
| 【この記事のポイント】 荷物の積み下ろし中に、トラックの荷台から足を踏み外して転落した――。荷台からの転落は労災の対象で、治療費、休業中の補償、後遺障害が残った場合の給付を受けられます。ただし、労災保険からは慰謝料が出ず、補償は損害の一部にとどまります。会社が安全対策を怠っていた場合は、労災とは別に、会社に損害賠償を請求できます。2023年10月からは、最大積載量2トン以上のトラックで昇降設備の設置が義務になり、保護帽の着用義務の対象も広がりました。これらが守られていなかったことは、会社の責任を問う有力な根拠になります。本記事では、受けられる補償、会社の責任を問えるケース、事故の後に残しておきたい証拠を、ケガをしたドライバーとご家族の視点から解説します。 |
1. 荷役中の転落事故の多くは、トラックの荷台から起きています

荷台の端で足を踏み外す、ステップやあおりから落ちる、積んだ荷の上から落ちる――。荷役作業中の転落は、ドライバーにとって身近な事故です。厚生労働省によると、運送業の荷役作業中に起きた墜落・転落事故の約7割は、トラックからの墜落・転落です。
荷台は低く見えても、頭や背中から落ちれば、頭部外傷や背骨・かかとの骨折など重いケガになります。後遺障害が残ることも少なくありません。墜落・転落事故全般については、当サイトの「労災事故~墜落・転落事故【弁護士が解説】」でも解説しています。
「自分の不注意だった」と考えて、会社への請求をあきらめてしまう方もいます。しかし、事故の背景に会社の安全対策の不備があれば、話は変わります。まずは、受けられる補償と、会社の責任を問えるケースを整理しておきましょう。
2. まず受けられる労災の補償

- 療養(補償)給付:治療費は自己負担なしです。
- 休業(補償)給付:休業4日目から、給付基礎日額の約80%(保険給付60%+特別支給金20%)が支給されます。最初の3日間は、会社が平均賃金の60%以上を補償する義務を負います。
- 障害(補償)給付:後遺障害が残った場合、等級(1〜14級)に応じて年金または一時金が支給されます。
- 遺族(補償)給付:亡くなられた場合、ご遺族に支給されます。
給付の全体像は、当サイトの「労災保険ではどのような給付がされるのですか」をご覧ください。
3. 労災保険だけでは補償が足りない理由

労災保険は、損害のすべてを補償するものではありません。特に慰謝料は、労災保険から一切支給されません。
| 損害の項目 | 労災保険 | 会社への損害賠償請求 |
| 治療費 | 支給される | 労災で支払われた分は除く |
| 休業中の収入 | 約80%相当 | 給料の約40%分を請求できる |
| 入通院の慰謝料 | なし | 請求できる |
| 後遺障害の慰謝料 | なし | 請求できる |
| 将来の収入減(逸失利益) | 障害給付で一部 | 不足分を請求できる |
休業中の収入については、労災の特別支給金(20%)が会社への請求額から差し引かれないため、合計で給料の約120%相当になります。ただし、ご本人にも過失がある場合は、会社への請求額が減らされることがあります。
後遺障害が残った場合、労災の障害(補償)給付だけでは、将来の収入の減少や精神的な苦痛を十分に埋められないことが少なくありません。会社に責任がある事故では、慰謝料や逸失利益の不足分を請求することで、受け取れる総額が大きく変わることがあります。
逸失利益とは、後遺障害によって働く力が下がり、将来得られるはずだった収入が減ることによる損害です。後遺障害の等級に応じて、働く力が失われた割合(労働能力喪失率)を当てはめて計算するのが一般的です。後遺障害の慰謝料も、等級によって目安が大きく変わります。
4. 会社の責任を問えるのはどんなときか

