協議等により養育費の額を取り決めたのであれば合意内容はどうあれ 、つまり「養育費の支払をしない」という合意をした場合であっても、「父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく」との要件を満たさないことになるので注意が必要です。
法定養育費が発生する始期及び終期と支払時期
法定養育費を請求することができる期間の始期は「離婚の日」からとなっており、終期は①父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日・②子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日・③子が成年(18歳)に達した日のいずれか早い日までとなっています。
終期は権利者からの請求期限を意味するものではなく、終期到来時点で未払の法定養育費があれば、当該終期以降であっても、義務者に未払法定養育費の支払を請求できると考えられています。
支払時期は法律上「毎月末」と定められています。毎月末に1か月分の支払をすることが考えられますが、月途中の支払始期・支払終期については日割り計算となります。
法定養育費の額よりも高額の養育費を請求するためにはどうすればよいか
父母が養育費の取決めをせずに離婚し、法定養育費が発生している場合であっても、父母の協議が妨げられるわけではなく、父母の協議の方法としては、ADR(裁判外紛争解決手続)のほか、協議が調わないときは、家庭裁判所の調停又は審判の申立てをすることもできます。
義務者の支払能力が欠如する場合など
法定養育費は父母の収入等の個別的な事情にかかわらず子一人当たり月額2万円となっており、義務者の支払能力を超えている場合もあり得ます。
そこで法律上は、義務者が支払能力を欠くために法定養育費の支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができることとしています。
「その支払をすることによってその生活が著しく窮迫する」とは、法定養育費を弁済することによって義務者が最低限度の生活水準をも維持することができなくなるときを指し、法定養育費の支払を行うと義務者の生活が単に厳しくなるという程度であればこの要件を満たさないと考えられています。
義務者が裁判手続においてこの支払拒絶をする方法として、権利者が法定養育費の請求のために一般先取特権の実行として債権差押命令を申し立てた場合に債務者審尋(差押命令の発令前) 又は執行抗告(差押命令の発令後)の手続において、義務者がこの要件を主張立証すること、権利者が一般先取特権の実行として担保不動産競売の申立てをした場合には、債務者は、担保不動産競売開始決定に対して執行異議の申立てをして、この要件を主張立証することが考えられます。
家庭裁判所による減免等
家庭裁判所が父母の収入等の個別的事情を踏まえて養育費の定めをする際には、その養育費の額が、法定養育費の額よりも低い場合もありますが、未払の法定養育費の全額を一括して債務者に支払わせることが衡平の見地から妥当ではない場合もあり得ます。
そこで、改正民法では、家庭裁判所は、養育費を含む子の監護に関する費用の分担についての定めをし又はその定めを変更する場合には、債務者の支払能力を考慮して、法定養育費の債務の全部若しくは一部の免除又は支払の猶予その他相当な処分を命ずることができる、としました。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 相川 一ゑ
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成21年登録後、男性側・女性側問わず多数の離婚事件に対応。DVや保護命令に関する対応も行っており、地方自治体等公的機関での講演実績も有する。埼玉弁護士会内でも両性の平等委員会で委員長・副委員長を歴任してきた。