会社は、従業員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。労働契約法も、会社は労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をするものと定めています。事故の原因が会社の安全対策の不備にあれば、会社に損害賠償を請求できます(当サイトの「労災で会社への損害賠償請求をお考えの方へ」もご覧ください)。
荷台からの転落事故で特に重要なのが、2023年10月に施行された労働安全衛生規則の改正です。この改正で、次の対策が会社の義務になりました。
| 対策 | 対象のトラック | 施行日 |
| 昇降設備(踏み台やステップ)の設置 | 最大積載量2トン以上(改正前は5トン以上) | 2023年10月1日 |
| 保護帽(墜落時保護用)の着用 | 5トン以上は全車種。2トン以上5トン未満は、平ボディ車・ウイング車などと、テールゲートリフター付き車(使用時) | 2023年10月1日 |
| テールゲートリフター操作の特別教育(学科4時間・実技2時間) | テールゲートリフターを使う荷役作業 | 2024年2月1日 |
昇降設備には、踏み台などの持ち運べるもののほか、トラックに取り付けられた昇降用のステップも含まれます。昇降用のステップは、できるだけ乗降グリップなどを使った三点支持で、安全に昇り降りできる形式のものにするよう求められています。保護帽は、型式検定に合格した「墜落時保護用」のものを使う必要があります。
テールゲートリフターの特別教育を行ったときは、会社が受講者や科目などの記録を作成し、3年間保存することになっています。また、テールゲートリフターを昇降設備として使う場合は、中間の位置で止めてステップとして使い、原則として昇降中に人を乗せてはいけないとされています。
2トン未満のトラックでも、高さ1.5メートルを超える場所での作業には、原則として昇降設備が必要です。荷の積み下ろしを伴わないシート掛けなどの作業についても、厚生労働省のガイドラインで、昇降設備の設置や保護帽の着用が求められています。法令違反があれば直ちに賠償責任が認められるわけではありませんが、会社の責任を示す有力な事情になります。
このほか、次のような事情も会社の責任を問う材料になります。
- 荷台に滑り止めがなく、雨の日も同じ作業をさせていた
- 一人では無理な量や重さの荷を、短時間で移し替えるよう指示していた
- 荷役作業の手順や危険性について、教育をしていなかった
5. 荷主や配送先の責任が問題になることもあります

事故が荷主の倉庫や配送先の構内で起きた場合は、その場所の設備や指示が問題になることがあります。厚生労働省のガイドラインも、運送会社だけでなく、荷主、配送先、元請会社が取り組むべき安全対策を定めています。請求の相手が複数になる場合は、早い段階で弁護士に相談してください。
6. 自分の不注意でも、あきらめる必要はありません

「自分が足を滑らせただけだから」と請求をあきらめる方は少なくありません。しかし、労災保険の給付は、ご本人の過失で減額されません。
会社への請求では、過失の割合に応じて減額されることがあります。それでも、昇降設備がなかった、保護帽が支給されていなかった、といった会社側の事情が見つかることは多くあります(当サイトの「自分にも過失があるが、労災保険申請や会社への損害賠償請求はできるのか?」もご覧ください)。
| 【注意】事故報告書に「自分の不注意」とだけ書かない 事故の後、会社から事故報告書や始末書の提出を求められることがあります。そこに「自分の不注意で足を滑らせた」とだけ書いてしまうと、後から会社の安全対策の不備を主張する際に、不利に扱われるおそれがあります。事実と異なることを書く必要はありませんが、昇降設備がなかった、雨で荷台が濡れていた、急ぐよう指示されていた、といった当時の状況も、ありのままに書いておくことが大切です。 |
7. 事故の後、早めに残しておきたい証拠

会社の責任を問うには、事故当時の状況を示す証拠が欠かせません。時間がたつと、設備が後から整えられたり、記憶が薄れたりします。ケガの治療を最優先にしたうえで、ご家族や同僚の協力も得て、次のものを残してください。
- 事故現場の写真(荷台、ステップ、踏み台の有無、地面の状態)
- トラックの最大積載量と車種(平ボディ、ウイング、テールゲートリフターの有無)が分かる資料
- 保護帽が支給され、着用するよう指示されていたか
- テールゲートリフターの特別教育を受けていたか
- 事故を見ていた同僚の名前と連絡先
- 事故の日時、荷の種類や重さ、作業の指示内容のメモ
事故の様子が、トラックのドライブレコーダーや、荷主の倉庫の防犯カメラに残っていることもあります。映像は一定の期間で上書きされることが多いため、早めに保存を求めましょう。
後遺障害が残りそうな場合は、等級認定の結果が、会社に請求できる慰謝料や逸失利益の金額を大きく左右します。当サイトの「適切な後遺障害等級認定の重要性と手続について」もあわせてご覧ください。
8. 解決事例

当事務所では、トラックでの荷下ろし中に起きた事故について、会社への損害賠償請求を解決した事例があります(解決事例:トラックで荷下ろし中に起こった事故)。事故の状況やケガの程度によって解決の内容は異なりますが、同じような事故でお悩みの方は、参考にしてください。
9. よくあるご質問

Q. 会社から「荷台での事故は自己責任」と言われました。
A. 荷役作業は業務の一部であり、その最中の事故は労災の対象です。また、荷役作業の安全対策は、法令上も会社の義務とされています。会社の説明だけで判断せず、一度ご相談ください。
Q. 派遣や下請のドライバーでも、請求できますか?
A. 労災の対象になります。また、雇い主だけでなく、派遣先や元請会社に責任を問える場合もあります。
Q. 仕事を辞めないと、会社に請求できませんか?
A. 在職中でも請求できます(当サイトの「退職しないで労災保険申請や損害賠償請求をすることはできる?」をご覧ください)。ただし、請求には期限(時効)があり、事故の時期や請求の根拠によって異なります。早めにご相談ください。
10. まとめ――労災の給付に加えて、会社の責任も検討を

荷台からの転落は労災の対象であり、治療費や休業中の補償、後遺障害が残った場合の給付を受けられます。しかし、労災保険からは慰謝料が出ないため、会社に安全対策の不備があった事故では、会社への損害賠償請求を検討することで、補償の総額が大きく変わることがあります。
2023年10月の法改正で、昇降設備や保護帽についての会社の義務は大きく広がりました。事故当時の設備や指示の状況を、写真や記録で早めに残しておくことが大切です。会社に請求できるかどうかだけでも、お気軽にご確認ください。
| グリーンリーフ法律事務所からのメッセージ 私たちは、開所以来35年以上、地域の皆様の法律問題に一貫して寄り添って参りました。仕事中の事故やケガ、病気でお困りの方とそのご家族が、適正な補償を受けられるよう、法的な専門知識と経験を活かして全面的にサポートいたします。あなたの不安を解消し、前を向くきっかけ作りをお手伝いさせてください。お客様満足度は92.9%となっており、多くのお客様にご満足いただいております。私たちの持てる知識と経験を活かして、みなさまの明日が少しでも明るいものになるように親身に寄り添い、真剣に対応させていただきます。まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。 初回相談は60分まで無料で、全件、弁護士が対応します。会社への損害賠償請求と後遺障害等級認定のサポートは着手金0円です(弁護士費用)。入院中や通院中の方は、電話・LINEビデオ通話・Zoomでのご相談も可能です。お電話(048-649-4631/平日9:00〜20:00・土曜9:00〜17:00)、メール、LINEのほか、「賠償請求できる?」の無料診断もご利用ください。 |
【出典・参照条文】
- 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
- 労働安全衛生規則第151条の67(昇降設備)・第151条の74(保護帽の着用)・第526条(昇降するための設備の設置等)
- 労働安全衛生法第59条第3項(特別教育)
- 最高裁判所平成8年2月23日第二小法廷判決(特別支給金と損害賠償額の調整)
- 厚生労働省リーフレット「トラックでの荷役作業時における安全対策が強化されます。」
- 厚生労働省「『労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱』の答申結果」(令和5年2月13日)
- (注)本記事は一般的な解説であり、会社の責任の有無や賠償額は個別の事情により判断されます。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 時田 剛志
労働災害(労災)
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成27年12月登録後、労働災害に関する損害賠償請求案件を多数担当。安全配慮義務違反に基づく会社への賠償請求、後遺障害等級の認定対応、休業損害・逸失利益の算定など労災全般に精通。脳疾患等も取扱い、賠償額1億円超えの解決実績もある一方、1級~14級までぬかりなく対応。力強い交渉と柔軟な解決策を武器にしており、「労働災害と従業員からの損害賠償」をテーマにしたセミナーでの講演実績もあり、実務と理論の両面から被災者を支援する。




